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「俺は別に兄になる気はないからな」
「は」
もっとほしいものがある、そう髪を撫でられて……馬鹿でもわかる、その言葉はおれに掛けられてるものだということに。
恋愛ゲームの世界だから?王子様だから?一々くさいことを言うのに、恥ずかしくなるのに、受け入れてしまう、そういうものだと。
「あの、今朝はアル兄さまに」
「演習場には行ってない」
「……アンリには」
「朝から会う相手ではないだろう?」
何故アンリだというように、不思議そうに首を傾げる。
そうか、アンリの能力は魅了だと知っているだけで、正しい能力はゲームをしていた人間にしかわからないのかもしれない。
まあ会ってないのならいいのだ。
……いや良くない、会ってないということは通常運転ということで、つまりレオンは素でおれを口説いている。
ぽかん、と口を開いたままのおれに、どうした、とレオンが膝に手を掛ける。思わずその手を払ってしまった。触んないでと。
手を握られるのと、少し頭を撫でられるのと、……太腿の辺りを触られるのとでは違う。例えレオンに今その気がなかったとしても。
苦笑したレオンがこんなところでアルベールのようなことはしない、と言う。外に従者もいるんだから安心しろと。
「まあ意識する分には構わん」
「……い、意識って」
「兄だと思っていればこんなことで反応しない」
「っん……!」
耳元で囁かれて、背中をなぞられて、甘い声が出てしまった。
慌てて口元を押さえ、レオンを睨むと悪戯っぽく笑い、その手を離した。
「お前は昔からすぐ引く癖がある」
「え……」
「俺といる時にジャンが来ると影に隠れるように身を引く。ジャンは俺に会いに来た訳ではないのに」
「……?」
「アルベールにもそうだ、あいつはお前に構いたいのに、俺といるよう促すだろう」
「それは……婚約者、ですし」
「本当はお前も構ってほしいのになあ」
そう言われると、おれがこどものようだと言われてるようで、頬があつくなった。
別に拗ねてるとか、妬いてるとか、そういうのじゃないのだけど。
「今も、俺とアルベールがお前のことを愛してると言っても、俺たちの婚約のことを考えてるんだろう?」
少し語弊がある。
別にそれだけじゃない。それが原因でおれが身を引いてる訳じゃない。
「……あの、アル兄さまにも言ったのですが」
ふたりのことを兄だと思ってる。そこに恋愛感情はない。家族として傍にいたい。
ふたりのことはだいすきだけど、おれにその気はない、そういうすきじゃない、ふたりと同じじゃない。
つっかえつっかえ、どうにかそう伝える。アルベール相手程砕けた言い方は出来ない、失礼のないように。
レオンさまもおれのこと、弟のようにかわいがってくれてたでしょう、それと同じです。
そう言ったのがまずかった。余計なことを言ってしまった。
余計なことというのはいつも口にしてから気付くのだ。
「そうだな、お前のことをずっとかわいがっていたつもりだよ」
「……」
「でもそれは弟としてじゃない」
「え……」
「弟は必要ない」
「え、でも、」
「最初からずっとかわいかったよ、お前は」
いや、まさか、と思う。
だってレオンとよく会っていたのはアルベールがうちに来る前だからええと、五歳とかそこら、今のエディーとそう変わらないくらいで、そうするとレオンは十歳くらい。
とても恋愛感情を持つ年齢ではない。そういう趣味はないだろう、多分。
「正確には今と同じではないよ、けれどわかるだろう、俺にはもういるんだよ、かわいくない弟が」
「……」
「だから弟なんて別に要らない。お前だからかわいかったんだよ、イヴ」
「でもおれ、特別なことなんて」
「特別なことなんて何もいらない、特別じゃなかったから特別だったんだ」
今でこそ強かに生きているが、能力が開花する前のレオンの立場はそう良くなかった。
妾の子。母親はレオンの幼少期に既に亡くなっている。
本妻である王妃はジャンの前に、レオンの母親と同時期に妊娠をしていたが死産だった。
その状態で妾の子であるレオンは無事に産まれた訳で、まあそこで荒れるのが王妃である。
その後五年孕むことはなく、漸く産まれた待望の赤ちゃんがジャンだった。
甘やかされ、だいじにされる弟と、自分は母親もなく父親も近くに寄り付きはしない。
小さな子相手に悪さをする訳ではなかったが、与えられる筈の愛情も薄かった。
そんな中、レオンとジャンにこの子と仲良くしておけと与えられたのがイヴだった。
通常より大分早くに能力を開花したイヴに、上手く使えばと目をつけた。
おとなしいイヴにジャンはつまらないと思ったが、レオンは後をついてくるイヴがかわいかったらしい。
それはやはり弟と同じようなものではないかと思うのだけれど、違うよ、とレオンは首を横に振った。
「あの時のイヴにどれだけ救われたか」
「大したことはしてない、と……」
「普通で良かったんだよ」
かわいそうとか、面倒だとか、立場だとか、そういうことじゃない。
ただ一緒に遊んでくれるひと、そう慕う小さなこども、それだけで良かった。
「は」
もっとほしいものがある、そう髪を撫でられて……馬鹿でもわかる、その言葉はおれに掛けられてるものだということに。
恋愛ゲームの世界だから?王子様だから?一々くさいことを言うのに、恥ずかしくなるのに、受け入れてしまう、そういうものだと。
「あの、今朝はアル兄さまに」
「演習場には行ってない」
「……アンリには」
「朝から会う相手ではないだろう?」
何故アンリだというように、不思議そうに首を傾げる。
そうか、アンリの能力は魅了だと知っているだけで、正しい能力はゲームをしていた人間にしかわからないのかもしれない。
まあ会ってないのならいいのだ。
……いや良くない、会ってないということは通常運転ということで、つまりレオンは素でおれを口説いている。
ぽかん、と口を開いたままのおれに、どうした、とレオンが膝に手を掛ける。思わずその手を払ってしまった。触んないでと。
手を握られるのと、少し頭を撫でられるのと、……太腿の辺りを触られるのとでは違う。例えレオンに今その気がなかったとしても。
苦笑したレオンがこんなところでアルベールのようなことはしない、と言う。外に従者もいるんだから安心しろと。
「まあ意識する分には構わん」
「……い、意識って」
「兄だと思っていればこんなことで反応しない」
「っん……!」
耳元で囁かれて、背中をなぞられて、甘い声が出てしまった。
慌てて口元を押さえ、レオンを睨むと悪戯っぽく笑い、その手を離した。
「お前は昔からすぐ引く癖がある」
「え……」
「俺といる時にジャンが来ると影に隠れるように身を引く。ジャンは俺に会いに来た訳ではないのに」
「……?」
「アルベールにもそうだ、あいつはお前に構いたいのに、俺といるよう促すだろう」
「それは……婚約者、ですし」
「本当はお前も構ってほしいのになあ」
そう言われると、おれがこどものようだと言われてるようで、頬があつくなった。
別に拗ねてるとか、妬いてるとか、そういうのじゃないのだけど。
「今も、俺とアルベールがお前のことを愛してると言っても、俺たちの婚約のことを考えてるんだろう?」
少し語弊がある。
別にそれだけじゃない。それが原因でおれが身を引いてる訳じゃない。
「……あの、アル兄さまにも言ったのですが」
ふたりのことを兄だと思ってる。そこに恋愛感情はない。家族として傍にいたい。
ふたりのことはだいすきだけど、おれにその気はない、そういうすきじゃない、ふたりと同じじゃない。
つっかえつっかえ、どうにかそう伝える。アルベール相手程砕けた言い方は出来ない、失礼のないように。
レオンさまもおれのこと、弟のようにかわいがってくれてたでしょう、それと同じです。
そう言ったのがまずかった。余計なことを言ってしまった。
余計なことというのはいつも口にしてから気付くのだ。
「そうだな、お前のことをずっとかわいがっていたつもりだよ」
「……」
「でもそれは弟としてじゃない」
「え……」
「弟は必要ない」
「え、でも、」
「最初からずっとかわいかったよ、お前は」
いや、まさか、と思う。
だってレオンとよく会っていたのはアルベールがうちに来る前だからええと、五歳とかそこら、今のエディーとそう変わらないくらいで、そうするとレオンは十歳くらい。
とても恋愛感情を持つ年齢ではない。そういう趣味はないだろう、多分。
「正確には今と同じではないよ、けれどわかるだろう、俺にはもういるんだよ、かわいくない弟が」
「……」
「だから弟なんて別に要らない。お前だからかわいかったんだよ、イヴ」
「でもおれ、特別なことなんて」
「特別なことなんて何もいらない、特別じゃなかったから特別だったんだ」
今でこそ強かに生きているが、能力が開花する前のレオンの立場はそう良くなかった。
妾の子。母親はレオンの幼少期に既に亡くなっている。
本妻である王妃はジャンの前に、レオンの母親と同時期に妊娠をしていたが死産だった。
その状態で妾の子であるレオンは無事に産まれた訳で、まあそこで荒れるのが王妃である。
その後五年孕むことはなく、漸く産まれた待望の赤ちゃんがジャンだった。
甘やかされ、だいじにされる弟と、自分は母親もなく父親も近くに寄り付きはしない。
小さな子相手に悪さをする訳ではなかったが、与えられる筈の愛情も薄かった。
そんな中、レオンとジャンにこの子と仲良くしておけと与えられたのがイヴだった。
通常より大分早くに能力を開花したイヴに、上手く使えばと目をつけた。
おとなしいイヴにジャンはつまらないと思ったが、レオンは後をついてくるイヴがかわいかったらしい。
それはやはり弟と同じようなものではないかと思うのだけれど、違うよ、とレオンは首を横に振った。
「あの時のイヴにどれだけ救われたか」
「大したことはしてない、と……」
「普通で良かったんだよ」
かわいそうとか、面倒だとか、立場だとか、そういうことじゃない。
ただ一緒に遊んでくれるひと、そう慕う小さなこども、それだけで良かった。
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