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あの、近いです。
そう申し訳ないが小さく言うおれに、レオンはにこにこ笑ったままだった。
レオンはジャンよりずっと話しやすくて、言葉やたまに手つきも乱暴にはなるけど、それでもそれは嫌なものではない。
力加減を気をつけてくれているのもわかる。
王族の機嫌を損ねたら、なんて思っても、実際に何かするようなひとでないことも知ってる。
でもだからといって、ぞんざいな扱いをしていい相手でないこともわかってる。
だからこそ少し離れたところから、王族として、兄の婚約者として、そんな距離感で話をしたいのに、レオンにとってはただの婚約者の弟だからか、それともこどもの頃から知ってる気やすさからか、やたらと距離が近い。
突き放されるよりはいいのかもしれない。
婚約者の弟が気に入らない、なんてなるよりは、ずっと。
でも流石にこのくっついてしまいそうなくらいの距離は近過ぎる、と思う。物理的に。
イヴとしても、伊吹としても、普通ではないよな、と。
だって、怪我をした訳でも病気でもない十八の男を抱えて歩くか?
こんなにくっつきそうな距離で話をするか?
……嬉しそうに瞳を覗き込むか?
少し嫌なことを考えてしまう。
おれがアンリになってしまったみたい。
「あ、あの……」
「うん?」
「アル兄さまのとこ、行きました、か」
アルベールの名を出すのは思い出してほしいからだ。
その熱っぽい視線を向ける相手はアルベールだと。義弟予定のおれじゃない。
「いや、直接ここに来た」
「……よく来られるんですか」
「そうでもないよ」
「え」
ここで会ったのはこの短期間にもう三回目だ。
竜に果物をあげに来た時、昨日のアルベールの治癒中、そして今日。
頻度として、第一王子が来るには高い、通ってるレベル。
国の宝みたいなものだ、竜は。だから頻繁に通ってるのだと言われたら納得したんだ、おれは。
なのに。
そんな瞳で見ないでほしい。
そりゃあ昨日は動揺してしまったけど、出来ればああいうところは見たくなかったけど、アルベールとレオンが仲良くしてくれたら嬉しいんだ。
すきなひととだいじなひとが仲良くしてくれたら、しあわせでいてくれたら。
なのにアルベールはおれにあんなことするし、口走りそうになるし、……レオンはおれから手を離さない。
頭が混乱する。
なんで?嫌がらせ?アルベールがおれにしたことに気付いた?怒ってる?
でも朝会ってなければアルベールからは何も聞いていない筈。
「うう、あの……えっと、レオンさま、う」
「どうした、言葉になってないぞ」
くすくす笑うレオンが狡いと思う。
指を絡める必要がわからない。
それなのにその手を跳ね除けられない。あたたかくて。
頭の中ではだめだとわかってるのに。躰が動かない。固まってしまって。
「ジャンさま……」
「ジャン?」
「ジャンさまとアンリに会いましたか」
「ああ、今朝、少しな」
成程、と思った。
ジャンへの怒りやイヴへの同情、それとアンリの力かもしれない。それが混じってしまったのかも。
アンリの能力は魅了、というやつだった。
最初に知った時、それは普通恋愛ゲームの主人公につける能力じゃない、と思った。
どちらかというと脇役、イヴのような当て馬につけるべきで、それを乗り越えるのが主人公ではないかと。
やはり変わったゲームだった。
イヴとアンリが逆の方がしっくりくるような。
そういうところも売れなかった原因なんだと思う。
でもアンリが全て悪い訳ではない。
ゲーム内では攻略対象たちのトラウマを払拭するとか、イヴより積極的に彼等と絡んだり、平民ならではの悩みや虐めとかそれを跳ね除けたりとか、彼は彼なりに大変で、努力をしていた。
恋愛ゲームとしてはチートな魅了という能力は、最初に一目惚れだとか、そういう描写はあっても、最終的に皆が旧知のイヴではなくアンリを選ぶのは、それはアンリの努力の結果や、彼自身の魅力があってなのだ。
全てを魅了が解決した訳ではない。そもそもが彼が周りを虜にしたくて魅了を使っていた訳ではなかった、少なくともゲームの設定では。
ただ、アンリ自身も持て余していた魅了という能力は周囲にも影響があった。
アンリへの好意は勿論、何故か周りもふわふわと高揚した気持ちになるようだ。
危ない薬のような男だな、と伊吹は思ったことがある。
強制的に周囲を恋愛モードに持っていくような。
大半はアンリへ好意を向けるのだが、元々他所に好意を持っていれば、そっちへの依存が高くなる。
会いたいとか、話をしたいとか、抱き締めたいとか。アンリを見て、自分の恋人への欲求を募らせる。
ゲームをしていた当時、それはどういう意味があるのだろうかと調べたら、賛否両論、ほぼ否だったことを思い出す。
魅了とはまた違うのではないか、発情の誘発を言い換えただけではないかとか。
……そりゃあ発情なんて女性向けゲームで使っていい単語ではないよなあ、あまりにも動物的過ぎる。しかも主人公に。
でも納得はしたのだ。言い換えた結果がアンリのその能力なのだと。
それなら皆が優しくてかわいいアンリをすきになるのも、それによって更に愛してしまうのも、元々他に好意がある者がいるならそちらに向かってしまうのも。
だからレオンがそれにあてられて、こんな熱っぽくなってんのも。
「……ん?」
いやおかしい。
……何故アルベールじゃなくて、おれに向いてるんだろう?
そう申し訳ないが小さく言うおれに、レオンはにこにこ笑ったままだった。
レオンはジャンよりずっと話しやすくて、言葉やたまに手つきも乱暴にはなるけど、それでもそれは嫌なものではない。
力加減を気をつけてくれているのもわかる。
王族の機嫌を損ねたら、なんて思っても、実際に何かするようなひとでないことも知ってる。
でもだからといって、ぞんざいな扱いをしていい相手でないこともわかってる。
だからこそ少し離れたところから、王族として、兄の婚約者として、そんな距離感で話をしたいのに、レオンにとってはただの婚約者の弟だからか、それともこどもの頃から知ってる気やすさからか、やたらと距離が近い。
突き放されるよりはいいのかもしれない。
婚約者の弟が気に入らない、なんてなるよりは、ずっと。
でも流石にこのくっついてしまいそうなくらいの距離は近過ぎる、と思う。物理的に。
イヴとしても、伊吹としても、普通ではないよな、と。
だって、怪我をした訳でも病気でもない十八の男を抱えて歩くか?
こんなにくっつきそうな距離で話をするか?
……嬉しそうに瞳を覗き込むか?
少し嫌なことを考えてしまう。
おれがアンリになってしまったみたい。
「あ、あの……」
「うん?」
「アル兄さまのとこ、行きました、か」
アルベールの名を出すのは思い出してほしいからだ。
その熱っぽい視線を向ける相手はアルベールだと。義弟予定のおれじゃない。
「いや、直接ここに来た」
「……よく来られるんですか」
「そうでもないよ」
「え」
ここで会ったのはこの短期間にもう三回目だ。
竜に果物をあげに来た時、昨日のアルベールの治癒中、そして今日。
頻度として、第一王子が来るには高い、通ってるレベル。
国の宝みたいなものだ、竜は。だから頻繁に通ってるのだと言われたら納得したんだ、おれは。
なのに。
そんな瞳で見ないでほしい。
そりゃあ昨日は動揺してしまったけど、出来ればああいうところは見たくなかったけど、アルベールとレオンが仲良くしてくれたら嬉しいんだ。
すきなひととだいじなひとが仲良くしてくれたら、しあわせでいてくれたら。
なのにアルベールはおれにあんなことするし、口走りそうになるし、……レオンはおれから手を離さない。
頭が混乱する。
なんで?嫌がらせ?アルベールがおれにしたことに気付いた?怒ってる?
でも朝会ってなければアルベールからは何も聞いていない筈。
「うう、あの……えっと、レオンさま、う」
「どうした、言葉になってないぞ」
くすくす笑うレオンが狡いと思う。
指を絡める必要がわからない。
それなのにその手を跳ね除けられない。あたたかくて。
頭の中ではだめだとわかってるのに。躰が動かない。固まってしまって。
「ジャンさま……」
「ジャン?」
「ジャンさまとアンリに会いましたか」
「ああ、今朝、少しな」
成程、と思った。
ジャンへの怒りやイヴへの同情、それとアンリの力かもしれない。それが混じってしまったのかも。
アンリの能力は魅了、というやつだった。
最初に知った時、それは普通恋愛ゲームの主人公につける能力じゃない、と思った。
どちらかというと脇役、イヴのような当て馬につけるべきで、それを乗り越えるのが主人公ではないかと。
やはり変わったゲームだった。
イヴとアンリが逆の方がしっくりくるような。
そういうところも売れなかった原因なんだと思う。
でもアンリが全て悪い訳ではない。
ゲーム内では攻略対象たちのトラウマを払拭するとか、イヴより積極的に彼等と絡んだり、平民ならではの悩みや虐めとかそれを跳ね除けたりとか、彼は彼なりに大変で、努力をしていた。
恋愛ゲームとしてはチートな魅了という能力は、最初に一目惚れだとか、そういう描写はあっても、最終的に皆が旧知のイヴではなくアンリを選ぶのは、それはアンリの努力の結果や、彼自身の魅力があってなのだ。
全てを魅了が解決した訳ではない。そもそもが彼が周りを虜にしたくて魅了を使っていた訳ではなかった、少なくともゲームの設定では。
ただ、アンリ自身も持て余していた魅了という能力は周囲にも影響があった。
アンリへの好意は勿論、何故か周りもふわふわと高揚した気持ちになるようだ。
危ない薬のような男だな、と伊吹は思ったことがある。
強制的に周囲を恋愛モードに持っていくような。
大半はアンリへ好意を向けるのだが、元々他所に好意を持っていれば、そっちへの依存が高くなる。
会いたいとか、話をしたいとか、抱き締めたいとか。アンリを見て、自分の恋人への欲求を募らせる。
ゲームをしていた当時、それはどういう意味があるのだろうかと調べたら、賛否両論、ほぼ否だったことを思い出す。
魅了とはまた違うのではないか、発情の誘発を言い換えただけではないかとか。
……そりゃあ発情なんて女性向けゲームで使っていい単語ではないよなあ、あまりにも動物的過ぎる。しかも主人公に。
でも納得はしたのだ。言い換えた結果がアンリのその能力なのだと。
それなら皆が優しくてかわいいアンリをすきになるのも、それによって更に愛してしまうのも、元々他に好意がある者がいるならそちらに向かってしまうのも。
だからレオンがそれにあてられて、こんな熱っぽくなってんのも。
「……ん?」
いやおかしい。
……何故アルベールじゃなくて、おれに向いてるんだろう?
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