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もやもやを解消出来ないまま、怪我をしている竜の元まで着いてしまった。
見た目ではよくわからないなと思っていると、昨日、ある程度治癒は済んでしまっているとレオンが言う。
確かにもう痛くはなさそうで、寝てたのに起こされた、と少し不満げな表情の方が気になった。
「こいつ怒ってるだろう」
「はあ、まあ……わかるんですか?」
「そりゃまあ、少しは。お前程ではないけれどな」
「……レオンさまに怒ってるんじゃなくて、起こされたのにちょっと不満があるだけですよ」
「それは俺に怒ってるのと同じだよ、悪かったな、全てお前たちの時間に合わせることは出来ないよ」
不満げとはいっても、これくらいで暴れたりすることはない。
頭の良い彼等はわかってる、ちゃんとレオンが治癒をしてくれてるのだと、助けてくれているのだと。
じっとしてろよ、と苦笑したレオンが触れると、彼はきゅう、と鳴いた。
あたたかい、と瞳を細める。気持ちが良いのかな。
どういう感覚なんだろう。思わず自分の腕をさすってしまった。
昨日、アルベールの治癒をしていた時に、躰の中から治すと言っていた。でもそれは内臓だから。
この子は翼の怪我だから、皮膚があったかくなったりするのかな。
そういえば、イヴは治癒をしてもらったことがなかった。
思い返すとそれを必要とする怪我をしたことがない。
紙で指を切ったとか、転んで擦りむいたとか、それくらいのものだ。
怪我をしないに越したことはない。痛いことだってきらいだ。
でもなんだかそれは、特別になったことがないというようで、少しだけ、おれの方が昔のレオンを知ってるのに、と思ってしまった。
……それは誰と比べて?
「イヴ」
「……あっ、はい!」
「考えごとか?まだ眠たいか」
「や、そんなことは……」
頬に触れた手のひらはあたたかい。
それは今魔力を使ったからその名残りなのだろうか。
他に痛むところはないか訊いてくれないか、とレオンが言う。
今ので躰全部良くなったりしないのかと返すと、翼の方を意識していたし、この大きさだと中々隅々まで一遍に、というのは難しいらしい。
そりゃそうか、人間の何倍何十倍と大きな生き物なんだし、どれだけ魔力を使うのかって話になるよな。
「右の爪が痛いそうです」
「爪……ああ、変色してるな、どこかで打ったか」
「あと、あっちにある傷……」
幾つか伝えると、レオンはこともなげにその場所その場所を治していく。
昨日既にほぼ治したという翼の違いはよくわからなかったけれど、変色した爪が治癒されるのはわかりやすかった。
痛みが引いたと喜ぶ彼に、おれにじゃなくてレオンにお礼をするように伝えると、レオンはイヴのお陰だよ、と言う。
「イヴがいないと爪や他の怪我には気付かなかった」
「でもおれがいなくたって……」
「言い方は悪いが竜一匹に魔力全てを注ぐ訳にはいかないからな、治すところがわかってると助かる」
「……はい」
竜騎士団演習場は近い。
先日のアルベールのようにいつ重傷者が運ばれてくるか、連絡が来るかもわからない。それは人間も竜も。
その時に魔力がないから治せません、なんてそんなこと言いたくないよな、他にも竜騎士関係ない何かがあるかなんてわからないし。アルベールの予知もすり抜けることだってあるだろうし。
「もう帰るのですか?」
「それはどっちだ、帰れって意味か、さみしいって意味か」
「えっ、そんな、どっちでもな……ぅわ」
冗談だよ、とレオンはおれの頭を乱暴に撫でた。
返答に困る冗談が多い。王族の冗談に乗れる程おれも馬鹿じゃない。
「アル兄さまの治癒は……今日はなしですか?」
「必要ならあいつが自分で来るよ」
「……」
「怒るな、もう傷跡以外は治ってるようなものだ」
「怒ってないです、また夜行くのかなって思っ……て、」
ああまた失言をしてしまった。
レオンがにやにやしている。
キスシーンとか、そういうの、もう触れないようにしようと思ったのに。
「帰りが遅いと心配か?」
「そりゃあ、まあ……母さまも心配、してます、し……」
「アルベールが取られそうで嫌なのか、それとも」
兄のそういう話を知りたくないからか、
そう耳元で囁かれて、思わずその耳を覆ってしまった。
「……っ」
そうだよ、知りたくないよ、そんなもんでしょ、家族のそんな話、聞きたくない。気まずい。
というか、その言い方は、治癒ではないと言ってるようなもので……
何してるんだよ、とは言えない。だって婚約者だし。
婚前交渉だなんて、とは言わない、匂わせる程度にそういう描写のあるゲームだったし、アルベールとレオンがそういうことをしてたって、不思議じゃない。
大体ふたりともいい歳だ、おれとジャンがさっさと結婚していたら、ふたりもすぐだったのではないか。そんなふたりが夜一緒にいてすることなんて……
それはそれとして。
結局イヴはジャンとは何にもなくて、伊吹だって何にもなくて。
だからこういうことには免疫がないのだ。
十八で童貞なのは別にそこまでおかしくない、と思う、その先だってずっとこうだろうとも思うけど。
ジャンや周りの攻略対象者と今更どうにかなろうとは思わないし、ならなくていいとも思う。
アルベールとは勿論、昨日みたいな間違いがもうあってはいけない。
……だからかおが近いんだってば。
考え込むおれの鼻先にくっついてしまいそうなくらい近くに寄るレオンに、ほんの少しだけ仰け反ってしまった。
見た目ではよくわからないなと思っていると、昨日、ある程度治癒は済んでしまっているとレオンが言う。
確かにもう痛くはなさそうで、寝てたのに起こされた、と少し不満げな表情の方が気になった。
「こいつ怒ってるだろう」
「はあ、まあ……わかるんですか?」
「そりゃまあ、少しは。お前程ではないけれどな」
「……レオンさまに怒ってるんじゃなくて、起こされたのにちょっと不満があるだけですよ」
「それは俺に怒ってるのと同じだよ、悪かったな、全てお前たちの時間に合わせることは出来ないよ」
不満げとはいっても、これくらいで暴れたりすることはない。
頭の良い彼等はわかってる、ちゃんとレオンが治癒をしてくれてるのだと、助けてくれているのだと。
じっとしてろよ、と苦笑したレオンが触れると、彼はきゅう、と鳴いた。
あたたかい、と瞳を細める。気持ちが良いのかな。
どういう感覚なんだろう。思わず自分の腕をさすってしまった。
昨日、アルベールの治癒をしていた時に、躰の中から治すと言っていた。でもそれは内臓だから。
この子は翼の怪我だから、皮膚があったかくなったりするのかな。
そういえば、イヴは治癒をしてもらったことがなかった。
思い返すとそれを必要とする怪我をしたことがない。
紙で指を切ったとか、転んで擦りむいたとか、それくらいのものだ。
怪我をしないに越したことはない。痛いことだってきらいだ。
でもなんだかそれは、特別になったことがないというようで、少しだけ、おれの方が昔のレオンを知ってるのに、と思ってしまった。
……それは誰と比べて?
「イヴ」
「……あっ、はい!」
「考えごとか?まだ眠たいか」
「や、そんなことは……」
頬に触れた手のひらはあたたかい。
それは今魔力を使ったからその名残りなのだろうか。
他に痛むところはないか訊いてくれないか、とレオンが言う。
今ので躰全部良くなったりしないのかと返すと、翼の方を意識していたし、この大きさだと中々隅々まで一遍に、というのは難しいらしい。
そりゃそうか、人間の何倍何十倍と大きな生き物なんだし、どれだけ魔力を使うのかって話になるよな。
「右の爪が痛いそうです」
「爪……ああ、変色してるな、どこかで打ったか」
「あと、あっちにある傷……」
幾つか伝えると、レオンはこともなげにその場所その場所を治していく。
昨日既にほぼ治したという翼の違いはよくわからなかったけれど、変色した爪が治癒されるのはわかりやすかった。
痛みが引いたと喜ぶ彼に、おれにじゃなくてレオンにお礼をするように伝えると、レオンはイヴのお陰だよ、と言う。
「イヴがいないと爪や他の怪我には気付かなかった」
「でもおれがいなくたって……」
「言い方は悪いが竜一匹に魔力全てを注ぐ訳にはいかないからな、治すところがわかってると助かる」
「……はい」
竜騎士団演習場は近い。
先日のアルベールのようにいつ重傷者が運ばれてくるか、連絡が来るかもわからない。それは人間も竜も。
その時に魔力がないから治せません、なんてそんなこと言いたくないよな、他にも竜騎士関係ない何かがあるかなんてわからないし。アルベールの予知もすり抜けることだってあるだろうし。
「もう帰るのですか?」
「それはどっちだ、帰れって意味か、さみしいって意味か」
「えっ、そんな、どっちでもな……ぅわ」
冗談だよ、とレオンはおれの頭を乱暴に撫でた。
返答に困る冗談が多い。王族の冗談に乗れる程おれも馬鹿じゃない。
「アル兄さまの治癒は……今日はなしですか?」
「必要ならあいつが自分で来るよ」
「……」
「怒るな、もう傷跡以外は治ってるようなものだ」
「怒ってないです、また夜行くのかなって思っ……て、」
ああまた失言をしてしまった。
レオンがにやにやしている。
キスシーンとか、そういうの、もう触れないようにしようと思ったのに。
「帰りが遅いと心配か?」
「そりゃあ、まあ……母さまも心配、してます、し……」
「アルベールが取られそうで嫌なのか、それとも」
兄のそういう話を知りたくないからか、
そう耳元で囁かれて、思わずその耳を覆ってしまった。
「……っ」
そうだよ、知りたくないよ、そんなもんでしょ、家族のそんな話、聞きたくない。気まずい。
というか、その言い方は、治癒ではないと言ってるようなもので……
何してるんだよ、とは言えない。だって婚約者だし。
婚前交渉だなんて、とは言わない、匂わせる程度にそういう描写のあるゲームだったし、アルベールとレオンがそういうことをしてたって、不思議じゃない。
大体ふたりともいい歳だ、おれとジャンがさっさと結婚していたら、ふたりもすぐだったのではないか。そんなふたりが夜一緒にいてすることなんて……
それはそれとして。
結局イヴはジャンとは何にもなくて、伊吹だって何にもなくて。
だからこういうことには免疫がないのだ。
十八で童貞なのは別にそこまでおかしくない、と思う、その先だってずっとこうだろうとも思うけど。
ジャンや周りの攻略対象者と今更どうにかなろうとは思わないし、ならなくていいとも思う。
アルベールとは勿論、昨日みたいな間違いがもうあってはいけない。
……だからかおが近いんだってば。
考え込むおれの鼻先にくっついてしまいそうなくらい近くに寄るレオンに、ほんの少しだけ仰け反ってしまった。
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