42 / 192
4
41
しおりを挟む
「あ、諦めない、って」
そうは言ったって、肝心のおれがそれに絆されなければ意味はない。
おれなんかより、レオンを、アルベールを、好いてくれてるひとはたくさんいる。
最初こそ厳しい視線に晒されていたけれど、認められるようになったのは素質だけじゃない、それぞれの頑張り、努力とか、積み重ね、人徳とか、そういうことの結果だ。
イヴみたいにこわがって、心が折れて、内に引き篭もるような、そんな風に逃げ出さなかったからだ。
誰かの為、皆の為、家族の為、イヴの為、伊吹の為、そうやってずっと、自分を守る為に逃げているおれと違って。
「そうだな、どうしてやろうか」
「っ、」
「まずは逃げられないようにしようか、このまま連れて帰って閉じ込めてしまおう」
「え」
「他の誰にも会わせないで、毎日愛でも囁いてやろうか、お前が泣いて請うまで触れて、焦らして、嬲って、優しい声音で壊してしまおうか」
頬を撫でて、首筋、服の上からであっても胸元に触れられるとぴくんと躰は震えた。
動けないのは魔法ではなくて、多分これはあれだ、蛇に睨まれた蛙のような、そんな気分。
「待っ、こわ、こわい、それこわいです!」
「ふふ」
瞳孔が開いていた。
発想もこわいけれど、伊吹のいた世界ではない、この世界ではそんなこと、容易く出来てしまうのだろうと思うとぞわぞわと鳥肌が立つ。
レオンの指先を掴み首を振ると、楽しそうに笑うものだから、もう一度、やだ、と首を振った。
「俺もアルベールも甘いんだよ、お前に」
「うそだ……」
「閉じ込めてしまいたいよ、本当に。そうしてしまえばよかった、ジャンにも誰にも、お前を見せたくないと思う」
「……」
「俺たちがそうしないのは何故だと思う?」
「わ、わかんな……」
「甘いからだよ、お前の自由を奪えなくて、奪いたくなくて、お前に嫌われたくないんだ」
でも強引じゃないか。
そう思ってしまったことが表情から伝わったらしい。
片手で両頬を掴むと、そのままむにむにとされてしまう。
「お前も甘えてるだろう、俺たちに」
「ひょんな、ほほは……」
「はは、甘えてるよ、だからまた来るんだ、ここに。竜だとか国だとかを言い訳にして」
「……」
「咎めてるんじゃない、それでいいんだよ、俺たちはお前が、イヴがかわいいんだから」
キスも、アルベールに触れられたこともびっくりした。
おれのことがすきなら、困らせないでほしい。
そう思いながらも、家族を言い訳にふたりから逃げ出さないのは、そうだ、甘えてるのだ。
優しいから、信用してるから。
痛いことや、こわいことをしないって、何だかんだふたりが守ってくれるって。
おれが泣いたり喚いたり、助けてと言ったら、兄のかおを見せてくれるだろうって。理性を失ったりは、しないだろうって。
それは絶対ではなくて、多分そうなったら、裏切られたと被害者面でおれはまた逃げるだろう。
それでも、仕方ないなって、また一緒にご飯を食べたり、話をしたり、そうしてくれるだろうって。
「いいよ、どんどん甘えな、俺とアルベールにどんどん頼って、我儘言って、甘やかされてればいい。そしてその内、」
レオンとアルベールしか見えなくなる。
そうなったら俺たちの勝ちだ。
その声は酷く甘ったるかった。
本気なのだと思った。
先程の閉じ込めたいという話も、甘やかしておれをだめにしてしまいたいということも。
諦めないということは、ずっとそう、イヴの傍にいるということ、おれがだめになるまで、ずっと。
アルベールが言うには、おれが、ふたり以外を選ぶまで、ずっと。
ふたりがその調子で、ふたり以上の誰かを選べる訳もない。誰も近付かない、ふたり以上のひとなんてきっと見つからない。
そもそもおれは誰かを選ぶつもりもない。
ずっと?
ふたりはおれを、ずっと諦めない、
おれは誰とも、恋なんてする気はない。
そんな、どっちが勝つかのゲームのような。
「こ、婚約は……アル兄さまとの婚約は?」
「うん?」
「おれのせいで、婚約破棄、とか……」
「ああ、まだそれを引き摺ってたのか」
どうしてほしい、そうおれに委ねるものだから、ぽかんとしてしまった。
何言ってんだ。おれが決めれることじゃないでしょ、そんなこと。
おれが破棄しろと言ったらするのか、するなと言ったらしないのか。それなら答えは決まってるじゃないか。
「しないで下さい……」
「それは何故」
「えっ」
訊くの?とかおを上げる。驚かされてばかりだ、嬉しくない。
「嫌です、だってふたり、仲良いのに……」
「俺たちはお前のことが好いてると伝えてるのに?」
「で、でも、おれはその、ふたりのこと、すきにならない、から」
「ずっと?」
「ずっと……」
「まあ、この状況が有難いのは俺たちもそうだよ」
「……?」
相手もいないのに婚約破棄をしてしまったら、お互いの何が悪かったのかとか、新しい相手の立候補とか推薦が煩くなるというのはわかるけど。
でも引っ掛かる。
それだけじゃない。
だってレオンは、おれもアルベールも、ふたりとも愛してると言った。
そうは言ったって、肝心のおれがそれに絆されなければ意味はない。
おれなんかより、レオンを、アルベールを、好いてくれてるひとはたくさんいる。
最初こそ厳しい視線に晒されていたけれど、認められるようになったのは素質だけじゃない、それぞれの頑張り、努力とか、積み重ね、人徳とか、そういうことの結果だ。
イヴみたいにこわがって、心が折れて、内に引き篭もるような、そんな風に逃げ出さなかったからだ。
誰かの為、皆の為、家族の為、イヴの為、伊吹の為、そうやってずっと、自分を守る為に逃げているおれと違って。
「そうだな、どうしてやろうか」
「っ、」
「まずは逃げられないようにしようか、このまま連れて帰って閉じ込めてしまおう」
「え」
「他の誰にも会わせないで、毎日愛でも囁いてやろうか、お前が泣いて請うまで触れて、焦らして、嬲って、優しい声音で壊してしまおうか」
頬を撫でて、首筋、服の上からであっても胸元に触れられるとぴくんと躰は震えた。
動けないのは魔法ではなくて、多分これはあれだ、蛇に睨まれた蛙のような、そんな気分。
「待っ、こわ、こわい、それこわいです!」
「ふふ」
瞳孔が開いていた。
発想もこわいけれど、伊吹のいた世界ではない、この世界ではそんなこと、容易く出来てしまうのだろうと思うとぞわぞわと鳥肌が立つ。
レオンの指先を掴み首を振ると、楽しそうに笑うものだから、もう一度、やだ、と首を振った。
「俺もアルベールも甘いんだよ、お前に」
「うそだ……」
「閉じ込めてしまいたいよ、本当に。そうしてしまえばよかった、ジャンにも誰にも、お前を見せたくないと思う」
「……」
「俺たちがそうしないのは何故だと思う?」
「わ、わかんな……」
「甘いからだよ、お前の自由を奪えなくて、奪いたくなくて、お前に嫌われたくないんだ」
でも強引じゃないか。
そう思ってしまったことが表情から伝わったらしい。
片手で両頬を掴むと、そのままむにむにとされてしまう。
「お前も甘えてるだろう、俺たちに」
「ひょんな、ほほは……」
「はは、甘えてるよ、だからまた来るんだ、ここに。竜だとか国だとかを言い訳にして」
「……」
「咎めてるんじゃない、それでいいんだよ、俺たちはお前が、イヴがかわいいんだから」
キスも、アルベールに触れられたこともびっくりした。
おれのことがすきなら、困らせないでほしい。
そう思いながらも、家族を言い訳にふたりから逃げ出さないのは、そうだ、甘えてるのだ。
優しいから、信用してるから。
痛いことや、こわいことをしないって、何だかんだふたりが守ってくれるって。
おれが泣いたり喚いたり、助けてと言ったら、兄のかおを見せてくれるだろうって。理性を失ったりは、しないだろうって。
それは絶対ではなくて、多分そうなったら、裏切られたと被害者面でおれはまた逃げるだろう。
それでも、仕方ないなって、また一緒にご飯を食べたり、話をしたり、そうしてくれるだろうって。
「いいよ、どんどん甘えな、俺とアルベールにどんどん頼って、我儘言って、甘やかされてればいい。そしてその内、」
レオンとアルベールしか見えなくなる。
そうなったら俺たちの勝ちだ。
その声は酷く甘ったるかった。
本気なのだと思った。
先程の閉じ込めたいという話も、甘やかしておれをだめにしてしまいたいということも。
諦めないということは、ずっとそう、イヴの傍にいるということ、おれがだめになるまで、ずっと。
アルベールが言うには、おれが、ふたり以外を選ぶまで、ずっと。
ふたりがその調子で、ふたり以上の誰かを選べる訳もない。誰も近付かない、ふたり以上のひとなんてきっと見つからない。
そもそもおれは誰かを選ぶつもりもない。
ずっと?
ふたりはおれを、ずっと諦めない、
おれは誰とも、恋なんてする気はない。
そんな、どっちが勝つかのゲームのような。
「こ、婚約は……アル兄さまとの婚約は?」
「うん?」
「おれのせいで、婚約破棄、とか……」
「ああ、まだそれを引き摺ってたのか」
どうしてほしい、そうおれに委ねるものだから、ぽかんとしてしまった。
何言ってんだ。おれが決めれることじゃないでしょ、そんなこと。
おれが破棄しろと言ったらするのか、するなと言ったらしないのか。それなら答えは決まってるじゃないか。
「しないで下さい……」
「それは何故」
「えっ」
訊くの?とかおを上げる。驚かされてばかりだ、嬉しくない。
「嫌です、だってふたり、仲良いのに……」
「俺たちはお前のことが好いてると伝えてるのに?」
「で、でも、おれはその、ふたりのこと、すきにならない、から」
「ずっと?」
「ずっと……」
「まあ、この状況が有難いのは俺たちもそうだよ」
「……?」
相手もいないのに婚約破棄をしてしまったら、お互いの何が悪かったのかとか、新しい相手の立候補とか推薦が煩くなるというのはわかるけど。
でも引っ掛かる。
それだけじゃない。
だってレオンは、おれもアルベールも、ふたりとも愛してると言った。
225
お気に入りに追加
3,927
あなたにおすすめの小説

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──

猫の王子は最強の竜帝陛下に食べられたくない
muku
BL
猫の国の第五王子ミカは、片目の色が違うことで兄達から迫害されていた。戦勝国である鼠の国に差し出され、囚われているところへ、ある日竜帝セライナがやって来る。
竜族は獣人の中でも最強の種族で、セライナに引き取られたミカは竜族の住む島で生活することに。
猫が大好きな竜族達にちやほやされるミカだったが、どうしても受け入れられないことがあった。
どうやら自分は竜帝セライナの「エサ」として連れてこられたらしく、どうしても食べられたくないミカは、それを回避しようと奮闘するのだが――。
勘違いから始まる、獣人BLファンタジー。

【完結】悪役令息⁈異世界転生?したらいきなり婚約破棄されました。あれこれあったけど、こんな俺が元騎士団団長に執着&溺愛されるお話
さつき
BL
気づいたら誰かが俺に?怒っていた。
よくわからないからボーっとしていたら、何だかさらに怒鳴っていた。
「……。」
わけわからないので、とりあえず頭を下げその場を立ち去ったんだけど……。
前世、うっすら覚えてるけど名前もうろ覚え。
性別は、たぶん男で30代の看護師?だったはず。
こんな自分が、元第三騎士団団長に愛されるお話。
身長差、年齢差CP。
*ネーミングセンスはありません。
ネーミングセンスがないなりに、友人から名前の使用許可を頂いたり、某キングスゴニョゴニョのチャット友達が考案して頂いたかっこいい名前や、作者がお腹空いた時に飲んだり食べた物したものからキャラ名にしてます。
異世界に行ったら何がしたい?との作者の質問に答えて頂いた皆様のアイデアを元に、深夜テンションでかき上げた物語です。
ゆるゆる設定です。生温かい目か、甘々の目?で見ていただけるとうれしいです。
色々見逃して下さいm(_ _)m
(2025/04/18)
短編から長期に切り替えました。
皆様 本当にありがとうございます❤️深謝❤️
2025/5/10 第一弾完結
不定期更新

そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。

愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる