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午前中はアルベールに見張られながら幾つかの相談に乗り、昼食は皆揃って食堂で頂く。
当番制なんで口に合わなかったらすみませんと出された大鍋で煮られたスープも、少し固めのパンも、本当に目の前の屈強な団員たちが作ったのかと驚く程には美味しかった。流石に本職と比べる訳にはいかないが。
遠征に出れば自炊もする、食事は生きてる上での楽しみになるのだから自ずと料理も上手くなるのだとか。
「アル兄さまも作ったりするの?」
「うん?当番制だからね、僕だけ例外ってことはないよ、……例外は副団長だけかな」
「何で」
「でけえから厨房に入られると邪魔なんすよ」
「力も強いんで物も壊しますし、出禁です、出禁」
「団長の飯も美味いっすよ」
「いいな、おれも食べてみたい」
「おっ、今度いつでしたっけ」
「近くでありましたよね」
見上げるとアルベールも満更ではない表情をしていた。
屋敷で手料理を振る舞う機会なんてそうそうないものなあ。
駄目押しでもう一度、おれも食べたいと言うと、断ってもイヴはもう来る気でしょう、いいよ、おいで、と頭をくしゃくしゃと撫でた。
これは弟だ。かわいい弟の我儘。
周りもほう、と見守り、仲が良いですねえ、と漏らした。
「いつも褒めてますものね、イヴさまのこと」
「ふたりで話してるところは見たことなかったですけど、こりゃわかりますわ、うちの弟かわいげないですもん」
「イヴさま、団長って家でもこんななんですか」
「こんな……?いつもとかわらない、と思いますけど」
「俺もこうだったら弟もかわいげあったんですかねえ」
「お前には無理だわ」
ノリとしては礼儀正しい体育会系といったところ。
おれやアルベールを話題に出しても、嫌味等は感じなかった。普段からアルベールは良い兄、団長をしているのだろう。
これこれ、これでいいんだけどな。
むずむずするような、でも周りからも仲良しと取られるような家族。おれを見るアルベールの視線もあたたかい。
「こらお前たち、休憩は終わりだぞ」
「はっ、すみません!」
「イヴさまはどうされますか、まだゆっくりされるならアルベールを」
「大丈夫です、一緒に戻ります!」
副団長の言葉に一斉に席を立つ。
残されたおれも慌てて立ち上がると、副団長はイヴさまは良いんですが、と苦笑した。
だって皆きびきびしてる中、ひとりだけふんぞり返って座ってることも出来ないし。
「あ、何ならおれ皿洗いとか」
「それも当番なので結構」
「はい……」
速攻で断られてしょんとしてしまう。
ここでも雑用はさせてもらえないらしい。
「ただ気になるのが一匹」
「竜ですか」
「そうです、今朝竜舎に帰らせているのですが」
「今朝」
その副団長の言葉にタイミングが悪かったな、と思った。
おれがこっちに来ようと思ったタイミングで竜舎に残る竜がいるとは。
自分が楽しく過ごしていただけに余計に罪悪感を覚える。
明日か帰りにでも見てもらえれば、という副団長に、今じゃだめかな、とアルベールをじいと見上げれば、ひとつ溜息を吐いた彼はいいよ、と頷いた。
「今から少し抜けますね」
「別におれひとりでも」
「今日は離れないよう言ったでしょう」
それは演習場だと心配だからであって、竜舎ならひとりでも問題ないのでは?
そう思ったけれど呑み込んだ。アルベールが心配そうにしていたから。
その竜は問題児なのだろうか?ここに居ない竜はどの子だっけ。
……そんなに気にしないといけない竜っていたっけ、と考えながら、おれたちはまたマリアの背に乗って竜舎まで飛んだ。
ひとの足だとそこそこの距離だが、飛んでいくそれはあっという間の距離である。
イヴだイヴだと寄ってくる三つ子をマリアに任せ、副団長が気になるという竜の元へ。
帰らせた、という口振りからは、怪我とか体調不良だと思うのだけれど、と足を早める。
今すぐにとは言わずに、明日か帰りにでも、と副団長は言った。
つまり見るからに危なくはないが、それでも帰される程度には調子が悪いのがわかるのだろう。
成程、原因がわからないとなればイヴの出番であってるかもしれない。
団員の反応がよかったものだから、今のおれはやる気に満ちていた。
認められたかった、イヴが来てくれてよかったと。アルベールの弟でよかったと。
ふんふんと意気込みながらその竜舎に近付くと、一緒に戻されたのだろう、面倒を見ていた団員がおれたちに気付いて振り返る。
ぴたりとその足が止まってしまった。
そこに居たのは見覚えのある男で、でももう会うことはないと思っていた。
……竜騎士団ではなく、騎士団に行く筈では?と思った。
学園で会った時以来……いや、卒業パーティーでのあの冷たい視線以来だ。
ユーゴ、彼は攻略キャラクターのひとりで、騎士団に入る予定の男で、アルベールに憧れていた筈だった。
ユーゴには急におれとアルベールが現れた意味がわからず、たじたじとなりながら、どうかされましたか、と口を開く。
アルベールからすると、おれがジャンに婚約破棄された時に彼にも冷たい視線を向けられたとか、学園生活での彼の態度は伝えてない訳で、やはりお前が見ていたか、となんでもないように話し掛けた。
当番制なんで口に合わなかったらすみませんと出された大鍋で煮られたスープも、少し固めのパンも、本当に目の前の屈強な団員たちが作ったのかと驚く程には美味しかった。流石に本職と比べる訳にはいかないが。
遠征に出れば自炊もする、食事は生きてる上での楽しみになるのだから自ずと料理も上手くなるのだとか。
「アル兄さまも作ったりするの?」
「うん?当番制だからね、僕だけ例外ってことはないよ、……例外は副団長だけかな」
「何で」
「でけえから厨房に入られると邪魔なんすよ」
「力も強いんで物も壊しますし、出禁です、出禁」
「団長の飯も美味いっすよ」
「いいな、おれも食べてみたい」
「おっ、今度いつでしたっけ」
「近くでありましたよね」
見上げるとアルベールも満更ではない表情をしていた。
屋敷で手料理を振る舞う機会なんてそうそうないものなあ。
駄目押しでもう一度、おれも食べたいと言うと、断ってもイヴはもう来る気でしょう、いいよ、おいで、と頭をくしゃくしゃと撫でた。
これは弟だ。かわいい弟の我儘。
周りもほう、と見守り、仲が良いですねえ、と漏らした。
「いつも褒めてますものね、イヴさまのこと」
「ふたりで話してるところは見たことなかったですけど、こりゃわかりますわ、うちの弟かわいげないですもん」
「イヴさま、団長って家でもこんななんですか」
「こんな……?いつもとかわらない、と思いますけど」
「俺もこうだったら弟もかわいげあったんですかねえ」
「お前には無理だわ」
ノリとしては礼儀正しい体育会系といったところ。
おれやアルベールを話題に出しても、嫌味等は感じなかった。普段からアルベールは良い兄、団長をしているのだろう。
これこれ、これでいいんだけどな。
むずむずするような、でも周りからも仲良しと取られるような家族。おれを見るアルベールの視線もあたたかい。
「こらお前たち、休憩は終わりだぞ」
「はっ、すみません!」
「イヴさまはどうされますか、まだゆっくりされるならアルベールを」
「大丈夫です、一緒に戻ります!」
副団長の言葉に一斉に席を立つ。
残されたおれも慌てて立ち上がると、副団長はイヴさまは良いんですが、と苦笑した。
だって皆きびきびしてる中、ひとりだけふんぞり返って座ってることも出来ないし。
「あ、何ならおれ皿洗いとか」
「それも当番なので結構」
「はい……」
速攻で断られてしょんとしてしまう。
ここでも雑用はさせてもらえないらしい。
「ただ気になるのが一匹」
「竜ですか」
「そうです、今朝竜舎に帰らせているのですが」
「今朝」
その副団長の言葉にタイミングが悪かったな、と思った。
おれがこっちに来ようと思ったタイミングで竜舎に残る竜がいるとは。
自分が楽しく過ごしていただけに余計に罪悪感を覚える。
明日か帰りにでも見てもらえれば、という副団長に、今じゃだめかな、とアルベールをじいと見上げれば、ひとつ溜息を吐いた彼はいいよ、と頷いた。
「今から少し抜けますね」
「別におれひとりでも」
「今日は離れないよう言ったでしょう」
それは演習場だと心配だからであって、竜舎ならひとりでも問題ないのでは?
そう思ったけれど呑み込んだ。アルベールが心配そうにしていたから。
その竜は問題児なのだろうか?ここに居ない竜はどの子だっけ。
……そんなに気にしないといけない竜っていたっけ、と考えながら、おれたちはまたマリアの背に乗って竜舎まで飛んだ。
ひとの足だとそこそこの距離だが、飛んでいくそれはあっという間の距離である。
イヴだイヴだと寄ってくる三つ子をマリアに任せ、副団長が気になるという竜の元へ。
帰らせた、という口振りからは、怪我とか体調不良だと思うのだけれど、と足を早める。
今すぐにとは言わずに、明日か帰りにでも、と副団長は言った。
つまり見るからに危なくはないが、それでも帰される程度には調子が悪いのがわかるのだろう。
成程、原因がわからないとなればイヴの出番であってるかもしれない。
団員の反応がよかったものだから、今のおれはやる気に満ちていた。
認められたかった、イヴが来てくれてよかったと。アルベールの弟でよかったと。
ふんふんと意気込みながらその竜舎に近付くと、一緒に戻されたのだろう、面倒を見ていた団員がおれたちに気付いて振り返る。
ぴたりとその足が止まってしまった。
そこに居たのは見覚えのある男で、でももう会うことはないと思っていた。
……竜騎士団ではなく、騎士団に行く筈では?と思った。
学園で会った時以来……いや、卒業パーティーでのあの冷たい視線以来だ。
ユーゴ、彼は攻略キャラクターのひとりで、騎士団に入る予定の男で、アルベールに憧れていた筈だった。
ユーゴには急におれとアルベールが現れた意味がわからず、たじたじとなりながら、どうかされましたか、と口を開く。
アルベールからすると、おれがジャンに婚約破棄された時に彼にも冷たい視線を向けられたとか、学園生活での彼の態度は伝えてない訳で、やはりお前が見ていたか、となんでもないように話し掛けた。
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