【完結】イヴは悪役に向いてない

ちかこ

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「ふふ」
「な、なに」
「別に小さな子だとは思ってないよ」

 華奢だけど、と余計な一言を添えて、おれの頬に触れた。
 思い出しちゃった?と耳元に柔らかい声が降って、肩が揺れた。

「お、思い出すって、何を……」
「それはイヴにしかわからないよ」

 頬が紅くなる程恥ずかしいのはこども扱いをされたから。
 でもそれ以外にも、そう、思い出すことはたくさんあった。
 アルベールの白い腹だとか、それを撫でるレオンの指先とか、網膜に焼き付いたふたりのキスシーンとか。
 見たらいけないものを見てしまった、そんなことばかり。
 だって目の前でそういうの、見たことって初めてで。それが知ってるひとなら、だいじなひとなら、余計に意識してしまって。
 隣に座るアルベールの、鍛えられてるのに細い腰周りとか、その服の下を想像してしまう。
 カップに触れる口元や、焼き菓子を咥える唇や覗く舌先を見てしまう。
 この整った口元に、レオンの舌が入っているのを見てしまった。
 あんなの、あんなの……
 おれにはまだ刺激が強い。

「ほ、包帯……変えたのかな、とか……」
「誰かに見られないよう一応巻いてはいたけど、ほら、傷は塞がっていたの見たでしょう、もう巻く必要はないんだよね」

 見る?と言われて、言葉にならない声が出てしまった。
 見るって、え、見るって、なんで。
 おれが見たところでレオンのように治せる訳でも、痛みを減らすことが出来る訳でもないのに。
 そんな風にあわあわしていたからだろうか、冗談だよ、と裾にかけていた手を離した。
 あ、いや、傷の確認がしたくなかった訳じゃない、またちゃんと見て、本当に無事かどうかの確認はしたかった、出来るなら。
 でも今の、なんかそういう空気じゃなかったじゃん。
 だって、だってなんか、アルベール、いつもとなんか……なんか違う。
 なんかその……レオンとふたりでいた時みたい。

 いつもの、穏やかな長兄じゃなくて、なんで、よくわかんない、なんで……一緒に居るのはレオンじゃなくて、おれなのに、なんでそんな色っぽいかお、してんの。

「イヴ」
「……っん、」
「勃ってる」
「──……ッ!」

 ぶわ、と一気にかおも躰もあつくなったのを感じた。
 太腿に置かれたアルベールの手も、布越しだというのにあつく感じる。
 違う、これは違う。
 だっておれ、こういうの、全然慣れてなくて。

 ちゃんと知識はある。何にも知りませんなんて言わない。
 でも自分がそういうことをしたいと思ったことはなかった、あの両親のせいでそういうこと、への嫌悪感が少なからずあったから。
 でも男のカラダってのは厄介なもので、出さなきゃ出てしまうのだ。
 定期的に出さなきゃ夢精で下着を汚してしまう、それを家族に……あのひとたちに悟られるのが嫌で、そんなことにならないよう、こっそり処理をするのは伊吹の普通だった。
 一番最後の風呂とか、全員出払った時の留守番時とか。
 ティッシュの処理ひとつ気を付けないといけなかった。

 だからまあその、ちゃんと意識はしていたんだけど、でもこの世界に来て数日、流石にそんなことを考える暇がなかったというか……
 そこまで気が回らなかった。しっかりしなきゃとも思う反面、あまりにも家族に、弟の立場にいることがあたたかくて、満足して。そんな性事情なんてさっぱり忘れてしまっていた。

 そんなところであんなもの、見てしまったから。
 おれが悪いのはわかってんだけど。
 でもその、アルベールもレオンも、ふたりとも何とも言えない色気があって、それにあてられてしまった。
 あの時はアルベールの怪我のことばかりに気を取られていたから。
 今こうやって思い出すと、怪我のことはもう安心していいとわかってるから、その……ああもう、違う、怪我じゃなくて、ふたりの、今目の前にいるアルベールの、あの、この、色気が、頭をぐちゃぐちゃにする。

「さ、最近、触ってなかった、から……えっと、部屋、戻っ……」

 余計なことを言ってしまったと思いつつ、ベッドから立ち上がろうとしたおれの手をアルベールが掴む。
 貧相な躰は、少し引かれただけでベッドに逆戻りさせられてしまった。

「……ジャンとは?そういうの、した?」
「え、え……?そういう、の?」
「触ってもらった?」
「……えっ」

 思い返す。
 婚約者のジャンとは……ジャンとイヴに甘い思い出なんてなかった。
 幼少期に頬にキスがあったくらいだろうか。
 あの時は、イヴも何も考えてなかった。こども同士の、お前と結婚する、に無邪気にうんと返事をしただけだ。

 学園に入ってからは殆ど話もしてなくて、多少気を遣ってイヴが話しかけようとしても、ジャンは良いかおなんてしなくて、その内アンリが隣にいるようになって、傍にいくことも出来なくなって。
 そんなだったから、触れることも、キスも当然なくて、寧ろイヴはジャンとアンリのキスシーンの目撃、なんていらないものしか貰ってない。

 イヴも伊吹も諦めていた、そんな接触なんていらないって思ってた。
 なのに。

 アルベールの視線が、触れたところが、すごくあつい。

「婚約者だもんね?卒業したらすぐ結婚する筈だったし」
「……アル兄さま、よ、予知」
「見えない、……見たくない」

 全てを見ることは出来ないと言っていた。
 それに家族のそういうの、見たくないよな、とも思う。
 思うけど、なんだろう、アルベールの瞳は、そういう意味で言ってるのではない。
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