66 / 192
6
65
しおりを挟む
レオンと並んでアルベールを見送って、地面に転がってる三つ子を回収する。
あれからマリアの飛ぶ時の風圧で転がることにはまってしまった三つ子は、マリアの外出に合わせて集まっては飛ばされ、というのを繰り返してはきゃっきゃと喜んでいる。変な遊びを覚えちゃったな。
「さて」
「何かするのか」
「この子たち洗おうかと思って。奥の方に湖あるじゃないですか、行ってみたくて」
「こいつらを洗ってもすぐに汚すぞ」
「わかってますよ、水浴びするくらいになるって」
レオンを見上げると、一緒に行くと言い出した。
うん、そう言うと思ってた。
思ってたけど、内心ちょっといいのかな、なんて思ってしまう。
おれ、王子を振り回してない?仕事させないようにしてない?お偉いさんに怒られたりしない?
「あそこは急に深くなるから事故が多いと聞く」
「……中の方には入りませんよ、泳ぐような時期じゃないし」
「お前の心配はしてもしたりないよ」
「うっ……」
瞳を細めて、柔らかい声を落とす。
普段は圧の強めな話し方で、揶揄うような話し方をすることも多くて、でもそういうこと、言っちゃう時は優しくするの、狡いと思う。意識してやってるのかな。
今日の竜舎に残されたのは三つ子と、出勤拒否をした竜が一匹。
その竜も誘ったけれども、今日は天気がいいのでお休み、らしい。どんな理由だ、自由な職場だなと思った。
人間からしたら少し羨ましい、けれど彼等が普段していることを考えると、まあ休みも必要だし、いつもは演習場まで行ってくれて、遠征にも付き合ってくれてるのだ、と思うと許さざるを得ない。
三つ子におひるねスポットを聞いた彼はのそのそ飛んでいってしまった。
「よーし行こっか」
『いゔ~だっこ~』
『だっこ~』
「自分で歩けるでしょ?お散歩楽しいよ」
『やっ』
「こいつらの足だと日が暮れるぞ」
「……」
抱っこを強請る三つ子に注意をしていると、ご尤もなレオンの助言に言葉が詰まる。
飛べないし、足は短いし、犬猫のようなスピードもない。
でもあひるや鶏くらいのちょこちょこ走るスピードはあるんだけど。疲れちゃうのかな。
「じゃあ一匹はレオンさまね」
『や~いゔがい~』
『いゔ~』
『だっこ~』
「皆は無理です、ほら」
幾ら小型の竜だろうと、鶏くらいの大きさの彼女たちを三匹は抱えられない。
一匹をレオンの肩に乗せると、瞳をぱちくりさせて、それから、イヴよりたか~い!と喜んだ。
計算通り、ちょろいけどでも複雑だ。
「何と言ってるんだ」
「おれより視界が高くて嬉しいらしいです」
「そうか、もう一匹乗せてもいいぞ」
おれの抱える二匹の竜を見て、そう言ってくれる。
当の彼女たちが、自分はイヴがいいと譲らないものだから、大丈夫だと断った。
両肩に竜乗せてるレオンは絵面が面白過ぎるから竜から断ってくれて助かったな。
湖までは少しだけ歩くけど、演習場から竜舎程のものではない。
本当に、散歩にぴったり、といったくらいの距離。
竜舎にも水場はあるけれど、大型の竜が、例えばマリアが十分に洗える程の広さや水量を考えれば満足に水浴びは出来ない。
そういう気分の時はそこに行くらしい。
小さな湖と聞いていた。でもそれはマリアにとって、みたい。
おれにとっては十分大きい。というか湖なんて来たの初めて。
伊吹は旅行なんて行ったことなかったし。
「きれい」
わあわあ走っていく三つ子を見ながら思わず呟いた。
それからレオンの方を向いて、足だけなら浸けてもいいか訊いてみる。
急に深くなるといっても、奥まで行かなきゃいいかなと思って。
「まあ今回は俺が見てるからいいぞ……脱げばいいじゃないか」
足元を捲るおれに、そんなことを言う。
……誰もいないからって脱ぐ訳ないでしょう、レオンはいる訳だし。
大丈夫です、と脱いだ靴を並べて、既にぱちゃぱちゃと水音を立てている彼女たちの元へ、次は腕を捲りながら走った。
反射する水面がきらきらして眩しい。浸かった爪先が見える程透明度が高くて、すぐ底が見えることに安心した。だって事故が多いなんてレオンが言うから。
思ったより水温は冷たくない。お昼も過ぎているからかな、気持ちの良い冷たさ。
跳ねる水のお陰で、捲った足元は意味がない程濡れてしまう。
こどもなら脱がせて水浴びさせても良かっただろうな。
流石におれは脱ぐ訳にはいかない。
三つ子を一匹ずつ捕まえて、泥を落としていく。
湖で洗剤を使う訳にはいかないから、水で軽く濯ぐだけ。
元々竜は魔力に守られてる訳で、そんなに汚れない筈なんだけど。
この子たちは魔力も弱いし、土の上を転がるような、自ら汚れる行為をしているから泥くらいは塗れてしまうようだ。
でもその魔力のお陰で、泥さえ落として乾かしてしまえばふわふわもふもふの綺麗な羽根が見える筈なんだ。
「レオンさまも足、浸けませんか」
「俺はいいよ、お前は遊んでおけ」
こどもを見守る父親みたい、と思った。まあそんなの、おれは知らないんだけど。
でも世のお父さんっていうのはそういうものなんでしょ。
僻んでない、ただ、そのレオンの眼差しは悪くないと思ったのだ。
それがおれに向けられてるのが、なんだかふわふわした気持ちになってしまう。
あれからマリアの飛ぶ時の風圧で転がることにはまってしまった三つ子は、マリアの外出に合わせて集まっては飛ばされ、というのを繰り返してはきゃっきゃと喜んでいる。変な遊びを覚えちゃったな。
「さて」
「何かするのか」
「この子たち洗おうかと思って。奥の方に湖あるじゃないですか、行ってみたくて」
「こいつらを洗ってもすぐに汚すぞ」
「わかってますよ、水浴びするくらいになるって」
レオンを見上げると、一緒に行くと言い出した。
うん、そう言うと思ってた。
思ってたけど、内心ちょっといいのかな、なんて思ってしまう。
おれ、王子を振り回してない?仕事させないようにしてない?お偉いさんに怒られたりしない?
「あそこは急に深くなるから事故が多いと聞く」
「……中の方には入りませんよ、泳ぐような時期じゃないし」
「お前の心配はしてもしたりないよ」
「うっ……」
瞳を細めて、柔らかい声を落とす。
普段は圧の強めな話し方で、揶揄うような話し方をすることも多くて、でもそういうこと、言っちゃう時は優しくするの、狡いと思う。意識してやってるのかな。
今日の竜舎に残されたのは三つ子と、出勤拒否をした竜が一匹。
その竜も誘ったけれども、今日は天気がいいのでお休み、らしい。どんな理由だ、自由な職場だなと思った。
人間からしたら少し羨ましい、けれど彼等が普段していることを考えると、まあ休みも必要だし、いつもは演習場まで行ってくれて、遠征にも付き合ってくれてるのだ、と思うと許さざるを得ない。
三つ子におひるねスポットを聞いた彼はのそのそ飛んでいってしまった。
「よーし行こっか」
『いゔ~だっこ~』
『だっこ~』
「自分で歩けるでしょ?お散歩楽しいよ」
『やっ』
「こいつらの足だと日が暮れるぞ」
「……」
抱っこを強請る三つ子に注意をしていると、ご尤もなレオンの助言に言葉が詰まる。
飛べないし、足は短いし、犬猫のようなスピードもない。
でもあひるや鶏くらいのちょこちょこ走るスピードはあるんだけど。疲れちゃうのかな。
「じゃあ一匹はレオンさまね」
『や~いゔがい~』
『いゔ~』
『だっこ~』
「皆は無理です、ほら」
幾ら小型の竜だろうと、鶏くらいの大きさの彼女たちを三匹は抱えられない。
一匹をレオンの肩に乗せると、瞳をぱちくりさせて、それから、イヴよりたか~い!と喜んだ。
計算通り、ちょろいけどでも複雑だ。
「何と言ってるんだ」
「おれより視界が高くて嬉しいらしいです」
「そうか、もう一匹乗せてもいいぞ」
おれの抱える二匹の竜を見て、そう言ってくれる。
当の彼女たちが、自分はイヴがいいと譲らないものだから、大丈夫だと断った。
両肩に竜乗せてるレオンは絵面が面白過ぎるから竜から断ってくれて助かったな。
湖までは少しだけ歩くけど、演習場から竜舎程のものではない。
本当に、散歩にぴったり、といったくらいの距離。
竜舎にも水場はあるけれど、大型の竜が、例えばマリアが十分に洗える程の広さや水量を考えれば満足に水浴びは出来ない。
そういう気分の時はそこに行くらしい。
小さな湖と聞いていた。でもそれはマリアにとって、みたい。
おれにとっては十分大きい。というか湖なんて来たの初めて。
伊吹は旅行なんて行ったことなかったし。
「きれい」
わあわあ走っていく三つ子を見ながら思わず呟いた。
それからレオンの方を向いて、足だけなら浸けてもいいか訊いてみる。
急に深くなるといっても、奥まで行かなきゃいいかなと思って。
「まあ今回は俺が見てるからいいぞ……脱げばいいじゃないか」
足元を捲るおれに、そんなことを言う。
……誰もいないからって脱ぐ訳ないでしょう、レオンはいる訳だし。
大丈夫です、と脱いだ靴を並べて、既にぱちゃぱちゃと水音を立てている彼女たちの元へ、次は腕を捲りながら走った。
反射する水面がきらきらして眩しい。浸かった爪先が見える程透明度が高くて、すぐ底が見えることに安心した。だって事故が多いなんてレオンが言うから。
思ったより水温は冷たくない。お昼も過ぎているからかな、気持ちの良い冷たさ。
跳ねる水のお陰で、捲った足元は意味がない程濡れてしまう。
こどもなら脱がせて水浴びさせても良かっただろうな。
流石におれは脱ぐ訳にはいかない。
三つ子を一匹ずつ捕まえて、泥を落としていく。
湖で洗剤を使う訳にはいかないから、水で軽く濯ぐだけ。
元々竜は魔力に守られてる訳で、そんなに汚れない筈なんだけど。
この子たちは魔力も弱いし、土の上を転がるような、自ら汚れる行為をしているから泥くらいは塗れてしまうようだ。
でもその魔力のお陰で、泥さえ落として乾かしてしまえばふわふわもふもふの綺麗な羽根が見える筈なんだ。
「レオンさまも足、浸けませんか」
「俺はいいよ、お前は遊んでおけ」
こどもを見守る父親みたい、と思った。まあそんなの、おれは知らないんだけど。
でも世のお父さんっていうのはそういうものなんでしょ。
僻んでない、ただ、そのレオンの眼差しは悪くないと思ったのだ。
それがおれに向けられてるのが、なんだかふわふわした気持ちになってしまう。
210
お気に入りに追加
3,736
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません
八神紫音
BL
やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。
そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。
【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい
白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。
村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。
攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
俺の婚約者は、頭の中がお花畑
ぽんちゃん
BL
完璧を目指すエレンには、のほほんとした子犬のような婚約者のオリバーがいた。十三年間オリバーの尻拭いをしてきたエレンだったが、オリバーは平民の子に恋をする。婚約破棄をして欲しいとお願いされて、快諾したエレンだったが……
「頼む、一緒に父上を説得してくれないか?」
頭の中がお花畑の婚約者と、浮気相手である平民の少年との結婚を認めてもらう為に、なぜかエレンがオリバーの父親を説得することになる。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
悪役なので大人しく断罪を受け入れたら何故か主人公に公開プロポーズされた。
柴傘
BL
侯爵令息であるシエル・クリステアは第二王子の婚約者。然し彼は、前世の記憶を持つ転生者だった。
シエルは王立学園の卒業パーティーで自身が断罪される事を知っていた。今生きるこの世界は、前世でプレイしていたBLゲームの世界と瓜二つだったから。
幼い頃からシナリオに足掻き続けていたものの、大した成果は得られない。
然しある日、婚約者である第二王子が主人公へ告白している現場を見てしまった。
その日からシナリオに背く事をやめ、屋敷へと引き篭もる。もうどうにでもなれ、やり投げになりながら。
「シエル・クリステア、貴様との婚約を破棄する!」
そう高らかに告げた第二王子に、シエルは恭しく礼をして婚約破棄を受け入れた。
「じゃあ、俺がシエル様を貰ってもいいですよね」
そう言いだしたのは、この物語の主人公であるノヴァ・サスティア侯爵令息で…。
主人公×悪役令息、腹黒溺愛攻め×無気力不憫受け。
誰でも妊娠できる世界。頭よわよわハピエン。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる