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「何時に来るかわからないし、ていうか来るかもわかんないし。アル兄さま演習場戻る?」
「いや、いつ来るかわからないからイヴと一緒にいるよ」
「……」
「一緒にいていい?」
狡いな、そんな風に訊かれて駄目なんて言える訳ないのに。
頷こうと思ったけれど、アルベールに抱きかかえられてるままでは頭が動かなかった。
うん、と小さな声はアルベールの胸の中に消えてしまう。
大丈夫だ、うん、アルベールがいれば、ジャンが来たっておれの味方は隣にいるって、そう思えるから。
とはいえ、連絡手段もないこの世界で何時まで待てばいいものか。結果はどうであれユーゴは戻ってくるだろうけど。
いつまで待てばいいのかわからないのって辛いなあ、と話していると、アルベールはあっさりと、来るよ、と言った。
……そうだった、予知があるんだった。
何処から見えていたのかと訊くと、アルベールは困ったように笑って、ここに来てからだ、と言う。
竜舎に来て、ユーゴに会ってから。
わざわざおれについてきたのだから、演習場の時から見えていたのかと思った。それはただの過保護やただ単に一緒居たかったからか。
「そっか、遅くなるかなあ」
「夕暮れにはなってなかったから、そう遅くはないんじゃないかな」
「じゃあそんなに待たないのかな」
意外だな、と思った。
ジャンは来ないと思ってたから。
死にそうな訳ではない、ただの魔力詰まり、放っておいても数日で治るならわざわざこの能力を使わなくたって、と拒否されるかと。
それはジャンの性格もそうだし、能力のことを考えたってそうだ。
レオンは後々の魔力切れのことを考えて治癒を施すと言っていた。
それはジャンも同じ。
もしかしたらすぐ後に大病を患ったひとが運ばれて来るかもしれない。放っておいても治る患者に全力で魔力を使い、今は魔力切れなので何も出来ません、という訳にもいかない。
王族に頼むくらいなのだ、重症重病者が多い、だからわざわざ魔力詰まりの竜なんかに……
恋敵みたいなものだ、ユーゴは別にジャンと仲が良かった訳ではない。
だから多分、ユーゴの熱意が伝わった訳ではなく、ユーゴが頼った先のアンリが上手くジャンを誘導してくれるのかもしれない。
「……アンリも来る、よね?」
「そうだな」
「……」
ここにおれがいることも、魔力詰まりだと判断したのもおれだとふたりはわかるだろう。
きっとジャンだけではなく、アンリも来る。
おれにその気がなくたって、元婚約者がいれば警戒もするだろう。
厄介だな、と思う。
ジャンだけなら義務的な会話で終わらせることは出来る。けれどアンリも来ると、皆感情的になってしまいそうで。
それに何より、アルベールをアンリと会わせたくなかった。
ゲームのシナリオではふたりはかおを合わせたことはなかった筈だ。
アルベールは、イヴにこんな兄がいる、という程度の描写だったから、お互い存在は知っていても会話はしたことないんじゃないかな。
いや、それはあくまでもイヴの記憶だから、イヴの知らないところで会ったことはあるかもしれない。
もし会ったことがなければ、アルベールはアンリへの好感度は低いと思う。弟の婚約者を奪った相手だ、今となってはジャンにやらないで良かったと言ってはいるけど、好感度が高い訳はない。弟をかなしませやがって、くらいのことは思ってくれてる……んじゃないかな。
心配なのは、もし会ったことがあったら。
会ったことはなくても、今回の件でアンリに好感を持ったら。そのことだ。
アンリは素直で優しくて頑張り屋で、くるくると変わる表情がかわいらしい子だった。
ゲームの主人公だというだけで、悪意を持ってイヴから婚約者や友人を奪った訳ではない。
それはただの結果であって、イヴにだって悪いところはきっとあった。アンリの性格が悪い訳ではない。
能力に関係なく、アンリに魅力が負けていただけだともわかっている。
わかっているから心配だった。
イヴに聞いていたより良い子じゃないか、魅力的な子じゃないかと思ってしまったら。
かわいいな、優しい子だなと惹かれてしまったら。
アンリにアルベールを取られてしまったらどうしよう。
アンリにはもうジャンがいるでしょ、とか、アルベールにはレオンがいるし、なんて倫理的なものも勿論なのだけれど、狡いのはそこじゃない。
アルベールはおれのことがすきなのに。おれの兄なのに。取られたくない。
婚約者を取られても、友人がいなくなっても、周りに白い目でみられたって、アルベールはだめだ。
会ってほしくない。
アルベールに、アンリの能力を浴びてほしくない。
以前のレオンのように、おれのことがすきだと、そう発情をされたって困るけど、それ以上にアンリに惹かれてほしくない。
おれよりアンリを選ばないで。
家族まで取られてしまいたくない。
「会いたくない?」
「……違う、」
ぎゅう、と彼の裾を掴むおれに、まるでこどもにするかのように柔らかくアルベールが訊く。
会いたくないんじゃない、会わせたくないんだ。
「いや、いつ来るかわからないからイヴと一緒にいるよ」
「……」
「一緒にいていい?」
狡いな、そんな風に訊かれて駄目なんて言える訳ないのに。
頷こうと思ったけれど、アルベールに抱きかかえられてるままでは頭が動かなかった。
うん、と小さな声はアルベールの胸の中に消えてしまう。
大丈夫だ、うん、アルベールがいれば、ジャンが来たっておれの味方は隣にいるって、そう思えるから。
とはいえ、連絡手段もないこの世界で何時まで待てばいいものか。結果はどうであれユーゴは戻ってくるだろうけど。
いつまで待てばいいのかわからないのって辛いなあ、と話していると、アルベールはあっさりと、来るよ、と言った。
……そうだった、予知があるんだった。
何処から見えていたのかと訊くと、アルベールは困ったように笑って、ここに来てからだ、と言う。
竜舎に来て、ユーゴに会ってから。
わざわざおれについてきたのだから、演習場の時から見えていたのかと思った。それはただの過保護やただ単に一緒居たかったからか。
「そっか、遅くなるかなあ」
「夕暮れにはなってなかったから、そう遅くはないんじゃないかな」
「じゃあそんなに待たないのかな」
意外だな、と思った。
ジャンは来ないと思ってたから。
死にそうな訳ではない、ただの魔力詰まり、放っておいても数日で治るならわざわざこの能力を使わなくたって、と拒否されるかと。
それはジャンの性格もそうだし、能力のことを考えたってそうだ。
レオンは後々の魔力切れのことを考えて治癒を施すと言っていた。
それはジャンも同じ。
もしかしたらすぐ後に大病を患ったひとが運ばれて来るかもしれない。放っておいても治る患者に全力で魔力を使い、今は魔力切れなので何も出来ません、という訳にもいかない。
王族に頼むくらいなのだ、重症重病者が多い、だからわざわざ魔力詰まりの竜なんかに……
恋敵みたいなものだ、ユーゴは別にジャンと仲が良かった訳ではない。
だから多分、ユーゴの熱意が伝わった訳ではなく、ユーゴが頼った先のアンリが上手くジャンを誘導してくれるのかもしれない。
「……アンリも来る、よね?」
「そうだな」
「……」
ここにおれがいることも、魔力詰まりだと判断したのもおれだとふたりはわかるだろう。
きっとジャンだけではなく、アンリも来る。
おれにその気がなくたって、元婚約者がいれば警戒もするだろう。
厄介だな、と思う。
ジャンだけなら義務的な会話で終わらせることは出来る。けれどアンリも来ると、皆感情的になってしまいそうで。
それに何より、アルベールをアンリと会わせたくなかった。
ゲームのシナリオではふたりはかおを合わせたことはなかった筈だ。
アルベールは、イヴにこんな兄がいる、という程度の描写だったから、お互い存在は知っていても会話はしたことないんじゃないかな。
いや、それはあくまでもイヴの記憶だから、イヴの知らないところで会ったことはあるかもしれない。
もし会ったことがなければ、アルベールはアンリへの好感度は低いと思う。弟の婚約者を奪った相手だ、今となってはジャンにやらないで良かったと言ってはいるけど、好感度が高い訳はない。弟をかなしませやがって、くらいのことは思ってくれてる……んじゃないかな。
心配なのは、もし会ったことがあったら。
会ったことはなくても、今回の件でアンリに好感を持ったら。そのことだ。
アンリは素直で優しくて頑張り屋で、くるくると変わる表情がかわいらしい子だった。
ゲームの主人公だというだけで、悪意を持ってイヴから婚約者や友人を奪った訳ではない。
それはただの結果であって、イヴにだって悪いところはきっとあった。アンリの性格が悪い訳ではない。
能力に関係なく、アンリに魅力が負けていただけだともわかっている。
わかっているから心配だった。
イヴに聞いていたより良い子じゃないか、魅力的な子じゃないかと思ってしまったら。
かわいいな、優しい子だなと惹かれてしまったら。
アンリにアルベールを取られてしまったらどうしよう。
アンリにはもうジャンがいるでしょ、とか、アルベールにはレオンがいるし、なんて倫理的なものも勿論なのだけれど、狡いのはそこじゃない。
アルベールはおれのことがすきなのに。おれの兄なのに。取られたくない。
婚約者を取られても、友人がいなくなっても、周りに白い目でみられたって、アルベールはだめだ。
会ってほしくない。
アルベールに、アンリの能力を浴びてほしくない。
以前のレオンのように、おれのことがすきだと、そう発情をされたって困るけど、それ以上にアンリに惹かれてほしくない。
おれよりアンリを選ばないで。
家族まで取られてしまいたくない。
「会いたくない?」
「……違う、」
ぎゅう、と彼の裾を掴むおれに、まるでこどもにするかのように柔らかくアルベールが訊く。
会いたくないんじゃない、会わせたくないんだ。
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