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「イヴ!エディーも!来るなら連絡のひとつでも……」
竜舎と竜騎士団の演習場は屋敷から馬車でそう遠くない。
多分それはイヴと竜への配慮もあるのだと思う。
わざわざおれとエディーを出迎えたアルベールはお小言を零そうとして、すぐに気付いたように口を閉じた。
母さまの能力は生き物を使役すること。
イヴのように会話ではなく、軽い命令程度なら従わせることが出来る。イヴよりも強い能力に感じるが、その力には制限があった。
相手を従わせるというのは強い力だ、その生き物の大きさによって必要な魔力量が増え、体調を崩してしまうこともある。とても竜を従える程ではなかった。
母さまがよく使うのは鳥だった。向こうの世界と違い連絡手段が限られているこの世界では、メモ程度の交換でも十分なことも多い。
でもそれはアルベールには通じない。
母さまが連絡を寄越さなくたって、誰かを見ればおれたちが来ることの予知は出来ただろう。
現に今こうやって出迎えてくれている。
「僕の予知は見ようとしなければ見えないんだけどね」
「でもこうやって迎えに来てくれたってことは見ようとしたってことでしょ?」
「……そりゃあお兄さまは君たちのことをいつも考えてるよ」
抱え上げたエディーの頬に唇を落とす。
きゃあきゃあと喜ぶ彼を抱えたまま、マリアのところに行くのだろう、とおれの腰へ腕を回し、また馬車へ乗せられてしまう。
竜舎までそう離れてはいないが、今日は大量の竜たちへのお土産があるので歩いては行けないのだ。
馬車に揺られ、並んだ優しいかおを見て思う、エディーとアルベールは似ていない。
アルベールは騎士団長をしているとは思えない程綺麗な顔立ちで中性的、美人だといって差し支えない。
おれやエディーも……自分でいうのも男として悔しい話ではあるが、顔立ち自体は綺麗な方だと思う。
ただ、おれとエディーは両親、特に母さまと近い髪色と瞳の色をしているが、アルベールの髪は黒く、瞳も黒に近い。
似てない。それもその筈、アルベールとおれたちは血が繋がっていないのだ。
アルベールは孤児だったらしい。
この世界では十を目安に能力が開花する。
稀に現れる、貴族ではない魔力持ち、それはアルベールもだった。
その能力は珍しく、予知なんて危なっかしいものはすぐに国で管理すべきだと保護され、その保護家庭に選ばれたのがミシャール家だ。
アルベールよりみっつ年下だったイヴは、目安よりも大分早く能力を開花させていて、その時からその能力を懸念していた母さまが強くアルベールを養子にすることを推したらしい。
イヴにとっては急に現れた兄だけれど、その仲は至って良好だ。最初は不安気だったアルベールも、徐々に慣れて、今ではどこに出しても恥ずかしくないブラコン……長男に育った。
優しくて強くて愛情深い、自慢の兄。
エディーはまだ血が繋がってないことを知らないが、もし知る時が来たらおれはアルベールの味方をしようと思う。エディーが拒絶するとも思わないけれど。
「マリアは竜舎にいるの?」
「先程まで飛び回っていたようだけれど、そっちに行くのを見たよ」
「良かった、いちばん最初に会いに行かないと不機嫌になるもんね」
「マリアはイヴのいちばんは自分だと思ってるからなあ」
勿論竜の中で、と悪戯っぽく笑うアルベールについ口元を緩めてしまった。
それに気付いたアルベールはさらに瞳を細めて、眩しそうにおれを見る。
おれが伊吹でなくなってまだ数日、笑う表情筋なんて殆ど使ってなかった筈なのに、こちらの家族といると、自然と笑顔を零してしまう気がする。
だって皆おれを見て優しく笑うんだもの。
「……アル兄さま、鍛錬抜けて大丈夫なの」
「かわいいふたりがここに来てるというのに?」
「団長でしょ」
「休憩時間に抜けるくらい構わないさ」
「……わざと休憩時間にあててるでしょ」
にこ、と笑うかおに騙される。
本当に、綺麗なかおしてるんだよなあ、笑顔が似合う。
直視するのが恥ずかしくなっちゃうんだよね、まだ慣れない。出てくるひと出てくるひと皆かおが整ってるんだもん、流石ゲームの世界。エディーの愛らしさが助かる程に皆眩しい。
もう着く?とかおを上げたエディーに、もうそろそろだよ、と伝えるアルベールは兄のかおだ。
血が繋がらなくたって、彼はとっくにおれたちの長兄で家族なのである。
穏やかなところや口調は母さまに似ている。
「えでぃもおやつあげていーい?」
「そうだなあ……あの三つ子ならエディーの小さなおててでも啄みはしないだろうけれど」
「やんちゃな子だけど噛むのはだめって口酸っぱく教えたからね」
竜舎にいる竜たちは基本的に大人しい。
雨風が防げて食事も出る、立ち寄るのは竜騎士かおれくらいのものなので、好奇の目に晒されることもなく落ち着けるということでそこに大人しくいてくれるような竜ばかりだ。
マリアのように飛べる者もちゃんと帰ってくるし、竜舎なんて簡単に壊せる力を持っていてもそうしない良い子たちばかりだった。
新参者の三つ子の竜はどちらかというと戦争には向いてない。いや、全然向いてない。
よく鳴きよく食べよく眠る、まだまだこどもの竜だ。
あくまでも「話せる」能力のおれに、赤ちゃんの言葉はわからない。
人間の赤ちゃんと一緒で、ぷうぷうきゅるきゅる口にしたところで意味のある言語にならない。こちらが察するしかないのだ。
そんな赤ちゃん竜だった三つ子は漸く意思疎通が上手くいくようになって、かわいい盛りでもある。
まだぽわぽわした産毛と鶏程度にしか飛べない様がかわいいんだこれが。
竜舎と竜騎士団の演習場は屋敷から馬車でそう遠くない。
多分それはイヴと竜への配慮もあるのだと思う。
わざわざおれとエディーを出迎えたアルベールはお小言を零そうとして、すぐに気付いたように口を閉じた。
母さまの能力は生き物を使役すること。
イヴのように会話ではなく、軽い命令程度なら従わせることが出来る。イヴよりも強い能力に感じるが、その力には制限があった。
相手を従わせるというのは強い力だ、その生き物の大きさによって必要な魔力量が増え、体調を崩してしまうこともある。とても竜を従える程ではなかった。
母さまがよく使うのは鳥だった。向こうの世界と違い連絡手段が限られているこの世界では、メモ程度の交換でも十分なことも多い。
でもそれはアルベールには通じない。
母さまが連絡を寄越さなくたって、誰かを見ればおれたちが来ることの予知は出来ただろう。
現に今こうやって出迎えてくれている。
「僕の予知は見ようとしなければ見えないんだけどね」
「でもこうやって迎えに来てくれたってことは見ようとしたってことでしょ?」
「……そりゃあお兄さまは君たちのことをいつも考えてるよ」
抱え上げたエディーの頬に唇を落とす。
きゃあきゃあと喜ぶ彼を抱えたまま、マリアのところに行くのだろう、とおれの腰へ腕を回し、また馬車へ乗せられてしまう。
竜舎までそう離れてはいないが、今日は大量の竜たちへのお土産があるので歩いては行けないのだ。
馬車に揺られ、並んだ優しいかおを見て思う、エディーとアルベールは似ていない。
アルベールは騎士団長をしているとは思えない程綺麗な顔立ちで中性的、美人だといって差し支えない。
おれやエディーも……自分でいうのも男として悔しい話ではあるが、顔立ち自体は綺麗な方だと思う。
ただ、おれとエディーは両親、特に母さまと近い髪色と瞳の色をしているが、アルベールの髪は黒く、瞳も黒に近い。
似てない。それもその筈、アルベールとおれたちは血が繋がっていないのだ。
アルベールは孤児だったらしい。
この世界では十を目安に能力が開花する。
稀に現れる、貴族ではない魔力持ち、それはアルベールもだった。
その能力は珍しく、予知なんて危なっかしいものはすぐに国で管理すべきだと保護され、その保護家庭に選ばれたのがミシャール家だ。
アルベールよりみっつ年下だったイヴは、目安よりも大分早く能力を開花させていて、その時からその能力を懸念していた母さまが強くアルベールを養子にすることを推したらしい。
イヴにとっては急に現れた兄だけれど、その仲は至って良好だ。最初は不安気だったアルベールも、徐々に慣れて、今ではどこに出しても恥ずかしくないブラコン……長男に育った。
優しくて強くて愛情深い、自慢の兄。
エディーはまだ血が繋がってないことを知らないが、もし知る時が来たらおれはアルベールの味方をしようと思う。エディーが拒絶するとも思わないけれど。
「マリアは竜舎にいるの?」
「先程まで飛び回っていたようだけれど、そっちに行くのを見たよ」
「良かった、いちばん最初に会いに行かないと不機嫌になるもんね」
「マリアはイヴのいちばんは自分だと思ってるからなあ」
勿論竜の中で、と悪戯っぽく笑うアルベールについ口元を緩めてしまった。
それに気付いたアルベールはさらに瞳を細めて、眩しそうにおれを見る。
おれが伊吹でなくなってまだ数日、笑う表情筋なんて殆ど使ってなかった筈なのに、こちらの家族といると、自然と笑顔を零してしまう気がする。
だって皆おれを見て優しく笑うんだもの。
「……アル兄さま、鍛錬抜けて大丈夫なの」
「かわいいふたりがここに来てるというのに?」
「団長でしょ」
「休憩時間に抜けるくらい構わないさ」
「……わざと休憩時間にあててるでしょ」
にこ、と笑うかおに騙される。
本当に、綺麗なかおしてるんだよなあ、笑顔が似合う。
直視するのが恥ずかしくなっちゃうんだよね、まだ慣れない。出てくるひと出てくるひと皆かおが整ってるんだもん、流石ゲームの世界。エディーの愛らしさが助かる程に皆眩しい。
もう着く?とかおを上げたエディーに、もうそろそろだよ、と伝えるアルベールは兄のかおだ。
血が繋がらなくたって、彼はとっくにおれたちの長兄で家族なのである。
穏やかなところや口調は母さまに似ている。
「えでぃもおやつあげていーい?」
「そうだなあ……あの三つ子ならエディーの小さなおててでも啄みはしないだろうけれど」
「やんちゃな子だけど噛むのはだめって口酸っぱく教えたからね」
竜舎にいる竜たちは基本的に大人しい。
雨風が防げて食事も出る、立ち寄るのは竜騎士かおれくらいのものなので、好奇の目に晒されることもなく落ち着けるということでそこに大人しくいてくれるような竜ばかりだ。
マリアのように飛べる者もちゃんと帰ってくるし、竜舎なんて簡単に壊せる力を持っていてもそうしない良い子たちばかりだった。
新参者の三つ子の竜はどちらかというと戦争には向いてない。いや、全然向いてない。
よく鳴きよく食べよく眠る、まだまだこどもの竜だ。
あくまでも「話せる」能力のおれに、赤ちゃんの言葉はわからない。
人間の赤ちゃんと一緒で、ぷうぷうきゅるきゅる口にしたところで意味のある言語にならない。こちらが察するしかないのだ。
そんな赤ちゃん竜だった三つ子は漸く意思疎通が上手くいくようになって、かわいい盛りでもある。
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