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「イヴ」
どうしたの、とアルベールが立ち上がる。おれの頬を撫で、心配そうに、そんなかおをして、と呟く。
どんなかお、と訊く前に、唇にその指が触れる。
多分今、自分はアルベールと同じかおをしてるんだ、と思った。
「……まだ調子が悪い?」
「そう、かも、しんない……」
今ならまだ、大丈夫かも。
帰りたいと言ってももう帰してはくれないだろう。なら具合が悪いって、寝てしまえばいい。
そうすれば、このふたりはきっと何もしない。優しいから。そんなわかりやすい言い訳であっても、乗ってくれるだろう。
でもそう口に出来なかった。
アンリのせいだ。
アンリの能力のせい。
どうしよう、躰があつくて、その……触ってほしい。
「……また魔力詰まりか?」
「いえ、多分……これは」
「視えるか?」
「……だめですね、本当にあれからイヴの先が見えない」
誰かに会った?とアルベールが訊く。
アンリは秘密にしようと言っていた。成功したらまた、と。成功って、何が?どうしたら?
アンリに会ったと伝えても、本当の能力を知らないふたりには意味がわからないだろう。
無駄な詮索をされるのも嫌だったから、首を横に振った。
おかしいな、とアルベールは首を傾げる。
「確実にあてられてる、とは思うんですけど」
「取り敢えず出させてしまうか」
「そう、ですねえ……」
心配そうにちらりとこちらを見る。下がった眉はおれのことを心配している。
それも嘘じゃない。
でもその瞳の奥、欲が灯ってるのも事実。
「おいで」
「ごはん……」
「もう食べないでしょう」
「や、おれじゃなくて」
ふたりとも食事の途中だった。
そんなおれの小さな心配に、食事よりイヴの方がだいじだよ、と笑った。
テーブルからベッドまでの、広いとはいえ、それだけの短い距離だ。それすらも抱えられての移動。
流石にこれはおれが甘えたんじゃない、アルベールとレオンが勝手にしたことを咎めなかっただけ。
柔らかなベッドに降ろされたのは今日だけで何度目か。
「ン……!」
すぐに顎をぐっと上げられて、レオンの表情を確認する間もなく唇が重なった。
次いでアルベールの少し柔らかで薄い唇。
正直予想はついていた。望んでないといったら嘘になる。ただそれについていけるかとなると、話は別だ。
軽く重なるだけだった唇は、何度もふたりを往復し、舌が唇を突き、舐められ、そこを割って中へ侵入する。
ぬるりと入ったそれが、自分のものと絡められ、吸われ、甘噛みをされ、また入れ替わり、咥内をいっぱいにされてしまう。
苦しい。息をする間もない。
けれど頭がぽおっとする。ふわふわする。気持ちがいいといってる。
髪を優しく撫でられて、耳を擽られ、頬を滑り、首元に指先が降る。
苦しくて、恥ずかしくて、気持ちがいい。
どっちが今、口の中にいるのかもう、わかんない。
「ん、んう……は、ンぅゔ、ぁ」
どれくらいそうしてたのだろう、体感時間としては結構なものだったけれど。
もう限界、とふたりを押すと、自分の方がベッドへ倒れてしまった。体幹良すぎないか。
「は……っ、あ、はぁ……はう……」
「ほら、深く息を吸って、吐いて」
「はー……」
視界が滲んでいた。アルベールが胸元に触れ、優しく声を掛ける。息をするだけでこんなに大変だなんて思わなかった。
苦しいのに、気持ちいいなんて。
望んだ通り、大きな手でずっと撫でられていたのも堪らなかった。
アルベールの手だけでも堪らなかったのに。
一度のキスだって気持ちよかったのに。
頭がくらくらする。
考えられない。これがアンリの力なら、いや、少しでもすきになってしまったのは、ふたりが魅力的だからだけど、でもこんな風になってしまったのがアンリの力なら、このまま、アンリのせいにしてもいいだろうか。
強引でも、と言っていたのは、おれがこうなっちゃうことを指してるのじゃないか。
アンリの能力は全部わかってると思っていた。おれはゲームをしていたから、皆が、アンリが知らないことまで、全部。
でもそれよりもまだ、その能力に意味があったら。
アンリがそれを知っていたら。
これが最後だと言っていた、失敗出来ないと。おれが戻ってきたからと。
その意味はわからない。
わからないけれど、アンリがしていることに意味があるのなら、流されてしまってもいいのだろうか。
一回だけ。
愛される感覚を、一回だけ。
知ってしまったらさみしくなるかもしれない、嫌悪感を持つかもしれない。やっぱり恋なんて碌なものじゃないと思うかもしれない。
でも知ってみたい。
ふたりから、愛されるということを、一度だけ。
伊吹が諦めたもの、イヴが放棄したもの、棄てられたもの、自分なんかが、と否定していたもの、気持ち悪いと思っていたもの、本当はずっと、誰かからほしかったのかもしれないもの。
ううん、いやもう、なんでもいい、こういうの、いやだなって、そう思ってた筈なのに、今はふたりに触って貰わないと頭も躰もどうにかなってしまいそう。
躰があつい。後でいっぱい反省も後悔もするから、今はこの熱をどうにかしてほしい。
さっきからずっと、我慢してるんだ。
……触ってほしい。
どうしたの、とアルベールが立ち上がる。おれの頬を撫で、心配そうに、そんなかおをして、と呟く。
どんなかお、と訊く前に、唇にその指が触れる。
多分今、自分はアルベールと同じかおをしてるんだ、と思った。
「……まだ調子が悪い?」
「そう、かも、しんない……」
今ならまだ、大丈夫かも。
帰りたいと言ってももう帰してはくれないだろう。なら具合が悪いって、寝てしまえばいい。
そうすれば、このふたりはきっと何もしない。優しいから。そんなわかりやすい言い訳であっても、乗ってくれるだろう。
でもそう口に出来なかった。
アンリのせいだ。
アンリの能力のせい。
どうしよう、躰があつくて、その……触ってほしい。
「……また魔力詰まりか?」
「いえ、多分……これは」
「視えるか?」
「……だめですね、本当にあれからイヴの先が見えない」
誰かに会った?とアルベールが訊く。
アンリは秘密にしようと言っていた。成功したらまた、と。成功って、何が?どうしたら?
アンリに会ったと伝えても、本当の能力を知らないふたりには意味がわからないだろう。
無駄な詮索をされるのも嫌だったから、首を横に振った。
おかしいな、とアルベールは首を傾げる。
「確実にあてられてる、とは思うんですけど」
「取り敢えず出させてしまうか」
「そう、ですねえ……」
心配そうにちらりとこちらを見る。下がった眉はおれのことを心配している。
それも嘘じゃない。
でもその瞳の奥、欲が灯ってるのも事実。
「おいで」
「ごはん……」
「もう食べないでしょう」
「や、おれじゃなくて」
ふたりとも食事の途中だった。
そんなおれの小さな心配に、食事よりイヴの方がだいじだよ、と笑った。
テーブルからベッドまでの、広いとはいえ、それだけの短い距離だ。それすらも抱えられての移動。
流石にこれはおれが甘えたんじゃない、アルベールとレオンが勝手にしたことを咎めなかっただけ。
柔らかなベッドに降ろされたのは今日だけで何度目か。
「ン……!」
すぐに顎をぐっと上げられて、レオンの表情を確認する間もなく唇が重なった。
次いでアルベールの少し柔らかで薄い唇。
正直予想はついていた。望んでないといったら嘘になる。ただそれについていけるかとなると、話は別だ。
軽く重なるだけだった唇は、何度もふたりを往復し、舌が唇を突き、舐められ、そこを割って中へ侵入する。
ぬるりと入ったそれが、自分のものと絡められ、吸われ、甘噛みをされ、また入れ替わり、咥内をいっぱいにされてしまう。
苦しい。息をする間もない。
けれど頭がぽおっとする。ふわふわする。気持ちがいいといってる。
髪を優しく撫でられて、耳を擽られ、頬を滑り、首元に指先が降る。
苦しくて、恥ずかしくて、気持ちがいい。
どっちが今、口の中にいるのかもう、わかんない。
「ん、んう……は、ンぅゔ、ぁ」
どれくらいそうしてたのだろう、体感時間としては結構なものだったけれど。
もう限界、とふたりを押すと、自分の方がベッドへ倒れてしまった。体幹良すぎないか。
「は……っ、あ、はぁ……はう……」
「ほら、深く息を吸って、吐いて」
「はー……」
視界が滲んでいた。アルベールが胸元に触れ、優しく声を掛ける。息をするだけでこんなに大変だなんて思わなかった。
苦しいのに、気持ちいいなんて。
望んだ通り、大きな手でずっと撫でられていたのも堪らなかった。
アルベールの手だけでも堪らなかったのに。
一度のキスだって気持ちよかったのに。
頭がくらくらする。
考えられない。これがアンリの力なら、いや、少しでもすきになってしまったのは、ふたりが魅力的だからだけど、でもこんな風になってしまったのがアンリの力なら、このまま、アンリのせいにしてもいいだろうか。
強引でも、と言っていたのは、おれがこうなっちゃうことを指してるのじゃないか。
アンリの能力は全部わかってると思っていた。おれはゲームをしていたから、皆が、アンリが知らないことまで、全部。
でもそれよりもまだ、その能力に意味があったら。
アンリがそれを知っていたら。
これが最後だと言っていた、失敗出来ないと。おれが戻ってきたからと。
その意味はわからない。
わからないけれど、アンリがしていることに意味があるのなら、流されてしまってもいいのだろうか。
一回だけ。
愛される感覚を、一回だけ。
知ってしまったらさみしくなるかもしれない、嫌悪感を持つかもしれない。やっぱり恋なんて碌なものじゃないと思うかもしれない。
でも知ってみたい。
ふたりから、愛されるということを、一度だけ。
伊吹が諦めたもの、イヴが放棄したもの、棄てられたもの、自分なんかが、と否定していたもの、気持ち悪いと思っていたもの、本当はずっと、誰かからほしかったのかもしれないもの。
ううん、いやもう、なんでもいい、こういうの、いやだなって、そう思ってた筈なのに、今はふたりに触って貰わないと頭も躰もどうにかなってしまいそう。
躰があつい。後でいっぱい反省も後悔もするから、今はこの熱をどうにかしてほしい。
さっきからずっと、我慢してるんだ。
……触ってほしい。
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