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 レオンと並んでアルベールを見送って、地面に転がってる三つ子を回収する。
 あれからマリアの飛ぶ時の風圧で転がることにはまってしまった三つ子は、マリアの外出に合わせて集まっては飛ばされ、というのを繰り返してはきゃっきゃと喜んでいる。変な遊びを覚えちゃったな。

「さて」
「何かするのか」
「この子たち洗おうかと思って。奥の方に湖あるじゃないですか、行ってみたくて」
「こいつらを洗ってもすぐに汚すぞ」
「わかってますよ、水浴びするくらいになるって」

 レオンを見上げると、一緒に行くと言い出した。
 うん、そう言うと思ってた。
 思ってたけど、内心ちょっといいのかな、なんて思ってしまう。
 おれ、王子を振り回してない?仕事させないようにしてない?お偉いさんに怒られたりしない?

「あそこは急に深くなるから事故が多いと聞く」
「……中の方には入りませんよ、泳ぐような時期じゃないし」
「お前の心配はしてもしたりないよ」
「うっ……」

 瞳を細めて、柔らかい声を落とす。
 普段は圧の強めな話し方で、揶揄うような話し方をすることも多くて、でもそういうこと、言っちゃう時は優しくするの、狡いと思う。意識してやってるのかな。

 今日の竜舎に残されたのは三つ子と、出勤拒否をした竜が一匹。
 その竜も誘ったけれども、今日は天気がいいのでお休み、らしい。どんな理由だ、自由な職場だなと思った。
 人間からしたら少し羨ましい、けれど彼等が普段していることを考えると、まあ休みも必要だし、いつもは演習場まで行ってくれて、遠征にも付き合ってくれてるのだ、と思うと許さざるを得ない。
 三つ子におひるねスポットを聞いた彼はのそのそ飛んでいってしまった。

「よーし行こっか」
『いゔ~だっこ~』
『だっこ~』
「自分で歩けるでしょ?お散歩楽しいよ」
『やっ』
「こいつらの足だと日が暮れるぞ」
「……」

 抱っこを強請る三つ子に注意をしていると、ご尤もなレオンの助言に言葉が詰まる。
 飛べないし、足は短いし、犬猫のようなスピードもない。
 でもあひるや鶏くらいのちょこちょこ走るスピードはあるんだけど。疲れちゃうのかな。

「じゃあ一匹はレオンさまね」
『や~いゔがい~』
『いゔ~』
『だっこ~』
「皆は無理です、ほら」

 幾ら小型の竜だろうと、鶏くらいの大きさの彼女たちを三匹は抱えられない。
 一匹をレオンの肩に乗せると、瞳をぱちくりさせて、それから、イヴよりたか~い!と喜んだ。
 計算通り、ちょろいけどでも複雑だ。

「何と言ってるんだ」
「おれより視界が高くて嬉しいらしいです」
「そうか、もう一匹乗せてもいいぞ」

 おれの抱える二匹の竜を見て、そう言ってくれる。
 当の彼女たちが、自分はイヴがいいと譲らないものだから、大丈夫だと断った。
 両肩に竜乗せてるレオンは絵面が面白過ぎるから竜から断ってくれて助かったな。

 湖までは少しだけ歩くけど、演習場から竜舎程のものではない。
 本当に、散歩にぴったり、といったくらいの距離。
 竜舎にも水場はあるけれど、大型の竜が、例えばマリアが十分に洗える程の広さや水量を考えれば満足に水浴びは出来ない。
 そういう気分の時はそこに行くらしい。

 小さな湖と聞いていた。でもそれはマリアにとって、みたい。
 おれにとっては十分大きい。というか湖なんて来たの初めて。
 伊吹は旅行なんて行ったことなかったし。

「きれい」

 わあわあ走っていく三つ子を見ながら思わず呟いた。
 それからレオンの方を向いて、足だけなら浸けてもいいか訊いてみる。
 急に深くなるといっても、奥まで行かなきゃいいかなと思って。

「まあ今回は俺が見てるからいいぞ……脱げばいいじゃないか」

 足元を捲るおれに、そんなことを言う。
 ……誰もいないからって脱ぐ訳ないでしょう、レオンはいる訳だし。
 大丈夫です、と脱いだ靴を並べて、既にぱちゃぱちゃと水音を立てている彼女たちの元へ、次は腕を捲りながら走った。

 反射する水面がきらきらして眩しい。浸かった爪先が見える程透明度が高くて、すぐ底が見えることに安心した。だって事故が多いなんてレオンが言うから。
 思ったより水温は冷たくない。お昼も過ぎているからかな、気持ちの良い冷たさ。
 跳ねる水のお陰で、捲った足元は意味がない程濡れてしまう。
 こどもなら脱がせて水浴びさせても良かっただろうな。
 流石におれは脱ぐ訳にはいかない。

 三つ子を一匹ずつ捕まえて、泥を落としていく。
 湖で洗剤を使う訳にはいかないから、水で軽く濯ぐだけ。
 元々竜は魔力に守られてる訳で、そんなに汚れない筈なんだけど。
 この子たちは魔力も弱いし、土の上を転がるような、自ら汚れる行為をしているから泥くらいは塗れてしまうようだ。
 でもその魔力のお陰で、泥さえ落として乾かしてしまえばふわふわもふもふの綺麗な羽根が見える筈なんだ。

「レオンさまも足、浸けませんか」
「俺はいいよ、お前は遊んでおけ」

 こどもを見守る父親みたい、と思った。まあそんなの、おれは知らないんだけど。
 でも世のお父さんっていうのはそういうものなんでしょ。
 僻んでない、ただ、そのレオンの眼差しは悪くないと思ったのだ。
 それがおれに向けられてるのが、なんだかふわふわした気持ちになってしまう。
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