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脱ぐけど見ないで。
そう言ったおれに、アルベールは今更、と瞳を丸くした。
触られるのも嫌だけど、見られるもの嫌だ。恥ずかしいと思うのは普通でしょう。
「閉じてて、瞳」
「見たい」
「何でだよ、だめ!」
「見たい」
「なんか今日アル兄さま我儘だよ、エディーみたい」
「うん」
「うんじゃないっ」
右手でアルベールの目元を覆い、左手で下着を下ろした。
手を離していいよと伝えると、とろ、と腹に自分の出したものが垂れる。
う、こんなの見たくなかった。
何か拭くものをちょうだい、と言うと、背中を向けたアルベールが手渡したのはタオルだった。
タオルならまあ……捨ててもいいか、と思ってから、下着も洗うことに固執しないで捨てれば良かったのか、と気付いた。
伊吹と違ってイヴは金がある、……いや、というか、魔法がある。
生活魔法なんてうってつけのものが。下着なんて部屋でもこっそり洗えるじゃんか。綺麗に出来るじゃんか。
馬鹿じゃんおれ、気付くの遅過ぎじゃん、混乱しすぎだ、じゃあ脱がなくたってよかったじゃん。
脱がなくたって……
「みっ、見ないでって言ったじゃん!」
「見ないとは言ってない」
「屁理屈!」
しっかりがっつり見ているアルベールに、逃げるように背中を向けると、背後から笑い声がする。
……この格好は確かに間抜けだ、お尻を向けてる状態なのだから。
慌ててタオルで汚れたところを拭い、下着を上げた。
みっともないところばかり見られてしまってる。
「なんで笑うの」
「だってイヴがずっとかわいくて」
「間抜けじゃん、こんなの!もう、いじわるだ」
「ごめんね、そんな意地悪だなんてしたつもりはなかったけれど」
「っう」
後ろから抱き締められる。
ぴったりとした背中から感じる体温と、すぐ耳元で聞こえる澄んだ声。
これはその、さっきの今で狡いんじゃないか。
「……ごめん」
「さっきから、何回もそれ……」
「……頭がかっとなって」
「アル兄さま、いつも落ち着いてるのに」
「……イヴのことになると、どうにも落ち着けなくて」
ブラコンだなあ、と笑い飛ばせなかった。そんなトーンじゃない。
背中があついくらいの筈なのに、なんだか冷水を被ったかのようにぞくりとした。
「ずっとイヴがかわいくて、それが抑えられなくなってしまった、……わかってた筈なのに、ジャンに嫉妬してしまった」
「……っ」
それ以上は聞いたらだめだ。
そう思ってるのに、わかってるのに、聞きたくないのに、でも聞きたい。
アルベールはおれのことが、
「イヴを誰にも渡したくない……」
ああ、聞いたらだめなのに。
「こんなこと、イヴは困るとわかってるのに。少し触るくらいなら許されるかと思ってしまった……駄目だとわかってても、ジャンに許すイヴを想像したら……止まらなくて」
ごめん、そう重ねて謝る。
違う、そうじゃないでしょ、言わないといけないことって、謝るとこって、それだけじゃ。
いや、それを言わせたらだめだ。
言わせてしまったら、アルベールは兄じゃなくなってしまう。
アルベールはイヴの兄じゃないといけないのに。
「昔から、僕はイヴのことが」
「部屋っ……帰る!」
「え」
「か、帰る!戻る!それ、えっと、食器!明日、戻しておいて!」
「イヴ」
「おやすみなさい……『アル兄さま』」
それは逃げたのだって、おれも、きっとアルベールもわかってる。
でもだめだ、聞いたら、言わせたらだめだ。
おれが奪ったらだめだ、アルベールからイヴの兄という場所を。
アルベールはこの屋敷に来てからずっと、その場所を守ってきた筈なのに、おれがそれを奪わせてはいけない。
そうわかってるのに。
キスはなかったなあなんて思ってるのは、きっとこのゲームをやり過ぎてたんだ。
だって普通、触るより先にキスでしょうが!性行為こそこのゲームでは匂わせ程度にしか描かれてなかったけど!キスだけは無駄に繰り返してたでしょうが!そりゃ攻略対象外のアルベールはなかったし、なんならイヴだってジャンとも誰ともなかったけど!
いやゲーム以外では知らないけど!普通の恋愛なんてしたことなかったもん!
あっちの世界ではそんな余裕も、そんな気もなかったし!
こっちの世界でだって、恋愛するより、婚約者なんてものといるより、家族と一緒にいたいって、両親に優しくされたり、かわいいエディーと遊んだり、アルベールに甘えたりとか、そんな、そっちの方がいいなって、思って……
ちょっと甘えるアルベールも良かったなとか、そんなんじゃなくて!
格好良いとか、綺麗だとか、気持ちよかったとかじゃなくて!
そういう好意が欲しかったんじゃない。
ただおれのこと、きらいにならないで、普通に見てくれたら良かった。家族に優しくされたら、尚良かった。
でもアルベールが嫌なんじゃない。
もしかしたら、アルベールがアルベールじゃなかったら、おれは誰かに愛されるなんてこと、嬉しくて受け入れてたかもしれない。男同士とか、もうとうにどうにでもよくなっている。
でもだめだよ、アルベールはだめ。
アルベールだけは、おれが兄の立場を守ってあげなきゃ、何の為にアルベールはこの世界で頑張ってきたのってなってしまう。
おれが簡単にその過去を、未来を奪ってしまったらだめだ。
アルベールだけは、絶対、だめ。
そう言ったおれに、アルベールは今更、と瞳を丸くした。
触られるのも嫌だけど、見られるもの嫌だ。恥ずかしいと思うのは普通でしょう。
「閉じてて、瞳」
「見たい」
「何でだよ、だめ!」
「見たい」
「なんか今日アル兄さま我儘だよ、エディーみたい」
「うん」
「うんじゃないっ」
右手でアルベールの目元を覆い、左手で下着を下ろした。
手を離していいよと伝えると、とろ、と腹に自分の出したものが垂れる。
う、こんなの見たくなかった。
何か拭くものをちょうだい、と言うと、背中を向けたアルベールが手渡したのはタオルだった。
タオルならまあ……捨ててもいいか、と思ってから、下着も洗うことに固執しないで捨てれば良かったのか、と気付いた。
伊吹と違ってイヴは金がある、……いや、というか、魔法がある。
生活魔法なんてうってつけのものが。下着なんて部屋でもこっそり洗えるじゃんか。綺麗に出来るじゃんか。
馬鹿じゃんおれ、気付くの遅過ぎじゃん、混乱しすぎだ、じゃあ脱がなくたってよかったじゃん。
脱がなくたって……
「みっ、見ないでって言ったじゃん!」
「見ないとは言ってない」
「屁理屈!」
しっかりがっつり見ているアルベールに、逃げるように背中を向けると、背後から笑い声がする。
……この格好は確かに間抜けだ、お尻を向けてる状態なのだから。
慌ててタオルで汚れたところを拭い、下着を上げた。
みっともないところばかり見られてしまってる。
「なんで笑うの」
「だってイヴがずっとかわいくて」
「間抜けじゃん、こんなの!もう、いじわるだ」
「ごめんね、そんな意地悪だなんてしたつもりはなかったけれど」
「っう」
後ろから抱き締められる。
ぴったりとした背中から感じる体温と、すぐ耳元で聞こえる澄んだ声。
これはその、さっきの今で狡いんじゃないか。
「……ごめん」
「さっきから、何回もそれ……」
「……頭がかっとなって」
「アル兄さま、いつも落ち着いてるのに」
「……イヴのことになると、どうにも落ち着けなくて」
ブラコンだなあ、と笑い飛ばせなかった。そんなトーンじゃない。
背中があついくらいの筈なのに、なんだか冷水を被ったかのようにぞくりとした。
「ずっとイヴがかわいくて、それが抑えられなくなってしまった、……わかってた筈なのに、ジャンに嫉妬してしまった」
「……っ」
それ以上は聞いたらだめだ。
そう思ってるのに、わかってるのに、聞きたくないのに、でも聞きたい。
アルベールはおれのことが、
「イヴを誰にも渡したくない……」
ああ、聞いたらだめなのに。
「こんなこと、イヴは困るとわかってるのに。少し触るくらいなら許されるかと思ってしまった……駄目だとわかってても、ジャンに許すイヴを想像したら……止まらなくて」
ごめん、そう重ねて謝る。
違う、そうじゃないでしょ、言わないといけないことって、謝るとこって、それだけじゃ。
いや、それを言わせたらだめだ。
言わせてしまったら、アルベールは兄じゃなくなってしまう。
アルベールはイヴの兄じゃないといけないのに。
「昔から、僕はイヴのことが」
「部屋っ……帰る!」
「え」
「か、帰る!戻る!それ、えっと、食器!明日、戻しておいて!」
「イヴ」
「おやすみなさい……『アル兄さま』」
それは逃げたのだって、おれも、きっとアルベールもわかってる。
でもだめだ、聞いたら、言わせたらだめだ。
おれが奪ったらだめだ、アルベールからイヴの兄という場所を。
アルベールはこの屋敷に来てからずっと、その場所を守ってきた筈なのに、おれがそれを奪わせてはいけない。
そうわかってるのに。
キスはなかったなあなんて思ってるのは、きっとこのゲームをやり過ぎてたんだ。
だって普通、触るより先にキスでしょうが!性行為こそこのゲームでは匂わせ程度にしか描かれてなかったけど!キスだけは無駄に繰り返してたでしょうが!そりゃ攻略対象外のアルベールはなかったし、なんならイヴだってジャンとも誰ともなかったけど!
いやゲーム以外では知らないけど!普通の恋愛なんてしたことなかったもん!
あっちの世界ではそんな余裕も、そんな気もなかったし!
こっちの世界でだって、恋愛するより、婚約者なんてものといるより、家族と一緒にいたいって、両親に優しくされたり、かわいいエディーと遊んだり、アルベールに甘えたりとか、そんな、そっちの方がいいなって、思って……
ちょっと甘えるアルベールも良かったなとか、そんなんじゃなくて!
格好良いとか、綺麗だとか、気持ちよかったとかじゃなくて!
そういう好意が欲しかったんじゃない。
ただおれのこと、きらいにならないで、普通に見てくれたら良かった。家族に優しくされたら、尚良かった。
でもアルベールが嫌なんじゃない。
もしかしたら、アルベールがアルベールじゃなかったら、おれは誰かに愛されるなんてこと、嬉しくて受け入れてたかもしれない。男同士とか、もうとうにどうにでもよくなっている。
でもだめだよ、アルベールはだめ。
アルベールだけは、おれが兄の立場を守ってあげなきゃ、何の為にアルベールはこの世界で頑張ってきたのってなってしまう。
おれが簡単にその過去を、未来を奪ってしまったらだめだ。
アルベールだけは、絶対、だめ。
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