60 / 192
6
59
しおりを挟む
ふふ、と笑って、それから少し視線を下げる。長い睫毛が頬に影を落とす。
その頬が薔薇色のように染まって、まさに絵に描いたような美少年。そんなひとにかわいいと言われても冗談か嫌味のようにしか感じない。
「学園では仲良くしようと思う程遠くなっていくようで」
……そりゃあ婚約者も友人も全て取られてしまいましたし。
「話し掛けてもそっけないか泣きそうなかおばかりで」
だってアンリに冷たくするなと釘を刺されていたし、近くにいると惨めな気持ちになるだけで。
「かわいかったなあって」
……?
「ほら、すきなひとのかおって色々見たくなるじゃないですかあ……笑ったかおも、怒ったかおも、泣いたかおも。でもちゃんと笑ったかおだけ見れてないんですよね、愛想笑いじゃないですよ?」
聞いてます?とまた視線が合う。
恋愛のすきではないと言う。でも友人としてのものでもない気がする。
何だか、アンリは違うところを見ているような……
「まあでも笑顔はこれからでも見れますもんね」
「……はあ」
「あっちは何があるんですか?」
「え、あっちは更衣室と休憩室……食堂、とか」
「へえ、休むところもあるんだ」
竜がいるだけあって広いですね、学園の敷地より広いかもしれない、とまたこどものように瞳を輝かせる。
不思議な子だ。
無邪気な表情も、おとなしい表情も、かなしそうな表情も、何かを企むような表情も、色気を含む表情も、全部見せる。隠さない。
裏表がないのではなく、それを全て相手に見せるものだから、相手が勝手に混乱してくれる。まさに今のおれの状況だ。
まるで自分が特別になったかのよう。
だからこそジャンを選んだアンリに、攻略キャラクターたちはびっくりしたり、裏切られたと思うひともいただろうな。
おれですらちょっと勘違いしそうだもの。
「先日はあんなこと言ってたけど、ほんとは竜舎にもよく行くんでしょう、竜騎士団に入団した後も」
「……」
「イヴさまは嘘が下手ですもんね」
別に責めてないですよ、棒読みのイヴさまもかわいいです、とまた訳のわからないフォローが入る。
副団長に助けを求めたくなってきた。おれひとりで太刀打ちできる相手じゃない気がする。
間違っちゃいない。毎日ここに来る訳じゃない。竜舎に行く日もあるし、アルベールを見送ってエディーと遊ぶだけの日もあるし、かおだけ出してすぐに帰る日もある。
正式な団員ではないので割と自由にさせてもらっている。
「小さな竜もいましたね、あれはまだこどもなのかな、もっと大きくなる?」
「こどもですけど、ああいう竜なのでそう大きくは……」
「かわいかったな、イヴさまの足元をうろうろしてて懐いてるみたいだった……みたい、じゃないのか、竜は皆イヴさまに懐いてるんですよね」
「……懐いてる、というか」
「ぼくも仲良くなりたいな、あの小さな子たちなら危なくないですよね?」
脅してる……のではないと思う。
竜舎、ひと目の少ないところに呼び出そうとしてる?
多分、アンリは今の状況をわかってると思う。
おれがひとりでアンリの案内をしていること。
ユーゴもアルベールも一緒に来させない理由、自分の能力。それを警戒されていること。
だからこそおれとふたりになるのは容易だ。わざわざ竜舎まで行かなくたって、こうやってふたりになれる。
いや、まだ皆からおれたちは見えている、会話は聞こえなくたって、遠目にアルベールがこちらを見てるのもわかる。
でもこのまま、食堂でも、何か建物の裏にでも行ってしまえば「何か」をすることくらいは簡単だ。
だから何か悪いことを考えてるなんて思いたくないけれど。
「そんなに怪しいですか、ぼく」
「え」
「仲良くなりたいって言ってるだけじゃないですか、疚しいこととか考えてませんよ」
「……」
「怒ってます?」
怒ってはいない。何度も言うが、もう諦めてる。
ジャンへの恋心はなかったし、婚約破棄にも文句はない。ただあの場での所謂公開処刑が辛かっただけ。味方がいないことが辛かっただけ。
学生時から仲良くしたかったというなら何故あんなことをしたのか。泣かせたかったのか?傷付けたかったのか?
「でもイヴさま、ジャンさまのこと、すきじゃなかったですよね?」
まるで心を読まれたかのようなタイミングにぎくりとする。
アンリにそんな能力はない筈だから、タイミングの問題か、おれのかおにまた出ていたかだ。
「ぼくはジャンさまだいすきです、かわいいでしょう」
「かわ、……かわいい?」
「うん、かわいい」
どこが?と思ってしまった。そりゃ幼少期は今思えばかわいらしいところもあったのかもしれないけれど、同じ歳のイヴにそのかわいさとやらはわからなかった。
アンリは学園でジャンと出会った。ゲーム内で初めて会った筈だ。
その時には今のジャンが出来上がっていて……そりゃあゲーム内でのジャンはアンリに優しかったよ、主人公を落とす為の恋愛ゲームだもの、当たり前だ。けれどかわいいところがあったかというと……それに惹かれるシーンがあったかというと……やっぱり首を傾げてしまう。
その頬が薔薇色のように染まって、まさに絵に描いたような美少年。そんなひとにかわいいと言われても冗談か嫌味のようにしか感じない。
「学園では仲良くしようと思う程遠くなっていくようで」
……そりゃあ婚約者も友人も全て取られてしまいましたし。
「話し掛けてもそっけないか泣きそうなかおばかりで」
だってアンリに冷たくするなと釘を刺されていたし、近くにいると惨めな気持ちになるだけで。
「かわいかったなあって」
……?
「ほら、すきなひとのかおって色々見たくなるじゃないですかあ……笑ったかおも、怒ったかおも、泣いたかおも。でもちゃんと笑ったかおだけ見れてないんですよね、愛想笑いじゃないですよ?」
聞いてます?とまた視線が合う。
恋愛のすきではないと言う。でも友人としてのものでもない気がする。
何だか、アンリは違うところを見ているような……
「まあでも笑顔はこれからでも見れますもんね」
「……はあ」
「あっちは何があるんですか?」
「え、あっちは更衣室と休憩室……食堂、とか」
「へえ、休むところもあるんだ」
竜がいるだけあって広いですね、学園の敷地より広いかもしれない、とまたこどものように瞳を輝かせる。
不思議な子だ。
無邪気な表情も、おとなしい表情も、かなしそうな表情も、何かを企むような表情も、色気を含む表情も、全部見せる。隠さない。
裏表がないのではなく、それを全て相手に見せるものだから、相手が勝手に混乱してくれる。まさに今のおれの状況だ。
まるで自分が特別になったかのよう。
だからこそジャンを選んだアンリに、攻略キャラクターたちはびっくりしたり、裏切られたと思うひともいただろうな。
おれですらちょっと勘違いしそうだもの。
「先日はあんなこと言ってたけど、ほんとは竜舎にもよく行くんでしょう、竜騎士団に入団した後も」
「……」
「イヴさまは嘘が下手ですもんね」
別に責めてないですよ、棒読みのイヴさまもかわいいです、とまた訳のわからないフォローが入る。
副団長に助けを求めたくなってきた。おれひとりで太刀打ちできる相手じゃない気がする。
間違っちゃいない。毎日ここに来る訳じゃない。竜舎に行く日もあるし、アルベールを見送ってエディーと遊ぶだけの日もあるし、かおだけ出してすぐに帰る日もある。
正式な団員ではないので割と自由にさせてもらっている。
「小さな竜もいましたね、あれはまだこどもなのかな、もっと大きくなる?」
「こどもですけど、ああいう竜なのでそう大きくは……」
「かわいかったな、イヴさまの足元をうろうろしてて懐いてるみたいだった……みたい、じゃないのか、竜は皆イヴさまに懐いてるんですよね」
「……懐いてる、というか」
「ぼくも仲良くなりたいな、あの小さな子たちなら危なくないですよね?」
脅してる……のではないと思う。
竜舎、ひと目の少ないところに呼び出そうとしてる?
多分、アンリは今の状況をわかってると思う。
おれがひとりでアンリの案内をしていること。
ユーゴもアルベールも一緒に来させない理由、自分の能力。それを警戒されていること。
だからこそおれとふたりになるのは容易だ。わざわざ竜舎まで行かなくたって、こうやってふたりになれる。
いや、まだ皆からおれたちは見えている、会話は聞こえなくたって、遠目にアルベールがこちらを見てるのもわかる。
でもこのまま、食堂でも、何か建物の裏にでも行ってしまえば「何か」をすることくらいは簡単だ。
だから何か悪いことを考えてるなんて思いたくないけれど。
「そんなに怪しいですか、ぼく」
「え」
「仲良くなりたいって言ってるだけじゃないですか、疚しいこととか考えてませんよ」
「……」
「怒ってます?」
怒ってはいない。何度も言うが、もう諦めてる。
ジャンへの恋心はなかったし、婚約破棄にも文句はない。ただあの場での所謂公開処刑が辛かっただけ。味方がいないことが辛かっただけ。
学生時から仲良くしたかったというなら何故あんなことをしたのか。泣かせたかったのか?傷付けたかったのか?
「でもイヴさま、ジャンさまのこと、すきじゃなかったですよね?」
まるで心を読まれたかのようなタイミングにぎくりとする。
アンリにそんな能力はない筈だから、タイミングの問題か、おれのかおにまた出ていたかだ。
「ぼくはジャンさまだいすきです、かわいいでしょう」
「かわ、……かわいい?」
「うん、かわいい」
どこが?と思ってしまった。そりゃ幼少期は今思えばかわいらしいところもあったのかもしれないけれど、同じ歳のイヴにそのかわいさとやらはわからなかった。
アンリは学園でジャンと出会った。ゲーム内で初めて会った筈だ。
その時には今のジャンが出来上がっていて……そりゃあゲーム内でのジャンはアンリに優しかったよ、主人公を落とす為の恋愛ゲームだもの、当たり前だ。けれどかわいいところがあったかというと……それに惹かれるシーンがあったかというと……やっぱり首を傾げてしまう。
190
お気に入りに追加
3,781
あなたにおすすめの小説

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる