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マリアは初めてイヴが卵から孵した竜だった。
竜の卵なんて滅多に見つけられないもので、本来は個人が竜を育てることは禁止されているのだけれど、イヴの特殊能力がわかって、竜への相性がいいことで国から特例で許可が下りたのだ。
抱える程の卵だった。一緒に寝て、あたためて、話しかけて、こどもの考えうる全てで丁寧に世話をした。
卵から孵った時は少し大きめの猫くらいだっただろうか。
その後も暫くは一緒に寝て一緒に食事をして、家にいる間はずっと傍にいた。
竜の寿命は長いが、大人になるまでの成長は早い。すぐに室内では無理な大きさになって、庭に小屋を作って貰って。
アルベールが竜騎士になった時に、マリアの意思も確認して、アルベールの相棒になった。
ひとを数人乗せられる大きな背に、弓も銃も通用しない硬い鱗。飛行能力も高く繊細。鋭い爪はひとには向けないし、基本的には穏やかな方。……寮まで迎えに来た時は怒っていたけど。
本気を出せば羽ばたきひとつで村くらいは飛ばせるくらいの風圧が出せるらしいけれど、それは見たことがない。おれたちを乗せてするようなことではないかららしい。
種族は違えど、マリアにとってイヴとアルベールは家族だ。
イヴの頼んだ、アルベールを守ってというお願いをちゃんと聞いてくれている。
アルベールもイヴのように言葉は通じなくても、流石相棒、恐ろしいくらいに息があっている。
それからは竜の卵というのは一度しか見つけられていない。
それが三つ子。
三つ子といっても無事だったのがみっつだけ、というだけである。
基本的に竜は卵を一度にひとつしか産まない。生涯にひとつ、が殆どだ。
三つ子の竜は特殊というよりも、種族でいうと竜だけど、どちらかというと見た目や性質は鳥に近い。頭のいい鳥のようなもの。
幾つか産んだらしい卵は攻撃的な動物にでも襲われたのだろう、おそらく親であろう竜と一緒に潰されていた。
どうにか無事だった卵を持ち帰ってきた者が国に報告し、当時イヴは学園生活を送っていたもので、親もいないしで仕方ないと竜騎士団が面倒を見ている。
そんな訳で戦闘能力の低い彼女たちは竜舎におく必要もないのだけれどもそのまま竜舎にいる訳だ。
周りには親のように世話を焼く人間も竜もいるし、今更自然に放ってしまっても、ひとの手が入った弱い個体は生き延びるのも難しいだろうから……というのは建前で、自分たちで育てた小さな竜がかわいいだけなのだ、皆。
「あ、マリア」
「やっぱり戻ってたね」
ぴいぴい鳴く声についこどものように手を振ってしまった。
先程まで飛び回っていたというが、あの体躯を竜舎に押し込めてるのがかわいい。
あんなに大きいのに、おれが来るのを躰を小さくして待っていたのが愛おしい。
「今日も良い子だ」
「エディーがいるからかな、いつもより澄ましてるね」
僕はエディーを見ておくよ、とアルベールは彼を抱いたまま、三つ子の方へ向かっていく。
単純にエディーが余計なことをしないように面倒をみてくれてるんだろうけれど、おれとマリアをふたりにしようともしてくれているんだろう。
マリアは、イヴがアルベールを守ってと言ったからか、それとも相棒だからか、過度な甘え方はしない。
我儘な娘のようになるのはイヴの前だけだった。竜はプライドが高い生き物だから、そう甘えるところも信頼されてるようで嬉しかった。
『落ち着いた?』
「うん?あ、こっちに戻ってきてからってこと?」
『そう』
「そうだね、落ち着いたかな……来るの遅くなってごめんね」
『本当よ、でもアルも忙しそうだったし仕方ないわよね』
いつものように喉を猫のように鳴らしながらそっと額を寄せる。
その額を撫でると、気持ちよさそうに瞳を細めた。
この大きさが竜騎士団としては心強いんだろうけれど、甘えん坊の姿を見てしまうと、もっと小さければこどもの時のように抱き締めてあげられたのに、と思ってしまう。
「今日はね、果物持ってきたんだ、沢山。すきだもんね、果物」
『果実園を荒らす訳にはいかないものね』
竜は何でも食べることは出来るが、逆に食べなくても生きていける生物でもある。
口にするのは嗜好品のようなもの。
この体躯で満足するまで食べるとなると山ひとつ分の果物や野菜、生き物がいなくなってしまいそうだから、魔力でどうになる世界で良かったと思う。流石空想上の生き物。
「これは全部マリアの分」
『うれしい』
木箱の蓋を開けると、少し崩れてしまったものもあるのか屋敷で開けた時よりも強く甘い香りを感じた。
開かれた口の中に幾つか林檎を放り込む。
ばきばきごりごりむしゃむしゃ、そんな音に恐怖を感じないのは、イヴが慣れているからかもしれない。
西瓜が入っているのを見た時は、どうやって食べるんだ?と思ったけれど、そんな心配も無駄だった。
この口なら西瓜が何個でも入るどころか、おれが丸呑みされたとて彼女たちからしたら風邪薬を飲み込むくらい容易いものなんだろう。
美味しい、もっとちょうだいと強請るマリアに、ちょっと待ってと大きな木箱に躰を半分突っ込む。
底の方まで手が届かない。これ、もうひっくり返した方が……いやでもこんな大きな木箱抱える力はない。
ひっくり返せるような魔法なんてあったっけ、と考えていると、後ろから笑い声が聞こえた。
竜の卵なんて滅多に見つけられないもので、本来は個人が竜を育てることは禁止されているのだけれど、イヴの特殊能力がわかって、竜への相性がいいことで国から特例で許可が下りたのだ。
抱える程の卵だった。一緒に寝て、あたためて、話しかけて、こどもの考えうる全てで丁寧に世話をした。
卵から孵った時は少し大きめの猫くらいだっただろうか。
その後も暫くは一緒に寝て一緒に食事をして、家にいる間はずっと傍にいた。
竜の寿命は長いが、大人になるまでの成長は早い。すぐに室内では無理な大きさになって、庭に小屋を作って貰って。
アルベールが竜騎士になった時に、マリアの意思も確認して、アルベールの相棒になった。
ひとを数人乗せられる大きな背に、弓も銃も通用しない硬い鱗。飛行能力も高く繊細。鋭い爪はひとには向けないし、基本的には穏やかな方。……寮まで迎えに来た時は怒っていたけど。
本気を出せば羽ばたきひとつで村くらいは飛ばせるくらいの風圧が出せるらしいけれど、それは見たことがない。おれたちを乗せてするようなことではないかららしい。
種族は違えど、マリアにとってイヴとアルベールは家族だ。
イヴの頼んだ、アルベールを守ってというお願いをちゃんと聞いてくれている。
アルベールもイヴのように言葉は通じなくても、流石相棒、恐ろしいくらいに息があっている。
それからは竜の卵というのは一度しか見つけられていない。
それが三つ子。
三つ子といっても無事だったのがみっつだけ、というだけである。
基本的に竜は卵を一度にひとつしか産まない。生涯にひとつ、が殆どだ。
三つ子の竜は特殊というよりも、種族でいうと竜だけど、どちらかというと見た目や性質は鳥に近い。頭のいい鳥のようなもの。
幾つか産んだらしい卵は攻撃的な動物にでも襲われたのだろう、おそらく親であろう竜と一緒に潰されていた。
どうにか無事だった卵を持ち帰ってきた者が国に報告し、当時イヴは学園生活を送っていたもので、親もいないしで仕方ないと竜騎士団が面倒を見ている。
そんな訳で戦闘能力の低い彼女たちは竜舎におく必要もないのだけれどもそのまま竜舎にいる訳だ。
周りには親のように世話を焼く人間も竜もいるし、今更自然に放ってしまっても、ひとの手が入った弱い個体は生き延びるのも難しいだろうから……というのは建前で、自分たちで育てた小さな竜がかわいいだけなのだ、皆。
「あ、マリア」
「やっぱり戻ってたね」
ぴいぴい鳴く声についこどものように手を振ってしまった。
先程まで飛び回っていたというが、あの体躯を竜舎に押し込めてるのがかわいい。
あんなに大きいのに、おれが来るのを躰を小さくして待っていたのが愛おしい。
「今日も良い子だ」
「エディーがいるからかな、いつもより澄ましてるね」
僕はエディーを見ておくよ、とアルベールは彼を抱いたまま、三つ子の方へ向かっていく。
単純にエディーが余計なことをしないように面倒をみてくれてるんだろうけれど、おれとマリアをふたりにしようともしてくれているんだろう。
マリアは、イヴがアルベールを守ってと言ったからか、それとも相棒だからか、過度な甘え方はしない。
我儘な娘のようになるのはイヴの前だけだった。竜はプライドが高い生き物だから、そう甘えるところも信頼されてるようで嬉しかった。
『落ち着いた?』
「うん?あ、こっちに戻ってきてからってこと?」
『そう』
「そうだね、落ち着いたかな……来るの遅くなってごめんね」
『本当よ、でもアルも忙しそうだったし仕方ないわよね』
いつものように喉を猫のように鳴らしながらそっと額を寄せる。
その額を撫でると、気持ちよさそうに瞳を細めた。
この大きさが竜騎士団としては心強いんだろうけれど、甘えん坊の姿を見てしまうと、もっと小さければこどもの時のように抱き締めてあげられたのに、と思ってしまう。
「今日はね、果物持ってきたんだ、沢山。すきだもんね、果物」
『果実園を荒らす訳にはいかないものね』
竜は何でも食べることは出来るが、逆に食べなくても生きていける生物でもある。
口にするのは嗜好品のようなもの。
この体躯で満足するまで食べるとなると山ひとつ分の果物や野菜、生き物がいなくなってしまいそうだから、魔力でどうになる世界で良かったと思う。流石空想上の生き物。
「これは全部マリアの分」
『うれしい』
木箱の蓋を開けると、少し崩れてしまったものもあるのか屋敷で開けた時よりも強く甘い香りを感じた。
開かれた口の中に幾つか林檎を放り込む。
ばきばきごりごりむしゃむしゃ、そんな音に恐怖を感じないのは、イヴが慣れているからかもしれない。
西瓜が入っているのを見た時は、どうやって食べるんだ?と思ったけれど、そんな心配も無駄だった。
この口なら西瓜が何個でも入るどころか、おれが丸呑みされたとて彼女たちからしたら風邪薬を飲み込むくらい容易いものなんだろう。
美味しい、もっとちょうだいと強請るマリアに、ちょっと待ってと大きな木箱に躰を半分突っ込む。
底の方まで手が届かない。これ、もうひっくり返した方が……いやでもこんな大きな木箱抱える力はない。
ひっくり返せるような魔法なんてあったっけ、と考えていると、後ろから笑い声が聞こえた。
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