21 / 192
2
20*
しおりを挟む
脱ぐけど見ないで。
そう言ったおれに、アルベールは今更、と瞳を丸くした。
触られるのも嫌だけど、見られるもの嫌だ。恥ずかしいと思うのは普通でしょう。
「閉じてて、瞳」
「見たい」
「何でだよ、だめ!」
「見たい」
「なんか今日アル兄さま我儘だよ、エディーみたい」
「うん」
「うんじゃないっ」
右手でアルベールの目元を覆い、左手で下着を下ろした。
手を離していいよと伝えると、とろ、と腹に自分の出したものが垂れる。
う、こんなの見たくなかった。
何か拭くものをちょうだい、と言うと、背中を向けたアルベールが手渡したのはタオルだった。
タオルならまあ……捨ててもいいか、と思ってから、下着も洗うことに固執しないで捨てれば良かったのか、と気付いた。
伊吹と違ってイヴは金がある、……いや、というか、魔法がある。
生活魔法なんてうってつけのものが。下着なんて部屋でもこっそり洗えるじゃんか。綺麗に出来るじゃんか。
馬鹿じゃんおれ、気付くの遅過ぎじゃん、混乱しすぎだ、じゃあ脱がなくたってよかったじゃん。
脱がなくたって……
「みっ、見ないでって言ったじゃん!」
「見ないとは言ってない」
「屁理屈!」
しっかりがっつり見ているアルベールに、逃げるように背中を向けると、背後から笑い声がする。
……この格好は確かに間抜けだ、お尻を向けてる状態なのだから。
慌ててタオルで汚れたところを拭い、下着を上げた。
みっともないところばかり見られてしまってる。
「なんで笑うの」
「だってイヴがずっとかわいくて」
「間抜けじゃん、こんなの!もう、いじわるだ」
「ごめんね、そんな意地悪だなんてしたつもりはなかったけれど」
「っう」
後ろから抱き締められる。
ぴったりとした背中から感じる体温と、すぐ耳元で聞こえる澄んだ声。
これはその、さっきの今で狡いんじゃないか。
「……ごめん」
「さっきから、何回もそれ……」
「……頭がかっとなって」
「アル兄さま、いつも落ち着いてるのに」
「……イヴのことになると、どうにも落ち着けなくて」
ブラコンだなあ、と笑い飛ばせなかった。そんなトーンじゃない。
背中があついくらいの筈なのに、なんだか冷水を被ったかのようにぞくりとした。
「ずっとイヴがかわいくて、それが抑えられなくなってしまった、……わかってた筈なのに、ジャンに嫉妬してしまった」
「……っ」
それ以上は聞いたらだめだ。
そう思ってるのに、わかってるのに、聞きたくないのに、でも聞きたい。
アルベールはおれのことが、
「イヴを誰にも渡したくない……」
ああ、聞いたらだめなのに。
「こんなこと、イヴは困るとわかってるのに。少し触るくらいなら許されるかと思ってしまった……駄目だとわかってても、ジャンに許すイヴを想像したら……止まらなくて」
ごめん、そう重ねて謝る。
違う、そうじゃないでしょ、言わないといけないことって、謝るとこって、それだけじゃ。
いや、それを言わせたらだめだ。
言わせてしまったら、アルベールは兄じゃなくなってしまう。
アルベールはイヴの兄じゃないといけないのに。
「昔から、僕はイヴのことが」
「部屋っ……帰る!」
「え」
「か、帰る!戻る!それ、えっと、食器!明日、戻しておいて!」
「イヴ」
「おやすみなさい……『アル兄さま』」
それは逃げたのだって、おれも、きっとアルベールもわかってる。
でもだめだ、聞いたら、言わせたらだめだ。
おれが奪ったらだめだ、アルベールからイヴの兄という場所を。
アルベールはこの屋敷に来てからずっと、その場所を守ってきた筈なのに、おれがそれを奪わせてはいけない。
そうわかってるのに。
キスはなかったなあなんて思ってるのは、きっとこのゲームをやり過ぎてたんだ。
だって普通、触るより先にキスでしょうが!性行為こそこのゲームでは匂わせ程度にしか描かれてなかったけど!キスだけは無駄に繰り返してたでしょうが!そりゃ攻略対象外のアルベールはなかったし、なんならイヴだってジャンとも誰ともなかったけど!
いやゲーム以外では知らないけど!普通の恋愛なんてしたことなかったもん!
あっちの世界ではそんな余裕も、そんな気もなかったし!
こっちの世界でだって、恋愛するより、婚約者なんてものといるより、家族と一緒にいたいって、両親に優しくされたり、かわいいエディーと遊んだり、アルベールに甘えたりとか、そんな、そっちの方がいいなって、思って……
ちょっと甘えるアルベールも良かったなとか、そんなんじゃなくて!
格好良いとか、綺麗だとか、気持ちよかったとかじゃなくて!
そういう好意が欲しかったんじゃない。
ただおれのこと、きらいにならないで、普通に見てくれたら良かった。家族に優しくされたら、尚良かった。
でもアルベールが嫌なんじゃない。
もしかしたら、アルベールがアルベールじゃなかったら、おれは誰かに愛されるなんてこと、嬉しくて受け入れてたかもしれない。男同士とか、もうとうにどうにでもよくなっている。
でもだめだよ、アルベールはだめ。
アルベールだけは、おれが兄の立場を守ってあげなきゃ、何の為にアルベールはこの世界で頑張ってきたのってなってしまう。
おれが簡単にその過去を、未来を奪ってしまったらだめだ。
アルベールだけは、絶対、だめ。
そう言ったおれに、アルベールは今更、と瞳を丸くした。
触られるのも嫌だけど、見られるもの嫌だ。恥ずかしいと思うのは普通でしょう。
「閉じてて、瞳」
「見たい」
「何でだよ、だめ!」
「見たい」
「なんか今日アル兄さま我儘だよ、エディーみたい」
「うん」
「うんじゃないっ」
右手でアルベールの目元を覆い、左手で下着を下ろした。
手を離していいよと伝えると、とろ、と腹に自分の出したものが垂れる。
う、こんなの見たくなかった。
何か拭くものをちょうだい、と言うと、背中を向けたアルベールが手渡したのはタオルだった。
タオルならまあ……捨ててもいいか、と思ってから、下着も洗うことに固執しないで捨てれば良かったのか、と気付いた。
伊吹と違ってイヴは金がある、……いや、というか、魔法がある。
生活魔法なんてうってつけのものが。下着なんて部屋でもこっそり洗えるじゃんか。綺麗に出来るじゃんか。
馬鹿じゃんおれ、気付くの遅過ぎじゃん、混乱しすぎだ、じゃあ脱がなくたってよかったじゃん。
脱がなくたって……
「みっ、見ないでって言ったじゃん!」
「見ないとは言ってない」
「屁理屈!」
しっかりがっつり見ているアルベールに、逃げるように背中を向けると、背後から笑い声がする。
……この格好は確かに間抜けだ、お尻を向けてる状態なのだから。
慌ててタオルで汚れたところを拭い、下着を上げた。
みっともないところばかり見られてしまってる。
「なんで笑うの」
「だってイヴがずっとかわいくて」
「間抜けじゃん、こんなの!もう、いじわるだ」
「ごめんね、そんな意地悪だなんてしたつもりはなかったけれど」
「っう」
後ろから抱き締められる。
ぴったりとした背中から感じる体温と、すぐ耳元で聞こえる澄んだ声。
これはその、さっきの今で狡いんじゃないか。
「……ごめん」
「さっきから、何回もそれ……」
「……頭がかっとなって」
「アル兄さま、いつも落ち着いてるのに」
「……イヴのことになると、どうにも落ち着けなくて」
ブラコンだなあ、と笑い飛ばせなかった。そんなトーンじゃない。
背中があついくらいの筈なのに、なんだか冷水を被ったかのようにぞくりとした。
「ずっとイヴがかわいくて、それが抑えられなくなってしまった、……わかってた筈なのに、ジャンに嫉妬してしまった」
「……っ」
それ以上は聞いたらだめだ。
そう思ってるのに、わかってるのに、聞きたくないのに、でも聞きたい。
アルベールはおれのことが、
「イヴを誰にも渡したくない……」
ああ、聞いたらだめなのに。
「こんなこと、イヴは困るとわかってるのに。少し触るくらいなら許されるかと思ってしまった……駄目だとわかってても、ジャンに許すイヴを想像したら……止まらなくて」
ごめん、そう重ねて謝る。
違う、そうじゃないでしょ、言わないといけないことって、謝るとこって、それだけじゃ。
いや、それを言わせたらだめだ。
言わせてしまったら、アルベールは兄じゃなくなってしまう。
アルベールはイヴの兄じゃないといけないのに。
「昔から、僕はイヴのことが」
「部屋っ……帰る!」
「え」
「か、帰る!戻る!それ、えっと、食器!明日、戻しておいて!」
「イヴ」
「おやすみなさい……『アル兄さま』」
それは逃げたのだって、おれも、きっとアルベールもわかってる。
でもだめだ、聞いたら、言わせたらだめだ。
おれが奪ったらだめだ、アルベールからイヴの兄という場所を。
アルベールはこの屋敷に来てからずっと、その場所を守ってきた筈なのに、おれがそれを奪わせてはいけない。
そうわかってるのに。
キスはなかったなあなんて思ってるのは、きっとこのゲームをやり過ぎてたんだ。
だって普通、触るより先にキスでしょうが!性行為こそこのゲームでは匂わせ程度にしか描かれてなかったけど!キスだけは無駄に繰り返してたでしょうが!そりゃ攻略対象外のアルベールはなかったし、なんならイヴだってジャンとも誰ともなかったけど!
いやゲーム以外では知らないけど!普通の恋愛なんてしたことなかったもん!
あっちの世界ではそんな余裕も、そんな気もなかったし!
こっちの世界でだって、恋愛するより、婚約者なんてものといるより、家族と一緒にいたいって、両親に優しくされたり、かわいいエディーと遊んだり、アルベールに甘えたりとか、そんな、そっちの方がいいなって、思って……
ちょっと甘えるアルベールも良かったなとか、そんなんじゃなくて!
格好良いとか、綺麗だとか、気持ちよかったとかじゃなくて!
そういう好意が欲しかったんじゃない。
ただおれのこと、きらいにならないで、普通に見てくれたら良かった。家族に優しくされたら、尚良かった。
でもアルベールが嫌なんじゃない。
もしかしたら、アルベールがアルベールじゃなかったら、おれは誰かに愛されるなんてこと、嬉しくて受け入れてたかもしれない。男同士とか、もうとうにどうにでもよくなっている。
でもだめだよ、アルベールはだめ。
アルベールだけは、おれが兄の立場を守ってあげなきゃ、何の為にアルベールはこの世界で頑張ってきたのってなってしまう。
おれが簡単にその過去を、未来を奪ってしまったらだめだ。
アルベールだけは、絶対、だめ。
317
お気に入りに追加
3,756
あなたにおすすめの小説
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
狼騎士は異世界の男巫女(のおまけ)を追跡中!
Kokonuca.
BL
異世界!召喚!ケモ耳!な王道が書きたかったので
ある日、はるひは自分の護衛騎士と関係をもってしまう、けれどその護衛騎士ははるひの兄かすがの秘密の恋人で……
兄と護衛騎士を守りたいはるひは、二人の前から姿を消すことを選択した
完結しましたが、こぼれ話を更新いたします
虐げられても最強な僕。白い結婚ですが、将軍閣下に溺愛されているようです。
竜鳴躍
BL
白い結婚の訳アリ将軍×訳アリ一見清楚可憐令息(嫁)。
万物には精霊が宿ると信じられ、良き魔女と悪しき魔女が存在する世界。
女神に愛されし"精霊の愛し子”青年ティア=シャワーズは、長く艶やかな夜の帳のような髪と無数の星屑が浮かんだ夜空のような深い青の瞳を持つ、美しく、性格もおとなしく控えめな男の子。
軍閥の家門であるシャワーズ侯爵家の次男に産まれた彼は、「正妻」を罠にかけ自分がその座に収まろうとした「愛妾」が生んだ息子だった。
「愛妾」とはいっても慎ましやかに母子ともに市井で生活していたが、母の死により幼少に侯爵家に引き取られた経緯がある。
そして、家族どころか使用人にさえも疎まれて育ったティアは、成人したその日に、着の身着のまま平民出身で成り上がりの将軍閣下の嫁に出された。
男同士の婚姻では子は為せない。
将軍がこれ以上力を持てないようにの王家の思惑だった。
かくしてエドワルド=ドロップ将軍夫人となったティア=ドロップ。
彼は、実は、決しておとなしくて控えめな淑男ではない。
口を開けば某術や戦略が流れ出し、固有魔法である創成魔法を駆使した流れるような剣技は、麗しき剣の舞姫のよう。
それは、侯爵の「正妻」の家系に代々受け継がれる一子相伝の戦闘術。
「ティア、君は一体…。」
「その言葉、旦那様にもお返ししますよ。エドワード=フィリップ=フォックス殿下。」
それは、魔女に人生を狂わせられた夫夫の話。
※誤字、誤入力報告ありがとうございます!
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
【完結】婚約破棄したのに幼馴染の執着がちょっと尋常じゃなかった。
天城
BL
子供の頃、天使のように可愛かった第三王子のハロルド。しかし今は令嬢達に熱い視線を向けられる美青年に成長していた。
成績優秀、眉目秀麗、騎士団の演習では負けなしの完璧な王子の姿が今のハロルドの現実だった。
まだ少女のように可愛かったころに求婚され、婚約した幼馴染のギルバートに申し訳なくなったハロルドは、婚約破棄を決意する。
黒髪黒目の無口な幼馴染(攻め)×金髪青瞳美形第三王子(受け)。前後編の2話完結。番外編を不定期更新中。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる