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マリアに乗って帰るとなると、屋敷に戻るのは馬車なんかよりずっと早い。
何度かアルベールに、傷跡は痛まないかと確認してしまう。
空を飛んだりほんの少しだけど揺れたり、おれがぶつかってしまったり支えられたり、ちょっとしたことで気になってしまって。
その度に、見た目の割に傷も塞がってるし内臓も支障はない、大丈夫だと苦笑しながら返してくれる。
ばれたらこうやって心配されるのがわかっていたから傷跡まで綺麗にしようと思ってただけで、痛みなんかはもうないと。
「それなら良いけど……母さまたちを心配させたくないのはわかるけど、でも、こうやって内緒にされる方が嫌だよ、……知らないの、いやだ」
「……僕はイヴも心配させたくないのだけど」
「じゃあ怪我しないで」
「無理を言う」
「レオンさまが治してくれるってわかってるから無茶をするんでしょ、死んじゃったらレオンさまもどうも出来ないんだからね」
「……気をつけるよ」
「そうして。ほら、マリアだって心配してる。マリアもこれからはおれにも報告してよね、かわりに怒ったげるから」
ついでのように、これからは竜舎に通うからね、とお伺いではなく宣言をする。
アルベールは、通うの、と驚いたかおをして、それから嬉しそうに笑った。
じゃあ一緒に行ったり出来るね、と。
そんな、一緒に登下校出来るね、と喜ぶこどものような。
そう思ったけれど、伊吹が感じていた疎外感、自分がいていいと感じれなかったあの家、その思いと同じようなものをアルベールが抱えていたら、と考えてしまい、思わずアルベールの腕を抱き締めてしまった。
イヴはアルベールが兄になってくれて嬉しかった。エディーもかわいい弟だけれど、それとはまた違う。あの子は守ってあげる対象だから。
頼りになる、優しくて穏やかでだいすきな兄だ。
でもアルベールにとっては血の繋がってない家族で、気に入ってもらえなければ居場所を失うかもしれない恐怖もあって、実力以上に頑張らなきゃって、そうやって努力を、さみしい思いもかなしい思いもたくさんしてきたのかもしれない。
イヴやエディーが甘える度に、実子との違いを感じていたのかもしれない。
おれたちが気にしないでいいとか、愛してるよって言ったって伝えたって、そういうのって、本人は気にしちゃうものなんだってわかる。
……まあ伊吹はそんなこと、言ってもらったことなんてないけど。
でもだからこそ、伝えないといけない。
おれはそれをわかっていて、だからこそ。
だって本当に、アルベールはだいじな家族で、いなくなったり、不安になられたら嫌なんだ、完全に取り除けない不安だとわかってるからこそ、それ以上に伝えないといけないんだ。
「レオンさまがいて良かった」
「……うん」
「アル兄さまがこうやって元気でいてくれて良かった」
「うん」
「竜騎士が危ない仕事なのはわかってるけど、でもだから、気をつけてね、おれもエディーも、母さまも父さまも、アル兄さまが痛かったりかなしかったりするのはいやだよ」
「……うん、イヴたちに心配させないよう気をつけるよ」
心配なんていくらだってするよ、アルベールが学園まで迎えに来た時のように、おれだって慰めたり安心させたりしたいよ。
家族だもん、だいじなひとだもん、少しだって、何かしたくなるんだよ。
そんなのはすぐに伝わることじゃないのもわかってる。素直に受け取ることが難しいのも。
でもおれは絶対アルベールの味方だし、少しでもそれを伝えていきたいと思ってる。
だからアルベールももっとおれのこと、良い弟だと、そう思ってほしい。
空の旅はすぐに終わる。
アルベールを早く休んでと屋敷に押し込めて、マリアにはお駄賃代わりの果物を食べさせる。
うちの庭にも小屋は作ってあるが、竜舎と比べると小さなものだ。それもあってかマリアは竜舎に戻ると言う。
今日は天気が崩れるわ、早く帰らせて正解ね、と残して、自分も戻ってしまった。三つ子に謝っておいてほしいことだけはお願い出来て良かった、また果物を頼んでおこう。
……小屋、作り直してもらったら、アルベールの出勤にあわせてマリアもうちに泊まったり出来ないかな。
竜舎の方が皆いてさみしくないかな。
マリアだってさみしい思いをするのはいやだ。
竜舎に戻るのもいいし、でもたまにはうちで甘えてくれたっていいのに、とも思う。
イヴになって我儘になっちゃったかな、おれ。
家族にしてほしいことがたくさんだ。
屋敷に入ると、母さまが笑顔で迎えてくれた。
アルベールが早く帰ってきたことが、ちゃんと自室で休むと言ったことが嬉しいのだ。
連れて帰ってきてくれてありがとう、少し休めばあの子の顔色も良くなるかしら。夕飯はアルベールとイヴのすきなものにしましょうね、エディーには内緒よ、そうやって笑う母さまは立派な母親だ。
血が繋がってなくたって、イヴの半分は違う世界から来た伊吹だって、それでもこのひとは母親で、それはイヴもアルベールも救ってくれる。
……おれ、この歳でマザコンになるなんて思わなかった。でもそれでもいいや。
マザコンでブラコンで、だってそれってだいすきだって、そう思える家族がいるってことだ、それはしあわせなことなのだ、少なくとも、おれにとっては。
イヴにとって理不尽で嫌なことがたくさんあるこのゲームの世界で、それでもいいと思える程。
何度かアルベールに、傷跡は痛まないかと確認してしまう。
空を飛んだりほんの少しだけど揺れたり、おれがぶつかってしまったり支えられたり、ちょっとしたことで気になってしまって。
その度に、見た目の割に傷も塞がってるし内臓も支障はない、大丈夫だと苦笑しながら返してくれる。
ばれたらこうやって心配されるのがわかっていたから傷跡まで綺麗にしようと思ってただけで、痛みなんかはもうないと。
「それなら良いけど……母さまたちを心配させたくないのはわかるけど、でも、こうやって内緒にされる方が嫌だよ、……知らないの、いやだ」
「……僕はイヴも心配させたくないのだけど」
「じゃあ怪我しないで」
「無理を言う」
「レオンさまが治してくれるってわかってるから無茶をするんでしょ、死んじゃったらレオンさまもどうも出来ないんだからね」
「……気をつけるよ」
「そうして。ほら、マリアだって心配してる。マリアもこれからはおれにも報告してよね、かわりに怒ったげるから」
ついでのように、これからは竜舎に通うからね、とお伺いではなく宣言をする。
アルベールは、通うの、と驚いたかおをして、それから嬉しそうに笑った。
じゃあ一緒に行ったり出来るね、と。
そんな、一緒に登下校出来るね、と喜ぶこどものような。
そう思ったけれど、伊吹が感じていた疎外感、自分がいていいと感じれなかったあの家、その思いと同じようなものをアルベールが抱えていたら、と考えてしまい、思わずアルベールの腕を抱き締めてしまった。
イヴはアルベールが兄になってくれて嬉しかった。エディーもかわいい弟だけれど、それとはまた違う。あの子は守ってあげる対象だから。
頼りになる、優しくて穏やかでだいすきな兄だ。
でもアルベールにとっては血の繋がってない家族で、気に入ってもらえなければ居場所を失うかもしれない恐怖もあって、実力以上に頑張らなきゃって、そうやって努力を、さみしい思いもかなしい思いもたくさんしてきたのかもしれない。
イヴやエディーが甘える度に、実子との違いを感じていたのかもしれない。
おれたちが気にしないでいいとか、愛してるよって言ったって伝えたって、そういうのって、本人は気にしちゃうものなんだってわかる。
……まあ伊吹はそんなこと、言ってもらったことなんてないけど。
でもだからこそ、伝えないといけない。
おれはそれをわかっていて、だからこそ。
だって本当に、アルベールはだいじな家族で、いなくなったり、不安になられたら嫌なんだ、完全に取り除けない不安だとわかってるからこそ、それ以上に伝えないといけないんだ。
「レオンさまがいて良かった」
「……うん」
「アル兄さまがこうやって元気でいてくれて良かった」
「うん」
「竜騎士が危ない仕事なのはわかってるけど、でもだから、気をつけてね、おれもエディーも、母さまも父さまも、アル兄さまが痛かったりかなしかったりするのはいやだよ」
「……うん、イヴたちに心配させないよう気をつけるよ」
心配なんていくらだってするよ、アルベールが学園まで迎えに来た時のように、おれだって慰めたり安心させたりしたいよ。
家族だもん、だいじなひとだもん、少しだって、何かしたくなるんだよ。
そんなのはすぐに伝わることじゃないのもわかってる。素直に受け取ることが難しいのも。
でもおれは絶対アルベールの味方だし、少しでもそれを伝えていきたいと思ってる。
だからアルベールももっとおれのこと、良い弟だと、そう思ってほしい。
空の旅はすぐに終わる。
アルベールを早く休んでと屋敷に押し込めて、マリアにはお駄賃代わりの果物を食べさせる。
うちの庭にも小屋は作ってあるが、竜舎と比べると小さなものだ。それもあってかマリアは竜舎に戻ると言う。
今日は天気が崩れるわ、早く帰らせて正解ね、と残して、自分も戻ってしまった。三つ子に謝っておいてほしいことだけはお願い出来て良かった、また果物を頼んでおこう。
……小屋、作り直してもらったら、アルベールの出勤にあわせてマリアもうちに泊まったり出来ないかな。
竜舎の方が皆いてさみしくないかな。
マリアだってさみしい思いをするのはいやだ。
竜舎に戻るのもいいし、でもたまにはうちで甘えてくれたっていいのに、とも思う。
イヴになって我儘になっちゃったかな、おれ。
家族にしてほしいことがたくさんだ。
屋敷に入ると、母さまが笑顔で迎えてくれた。
アルベールが早く帰ってきたことが、ちゃんと自室で休むと言ったことが嬉しいのだ。
連れて帰ってきてくれてありがとう、少し休めばあの子の顔色も良くなるかしら。夕飯はアルベールとイヴのすきなものにしましょうね、エディーには内緒よ、そうやって笑う母さまは立派な母親だ。
血が繋がってなくたって、イヴの半分は違う世界から来た伊吹だって、それでもこのひとは母親で、それはイヴもアルベールも救ってくれる。
……おれ、この歳でマザコンになるなんて思わなかった。でもそれでもいいや。
マザコンでブラコンで、だってそれってだいすきだって、そう思える家族がいるってことだ、それはしあわせなことなのだ、少なくとも、おれにとっては。
イヴにとって理不尽で嫌なことがたくさんあるこのゲームの世界で、それでもいいと思える程。
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