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「ごめん……」
謝られると惨めになる。
婚約破棄にショックを受けた訳ではない、周りからの冷たい視線、味方が誰もいないことがいちばん辛かった。
溜息を吐いて、もういいよと返す。
今更ユーゴと友人に戻ることは出来ない。だからといって、ずっと憎しみ続けることだって疲れる。そういうことにだって体力も精神も使ってしまうものだから。
アルベールも多分わかってはいる。
イヴになんてことを、とまた過保護な彼は口を出してくるかと思ったけれど、そうされることはなかった。
ここは自分の出番ではないとわかってるのだろう。
「まあ放っておいても治るは治るけど」
「……でもそれ、レベッカは辛いよな?」
「そりゃあ……まあ」
人間が薬に頼らず数日苦しむのと同じことだからなあ。
でもレオンはともかく、ジャンが命に関わるようなことでもないことでここに来てくれるとは思えなかった。
「……アンリにお願いしたらジャンさまに頼んでくれないだろうか」
「……」
「このままだとかわいそうで」
こいつきゅうきゅうずっと鳴いてて。ここまで連れてくるのも苦しそうだった、とレベッカを心配そうに撫でる。
苦しそうで、かわいそうなんだ、と思った。
あの時のイヴはかわいそうじゃなかったのかな。そう思ったから気まずくて視線を逸らしたんじゃないの?
……流石にそんなことは口にしない。言ったって仕方ない。ここでユーゴを攻撃して、萎縮させてどうするの。
別に仲直りしたい訳でもないのだし。
「……お願いして来てくれるんならいいんじゃない、来てくれるか知らないけど。おれに会いたくないだろうし、そもそもジャンさま、ここに来たことあるかもわからないし」
婚約破棄の件も、レオンに任せてと言われてから放り出してしまった。あれからそう日数も経ってないけど、どうなったのかもまだわからない。
おれが竜舎から離れたらいいのかもしれないけれど、自分の見てないところでジャンが竜への治癒を施すのは少し心配だった。
希少な竜に悪いことはしないと思うけど、痛いとか辛いとかこわいとか、そういうことをわかってあげられないのは胸が痛い。
怪我を治すことより、躰の内側を治されるのって、なんだか不安になってしまう。
実際、レベッカは治してくれるの?イヴも一緒にいてくれる?と不安そうにおれに助けを求めて来る訳で……
あとは宜しく、とジャンに投げることは出来ない。
「アンリに頼んでくる。こんなに鳴くレベッカは初めてなんだ、……まだレベッカとの付き合いは浅いけど、……まあ、心配だし」
「……うん」
おれだって心配だ。
治るとはいえ確かに放置するのも酷いよな。それはわかる。
おれがちょっといやだな、と思う程度で我慢させるのも酷いよな。
わかるけど。
「じゃあ呼んでおいで、早い方がいいだろう、ジャンさまが今日中に来られるかはわからないけれど」
「はい!」
濁すようなおれとは違い、はっきりと口にしたアルベールに威勢の良い返事。
ユーゴは走るように竜舎を後にした。
残されたのはまだ苦しそうに鳴くレベッカとおれたちふたり。
内心、やだなって思ってる。会いたくないなって。
レオンがどうにか治せないかな、でも無駄に魔力を使わせるのもな。配分とかも考えてるみたいだしな。
ジャンは来てくれるかな。レベッカかわいそうだな。おれは話を聞くだけでなにもしてあげられない。
それだけでも助かるよと周りは言ってくれるけど、こういう時はやっぱりへこんでしまう。話を聞くだけ聞いて何も出来ないのは無力感あるもの。
「ジャンに会いたくなければ僕が引き継ぐから先に帰っててもいいよ」
おれの頭を撫で、肩を抱いたアルベールが柔らかくそう伝える。
黙っていただけで、やはりおれとユーゴやジャンとのことを気にしてくれていたみたいだ。
首を横に振って、レベッカが一緒にいてほしいって言うからここにいる、と返すと、そう、と微笑む。
安心する。
ジャンが来たって、ユーゴと友人でいられなくたって、アンリと仲良さそうなところを見たって。
大丈夫だ、アルベールがいる。アルベールは絶対イヴの方がだいじだから。きっと。多分。
……アルベールはアンリと殆ど関わってないんだから、大丈夫だよね?
レオンだってアンリと会って、それでもアンリの魅了にかからなかったし、大丈夫だよね?
レオンもアルベールも、攻略キャラクターじゃないもんね?
「……」
アルベールにはおれの味方であってほしい。家族には。
おれが悪いことをしたって、最後にはごめんなさいをしたって、それでも最初はおれのことを信じてほしい。
ふたりの好意は信じられないくせに、弟としての、家族としての愛を求めるのは狡いことかな。
「こわい?」
「……ううん」
ぎゅう、と抱き締めてアルベールが訊く。
このぎゅうはいやじゃなかった。
そういう欲じゃなくて、純粋におれを落ち着けさせる、安心させるものだとわかるから。
ジャンに会うのは嫌だけど、こわい訳じゃない。
いってしまえば、もうどうでもいい存在なのだから。アンリとしあわせにやってくれればいい。おれにもう関わらないでいい。
そう思っても結局はこうやって、関わらないといけなくなってしまうのは狭い世界だなあと思う。
謝られると惨めになる。
婚約破棄にショックを受けた訳ではない、周りからの冷たい視線、味方が誰もいないことがいちばん辛かった。
溜息を吐いて、もういいよと返す。
今更ユーゴと友人に戻ることは出来ない。だからといって、ずっと憎しみ続けることだって疲れる。そういうことにだって体力も精神も使ってしまうものだから。
アルベールも多分わかってはいる。
イヴになんてことを、とまた過保護な彼は口を出してくるかと思ったけれど、そうされることはなかった。
ここは自分の出番ではないとわかってるのだろう。
「まあ放っておいても治るは治るけど」
「……でもそれ、レベッカは辛いよな?」
「そりゃあ……まあ」
人間が薬に頼らず数日苦しむのと同じことだからなあ。
でもレオンはともかく、ジャンが命に関わるようなことでもないことでここに来てくれるとは思えなかった。
「……アンリにお願いしたらジャンさまに頼んでくれないだろうか」
「……」
「このままだとかわいそうで」
こいつきゅうきゅうずっと鳴いてて。ここまで連れてくるのも苦しそうだった、とレベッカを心配そうに撫でる。
苦しそうで、かわいそうなんだ、と思った。
あの時のイヴはかわいそうじゃなかったのかな。そう思ったから気まずくて視線を逸らしたんじゃないの?
……流石にそんなことは口にしない。言ったって仕方ない。ここでユーゴを攻撃して、萎縮させてどうするの。
別に仲直りしたい訳でもないのだし。
「……お願いして来てくれるんならいいんじゃない、来てくれるか知らないけど。おれに会いたくないだろうし、そもそもジャンさま、ここに来たことあるかもわからないし」
婚約破棄の件も、レオンに任せてと言われてから放り出してしまった。あれからそう日数も経ってないけど、どうなったのかもまだわからない。
おれが竜舎から離れたらいいのかもしれないけれど、自分の見てないところでジャンが竜への治癒を施すのは少し心配だった。
希少な竜に悪いことはしないと思うけど、痛いとか辛いとかこわいとか、そういうことをわかってあげられないのは胸が痛い。
怪我を治すことより、躰の内側を治されるのって、なんだか不安になってしまう。
実際、レベッカは治してくれるの?イヴも一緒にいてくれる?と不安そうにおれに助けを求めて来る訳で……
あとは宜しく、とジャンに投げることは出来ない。
「アンリに頼んでくる。こんなに鳴くレベッカは初めてなんだ、……まだレベッカとの付き合いは浅いけど、……まあ、心配だし」
「……うん」
おれだって心配だ。
治るとはいえ確かに放置するのも酷いよな。それはわかる。
おれがちょっといやだな、と思う程度で我慢させるのも酷いよな。
わかるけど。
「じゃあ呼んでおいで、早い方がいいだろう、ジャンさまが今日中に来られるかはわからないけれど」
「はい!」
濁すようなおれとは違い、はっきりと口にしたアルベールに威勢の良い返事。
ユーゴは走るように竜舎を後にした。
残されたのはまだ苦しそうに鳴くレベッカとおれたちふたり。
内心、やだなって思ってる。会いたくないなって。
レオンがどうにか治せないかな、でも無駄に魔力を使わせるのもな。配分とかも考えてるみたいだしな。
ジャンは来てくれるかな。レベッカかわいそうだな。おれは話を聞くだけでなにもしてあげられない。
それだけでも助かるよと周りは言ってくれるけど、こういう時はやっぱりへこんでしまう。話を聞くだけ聞いて何も出来ないのは無力感あるもの。
「ジャンに会いたくなければ僕が引き継ぐから先に帰っててもいいよ」
おれの頭を撫で、肩を抱いたアルベールが柔らかくそう伝える。
黙っていただけで、やはりおれとユーゴやジャンとのことを気にしてくれていたみたいだ。
首を横に振って、レベッカが一緒にいてほしいって言うからここにいる、と返すと、そう、と微笑む。
安心する。
ジャンが来たって、ユーゴと友人でいられなくたって、アンリと仲良さそうなところを見たって。
大丈夫だ、アルベールがいる。アルベールは絶対イヴの方がだいじだから。きっと。多分。
……アルベールはアンリと殆ど関わってないんだから、大丈夫だよね?
レオンだってアンリと会って、それでもアンリの魅了にかからなかったし、大丈夫だよね?
レオンもアルベールも、攻略キャラクターじゃないもんね?
「……」
アルベールにはおれの味方であってほしい。家族には。
おれが悪いことをしたって、最後にはごめんなさいをしたって、それでも最初はおれのことを信じてほしい。
ふたりの好意は信じられないくせに、弟としての、家族としての愛を求めるのは狡いことかな。
「こわい?」
「……ううん」
ぎゅう、と抱き締めてアルベールが訊く。
このぎゅうはいやじゃなかった。
そういう欲じゃなくて、純粋におれを落ち着けさせる、安心させるものだとわかるから。
ジャンに会うのは嫌だけど、こわい訳じゃない。
いってしまえば、もうどうでもいい存在なのだから。アンリとしあわせにやってくれればいい。おれにもう関わらないでいい。
そう思っても結局はこうやって、関わらないといけなくなってしまうのは狭い世界だなあと思う。
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