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この真面目な子が、孤児として育った子が、居場所を守る為に、誰に何を言われてもそこを譲らないのは、きっと皆わかっていた。
だから嫌なんだ、おれが、近くで見てきた筈の家族が、それを奪ってしまうのが。
レオンでも、レオンでなくっても良かった。
アルベールがしあわせになれる場所なら。
でも愛してくれると言うから。それならイヴも知ってるレオンにしあわせにしてもらいたかった。
イヴのだいじな、だいすきな兄だから。
なのに、アルベールはまたじっと視線を逸らさず、おれを見る。
溶けてしまいそうなくらい、あつい瞳で。
「初めて会った時から。きらきらした瞳で見上げた時、名前を呼ばれた時、笑顔を見せてくれた時、手を繋いだ時。最初からだよ、ずっと、僕には眩しく見えてた」
「……そ、んなの、おれじゃなくたって……もし、エディーがいたら、同じこと、してたと……」
「そうだね」
「でしょ……」
「でもあの時からずっと居るのはイヴだから」
自分がされて嬉しかったことをしただけ。
アルベールのことが知りたかっただけ。
自分のことを知ってもらいたかっただけ。
アルベールが優しく笑うと嬉しくて、名前を呼んでくれたら嬉しくて、同じものを美味しいと言うと嬉しくて、イヴがいちばんだよと優先してもらえることが嬉しくて、この黒い瞳に、自分の明るい髪が映るのが嬉しかった。
同じようなことをレオンともしてきて、でも傍にいたのはアルベールだった。
それと同じこと。
同じことをしたって、それはそのひとだから特別だった。
アルベールはイヴにキスをしたくなるような愛で、おれはアルベールに兄を求めていた。
レオンに謝って、一緒にいてもらおうよ、ねえ、今ならまだ大丈夫だよ、おれもお願いするよ、ねえ、だってこれは、だめだよ、ぜんぶ。全部おかしくなっちゃうよ。
「でも言うつもりはなかった、言ったら駄目だとわかってた、ジャンと婚約して、イヴがこの国を守るんだから。だから僕はイヴを守れたら、その為にこの家に呼ばれた価値はあるって」
「価値って、そんな、それだけじゃ」
「わかってるよ、本当に、この家で良かった、父さまと母さまで良かったよ、すごく……贅沢なくらい、しあわせだ、それはちゃんと、イヴのことを抜きにしたって、感謝したって足りない、あのひとたちに返せる自分でいたかったけど」
でも無理だ、イヴを諦める理由がなくなってしまった。
そう呟くアルベールの冷たい指先が少し、震えた。
「レオンさまとの婚約は、お互い割り切っていたつもりだった」
「……」
「それは僕が伝えることではないから……レオンさまに聞いてほしいとしか言えないけど。昨日、聞いたでしょう、あのひとも同じだった、ジャンと結婚することがイヴにとってしあわせになるなら、僕たちはどうすることも、どうしたって、出来なかったんだよ」
泣きそうなくらいに沈んだ声に、アル兄さま、と呼んだつもりだった。
声は掠れて、多分アルベールには届かなかった。
「イヴにかなしいとかさみしいとか、傷付いてほしかったんじゃない、ジャンがしあわせにしないのなら、イヴを傷付けるなら、そうわかっていたら最初から、例えジャンを殺したって渡したくなかった、初めて自分の能力が役立ずだと思ったよ……イヴのことは見えなくても、ジャンのことすら数年後は見えないだなんて」
……ジャンを殺していたら、アルベールも無事ではなかっただろう。そんなことをしないでよかった。
声が本気に聞こえて、少しこわいと思う。
そんなに簡単に、自分のこと、軽く扱うようにしないでほしい。
でもちゃんとわかる、アルベールが言いたいのは、それくらいイヴをだいじにしてたと言うこと。
イヴがしあわせになるのならとレオンと揃って身を引いていた、でも婚約破棄となったのなら、イヴが傷付くなら自分たちが、ということなんだろうけど。
「おれ、アル兄さまのこと、そういうすきじゃない……」
「うん」
「すきだよ、アル兄さまのこと。でも違う、違うんだよ、違うの、アル兄さまがおれにしあわせになってほしいって思ったように、おれもアル兄さまは、レオンさまと……他のひとであっても、しあわせになってほしいんだ」
「……それがイヴなのだけれど」
「おれは無理だよ、だってアル兄さまはおれにとって、だいじな兄さまなんだよ」
アルベールは少し考えて、そっとおれの頬を撫でた。
レオンさまならいいってこと、と確認する声。それは嫉妬なのだろうか。
「……レオンさまももうひとりの兄さまみたいなものだよ」
「本当に?」
「おれ、アル兄さまもレオンさまもすきだよ、父さまも母さまもエディーもマリアも。同じじゃない、アル兄さまとレオンさまと違うの、違う気持ちなんだよ、だから、ふたりの気持ちを聞いたら困るの、おれにはどうしようも出来ないから」
また少し沈黙が続いて、それを破ったのはアルベールのふう、という溜息だった。
逃げた時点で、イヴがそう言うのはわかっていた、と漏らす。
「……これはレオンさまの伝言で、僕も同じ気持ちなのだけれど」
「うん……?」
「それをわかった上で、僕とレオンさまはイヴを諦めないし、もう隠す気もないよ」
イヴが他の誰かを選ぶまで。
アルベールはおれの頬に唇を落とすと、おやすみ、と残して部屋を出て行ってしまった。
……諦めないって、隠さないって、おれが他の誰かを選ぶまでって。
そんなまさか、ふたりしてなんて諦めの悪いことを。
……なんでおれが攻略される側になってるんだ?
だから嫌なんだ、おれが、近くで見てきた筈の家族が、それを奪ってしまうのが。
レオンでも、レオンでなくっても良かった。
アルベールがしあわせになれる場所なら。
でも愛してくれると言うから。それならイヴも知ってるレオンにしあわせにしてもらいたかった。
イヴのだいじな、だいすきな兄だから。
なのに、アルベールはまたじっと視線を逸らさず、おれを見る。
溶けてしまいそうなくらい、あつい瞳で。
「初めて会った時から。きらきらした瞳で見上げた時、名前を呼ばれた時、笑顔を見せてくれた時、手を繋いだ時。最初からだよ、ずっと、僕には眩しく見えてた」
「……そ、んなの、おれじゃなくたって……もし、エディーがいたら、同じこと、してたと……」
「そうだね」
「でしょ……」
「でもあの時からずっと居るのはイヴだから」
自分がされて嬉しかったことをしただけ。
アルベールのことが知りたかっただけ。
自分のことを知ってもらいたかっただけ。
アルベールが優しく笑うと嬉しくて、名前を呼んでくれたら嬉しくて、同じものを美味しいと言うと嬉しくて、イヴがいちばんだよと優先してもらえることが嬉しくて、この黒い瞳に、自分の明るい髪が映るのが嬉しかった。
同じようなことをレオンともしてきて、でも傍にいたのはアルベールだった。
それと同じこと。
同じことをしたって、それはそのひとだから特別だった。
アルベールはイヴにキスをしたくなるような愛で、おれはアルベールに兄を求めていた。
レオンに謝って、一緒にいてもらおうよ、ねえ、今ならまだ大丈夫だよ、おれもお願いするよ、ねえ、だってこれは、だめだよ、ぜんぶ。全部おかしくなっちゃうよ。
「でも言うつもりはなかった、言ったら駄目だとわかってた、ジャンと婚約して、イヴがこの国を守るんだから。だから僕はイヴを守れたら、その為にこの家に呼ばれた価値はあるって」
「価値って、そんな、それだけじゃ」
「わかってるよ、本当に、この家で良かった、父さまと母さまで良かったよ、すごく……贅沢なくらい、しあわせだ、それはちゃんと、イヴのことを抜きにしたって、感謝したって足りない、あのひとたちに返せる自分でいたかったけど」
でも無理だ、イヴを諦める理由がなくなってしまった。
そう呟くアルベールの冷たい指先が少し、震えた。
「レオンさまとの婚約は、お互い割り切っていたつもりだった」
「……」
「それは僕が伝えることではないから……レオンさまに聞いてほしいとしか言えないけど。昨日、聞いたでしょう、あのひとも同じだった、ジャンと結婚することがイヴにとってしあわせになるなら、僕たちはどうすることも、どうしたって、出来なかったんだよ」
泣きそうなくらいに沈んだ声に、アル兄さま、と呼んだつもりだった。
声は掠れて、多分アルベールには届かなかった。
「イヴにかなしいとかさみしいとか、傷付いてほしかったんじゃない、ジャンがしあわせにしないのなら、イヴを傷付けるなら、そうわかっていたら最初から、例えジャンを殺したって渡したくなかった、初めて自分の能力が役立ずだと思ったよ……イヴのことは見えなくても、ジャンのことすら数年後は見えないだなんて」
……ジャンを殺していたら、アルベールも無事ではなかっただろう。そんなことをしないでよかった。
声が本気に聞こえて、少しこわいと思う。
そんなに簡単に、自分のこと、軽く扱うようにしないでほしい。
でもちゃんとわかる、アルベールが言いたいのは、それくらいイヴをだいじにしてたと言うこと。
イヴがしあわせになるのならとレオンと揃って身を引いていた、でも婚約破棄となったのなら、イヴが傷付くなら自分たちが、ということなんだろうけど。
「おれ、アル兄さまのこと、そういうすきじゃない……」
「うん」
「すきだよ、アル兄さまのこと。でも違う、違うんだよ、違うの、アル兄さまがおれにしあわせになってほしいって思ったように、おれもアル兄さまは、レオンさまと……他のひとであっても、しあわせになってほしいんだ」
「……それがイヴなのだけれど」
「おれは無理だよ、だってアル兄さまはおれにとって、だいじな兄さまなんだよ」
アルベールは少し考えて、そっとおれの頬を撫でた。
レオンさまならいいってこと、と確認する声。それは嫉妬なのだろうか。
「……レオンさまももうひとりの兄さまみたいなものだよ」
「本当に?」
「おれ、アル兄さまもレオンさまもすきだよ、父さまも母さまもエディーもマリアも。同じじゃない、アル兄さまとレオンさまと違うの、違う気持ちなんだよ、だから、ふたりの気持ちを聞いたら困るの、おれにはどうしようも出来ないから」
また少し沈黙が続いて、それを破ったのはアルベールのふう、という溜息だった。
逃げた時点で、イヴがそう言うのはわかっていた、と漏らす。
「……これはレオンさまの伝言で、僕も同じ気持ちなのだけれど」
「うん……?」
「それをわかった上で、僕とレオンさまはイヴを諦めないし、もう隠す気もないよ」
イヴが他の誰かを選ぶまで。
アルベールはおれの頬に唇を落とすと、おやすみ、と残して部屋を出て行ってしまった。
……諦めないって、隠さないって、おれが他の誰かを選ぶまでって。
そんなまさか、ふたりしてなんて諦めの悪いことを。
……なんでおれが攻略される側になってるんだ?
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