【完結】イヴは悪役に向いてない

ちかこ

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 攻略キャラクターとはいっても、それはあくまでアンリが主人公であっての話だ。
 イヴにはただ彼等の邪魔をするだけで、彼と特別どうこうなろうと言う気があった訳ではない。
 ただ友人のポジションの筈が、アンリとの恋路を邪魔する性格の悪い知人となってしまっただけの話。

 ユーゴとは学園に入る前から交遊があった。
 彼はいつも鍛えていた。アルベールと同じで、貴族出身でありながら、騎士団に入るのだと豪語する男。
 弱い者やこどもに優しい男だった。

 ユーゴとイヴが初めて会ったのは、留守番を嫌がったイヴがアルベールの習い事に無理を言って着いて行った時だ。
 体術を習っていた時だったと思う。ひょろひょろのイヴはアルベールたちの練習風景をすごいなあと見学をしていた。
 そこでイヴさまと同い歳ですよ、と紹介されたのがユーゴだ。
 ちっせーな、と暴言を吐かれ……その頃には既に王太子の婚約者という立場になっていたものだから周りは慌てたが事実なのでイヴは怒りはしなかった。

 アルベールの真似をして躰を動かしても、大して筋肉も力もつかなかった。そういう体質だと周りも本人も納得していたし、アルベールが僕が守るから大丈夫だよ、と言っていたことに満足もしていた。
 だいすきな兄が守ってくれるのならこわいものはない。
 ずっと一緒にいられるのだって嬉しい。
 だから別に怒ったりはしない。だってアルベールがいるのだから。

 ユーゴは噂話なんかに疎い男だった。真面目なところはアルベールに似ている。
 憧れていたアルベールの弟だと知って、いいな、お前の兄さま強いな、とよく話し掛けてくれるようになったものだから、イヴは習わない癖に何度もアルベールにくっついて行ったことを覚えている。
 純粋に、初めての友人はユーゴだったのだと思う。
 アルベールやレオンは勿論、ジャンも友人とは違った。
 幼馴染もいたが、友人と言っていいものかどうか。あれは家族付き合いがあっただけというか。
 ユーゴのその口の悪さも新鮮だったのかもしれない、砕けた話し方をする友人もおとなも他に近くにいなかった。

 みっつ上のアルベールが竜騎士団に入ると決まったのと、イヴが全寮制の、貴族ばかりの学園に進学となったタイミングは同じだった。
 初めは学園でもよく一緒にいた。
 アルベールさまは竜騎士団だって?あそこは騎士団でもさらに素質がないと入れないらしい、凄いな、流石だ、格好良いなあ、と何度もアルベールの話を訊かれた。
 自慢の兄だ、イヴも話を訊かれるのは嬉しかったし楽しかった。

 学園に入る前も、入ってからの休みの日も、頻度はそう多くなかったが竜には何度か会いに行った。普段から一緒にいるマリアはいいとして、他の竜にも会いたかったから。
 竜舎には何度も通ったから、兄の話題は学園に行ってからも多く聞けていたのだ。勿論、竜騎士をしている時以外の兄としてのアルベールの話も。

 竜騎士は選ばれた者しかなれない。相手が竜だから、誰でもなれるものではない。
 地位も名誉もそれなりにあるが、死亡率も高い。
 憧れる者が多い反面、なり手も少ない職業だった。
 それがアルベールが入団してから変わった。アルベールの予知の力で死亡率は下がり、なり手も急増した。
 竜の数は限られているし、元々選ばれる者も少なかった。……相手が竜だから。
 更に死亡率も下がったとなれば新人補充も少ない。
 この手のものは数年で入れ替えということもよくあるのだが、折角竜に慣れ、竜が慣れた人間を入れ替えるのも宜しくない。
 そういう事情もあって、今や竜騎士はエリートがなるものだった。

 ユーゴが騎士団に入りたいと言っていたのは幼い頃からで、それは変わっていない。
 竜騎士にはなれないんじゃないか、俺はあまり生き物に懐かれない、まずは騎士団に入ることが先だとぶれなかった。
 自分にはない強さや情熱がある、イヴはユーゴを応援していた。
 いつの間にか一緒にいる時間は少なくなって、アンリといるのを見掛けることが増えて、その度に自分の知らない表情を見ることになった。

 この世界は幾つかルートがある内のジャンルートだ、つまりユーゴは最終的に選ばれない。
 それでも複数人といい関係までいくのが恋愛ゲームでもある。
 そこにイヴは邪魔でしかなかった。そういうキャラクターなのだ。ユーゴやジャンへの想いを邪魔をする役割り。

 婚約者としてジャンに積極的に話しかけようとしていたイヴはその内心が折れてしまい、本人が望むのならとジャンとは距離を置いてしまう。
 同じタイミングで他の攻略キャラクターたちと疎遠になってしまい、学園内でひとりぼっちになってしまう。
 その中ではユーゴは最後までイヴと一緒にいることが多かった。
 それは彼が噂話に疎いから。恋愛を重視していなかったから。
 そんな彼でもアンリの能力には抗えなかった。

 元々好意があった者へ発動する、つまり少しずつでもアンリへ好意を募らせていっていたということ。
 それに対してイヴは何も出来ない。
 ユーゴに恋愛感情があった訳ではない。でも友人だった。その友人はイヴから離れてしまった。それだけの話。
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