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「今日は竜舎行かない……」
「そうだね、まだ寝ていた方がいい」
「……」
「ゆっくり休んで……夜戻ってきてもいい?」
「ここ、アル兄さまの家だし」
「……そうだね」
早朝、様子を見に来たアルベールに刺々しく返してしまう。
また夜にね、行ってくる、と向けた背に、さみしそう、という思いと、なんでおれなんかに、という疑問と、折角逃げたのに酷い、という八つ当たりとが湧いてしまって、頭からシーツを被った。
昨日、アルベールとレオンの突然の……突然ではないか、あんな告白を受けて、碌に話も聞かないまま、結局おれは逃げてしまった。
頑張ったと思う。
無理矢理レオンの腕を剥がして、竜舎から飛び出して、マリアを呼んだ。
演習場から来たアルベールを乗せてきたと踏んだのだが、それは正しかったようで、近くをふらふら飛んでいたマリアはすぐにおれの目の前に着地し、そこに飛び乗るようにして屋敷に帰ってきた。アルベールを置いて。
こんなことで知恵熱を出してしまうとは情けない。
でもそれくらい頭を悩ませていたのだ。
結果また逃げてしまったけれど、ふたりの言葉はしっかり聞いてしまった。
聞いてしまったけれど、受け入れるとは言ってない。
頭が考えるのを拒否しているものだから、全然何にも考えられなくて、ベッドの上でうーうー唸っているだけで夜を明かしたのだった。
エディーにはうつるから兄さまに近寄らないようにと話し、両親には大したことないけれど部屋で休みますとだけ伝えている。
……三つ子と外で昼寝なんてしてしまったから、それも原因かもしれないし。本当の風邪かもしれないし。
戻ってきたアルベールはすぐに察してくれたようで、まあ当然ではあるが余計なことは家族に話してないようだ。
夜中に差し入れの夜食を持ってきた時は寝ている振りをしたが、流石に朝はそれで誤魔化されてはくれなかった。
……あのさみしそうな背中を思い出して、また頭を抱えてしまう。
アルベールの居場所を奪いたくないなんて思いながら、あんな、帰ってきづらそうな反応をしてしまうだなんて。
どうしよう、帰って来なかったら。
またレオンのところに行って、遅くなったら。帰って来なかったら。
ふたりが仲良くするのは全然いい、寧ろそうであってほしい。
けれど、その理由がおれにかおを見せづらいからとかだったら。
この家に居づらいとかだったら。
養子になって、兄としてこの家に来た時から、ここはアルベールの家でもあるのに。
おれが帰って来るなと言ったって、両親が受け入れてる以上、アルベールはここに帰って来るのが当然なのに。
レオンのところにいればまだいい、そこがアルベールの居場所になるのなら。
でもあんなことがあって、レオンがあんなこと、言ったりなんかして。
アルベールがレオンを避けたらどうしよう。
どこにいるのかわかんなくなっちゃう。
どうしよう。
おれはアルベールを、レオンを受け入れられない。
だって同じ気持ちではない。
すきだけど、愛してるけど、恋ではない。
抱き締められるのはあたたかくて気持ちよくて、どきどきして落ち着かなくて、でも幸福感を得られる。
それはアルベールが家族だから、レオンを信用しているから。
キスも、触れられたことも、生理的に無理とかじゃあないけれど、突然のこと過ぎて、心の準備もする暇もなんてなくて、それはもう事故のようなものだったから。防げなかっただけ。
家族だから、レオンだから許せただけ。次からはだめだからねってそれでぎりぎり済ませられるだけ。
恋愛をしたいと思わない。
恋愛ゲームをしたって、しあわせそうなカップルを見たって、仲の良い家族を見たって。
いいんだ、他のひとはそうであってくれたらいい。
でもおれにはきっと向いてない。
伊吹の両親のせいだけにする気はないけれど、碌でもない愛は存在するし、その結果、要らない不幸を背負わされる子もいるかもしれない。おれはそんな責任は持てない。
アルベールにもレオンにもしあわせでいてほしいし、でもおれがしあわせにしてあげたい、だなんてことはとても思えない。出来ると思えない。
レオンはすごいな、と思った。
ふたりとも誰よりも愛してる、だなんて、余程でないと許されない台詞だ。自信がないと言えない言葉だ。
嫌味とかではなく、純粋に、普通はあんなこと言えない。そんな自信は持てない。
でもレオンにはちゃんとその覚悟があるんだろうな、それなら、……アルベールをしあわせにしてほしい。
本物の家族を作ってほしい。
おれたちが偽物の家族とは思わないし思いたくないけれど、アルベールの心のどこかではやっぱり遠慮したりとか、劣等感とか、そういうの、あるんでしょ。血が繋がっていても、考えてしまうもの。
そういうのじゃなくて、周りの顔色を伺わないといけないんじゃなくて、普通に笑えるアルベールであってほしい。
レオンはきっと守ってくれるから。おれはちゃんとそれを知っているから、だからレオンにアルベールをしあわせにしてほしい。
おれはその手伝いが出来たら。それで十分。嬉しい。
家族がしあわせでいてくれたら、それがわかれば、それで。
「そうだね、まだ寝ていた方がいい」
「……」
「ゆっくり休んで……夜戻ってきてもいい?」
「ここ、アル兄さまの家だし」
「……そうだね」
早朝、様子を見に来たアルベールに刺々しく返してしまう。
また夜にね、行ってくる、と向けた背に、さみしそう、という思いと、なんでおれなんかに、という疑問と、折角逃げたのに酷い、という八つ当たりとが湧いてしまって、頭からシーツを被った。
昨日、アルベールとレオンの突然の……突然ではないか、あんな告白を受けて、碌に話も聞かないまま、結局おれは逃げてしまった。
頑張ったと思う。
無理矢理レオンの腕を剥がして、竜舎から飛び出して、マリアを呼んだ。
演習場から来たアルベールを乗せてきたと踏んだのだが、それは正しかったようで、近くをふらふら飛んでいたマリアはすぐにおれの目の前に着地し、そこに飛び乗るようにして屋敷に帰ってきた。アルベールを置いて。
こんなことで知恵熱を出してしまうとは情けない。
でもそれくらい頭を悩ませていたのだ。
結果また逃げてしまったけれど、ふたりの言葉はしっかり聞いてしまった。
聞いてしまったけれど、受け入れるとは言ってない。
頭が考えるのを拒否しているものだから、全然何にも考えられなくて、ベッドの上でうーうー唸っているだけで夜を明かしたのだった。
エディーにはうつるから兄さまに近寄らないようにと話し、両親には大したことないけれど部屋で休みますとだけ伝えている。
……三つ子と外で昼寝なんてしてしまったから、それも原因かもしれないし。本当の風邪かもしれないし。
戻ってきたアルベールはすぐに察してくれたようで、まあ当然ではあるが余計なことは家族に話してないようだ。
夜中に差し入れの夜食を持ってきた時は寝ている振りをしたが、流石に朝はそれで誤魔化されてはくれなかった。
……あのさみしそうな背中を思い出して、また頭を抱えてしまう。
アルベールの居場所を奪いたくないなんて思いながら、あんな、帰ってきづらそうな反応をしてしまうだなんて。
どうしよう、帰って来なかったら。
またレオンのところに行って、遅くなったら。帰って来なかったら。
ふたりが仲良くするのは全然いい、寧ろそうであってほしい。
けれど、その理由がおれにかおを見せづらいからとかだったら。
この家に居づらいとかだったら。
養子になって、兄としてこの家に来た時から、ここはアルベールの家でもあるのに。
おれが帰って来るなと言ったって、両親が受け入れてる以上、アルベールはここに帰って来るのが当然なのに。
レオンのところにいればまだいい、そこがアルベールの居場所になるのなら。
でもあんなことがあって、レオンがあんなこと、言ったりなんかして。
アルベールがレオンを避けたらどうしよう。
どこにいるのかわかんなくなっちゃう。
どうしよう。
おれはアルベールを、レオンを受け入れられない。
だって同じ気持ちではない。
すきだけど、愛してるけど、恋ではない。
抱き締められるのはあたたかくて気持ちよくて、どきどきして落ち着かなくて、でも幸福感を得られる。
それはアルベールが家族だから、レオンを信用しているから。
キスも、触れられたことも、生理的に無理とかじゃあないけれど、突然のこと過ぎて、心の準備もする暇もなんてなくて、それはもう事故のようなものだったから。防げなかっただけ。
家族だから、レオンだから許せただけ。次からはだめだからねってそれでぎりぎり済ませられるだけ。
恋愛をしたいと思わない。
恋愛ゲームをしたって、しあわせそうなカップルを見たって、仲の良い家族を見たって。
いいんだ、他のひとはそうであってくれたらいい。
でもおれにはきっと向いてない。
伊吹の両親のせいだけにする気はないけれど、碌でもない愛は存在するし、その結果、要らない不幸を背負わされる子もいるかもしれない。おれはそんな責任は持てない。
アルベールにもレオンにもしあわせでいてほしいし、でもおれがしあわせにしてあげたい、だなんてことはとても思えない。出来ると思えない。
レオンはすごいな、と思った。
ふたりとも誰よりも愛してる、だなんて、余程でないと許されない台詞だ。自信がないと言えない言葉だ。
嫌味とかではなく、純粋に、普通はあんなこと言えない。そんな自信は持てない。
でもレオンにはちゃんとその覚悟があるんだろうな、それなら、……アルベールをしあわせにしてほしい。
本物の家族を作ってほしい。
おれたちが偽物の家族とは思わないし思いたくないけれど、アルベールの心のどこかではやっぱり遠慮したりとか、劣等感とか、そういうの、あるんでしょ。血が繋がっていても、考えてしまうもの。
そういうのじゃなくて、周りの顔色を伺わないといけないんじゃなくて、普通に笑えるアルベールであってほしい。
レオンはきっと守ってくれるから。おれはちゃんとそれを知っているから、だからレオンにアルベールをしあわせにしてほしい。
おれはその手伝いが出来たら。それで十分。嬉しい。
家族がしあわせでいてくれたら、それがわかれば、それで。
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