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 魅了の解き方はない。
 その恋心が消えるのを待つだけだ。
 それが発情誘発だとわかるとそれも納得がいく。
 元々好意を持っていたから発情する、だからどうしようもない。

 レオンに嫌われていたとは思わない。
 アルベールの弟として、幼少期の思い出もあって、良くて好感度はあるか、今はもう全く気にされてないかのどちらかだと思っていた。
 ちょこちょこちょっかいを出してくるのはアルベールへの揶揄いや、弟としてかわいがってるだけかと。それだけだと。
 だからアンリと会って、その力にあてられたって、熱にうかされたって、その相手はアルベールである筈なんだけど。

「……レオンさまはアル兄さまのこと、すきですか」
「どうした、急に」
「すきですか」
「ああ」
「結婚、は、いつするんですか」
「ジャンたちの後だろうなあ」
「……そうです、よねえ、」

 レオンにもアルベールとの結婚の意思はあるようだった。
 良かった、と思う。
 いや、いっそない方が良かった?そしたらアルベールはもっと自由に生きられた?
 わからない、今おれがわかるのは、アルベールの名前を出したってレオンは怯まず、おれの手を握ったままだということ。
 アルベールの優しくて繊細な手つきのものとは違い、更に大きくてあつい手。イヴの手がすっぽりと覆われてしまう。それは手だけじゃないけど。
 立場でいえばおれが守らないといけない王族なのに、まるでおれが守られてるみたいだ。
 そういうところは小さな頃から変わらない。いつもレオンは大きな背でイヴを守ってくれた。自分だって周りの視線は痛かったろうに。
 ……でも今はそういう場面じゃないっていうか。

「あ、アル兄さまのとこ、行きませんか」
「何故」
「なぜって……ええと、その、もうお昼、だし……」

 昼食を一緒に、なんて約束はしていない。
 でもアルベールとレオンを会わせてしまえば、なんて思いついてしまっただけだ。
 アルベールに会えば、おれよりそっちに意識が行くんじゃないかと。

 そうだよ、レオンはおれのことは嫌いじゃない。
 それなりに好意がある。幼少期の頃の思い出や、婚約者の弟として。それだけ。
 だからもっと、もっとすきなひとに会えば、おれなんてすぐ忘れてしまう。どうでもよくなってしまう。
 大丈夫だ、おれ、居ない振りは得意なんだ。

「アルベールと会いたいのか」
「え、あ、はいまあ……あっ、えと、はい、会いに行こうかなって」
「……今は俺といるのに?」
「……っ」

 ひゅっと喉が鳴った。
 ……弱いのだ、おれは。
 誰かに求められたり、すきになんてもらったことなんてないから。
 そんな風に、縋るような瞳で見られてしまったら。
 だって置いていかれたら誰だってさみしいでしょう。
 ……いや、置いていく気はないし、一緒に行こうって言ってるんだけど。
 そんな風に、いつもと違う視線を向けないでほしい。

「きょ、今日はお付のひとは……」
「竜舎の前で待たせている」

 第一王子が護衛や従者なしで来てるとは考えてなかったけど、実際にいるとわかると少し肩に力が入ってしまう。
 変なことなんてする気もないけど、でもやっぱり見られたら気まずいようなことをこのひとはしている訳で……
 疚しいとわかっていながら、見られたらどうするんですか、とは口に出来なかった。わかっていると認めたことになりそうで。

「そんなに腹が空いたか」
「……いえ、お腹は……別に……」

 寝てただけだし。
 なんなら起きてからやったことって朝の食事とひなたぼっこしかしてないし。
 じゃあもう少しここにいろ、と言うレオンに、嫌です、なんて言えない。
 ……言わないから、手を離してくれないかな。

「ここで何するんですか……」
「久々にふたりなんだ、話くらいしてもいいだろう?」
「共通の話なんてアル兄さまのことくらいしか……」

 まさかジャンの話をしよう、なんて意地の悪いこと、流石に言わないだろう。
 ああでも婚約破棄の件は訊かないといけなかったな、と掴まれた腕を見ながらぼんやり思った。
 あんなことをされたのだから当然なんだけど、ジャンはもう本当にどうでもいい。
 元々イヴの能力が目当ての婚約だとわかっていた。成長して、イヴを選んだことに後悔をしていたことも。
 わかってた。ちゃんと。
 だから準備が出来た。

 イヴとしてはまさかあんなところで婚約破棄を宣言されるとは思ってなかったけど。伊吹としても心の準備なんてする前にイベントは起きてしまったのだけど。
 それに関してはまだどうにももやもやする。
 ひとの多いところで宣言したかったとか、そもそもこれはゲームなのだから盛り上がりの為だとか。
 そんなことはわかったって、自分がそのゲームの中に入ってしまえば、ひとの人生をなんだと思ってるのだ、と考えてしまって。

 もっと話をしてくれたら良かったのに。
 イヴじゃだめな理由とか、アンリが良い理由とか。
 話してくれなきゃわかんないよ、……ジャンはそういうのも全部、イヴが知ってたと思ってるのかな。
 イヴが本当に心の中まで読めていたとしたら、きっともっと人間不信になってたと思う。

「……手、離さないでいいんですか」
「何で?」
「ジャンも気持ち悪いって言ってなかったですか……」

 レオンは少し考えて、それから空いたもう片手の腕も開いた。

「イヴが許すなら抱き締めたって構わない」

 ……手を握ることだって許してないんですけど。
 そう思って、つい口元を緩めてしまった。
 別に誰にでも抱き締められたい訳じゃない。それでも少し、嬉しかった。
 イヴを信じてくれるひとがいることが。
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