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 高校にも行かせてもらえたし、食事も服も風呂も少しの小遣いも自分の部屋もあった。
 ただ家族の会話や愛がないだけ。
 勉強だけは頑張ったつもりだ。親の呼び出しなんか受けたくなかったし、勉強さえすれば将来もどうにかなると思った。
 母親に似て、頭の出来も良い訳ではなかった、だからこそ、母親のようになりたくなくて必死だった。

 息抜きは愛莉から貰ったゲームだけだった。
 古いゲームを何周もした。何周も何周も。

 飽きたな、でも他にやるものもないし、と思っていた頃、たまたま、本当にたまたまだった、その日は弟の友人が来ると聞いていたから、あんまり早い時間に家に戻りたくなくて、遠回りして帰ったのだった。
 玩具屋の閉店セールにその古いゲーム機のカセットが安売りされてたものだから、これくらいなら買える、と長く遊べそうな、RPGとパズルゲームを買った筈、だった。

 部屋に戻って開封すると中身が全然違ったのだ。
 タイトルとイラストからして、これは恋愛ゲームというやつだろうか。
 安かったし仕方ない、と思ったのだけれど、RPGだと思ったら恋愛ゲームだった、つまり逆もある訳だ、と思い直し、翌日間違えてますよ、とその玩具屋に再び出向いたのだけれど……既に閉まっていた。
 昨日が最後の閉店セールだったらしい。
 連絡先の電話番号も書いてない。
 隣のお店のひとに訊いてみると、店主は隣県の息子さんのところに行っただとか。
 ……それなら仕方ないか、ともう一度諦めた。
 文句が言いたかった訳ではない。どうしてもあのゲームがしたかった訳でもない。恋愛ゲームがやりたくて買ったひとが困ってたら、と思っただけだ。売れたかどうかもわからないが。
 まあもし売れてたとしても安かったしと同じように諦めてもらうしかない。

 同時に購入していたパズルゲームは面白くなかった。そりゃあもう全く。
 操作性も悪く爽快感もない。失敗したなあ、と思いながら、恋愛ゲームの方を手にしてみた。
 ……恋愛ゲームはやったことないけれど、複数のキャラクターを攻略するとなればそれなりに時間は掛かるだろう。もしかすると良い暇潰しになるかもしれない。
 少しやってみて、合わなければ止めればいいんだ、安物だったし、ただのゲームなのだから。
 そう思って、スタートボタンを押す。

 それは王子様や騎士なんかが出てくるファンタジー世界だった。
 竜や魔法、特殊能力。
 男性ばかりが出てくる辺り、これは女性向け恋愛ゲームらしい。
 男の自分がやっても面白いものかなと思ったけれど、設定としては学園美少女ゲームより男心にくるものがあったので取り敢えずは進めてみた。
 内容は魔力の高い転校生が学園や色々な男性と関わりを持ち、ミッションをクリアしながら妨害を乗り越え結ばれる、まあ普通の恋愛ゲームなのだろう。
 古いものだからか、それともそう有名なものではないからか、設定はめちゃくちゃだったし、つっこみどころも多かった。恐らくこれは……言っては悪いが人気は出なかったんじゃないかな。
 ただイラストは綺麗で、同性のおれから見ても、ふうん、イケメンだな、と思うくらいではあった。

 普通の恋愛ゲームではないと気付いたのは序盤の内だった。
 主人公の一人称がぼく、だったのだ。
 ぼくっ娘というジャンルがあるのは知っていた、手持ちのゲームにもそんな女性キャラクターがいたから。
 でもそんな濃いキャラを主人公にするかとネットで検索を掛けると、すぐに答えは出てきた、これはBLゲームというやつである。
 ……びーえるとは。
 それも検索して、男性同士の恋愛であると出てきたけれど、その頃には大して驚かなかった。多少古いゲームではあるが、成程この時から多様性の時代ではあったのかもしれない。
 ちょいちょい出てくるこの男は誰だと思っていたのだが主人公だったようだ、道理で他のキャラクターより中性的な絵柄だった筈だ。
 ネットでも、ゲーム内容はめちゃくちゃでつまらん、褒めるのは絵とミニゲームだけだと叩かれていた。やはり恋愛パートは不評らしい。

 でもそうなのだ、ミニゲームが面白かったのだ。
 アイテムやお金を手に入れる為のミニゲームはパズルで、一緒に買ったパズルゲームよりも、ずっと楽しかった。
 爽快感もあり、操作もしやすく、シンプルで単純にはまる。途中からは完全にミニゲーム目的でやっていた。いつでも出来るものではなく、タイミングが合わないと出来なかったんだ、そのミニゲームは。

 ミニゲームでアイテムやお金が貯まるとお目当てのキャラと交流やデートが出来る、進めるとまたミニゲームが出来て、クリアすると新しいミニゲームが解放される。
 正直キャラクターには……制作したひとには悪いがネットの評判通り好感は持てなかった。
 あまり、その、……性格が好ましくないのだ。
 主人公がかわいく描かれ魅力的なのはそういうものなのだろう。
 けれど堕とすべき攻略キャラクターが……揃いも揃って酷い。

 当て馬というか悪役というか……そういうキャラクターがいるのだが、彼を全ての攻略キャラクターが裏切ってしまう。
 婚約破棄、友人としての縁切り、従者の寝返り。
 何より悪役として描かれる彼が、おれにはあまり悪いことをしてないように見えた。彼は全てを主人公に取られてしまったのだ、婚約者も友人も未来の従者も。
 そんな彼が見せた不安に、この世界は彼は悪役だと突きつける。
 理不尽というものはゲームの中にも存在した。
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