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『おいしーねえ』
『ねー』
『いゔおいしーね』
「え、あ、うん、そうだね」
追加で貰えたことに満足したのか、おれも同じように林檎を食べたことへの文句がなかった。
いや、オレンジの方が好みだっただけかな。
膝の上に飛び乗り、そこに置いたオレンジをこれもこれもと鼻先で突っつく。
はいはいわかりました、そう請われるがままに皮を剥くおれに、そのままでいいだろう、とレオンが口を挟んだ。
「皮を剥いたオレンジの方が美味しいらしいです」
「舌が肥えたものだな、甘やかし過ぎじゃないか」
「……まあ他の竜たちと比べたらそうですよね、でもこどもだし」
「そういえばお前のところは末の弟にもそうだったな」
あれは甘ったれに育ちそうだ、と苦笑する。
ここにエディーを連れてきた時にレオンに会った。確かにあの時のエディーの反応は生意気なこどもだったけれど、たった一度会っただけでそう評するものかな、と思う。
おれが学園に行ってる間に会ったりしていたのだろうか。
少しもやっとした。
……おれだってエディーともっと遊びたい。
「言う程我儘じゃないですよ、あれくらいの歳、かわいいものです」
「そこの三つ子と似たようなものだ」
「それは言い過ぎ……いやまあまだ四歳ですし」
言われたらまあ似てるところはあるけれど、こどもなんてそういうものだ。
静かな子より、それくらいの方が健全に、愛されて育った子なのだとわかる。
レオンはまたおれの頭を撫で、ふと笑うともう少しだけ待っててくれ、と残して背を向けた。
アルベールより大きな手。
少し粗暴で、でも一々甘いレオンと、しっかりした物腰の柔らかいアルベール。
見た目だって中身だってお似合いに見えるのだけど。
実際、治療の為とはいえ、キスまでしている。それ以上は知らないけど。気まずいから聞きたくないけど。
仲だって良さそうで……本当になんでおれなのかな、ふたりとも趣味悪い。
イヴ以外にも……アンリとか、攻略出来そうなひとはいるのに。
ふたりとも、おれより触れる世界は広い筈なのに。
もっと良いひとはいるだろうに。
こうなってしまったから避けたいだけで、本来なら一緒にいられるのは凄く嬉しい。
好意はそのままで恋心だけ消えるような、そんな都合の良いことは出来ないものかな。
ふたりとも、おれのことを弟だと見てくれたら良いんだけど。
そしたら、喧嘩したって、結婚したって、離れてしまったって、ずっと同じでいられるのに。
暫くそのまま隠れて三つ子と遊んでいる内に、また外がざわざわしてきた。
撤退するのかな、思ってたよりは早く済んだみたいだ。
そのまま一緒にレオンも帰る……訳ないか、待ってろって言ってたもんね。
気が重い、何を話しするかなんて、大体わかってるようなものだから。
楽しい話ではない。
おれは聞きたくない想いを告げられるし、レオンには否定の気持ちをぶつけなければいけない。
イヴとしても家族としか関わりがなかったし、伊吹としては家族とすら上手くやれてなかった。おれのコミニュケーション能力は死んでるのだ。
どうやったら上手く伝えられるかな、傷付けないで済むかな。
まあ話すことが話すことだ、傷付けないで済む方法なんて、ないのかもしれないけど。
寄ってきた三つ子を抱えたり腹を撫でたりしていると、また頭上から待たせたな、と声が降ってきた。
……待ってたけど待ってないです。
「ずっとここにいたのか、腰が冷えたんじゃないか」
「……大丈夫です」
「奥の方に行くか?」
レオンがそう口にしたのはただの親切だ。
奥の方、倉庫だとか管理室、仮眠室があるところ。
仮眠室。
そこでレオンとアルベールのキスシーンを見たのはつい先日だ。思わず首を横に振ったおれに、レオンもそれに気がついたのかそうか、と苦笑した。
「でもここで長々話すことでもないだろう、待たせてる使用人は寄せないから、馬車の中でもどうだ」
「……別にここでも」
「こどもたちに聞かれても?」
「う……」
狭い空間、壁に囲まれるのはちょっと、と思ったのだけれど、確かに三つ子たちに聞かれて嬉しい話ではない。
疚しいことはなにもないし、聞かれたってその内容を誰かに話されるなんてことはない。
竜の言葉をわかるのは今のところおれだけなのだから、揶揄われたって、竜の間で話のネタにされたって、別に人間に広まることはない。
それでもやっぱり嫌だなと思うことはかわらない。
仕方なしに小さく頷くと、決まりだ、とレオンが笑顔を見せた。
「えっ」
同時に躰がふわりと浮く。魔法とかではなく、それはレオンの力だ。
何故抱き上げた、と思う。
足はその、長時間しゃがみ込んでいたものだから少し痺れていたのだけれど、そんなことはレオンにはわからない筈。少し痺れてたって歩くくらい支障はない。
下ろして下さいと懇願するが、イヴは逃げ足が早いからな、と言われてしまうと、数度逃亡成功させたおれは口を噤むしかないのだった。
今日はアルベールもマリアもいない、逃亡を手伝ってくれる竜はいないのだが。
『ねー』
『いゔおいしーね』
「え、あ、うん、そうだね」
追加で貰えたことに満足したのか、おれも同じように林檎を食べたことへの文句がなかった。
いや、オレンジの方が好みだっただけかな。
膝の上に飛び乗り、そこに置いたオレンジをこれもこれもと鼻先で突っつく。
はいはいわかりました、そう請われるがままに皮を剥くおれに、そのままでいいだろう、とレオンが口を挟んだ。
「皮を剥いたオレンジの方が美味しいらしいです」
「舌が肥えたものだな、甘やかし過ぎじゃないか」
「……まあ他の竜たちと比べたらそうですよね、でもこどもだし」
「そういえばお前のところは末の弟にもそうだったな」
あれは甘ったれに育ちそうだ、と苦笑する。
ここにエディーを連れてきた時にレオンに会った。確かにあの時のエディーの反応は生意気なこどもだったけれど、たった一度会っただけでそう評するものかな、と思う。
おれが学園に行ってる間に会ったりしていたのだろうか。
少しもやっとした。
……おれだってエディーともっと遊びたい。
「言う程我儘じゃないですよ、あれくらいの歳、かわいいものです」
「そこの三つ子と似たようなものだ」
「それは言い過ぎ……いやまあまだ四歳ですし」
言われたらまあ似てるところはあるけれど、こどもなんてそういうものだ。
静かな子より、それくらいの方が健全に、愛されて育った子なのだとわかる。
レオンはまたおれの頭を撫で、ふと笑うともう少しだけ待っててくれ、と残して背を向けた。
アルベールより大きな手。
少し粗暴で、でも一々甘いレオンと、しっかりした物腰の柔らかいアルベール。
見た目だって中身だってお似合いに見えるのだけど。
実際、治療の為とはいえ、キスまでしている。それ以上は知らないけど。気まずいから聞きたくないけど。
仲だって良さそうで……本当になんでおれなのかな、ふたりとも趣味悪い。
イヴ以外にも……アンリとか、攻略出来そうなひとはいるのに。
ふたりとも、おれより触れる世界は広い筈なのに。
もっと良いひとはいるだろうに。
こうなってしまったから避けたいだけで、本来なら一緒にいられるのは凄く嬉しい。
好意はそのままで恋心だけ消えるような、そんな都合の良いことは出来ないものかな。
ふたりとも、おれのことを弟だと見てくれたら良いんだけど。
そしたら、喧嘩したって、結婚したって、離れてしまったって、ずっと同じでいられるのに。
暫くそのまま隠れて三つ子と遊んでいる内に、また外がざわざわしてきた。
撤退するのかな、思ってたよりは早く済んだみたいだ。
そのまま一緒にレオンも帰る……訳ないか、待ってろって言ってたもんね。
気が重い、何を話しするかなんて、大体わかってるようなものだから。
楽しい話ではない。
おれは聞きたくない想いを告げられるし、レオンには否定の気持ちをぶつけなければいけない。
イヴとしても家族としか関わりがなかったし、伊吹としては家族とすら上手くやれてなかった。おれのコミニュケーション能力は死んでるのだ。
どうやったら上手く伝えられるかな、傷付けないで済むかな。
まあ話すことが話すことだ、傷付けないで済む方法なんて、ないのかもしれないけど。
寄ってきた三つ子を抱えたり腹を撫でたりしていると、また頭上から待たせたな、と声が降ってきた。
……待ってたけど待ってないです。
「ずっとここにいたのか、腰が冷えたんじゃないか」
「……大丈夫です」
「奥の方に行くか?」
レオンがそう口にしたのはただの親切だ。
奥の方、倉庫だとか管理室、仮眠室があるところ。
仮眠室。
そこでレオンとアルベールのキスシーンを見たのはつい先日だ。思わず首を横に振ったおれに、レオンもそれに気がついたのかそうか、と苦笑した。
「でもここで長々話すことでもないだろう、待たせてる使用人は寄せないから、馬車の中でもどうだ」
「……別にここでも」
「こどもたちに聞かれても?」
「う……」
狭い空間、壁に囲まれるのはちょっと、と思ったのだけれど、確かに三つ子たちに聞かれて嬉しい話ではない。
疚しいことはなにもないし、聞かれたってその内容を誰かに話されるなんてことはない。
竜の言葉をわかるのは今のところおれだけなのだから、揶揄われたって、竜の間で話のネタにされたって、別に人間に広まることはない。
それでもやっぱり嫌だなと思うことはかわらない。
仕方なしに小さく頷くと、決まりだ、とレオンが笑顔を見せた。
「えっ」
同時に躰がふわりと浮く。魔法とかではなく、それはレオンの力だ。
何故抱き上げた、と思う。
足はその、長時間しゃがみ込んでいたものだから少し痺れていたのだけれど、そんなことはレオンにはわからない筈。少し痺れてたって歩くくらい支障はない。
下ろして下さいと懇願するが、イヴは逃げ足が早いからな、と言われてしまうと、数度逃亡成功させたおれは口を噤むしかないのだった。
今日はアルベールもマリアもいない、逃亡を手伝ってくれる竜はいないのだが。
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