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振り返ろうとしたけれど、木箱に上半身を突っ込んで足が浮いている今の状況ですぐに振り返ることが出来なかった。
え、誰、恥ずかしい、そう思うものの、焦るとバランスを崩しそうで元に戻るのも中々難しい。
「危ないな、アルベールはどうした?」
腰を支えて、そのまま木箱から救出された。
ついでのように長い手足で中の果物を数個取り出しおれに手渡すと、久しいな、と口元を綻ばせる。
陽に透けてきらきらとする銀髪はまさにゲームの世界から飛び出したようだ。
瞳は宝石のような紫。
自分や両親、エディーの明るい髪や瞳、アルベールの黒髪黒眼に慣れてしまっていたけれど、そうだ、竜や魔法だけじゃなくって、人間だって人間離れしてるんだった、と思い出してしまった。
今こうやって自分の目の前で生きてるひとにそう思うのは失礼な話かもしれないが。
「レオンさま……」
「少しはアルベールに似たかと思ったがそうでもなかったな」
「……」
む、と唇を尖らせてしまい、慌てて口元を隠した。
イヴとアルベールが血が繋がってないことをこのひとは知っている筈だというのに。
「何でこんなところに」
「婚約者に会いに来たら悪いか?」
「う」
少し意地悪な表情でおれにもうひとつ葡萄を持たせると、その指先に唇を落とす。
これは外国の挨拶だ、いやなんかちょっと違うけどこれは手のひらに葡萄があるから手の甲に挨拶が出来ないだけで、これくらい、イヴは慣れてる筈だ、と硬直したままそれを受け入れた。
そんなおれに、悪かった、と今度は眉を下げて苦笑をするのはレオン・ドゥ・デキュジス、この国の第一王子であり、アルベールの婚約者だ。
……男同士だとか、次男のイヴと第二王子のジャンが婚約をしていたのにそのきょうだいも?なんて突っ込みはしない。ここは元より設定のいかれたBLゲームの世界なのだから。
「今日の用事はイヴに会うこと」
「……おれに、ですか?」
「ああ……まずはこの中身を全部そちらのお嬢さまにプレゼントしようか」
ぱちん、と音がしたと思うと、木箱の底に残っていた果物がふわふわと浮き、マリアの元まで飛んでいく。
少し不満そうなかおをして、それでもマリアはそれらを全て飲み込んだ。
多分おれが口に持っていかなかったことに拗ねているんだと思う。
竜は頭がいい。
嘘はそう吐かないが、本心を隠したりはするから……そうするとやっぱり心が読める訳ではないおれは都度察するしかないのである。
「よし」
木箱をばらし、燃やしてしまったレオンはおれに笑みを向けた。
豊富な魔力と繊細な魔法。
殆どの人間が簡単な生活魔法しか使えない中で、それは王族の証のようなものだ。
彼はゲームの攻略対象ではなかった。だから伊吹として知ってる内容は、アルベールの婚約者だという立場くらい。
それでも、イヴの幼少期はジャンよりレオンに構ってもらうことが多かった。
まだアルベールが義兄となる前、早くに能力を開花したイヴは図鑑や本を読むことがすきだったが、同じく幼いジャンにはまだ早かったようで、五つ上のレオンが付き合ってくれることが多かったのだ。
まだはっきりとイヴの力が国を守るものになり得るとわかってはいなかった。
でも母親の能力のこともあって、様子をみようとなっていた。
その為に王室の書物庫へ入ることを許されていたのだけれど、こどもがひとりでうろうろするようなところでもなければ、幼いイヴが広い書物庫で目当ての図鑑を見つけられる訳もなく、自然と付き添う係がレオンになっていた。
後から思うと、レオンもその方が気が楽だったんだと思う。
今でこそ不遜な態度を取っていられるレオンだが、当時は居場所がなかった。いや、当時のイヴはそんなこと知らなかったけど。
大きくなってやっと知ることになる、レオンは妾の子だった。
第一王子の、良くしてくれたレオンではなく、第二王子のジャンとの婚約は結局はそこが大きいのだろう。
国を守る力のあるイヴを手元に置く為の婚約。ジャンがイヴを選んだ。それにレオンは反対出来ない。王太子はジャンだ。
竜騎士団長としても、能力としてもアルベールの力も貴重だった。
それを囲い込む為の第一王子との婚約。
それでこの国は暫く安泰だろう、と皆思っていただろう。
ジャンがイヴに婚約破棄を言い渡すまで。
……王室からの従者を追い返したと両親は言っていた。
なのでまだ厳密には破棄されてる状態ではないと思う。おれはもう撤回するつもりはないんだけど。
「ジャンさまとの婚約の件でしょうか」
「……そうだ」
「わざわざレオンさまが?」
「使いは帰されるし、ジャンを出すと悪化するしかないだろう?」
「あの、おれたちがどうこう言う問題じゃないとはわかってるんですけど、もう、その、おれは……」
ジャンと結婚したくない、なんて、言い方によっては不敬になるかと口篭っていると、婚約破棄について撤回させる気はない、とレオンははっきりと口にした。
「……イヴにだけ我慢させる気はない、このまま破棄をしなかったとて、傷付くのはイヴだけだろう」
確かにこのまま結婚したってどうせジャンはアンリの元へ行くのはわかっている。
ジャンに愛されたい訳ではないが、不遇な扱いを一生受けるのはごめんだったし、何よりやっぱり手に入れたばかりの夢のような家族から離れたくなかった。
え、誰、恥ずかしい、そう思うものの、焦るとバランスを崩しそうで元に戻るのも中々難しい。
「危ないな、アルベールはどうした?」
腰を支えて、そのまま木箱から救出された。
ついでのように長い手足で中の果物を数個取り出しおれに手渡すと、久しいな、と口元を綻ばせる。
陽に透けてきらきらとする銀髪はまさにゲームの世界から飛び出したようだ。
瞳は宝石のような紫。
自分や両親、エディーの明るい髪や瞳、アルベールの黒髪黒眼に慣れてしまっていたけれど、そうだ、竜や魔法だけじゃなくって、人間だって人間離れしてるんだった、と思い出してしまった。
今こうやって自分の目の前で生きてるひとにそう思うのは失礼な話かもしれないが。
「レオンさま……」
「少しはアルベールに似たかと思ったがそうでもなかったな」
「……」
む、と唇を尖らせてしまい、慌てて口元を隠した。
イヴとアルベールが血が繋がってないことをこのひとは知っている筈だというのに。
「何でこんなところに」
「婚約者に会いに来たら悪いか?」
「う」
少し意地悪な表情でおれにもうひとつ葡萄を持たせると、その指先に唇を落とす。
これは外国の挨拶だ、いやなんかちょっと違うけどこれは手のひらに葡萄があるから手の甲に挨拶が出来ないだけで、これくらい、イヴは慣れてる筈だ、と硬直したままそれを受け入れた。
そんなおれに、悪かった、と今度は眉を下げて苦笑をするのはレオン・ドゥ・デキュジス、この国の第一王子であり、アルベールの婚約者だ。
……男同士だとか、次男のイヴと第二王子のジャンが婚約をしていたのにそのきょうだいも?なんて突っ込みはしない。ここは元より設定のいかれたBLゲームの世界なのだから。
「今日の用事はイヴに会うこと」
「……おれに、ですか?」
「ああ……まずはこの中身を全部そちらのお嬢さまにプレゼントしようか」
ぱちん、と音がしたと思うと、木箱の底に残っていた果物がふわふわと浮き、マリアの元まで飛んでいく。
少し不満そうなかおをして、それでもマリアはそれらを全て飲み込んだ。
多分おれが口に持っていかなかったことに拗ねているんだと思う。
竜は頭がいい。
嘘はそう吐かないが、本心を隠したりはするから……そうするとやっぱり心が読める訳ではないおれは都度察するしかないのである。
「よし」
木箱をばらし、燃やしてしまったレオンはおれに笑みを向けた。
豊富な魔力と繊細な魔法。
殆どの人間が簡単な生活魔法しか使えない中で、それは王族の証のようなものだ。
彼はゲームの攻略対象ではなかった。だから伊吹として知ってる内容は、アルベールの婚約者だという立場くらい。
それでも、イヴの幼少期はジャンよりレオンに構ってもらうことが多かった。
まだアルベールが義兄となる前、早くに能力を開花したイヴは図鑑や本を読むことがすきだったが、同じく幼いジャンにはまだ早かったようで、五つ上のレオンが付き合ってくれることが多かったのだ。
まだはっきりとイヴの力が国を守るものになり得るとわかってはいなかった。
でも母親の能力のこともあって、様子をみようとなっていた。
その為に王室の書物庫へ入ることを許されていたのだけれど、こどもがひとりでうろうろするようなところでもなければ、幼いイヴが広い書物庫で目当ての図鑑を見つけられる訳もなく、自然と付き添う係がレオンになっていた。
後から思うと、レオンもその方が気が楽だったんだと思う。
今でこそ不遜な態度を取っていられるレオンだが、当時は居場所がなかった。いや、当時のイヴはそんなこと知らなかったけど。
大きくなってやっと知ることになる、レオンは妾の子だった。
第一王子の、良くしてくれたレオンではなく、第二王子のジャンとの婚約は結局はそこが大きいのだろう。
国を守る力のあるイヴを手元に置く為の婚約。ジャンがイヴを選んだ。それにレオンは反対出来ない。王太子はジャンだ。
竜騎士団長としても、能力としてもアルベールの力も貴重だった。
それを囲い込む為の第一王子との婚約。
それでこの国は暫く安泰だろう、と皆思っていただろう。
ジャンがイヴに婚約破棄を言い渡すまで。
……王室からの従者を追い返したと両親は言っていた。
なのでまだ厳密には破棄されてる状態ではないと思う。おれはもう撤回するつもりはないんだけど。
「ジャンさまとの婚約の件でしょうか」
「……そうだ」
「わざわざレオンさまが?」
「使いは帰されるし、ジャンを出すと悪化するしかないだろう?」
「あの、おれたちがどうこう言う問題じゃないとはわかってるんですけど、もう、その、おれは……」
ジャンと結婚したくない、なんて、言い方によっては不敬になるかと口篭っていると、婚約破棄について撤回させる気はない、とレオンははっきりと口にした。
「……イヴにだけ我慢させる気はない、このまま破棄をしなかったとて、傷付くのはイヴだけだろう」
確かにこのまま結婚したってどうせジャンはアンリの元へ行くのはわかっている。
ジャンに愛されたい訳ではないが、不遇な扱いを一生受けるのはごめんだったし、何よりやっぱり手に入れたばかりの夢のような家族から離れたくなかった。
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