上 下
47 / 192
5

46

しおりを挟む
 攻略キャラクターとはいっても、それはあくまでアンリが主人公であっての話だ。
 イヴにはただ彼等の邪魔をするだけで、彼と特別どうこうなろうと言う気があった訳ではない。
 ただ友人のポジションの筈が、アンリとの恋路を邪魔する性格の悪い知人となってしまっただけの話。

 ユーゴとは学園に入る前から交遊があった。
 彼はいつも鍛えていた。アルベールと同じで、貴族出身でありながら、騎士団に入るのだと豪語する男。
 弱い者やこどもに優しい男だった。

 ユーゴとイヴが初めて会ったのは、留守番を嫌がったイヴがアルベールの習い事に無理を言って着いて行った時だ。
 体術を習っていた時だったと思う。ひょろひょろのイヴはアルベールたちの練習風景をすごいなあと見学をしていた。
 そこでイヴさまと同い歳ですよ、と紹介されたのがユーゴだ。
 ちっせーな、と暴言を吐かれ……その頃には既に王太子の婚約者という立場になっていたものだから周りは慌てたが事実なのでイヴは怒りはしなかった。

 アルベールの真似をして躰を動かしても、大して筋肉も力もつかなかった。そういう体質だと周りも本人も納得していたし、アルベールが僕が守るから大丈夫だよ、と言っていたことに満足もしていた。
 だいすきな兄が守ってくれるのならこわいものはない。
 ずっと一緒にいられるのだって嬉しい。
 だから別に怒ったりはしない。だってアルベールがいるのだから。

 ユーゴは噂話なんかに疎い男だった。真面目なところはアルベールに似ている。
 憧れていたアルベールの弟だと知って、いいな、お前の兄さま強いな、とよく話し掛けてくれるようになったものだから、イヴは習わない癖に何度もアルベールにくっついて行ったことを覚えている。
 純粋に、初めての友人はユーゴだったのだと思う。
 アルベールやレオンは勿論、ジャンも友人とは違った。
 幼馴染もいたが、友人と言っていいものかどうか。あれは家族付き合いがあっただけというか。
 ユーゴのその口の悪さも新鮮だったのかもしれない、砕けた話し方をする友人もおとなも他に近くにいなかった。

 みっつ上のアルベールが竜騎士団に入ると決まったのと、イヴが全寮制の、貴族ばかりの学園に進学となったタイミングは同じだった。
 初めは学園でもよく一緒にいた。
 アルベールさまは竜騎士団だって?あそこは騎士団でもさらに素質がないと入れないらしい、凄いな、流石だ、格好良いなあ、と何度もアルベールの話を訊かれた。
 自慢の兄だ、イヴも話を訊かれるのは嬉しかったし楽しかった。

 学園に入る前も、入ってからの休みの日も、頻度はそう多くなかったが竜には何度か会いに行った。普段から一緒にいるマリアはいいとして、他の竜にも会いたかったから。
 竜舎には何度も通ったから、兄の話題は学園に行ってからも多く聞けていたのだ。勿論、竜騎士をしている時以外の兄としてのアルベールの話も。

 竜騎士は選ばれた者しかなれない。相手が竜だから、誰でもなれるものではない。
 地位も名誉もそれなりにあるが、死亡率も高い。
 憧れる者が多い反面、なり手も少ない職業だった。
 それがアルベールが入団してから変わった。アルベールの予知の力で死亡率は下がり、なり手も急増した。
 竜の数は限られているし、元々選ばれる者も少なかった。……相手が竜だから。
 更に死亡率も下がったとなれば新人補充も少ない。
 この手のものは数年で入れ替えということもよくあるのだが、折角竜に慣れ、竜が慣れた人間を入れ替えるのも宜しくない。
 そういう事情もあって、今や竜騎士はエリートがなるものだった。

 ユーゴが騎士団に入りたいと言っていたのは幼い頃からで、それは変わっていない。
 竜騎士にはなれないんじゃないか、俺はあまり生き物に懐かれない、まずは騎士団に入ることが先だとぶれなかった。
 自分にはない強さや情熱がある、イヴはユーゴを応援していた。
 いつの間にか一緒にいる時間は少なくなって、アンリといるのを見掛けることが増えて、その度に自分の知らない表情を見ることになった。

 この世界は幾つかルートがある内のジャンルートだ、つまりユーゴは最終的に選ばれない。
 それでも複数人といい関係までいくのが恋愛ゲームでもある。
 そこにイヴは邪魔でしかなかった。そういうキャラクターなのだ。ユーゴやジャンへの想いを邪魔をする役割り。

 婚約者としてジャンに積極的に話しかけようとしていたイヴはその内心が折れてしまい、本人が望むのならとジャンとは距離を置いてしまう。
 同じタイミングで他の攻略キャラクターたちと疎遠になってしまい、学園内でひとりぼっちになってしまう。
 その中ではユーゴは最後までイヴと一緒にいることが多かった。
 それは彼が噂話に疎いから。恋愛を重視していなかったから。
 そんな彼でもアンリの能力には抗えなかった。

 元々好意があった者へ発動する、つまり少しずつでもアンリへ好意を募らせていっていたということ。
 それに対してイヴは何も出来ない。
 ユーゴに恋愛感情があった訳ではない。でも友人だった。その友人はイヴから離れてしまった。それだけの話。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい

りまり
BL
 僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。  この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。  僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。  本当に僕にはもったいない人なんだ。  どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。  彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。  答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。  後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる

カシナシ
BL
「アシリス、すまない。婚約を解消してくれ」 そう告げられて、僕は固まった。5歳から13年もの間、婚約者であるキール殿下に尽くしてきた努力は一体何だったのか? 殿下の隣には、可愛らしいオメガの男爵令息がいて……。 サクッとエロ&軽めざまぁ。 全10話+番外編(別視点)数話 本編約二万文字、完結しました。 ※HOTランキング最高位6位、頂きました。たくさんの閲覧、ありがとうございます! ※本作の数年後のココルとキールを描いた、 『訳ありオメガは罪の証を愛している』 も公開始めました。読む際は注意書きを良く読んで下さると幸いです!

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

【完結】王子の婚約者をやめて厄介者同士で婚約するんで、そっちはそっちでやってくれ

天冨七緒
BL
頭に強い衝撃を受けた瞬間、前世の記憶が甦ったのか転生したのか今現在異世界にいる。 俺が王子の婚約者? 隣に他の男の肩を抱きながら宣言されても、俺お前の事覚えてねぇし。 てか、俺よりデカイ男抱く気はねぇし抱かれるなんて考えたことねぇから。 婚約は解消の方向で。 あっ、好みの奴みぃっけた。 えっ?俺とは犬猿の仲? そんなもんは過去の話だろ? 俺と王子の仲の悪さに付け入って、王子の婚約者の座を狙ってた? あんな浮気野郎はほっといて俺にしろよ。 BL大賞に応募したく急いでしまった為に荒い部分がありますが、ちょこちょこ直しながら公開していきます。 そういうシーンも早い段階でありますのでご注意ください。 同時に「王子を追いかけていた人に転生?ごめんなさい僕は違う人が気になってます」も公開してます、そちらもよろしくお願いします。

前世の愛が重かったので、今世では距離を置きます

曙なつき
BL
 五歳の時、突然前世の記憶を取り戻した僕は、前世で大好きな魔法研究が完遂できなかったことを悔いていた。  常に夫に抱きつぶされ、何一つやり遂げることができなかったのだ。  そこで、今世では、夫と結婚をしないことを決意した。  魔法研究オタクと番狂いの皇太子の物語。  相愛ですが、今世、オタクは魔法研究に全力振りしており、皇太子をスルーしようとします。 ※番認識は皇太子のみします。オタクはまったく認識しません。  ハッピーエンド予定ですが、前世がアレだったせいで、現世では結ばれるまで大変です。  第一章の本文はわかりにくい構成ですが、前世と今世が入り混じる形になります。~でくくるタイトルがつくのは前世の話です。場面の切り替えが多いため、一話の話は短めで、一回に二話掲載になることもあります。  物語は2月末~3月上旬完結予定(掲載ペースをあげ当初予定より早めました)。完結まで予約投稿済みです。  R18シーンは予告なしに入ります。なお、男性の妊娠可能な世界ですが、具体的な記述はありません(事実の羅列に留められます)。

処理中です...