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暫く皆、見蕩れるようにその流れを見ていた。
アンリもユーゴも。
やり方でいえばレオンとそう変わりはない。
けれど、その、なんというか、魔力差だとかも関係あるのかな、それとも多少の質も違うのかな、なんだかおれたちまであたたかくなるような気がする。
普段のジャンからは想像のつかないような、そんな。
ふと横を向くと、アンリと視線がぶつかった。
にこ、と微笑まれて、返す笑顔の方法がわからなくて会釈で返してしまう。
あんなことがあって……というか、あんなことをしておいて変にフランクな態度だ。
普通なら気まずいと思うんだけれど。
まあその、変に引き摺らない、明るいところがアンリの魅力でもあるんだろう。
おれもジャンもめちゃくちゃ引き摺ってるけどね。
「イヴ」
「あっ、はい!」
「ぼおっとしてるな、これで大丈夫か確認しろ」
「すみません……」
……今舌打ちしなかった?と思いつつ、副団長の背中から飛び出てレベッカの頭を撫でる。
くるくると喉を鳴らしながら、もう苦しくないとうっとりしたように彼女は言った。
躰があたたかくて寝てしまいそう、と漏らす彼女の周りで三つ子が一緒に寝よう寝ようと纏わりつく。
ジャンの足元にぶつかって転がり、あったかくないよー、と文句を垂れた。いつでもあたたかい訳ではない。
もう一度すみません、と慌ててその一匹を抱えて、大丈夫みたいです、治りました、ありがとうございます、と視線を合わせられないまま伝える。
なんだか棒読みみたいになっちゃったな。でもジャンとの会話って難しくて。どこに地雷があるかわからないんだもの。
はあ、と溜息の後、戻るぞ、とアンリに声を掛けた。
はあい、と明るい声が返されて、それからちょっとだけ待って、とお願いが飛ぶ。
ちらりと見上げた先のジャンは、慣れているのかその甘えに対して苛ついた表情はしていなかった。
とと、とユーゴの元まで走り、呼びに来てくれてありがとう、と微笑む。
ふわふわとするような笑顔は、色々疑ったとはいえやはり主人公だ。かわいらしい笑顔に、ユーゴが息を呑んだのがわかる。
「ぼくね、ジャンさまの治癒するところすきなんだよね、竜に施すところは初めて見た」
「……いえ、こちらこそお呼びして申し訳なかったです」
「はは、竜騎士モードだ、いいのに、友人なんだからさ」
格好良いね、竜騎士。
そんなことを言ったって、その前の友人呼びでユーゴの心は大ダメージだ。
ひとの想いを折られる瞬間を見て心臓がきゅっとするように感じた。
これはジャンルートだから仕方ない。
「イヴさまも。呼んでくれてありがとう」
「えっ」
「いやだったでしょ、ぼくたち呼ぶの」
「いや……それ、は……」
頷きにくいことを普通に訊くな、とも思ったけれど、その空気を読まないところもアンリである。
それを許されるのも。
「でも会えて嬉しかった」
「は」
「ぼくね、イヴさまと仲良くしたかったんです」
思わずはあ、と間抜けな声を出してしまった。
意味を図りかねてしまって。
一応立ち位置としては恋敵の筈で、イヴは取られた側、アンリは勝利した側の筈だ。
おれは引っぱたかれたし、婚約破棄もされた。
そんな相手に仲良くしたかったってなんだ、少しその、言い方は悪いが頭がおかしくなったのか、と思う。
そんなアンリを、ジャンとユーゴは瞳を丸くして見ているし、副団長も軽く首を傾げている。
でもアンリはそれを意に介さないように目の前に走り寄り、ぎゅっとおれの手を握った。
身長がほぼ同じなものだから、目線が近い。鼻先がくっついてしまいそうで、それは友人の距離ではないと少し頭を引いてしまった。
「ここに良く来てるんでしょう」
「え、いや……よく、……よくでは」
「イヴさまは竜とお話出来るんですもんね!すごいなあ、ね、ぼくもまたここに来ていい?今度はゆっくりお話したいです」
「えっと……」
助けを求めるように周りを見るけれど、いちばんに文句を言いそうなジャンは驚いたかおのまま固まっている。ユーゴの頭には「?」が見えるかのよう。
副団長はひとり考えてるようなかおをして、それから、最近は演習場の方にかおを出すんですよ、と言った。
それはこの人気のない竜舎より団員だらけの演習場の方が来にくいだろうという助け舟なのか、それとも単純にこっちにはあまり来ないですよという、それだけの話か。
どっちでもいい、取り敢えずはその話に乗るだけだ。
「そう、そうなんです、竜舎には日中殆ど竜がいないから……今日はレベッカの様子を見に来ただけで、その、普段は演習場の方に」
「そうなんですか?でもさっきユーゴが卒業してから初めて会ったって……ユーゴはずっと演習場にいたんですよね」
来る時にそんな話してたのか、別に悪い話をされた訳ではないけど、何を話していたのかわからない状態では墓穴を掘ってしまいそうだ。
にこにこした表情を崩さないアンリだけど、それがまた少しこわい。
ジャンに近づくなと嫌そうな表情をされた方がまだわかりやすい。だってアンリにイヴと仲良くするメリットって何がある?と考えても何も思い浮かばなかった。
アンリもユーゴも。
やり方でいえばレオンとそう変わりはない。
けれど、その、なんというか、魔力差だとかも関係あるのかな、それとも多少の質も違うのかな、なんだかおれたちまであたたかくなるような気がする。
普段のジャンからは想像のつかないような、そんな。
ふと横を向くと、アンリと視線がぶつかった。
にこ、と微笑まれて、返す笑顔の方法がわからなくて会釈で返してしまう。
あんなことがあって……というか、あんなことをしておいて変にフランクな態度だ。
普通なら気まずいと思うんだけれど。
まあその、変に引き摺らない、明るいところがアンリの魅力でもあるんだろう。
おれもジャンもめちゃくちゃ引き摺ってるけどね。
「イヴ」
「あっ、はい!」
「ぼおっとしてるな、これで大丈夫か確認しろ」
「すみません……」
……今舌打ちしなかった?と思いつつ、副団長の背中から飛び出てレベッカの頭を撫でる。
くるくると喉を鳴らしながら、もう苦しくないとうっとりしたように彼女は言った。
躰があたたかくて寝てしまいそう、と漏らす彼女の周りで三つ子が一緒に寝よう寝ようと纏わりつく。
ジャンの足元にぶつかって転がり、あったかくないよー、と文句を垂れた。いつでもあたたかい訳ではない。
もう一度すみません、と慌ててその一匹を抱えて、大丈夫みたいです、治りました、ありがとうございます、と視線を合わせられないまま伝える。
なんだか棒読みみたいになっちゃったな。でもジャンとの会話って難しくて。どこに地雷があるかわからないんだもの。
はあ、と溜息の後、戻るぞ、とアンリに声を掛けた。
はあい、と明るい声が返されて、それからちょっとだけ待って、とお願いが飛ぶ。
ちらりと見上げた先のジャンは、慣れているのかその甘えに対して苛ついた表情はしていなかった。
とと、とユーゴの元まで走り、呼びに来てくれてありがとう、と微笑む。
ふわふわとするような笑顔は、色々疑ったとはいえやはり主人公だ。かわいらしい笑顔に、ユーゴが息を呑んだのがわかる。
「ぼくね、ジャンさまの治癒するところすきなんだよね、竜に施すところは初めて見た」
「……いえ、こちらこそお呼びして申し訳なかったです」
「はは、竜騎士モードだ、いいのに、友人なんだからさ」
格好良いね、竜騎士。
そんなことを言ったって、その前の友人呼びでユーゴの心は大ダメージだ。
ひとの想いを折られる瞬間を見て心臓がきゅっとするように感じた。
これはジャンルートだから仕方ない。
「イヴさまも。呼んでくれてありがとう」
「えっ」
「いやだったでしょ、ぼくたち呼ぶの」
「いや……それ、は……」
頷きにくいことを普通に訊くな、とも思ったけれど、その空気を読まないところもアンリである。
それを許されるのも。
「でも会えて嬉しかった」
「は」
「ぼくね、イヴさまと仲良くしたかったんです」
思わずはあ、と間抜けな声を出してしまった。
意味を図りかねてしまって。
一応立ち位置としては恋敵の筈で、イヴは取られた側、アンリは勝利した側の筈だ。
おれは引っぱたかれたし、婚約破棄もされた。
そんな相手に仲良くしたかったってなんだ、少しその、言い方は悪いが頭がおかしくなったのか、と思う。
そんなアンリを、ジャンとユーゴは瞳を丸くして見ているし、副団長も軽く首を傾げている。
でもアンリはそれを意に介さないように目の前に走り寄り、ぎゅっとおれの手を握った。
身長がほぼ同じなものだから、目線が近い。鼻先がくっついてしまいそうで、それは友人の距離ではないと少し頭を引いてしまった。
「ここに良く来てるんでしょう」
「え、いや……よく、……よくでは」
「イヴさまは竜とお話出来るんですもんね!すごいなあ、ね、ぼくもまたここに来ていい?今度はゆっくりお話したいです」
「えっと……」
助けを求めるように周りを見るけれど、いちばんに文句を言いそうなジャンは驚いたかおのまま固まっている。ユーゴの頭には「?」が見えるかのよう。
副団長はひとり考えてるようなかおをして、それから、最近は演習場の方にかおを出すんですよ、と言った。
それはこの人気のない竜舎より団員だらけの演習場の方が来にくいだろうという助け舟なのか、それとも単純にこっちにはあまり来ないですよという、それだけの話か。
どっちでもいい、取り敢えずはその話に乗るだけだ。
「そう、そうなんです、竜舎には日中殆ど竜がいないから……今日はレベッカの様子を見に来ただけで、その、普段は演習場の方に」
「そうなんですか?でもさっきユーゴが卒業してから初めて会ったって……ユーゴはずっと演習場にいたんですよね」
来る時にそんな話してたのか、別に悪い話をされた訳ではないけど、何を話していたのかわからない状態では墓穴を掘ってしまいそうだ。
にこにこした表情を崩さないアンリだけど、それがまた少しこわい。
ジャンに近づくなと嫌そうな表情をされた方がまだわかりやすい。だってアンリにイヴと仲良くするメリットって何がある?と考えても何も思い浮かばなかった。
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