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その言葉通り、アンリは翌日以降も何度か来た。レオンよりも高い頻度で。
逃げるように今日は竜舎に行こう、とすると同じように竜舎にも現れる。
竜騎士団に入団したとはいえ、おれは正式な団員ではないのだから毎日通う必要はない。毎日来たって邪魔だろうし。
だからといって休むと、演習場と竜舎をうろうろするアンリがレオンと鉢合わせしたらどうしよう、アルベールや団員に近付いたらどうしよう、なんて考えてしまい、簡単に休むなんていう選択肢も選べなかった。
前の世界のように電話とか、簡単に連絡をする手段もないから、今日そっちいる?ううん今日は休もっかな、なんてやり取りが出来ないから、余計に気を遣ってしまう。
アルベールもレオンも、自分たちがどうにかしようか、なんて言うけれど、なんかそれはちょっと引っかかってしまい断った。
婚約破棄の件で十分迷惑は掛けたし。
「今日はどうする?顔色も良くないし休んだらどうかな」
「んー……だいじょぶ、行く……行かない方が心配」
「何をそんなに心配するの、イヴは毎日来る必要ないでしょう」
アルベールがおれの頬を撫でながら心配そうに覗き込む。
そういうところは頑固だね、と言うが、そういうところはアルベールに似たのだと思う。
アンリが来ること自体が心配。
団員の誰かがアンリの能力にかかってしまったら。折角築いた場所がアンリに崩されてしまうのもいやだし、自分のせいで誰かの人生が狂ってしまうのもいや。アンリの考えはわからないけれど、話しぶりではおれが目当てのようだし。
おれが皆からアンリを引き離さねば。
演習場に行く理由のもうひとつは遠征が間近だからというのもある。
いつもより訓練に熱が入り、竜との相談もまた増えた。
遠征先で何をするのかはおれにはわからないけれど、皆が怪我をしないように、竜も無事で帰って来られるように、コミュニケーションの取り方とか、それぞれに注意をしたりとそれなりに忙しい。
それとは別に、アルベールが暫く家を空けてしまうのはやっぱりさみしい。
だから家でも外でも気にかけてしまう。
今回の遠征はそんなに長いものじゃない、一週間から十日程じゃないかなとアルベールは言ったが、一週間は結構長い。
エディーが泣くくらい長い。
まあエディーは三日空けると言うだけでも毎回泣くけれど。
「今遠征に行くのは僕だって心配だけど」
「……でも仕事だし仕方ないでしょ」
「そうだねえ、調整出来るものじゃないからね」
微笑んで、おれの耳元を撫でる。
擽ったさに瞳を細めると、アルベールも同じように瞳を細めてちゅっと額に唇を落とす。
この流れにも慣れてしまった。
あの日、竜舎でレオンとアルベールにキスをされてから、その後レオンからもう一度、ふたりともおれを諦める気はないと聞いてから、それからふたりからの接触はこれくらいの、まあ外国の挨拶ならこんなものかな、というようなものくらい。
前の世界だとこういうこと、挨拶ではなく愛情が強いひとにしかやらないから……されたことないし、慣れたとはいってもまだ緊張はするし、躰がびくっと固まってしまったりもするけれど。
アルベールに関わらず、皆スキンシップは多めだった。
両親はすぐに抱き締めるし、エディーも抱き着いてくる、抱っこを強請る。
団員も気軽に背を叩いたり腕に触れたりするし、副団長も頭を撫でるし、……アンリもすぐに抱き着いたり腕を抱えたりする。
レオンも腰を抱いたり油断をすると頬にキスをする。
それに一々反応するのはどうかと思ってしまうのだけど、どうにも……されることはわかっていても、少し身構えてしまう。
そのくせ、自分も彼等に触れることに慣れてしまった。
最初は気持ち悪いだろうなと思っていたのだけれど、心を読めるのは間違った情報なのでしょうと周りのひとたちがわかってくれてると知って、腕に触れたり、背に触れたりすることくらいなら大丈夫だとわかった。
アルベールには躰を預けてしまうし、それをレオンにからかわれたりもした。
……何でだろう、危機感がなくなったんじゃないか、ふたりはイヴを愛してると言い、それを止めてくれと思ってる筈なのに、そんなことをしてたら満更でもないと思われるんじゃないか。
「やっぱり顔色が良くない、今日は引き返さない?」
「もう演習場見えてるよ」
「……最近のイヴは無理してる様に見えるのだけど」
「……?」
心配そうなアルベールに、そんなことはないけれど、と思ってしまう。
アルベールたち団員の方がよっぽど無理してる。あんなトレーニングや演習、自分なら何回か死んでる。
それに比べたらおれなんて、皆の相談を聞いたり雑談したり、竜たちとおやつを食べたり話を聞いてるだけののんびりした時間しか過ごしてない。
いちばん緊張してるのがアンリといる時間、次いで何かしでかさないかと気を張ってるレオンとの時間くらいなもんだ。
でも真似事のように隅でしていたトレーニングの成果か、アンリに貧相扱いされた腕は少しだけ筋肉がついたような気がしないでもない。
アルベールにどうだと腕を見せつけると、そうかな、と首を傾げられてしまったが。
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