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びく、と反応して、振り返ってまた肩が震えてしまった。
失礼な話ではあるんだけど、その、後ろにいたひとがあまりにも大きくて。
レオンも並ぶと背が高いと思ったけれど、ひと回り違うんじゃないかと思ってしまった。おれの視線が腹くらいなんじゃないかってくらい。強そう。
「ああ、やっぱりイヴさまだった、アルベールに会いに?」
「あっ、あ、う、は、はい!アルにいさ……え、えと、アルベールはどちらに……」
「はは、いつも通りでいいですよ」
大きな体躯を屈めてにっと笑うのは竜騎士団の副団長だ。
面と向かって話したことはないが、遠くから見かけたことはある。この大きさは間違いない。アルベールと並んでるのを何度か見た。
声もでかいものだから、周りも急にしん、となってしまい注目されてしまう。
……嫌なことを思い出してしまった。
もう大丈夫だと思っていたけれど、大勢の前で婚約破棄を言い渡されたのはまだつい数日前のことだ。視線がこわい。心臓が跳ねた気がした。
ひとの心は読めない、でも言葉にしてしまえば真意はどうでも相手に伝わってしまうのだ。次に口を開いた時になんと言われるかを想像したくもなかった。
俯いたおれを隠すように副団長が前に回り、アルベールを呼びましょうか、と小さく訊く。
それで思い出した。
まだ若く、家柄と能力で成り上がった竜騎士団長、と言われたアルベールを庇ったのはこのひとだった。歳下の彼を色々とサポートしてくれているとアルベール本人から聞いたことがある。憧れているとも。
確かになんというか……ぱっと見はちょっと厳つく見えるかもしれないけれど、すぐに安心出来るひとだ、とわかった。
おれは少しびびり過ぎなのかもしれない。
「アルベールさまでしたらレオンさまが来られて……」
「どこに?」
近くにいた若い騎士が副団長に話し掛けたようだ。
副団長で視界が遮られて声しか聞こえない。親熊に隠れる仔熊の気分になってしまった。
「さあ……行先は聞いてないのですが竜舎の方では」
「だそうです、どうしましょうか、案内させますか?」
「いえ、昨日も来たので……ひとりで大丈夫です」
アルベールは許してくれるだろうと、暫く竜舎に居ようと既に考えていたものだから、馬車をずっと待たせる訳にもいかないと夕方に迎えを頼んで先に帰してしまった。
本当に竜舎に居てくれればいいのだけど。
恐る恐る、竜舎に行っていいか訊くと、イヴさまに私たちの許可はいらないでしょう、どうぞ、と明るい声で返されたことにほっとする。
「マリアがいれば竜舎まですぐだったんですがね、今はいないようだ」
「時間はあるので……歩いていけます」
鍛えた若者の多い竜騎士団の副団長から見れば、おれなんてひょろひょろとした貧相なこどもなのかもしれない。
おれより余程鍛えられているアルベールでさえ騎士団の中では細身の方だ。
頭を下げて竜舎の方へ向かう。
少し歩いて、振り返りもう一度頭を下げると、やはりこども扱いなのか副団長が軽く手を振ってくれた。
耳を澄ましても背後からイヴの陰口は聞こえない。副団長の背後にいた団員も冷たい視線を送るひとはいなかった。
騎士団長の弟か、あれが竜の、と好奇の視線で見るひとはいたが、それくらいなら仕方ないと思う。
……当たり前だけど似てないしな、アルベールとイヴ。
婚約破棄の件はまだ広まってないのだろうか。
実際まだ婚約破棄が正式に決まった訳ではないが、学園では一夜で広がった。
卒業した者や長期休みで自宅に戻った生徒から広がってはない、ということでいいのかな。
婚約破棄自体は構わないのだけれど、ジャンに棄てられたとか、悪評が広がったら困るな、と思う。
だってただのお付き合いの解消という訳ではなく、王族との婚約破棄となると、……ミシャール家に泥を塗ってしまうのでは、と思って。
先手を打って、浮気されたんです、なんて王族の悪評を流す訳にもいかない。
アンリと結婚してしまえば察してくれるひともいるかもしれないけれど。
アルベールとレオンがまだ婚約者止まりなのは、先にイヴとジャンの結婚を済ませてからということだった。
この場合はアンリとジャンが結婚してから、となるのだろうか。
無事にアルベールとレオンが結婚してしまえば、一応ミシャール家と王族の繋がりは出来る。
おれがわざわざ結婚しなくたって、別に……
おれは竜との付き合いを切る気はないし、竜を使って国をどうこうしようとも思ってない。
家族を守る為にこの国を守れる力があるならそれでいい。
誰からも口を挟まれずに、平和に生きていけたら、それで。それだけで十分。っていうか、それがいいというか。
「あつ……」
暫く歩くと流石に暑いし疲れてきた。やっぱり少しくらい体力をつけた方がいいな。
演習場と竜舎は近いとはいっても歩くとそこそこある。
何しろ演習場もでかいが竜舎は更にでかい。大型の竜たちが雨風を凌げる建物だ、馬鹿みたいにでかい。
竜舎をぐるっと一周するだけでぐったりするような大きさだ。昨日はそれをエディーを抱えたまま一周するという体験をした。
竜舎に着いて、いちばんに目につくのはマリアの寝床だ。
演習場にいなかったからもしかして、と思ったけれど、残念なことに彼女はいなかった。
アルベールが竜舎にいて、一緒に行動しているのなら探さなくても見つけられる筈だから、アルベールも竜舎にいないか、若しくはマリアだけがどこかに行っているか。
……一応、マリアはいなくてもアルベールはいるかもしれないから、と竜舎を回ることにした。
失礼な話ではあるんだけど、その、後ろにいたひとがあまりにも大きくて。
レオンも並ぶと背が高いと思ったけれど、ひと回り違うんじゃないかと思ってしまった。おれの視線が腹くらいなんじゃないかってくらい。強そう。
「ああ、やっぱりイヴさまだった、アルベールに会いに?」
「あっ、あ、う、は、はい!アルにいさ……え、えと、アルベールはどちらに……」
「はは、いつも通りでいいですよ」
大きな体躯を屈めてにっと笑うのは竜騎士団の副団長だ。
面と向かって話したことはないが、遠くから見かけたことはある。この大きさは間違いない。アルベールと並んでるのを何度か見た。
声もでかいものだから、周りも急にしん、となってしまい注目されてしまう。
……嫌なことを思い出してしまった。
もう大丈夫だと思っていたけれど、大勢の前で婚約破棄を言い渡されたのはまだつい数日前のことだ。視線がこわい。心臓が跳ねた気がした。
ひとの心は読めない、でも言葉にしてしまえば真意はどうでも相手に伝わってしまうのだ。次に口を開いた時になんと言われるかを想像したくもなかった。
俯いたおれを隠すように副団長が前に回り、アルベールを呼びましょうか、と小さく訊く。
それで思い出した。
まだ若く、家柄と能力で成り上がった竜騎士団長、と言われたアルベールを庇ったのはこのひとだった。歳下の彼を色々とサポートしてくれているとアルベール本人から聞いたことがある。憧れているとも。
確かになんというか……ぱっと見はちょっと厳つく見えるかもしれないけれど、すぐに安心出来るひとだ、とわかった。
おれは少しびびり過ぎなのかもしれない。
「アルベールさまでしたらレオンさまが来られて……」
「どこに?」
近くにいた若い騎士が副団長に話し掛けたようだ。
副団長で視界が遮られて声しか聞こえない。親熊に隠れる仔熊の気分になってしまった。
「さあ……行先は聞いてないのですが竜舎の方では」
「だそうです、どうしましょうか、案内させますか?」
「いえ、昨日も来たので……ひとりで大丈夫です」
アルベールは許してくれるだろうと、暫く竜舎に居ようと既に考えていたものだから、馬車をずっと待たせる訳にもいかないと夕方に迎えを頼んで先に帰してしまった。
本当に竜舎に居てくれればいいのだけど。
恐る恐る、竜舎に行っていいか訊くと、イヴさまに私たちの許可はいらないでしょう、どうぞ、と明るい声で返されたことにほっとする。
「マリアがいれば竜舎まですぐだったんですがね、今はいないようだ」
「時間はあるので……歩いていけます」
鍛えた若者の多い竜騎士団の副団長から見れば、おれなんてひょろひょろとした貧相なこどもなのかもしれない。
おれより余程鍛えられているアルベールでさえ騎士団の中では細身の方だ。
頭を下げて竜舎の方へ向かう。
少し歩いて、振り返りもう一度頭を下げると、やはりこども扱いなのか副団長が軽く手を振ってくれた。
耳を澄ましても背後からイヴの陰口は聞こえない。副団長の背後にいた団員も冷たい視線を送るひとはいなかった。
騎士団長の弟か、あれが竜の、と好奇の視線で見るひとはいたが、それくらいなら仕方ないと思う。
……当たり前だけど似てないしな、アルベールとイヴ。
婚約破棄の件はまだ広まってないのだろうか。
実際まだ婚約破棄が正式に決まった訳ではないが、学園では一夜で広がった。
卒業した者や長期休みで自宅に戻った生徒から広がってはない、ということでいいのかな。
婚約破棄自体は構わないのだけれど、ジャンに棄てられたとか、悪評が広がったら困るな、と思う。
だってただのお付き合いの解消という訳ではなく、王族との婚約破棄となると、……ミシャール家に泥を塗ってしまうのでは、と思って。
先手を打って、浮気されたんです、なんて王族の悪評を流す訳にもいかない。
アンリと結婚してしまえば察してくれるひともいるかもしれないけれど。
アルベールとレオンがまだ婚約者止まりなのは、先にイヴとジャンの結婚を済ませてからということだった。
この場合はアンリとジャンが結婚してから、となるのだろうか。
無事にアルベールとレオンが結婚してしまえば、一応ミシャール家と王族の繋がりは出来る。
おれがわざわざ結婚しなくたって、別に……
おれは竜との付き合いを切る気はないし、竜を使って国をどうこうしようとも思ってない。
家族を守る為にこの国を守れる力があるならそれでいい。
誰からも口を挟まれずに、平和に生きていけたら、それで。それだけで十分。っていうか、それがいいというか。
「あつ……」
暫く歩くと流石に暑いし疲れてきた。やっぱり少しくらい体力をつけた方がいいな。
演習場と竜舎は近いとはいっても歩くとそこそこある。
何しろ演習場もでかいが竜舎は更にでかい。大型の竜たちが雨風を凌げる建物だ、馬鹿みたいにでかい。
竜舎をぐるっと一周するだけでぐったりするような大きさだ。昨日はそれをエディーを抱えたまま一周するという体験をした。
竜舎に着いて、いちばんに目につくのはマリアの寝床だ。
演習場にいなかったからもしかして、と思ったけれど、残念なことに彼女はいなかった。
アルベールが竜舎にいて、一緒に行動しているのなら探さなくても見つけられる筈だから、アルベールも竜舎にいないか、若しくはマリアだけがどこかに行っているか。
……一応、マリアはいなくてもアルベールはいるかもしれないから、と竜舎を回ることにした。
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