19 / 192
2
18
しおりを挟む
「ふふ」
「な、なに」
「別に小さな子だとは思ってないよ」
華奢だけど、と余計な一言を添えて、おれの頬に触れた。
思い出しちゃった?と耳元に柔らかい声が降って、肩が揺れた。
「お、思い出すって、何を……」
「それはイヴにしかわからないよ」
頬が紅くなる程恥ずかしいのはこども扱いをされたから。
でもそれ以外にも、そう、思い出すことはたくさんあった。
アルベールの白い腹だとか、それを撫でるレオンの指先とか、網膜に焼き付いたふたりのキスシーンとか。
見たらいけないものを見てしまった、そんなことばかり。
だって目の前でそういうの、見たことって初めてで。それが知ってるひとなら、だいじなひとなら、余計に意識してしまって。
隣に座るアルベールの、鍛えられてるのに細い腰周りとか、その服の下を想像してしまう。
カップに触れる口元や、焼き菓子を咥える唇や覗く舌先を見てしまう。
この整った口元に、レオンの舌が入っているのを見てしまった。
あんなの、あんなの……
おれにはまだ刺激が強い。
「ほ、包帯……変えたのかな、とか……」
「誰かに見られないよう一応巻いてはいたけど、ほら、傷は塞がっていたの見たでしょう、もう巻く必要はないんだよね」
見る?と言われて、言葉にならない声が出てしまった。
見るって、え、見るって、なんで。
おれが見たところでレオンのように治せる訳でも、痛みを減らすことが出来る訳でもないのに。
そんな風にあわあわしていたからだろうか、冗談だよ、と裾にかけていた手を離した。
あ、いや、傷の確認がしたくなかった訳じゃない、またちゃんと見て、本当に無事かどうかの確認はしたかった、出来るなら。
でも今の、なんかそういう空気じゃなかったじゃん。
だって、だってなんか、アルベール、いつもとなんか……なんか違う。
なんかその……レオンとふたりでいた時みたい。
いつもの、穏やかな長兄じゃなくて、なんで、よくわかんない、なんで……一緒に居るのはレオンじゃなくて、おれなのに、なんでそんな色っぽいかお、してんの。
「イヴ」
「……っん、」
「勃ってる」
「──……ッ!」
ぶわ、と一気にかおも躰もあつくなったのを感じた。
太腿に置かれたアルベールの手も、布越しだというのにあつく感じる。
違う、これは違う。
だっておれ、こういうの、全然慣れてなくて。
ちゃんと知識はある。何にも知りませんなんて言わない。
でも自分がそういうことをしたいと思ったことはなかった、あの両親のせいでそういうこと、への嫌悪感が少なからずあったから。
でも男のカラダってのは厄介なもので、出さなきゃ出てしまうのだ。
定期的に出さなきゃ夢精で下着を汚してしまう、それを家族に……あのひとたちに悟られるのが嫌で、そんなことにならないよう、こっそり処理をするのは伊吹の普通だった。
一番最後の風呂とか、全員出払った時の留守番時とか。
ティッシュの処理ひとつ気を付けないといけなかった。
だからまあその、ちゃんと意識はしていたんだけど、でもこの世界に来て数日、流石にそんなことを考える暇がなかったというか……
そこまで気が回らなかった。しっかりしなきゃとも思う反面、あまりにも家族に、弟の立場にいることがあたたかくて、満足して。そんな性事情なんてさっぱり忘れてしまっていた。
そんなところであんなもの、見てしまったから。
おれが悪いのはわかってんだけど。
でもその、アルベールもレオンも、ふたりとも何とも言えない色気があって、それにあてられてしまった。
あの時はアルベールの怪我のことばかりに気を取られていたから。
今こうやって思い出すと、怪我のことはもう安心していいとわかってるから、その……ああもう、違う、怪我じゃなくて、ふたりの、今目の前にいるアルベールの、あの、この、色気が、頭をぐちゃぐちゃにする。
「さ、最近、触ってなかった、から……えっと、部屋、戻っ……」
余計なことを言ってしまったと思いつつ、ベッドから立ち上がろうとしたおれの手をアルベールが掴む。
貧相な躰は、少し引かれただけでベッドに逆戻りさせられてしまった。
「……ジャンとは?そういうの、した?」
「え、え……?そういう、の?」
「触ってもらった?」
「……えっ」
思い返す。
婚約者のジャンとは……ジャンとイヴに甘い思い出なんてなかった。
幼少期に頬にキスがあったくらいだろうか。
あの時は、イヴも何も考えてなかった。こども同士の、お前と結婚する、に無邪気にうんと返事をしただけだ。
学園に入ってからは殆ど話もしてなくて、多少気を遣ってイヴが話しかけようとしても、ジャンは良いかおなんてしなくて、その内アンリが隣にいるようになって、傍にいくことも出来なくなって。
そんなだったから、触れることも、キスも当然なくて、寧ろイヴはジャンとアンリのキスシーンの目撃、なんていらないものしか貰ってない。
イヴも伊吹も諦めていた、そんな接触なんていらないって思ってた。
なのに。
アルベールの視線が、触れたところが、すごくあつい。
「婚約者だもんね?卒業したらすぐ結婚する筈だったし」
「……アル兄さま、よ、予知」
「見えない、……見たくない」
全てを見ることは出来ないと言っていた。
それに家族のそういうの、見たくないよな、とも思う。
思うけど、なんだろう、アルベールの瞳は、そういう意味で言ってるのではない。
「な、なに」
「別に小さな子だとは思ってないよ」
華奢だけど、と余計な一言を添えて、おれの頬に触れた。
思い出しちゃった?と耳元に柔らかい声が降って、肩が揺れた。
「お、思い出すって、何を……」
「それはイヴにしかわからないよ」
頬が紅くなる程恥ずかしいのはこども扱いをされたから。
でもそれ以外にも、そう、思い出すことはたくさんあった。
アルベールの白い腹だとか、それを撫でるレオンの指先とか、網膜に焼き付いたふたりのキスシーンとか。
見たらいけないものを見てしまった、そんなことばかり。
だって目の前でそういうの、見たことって初めてで。それが知ってるひとなら、だいじなひとなら、余計に意識してしまって。
隣に座るアルベールの、鍛えられてるのに細い腰周りとか、その服の下を想像してしまう。
カップに触れる口元や、焼き菓子を咥える唇や覗く舌先を見てしまう。
この整った口元に、レオンの舌が入っているのを見てしまった。
あんなの、あんなの……
おれにはまだ刺激が強い。
「ほ、包帯……変えたのかな、とか……」
「誰かに見られないよう一応巻いてはいたけど、ほら、傷は塞がっていたの見たでしょう、もう巻く必要はないんだよね」
見る?と言われて、言葉にならない声が出てしまった。
見るって、え、見るって、なんで。
おれが見たところでレオンのように治せる訳でも、痛みを減らすことが出来る訳でもないのに。
そんな風にあわあわしていたからだろうか、冗談だよ、と裾にかけていた手を離した。
あ、いや、傷の確認がしたくなかった訳じゃない、またちゃんと見て、本当に無事かどうかの確認はしたかった、出来るなら。
でも今の、なんかそういう空気じゃなかったじゃん。
だって、だってなんか、アルベール、いつもとなんか……なんか違う。
なんかその……レオンとふたりでいた時みたい。
いつもの、穏やかな長兄じゃなくて、なんで、よくわかんない、なんで……一緒に居るのはレオンじゃなくて、おれなのに、なんでそんな色っぽいかお、してんの。
「イヴ」
「……っん、」
「勃ってる」
「──……ッ!」
ぶわ、と一気にかおも躰もあつくなったのを感じた。
太腿に置かれたアルベールの手も、布越しだというのにあつく感じる。
違う、これは違う。
だっておれ、こういうの、全然慣れてなくて。
ちゃんと知識はある。何にも知りませんなんて言わない。
でも自分がそういうことをしたいと思ったことはなかった、あの両親のせいでそういうこと、への嫌悪感が少なからずあったから。
でも男のカラダってのは厄介なもので、出さなきゃ出てしまうのだ。
定期的に出さなきゃ夢精で下着を汚してしまう、それを家族に……あのひとたちに悟られるのが嫌で、そんなことにならないよう、こっそり処理をするのは伊吹の普通だった。
一番最後の風呂とか、全員出払った時の留守番時とか。
ティッシュの処理ひとつ気を付けないといけなかった。
だからまあその、ちゃんと意識はしていたんだけど、でもこの世界に来て数日、流石にそんなことを考える暇がなかったというか……
そこまで気が回らなかった。しっかりしなきゃとも思う反面、あまりにも家族に、弟の立場にいることがあたたかくて、満足して。そんな性事情なんてさっぱり忘れてしまっていた。
そんなところであんなもの、見てしまったから。
おれが悪いのはわかってんだけど。
でもその、アルベールもレオンも、ふたりとも何とも言えない色気があって、それにあてられてしまった。
あの時はアルベールの怪我のことばかりに気を取られていたから。
今こうやって思い出すと、怪我のことはもう安心していいとわかってるから、その……ああもう、違う、怪我じゃなくて、ふたりの、今目の前にいるアルベールの、あの、この、色気が、頭をぐちゃぐちゃにする。
「さ、最近、触ってなかった、から……えっと、部屋、戻っ……」
余計なことを言ってしまったと思いつつ、ベッドから立ち上がろうとしたおれの手をアルベールが掴む。
貧相な躰は、少し引かれただけでベッドに逆戻りさせられてしまった。
「……ジャンとは?そういうの、した?」
「え、え……?そういう、の?」
「触ってもらった?」
「……えっ」
思い返す。
婚約者のジャンとは……ジャンとイヴに甘い思い出なんてなかった。
幼少期に頬にキスがあったくらいだろうか。
あの時は、イヴも何も考えてなかった。こども同士の、お前と結婚する、に無邪気にうんと返事をしただけだ。
学園に入ってからは殆ど話もしてなくて、多少気を遣ってイヴが話しかけようとしても、ジャンは良いかおなんてしなくて、その内アンリが隣にいるようになって、傍にいくことも出来なくなって。
そんなだったから、触れることも、キスも当然なくて、寧ろイヴはジャンとアンリのキスシーンの目撃、なんていらないものしか貰ってない。
イヴも伊吹も諦めていた、そんな接触なんていらないって思ってた。
なのに。
アルベールの視線が、触れたところが、すごくあつい。
「婚約者だもんね?卒業したらすぐ結婚する筈だったし」
「……アル兄さま、よ、予知」
「見えない、……見たくない」
全てを見ることは出来ないと言っていた。
それに家族のそういうの、見たくないよな、とも思う。
思うけど、なんだろう、アルベールの瞳は、そういう意味で言ってるのではない。
361
お気に入りに追加
3,776
あなたにおすすめの小説
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。
【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。
※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる