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extra69 亜空名所巡り①菜園
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ええと……。
目的地に着いた僕は周囲を見渡す。
膝丈くらいまで緑が繁った一面の草原。
……そう、げんと言っていいものかな。
ここは愛しき我らが亜空の一角。
僕や従者の皆にとっては危険でもないけど、そこそこの種族にトラウマを植え付けたりしている……いわゆる名所の一つでもある。
特に森鬼、ハイランドオーク、ミスティオリザードといった亜空の初期からいるメンバーは名を聞けば緊張感が生まれる程度には印象的な場所だ。
僕がまんま名付けた名前は「菜園」。
文字通り野菜が沢山育っているし、ここで生活する種族のいくらかが鍛錬や試練に使っている。
見た目はまったく畑じゃないけどね。
耕作放棄地、いや遊休農、違うか。
荒野同様の荒廃農地というべきだろう。
場所によっては人の背丈をゆうに超える草木も沢山ある。
あ、あそこにあるのトウモロコシだな。
確か今回の収穫リストにもあった。
界を使って効率的に回るつもりだったけど目についたし、最初はあそこでいいだろ。
「とうもろこしにカボチャ、ナスに……」
大豆に、小豆?
白菜、それにキャベツ、だと?
今日僕は亜空から外の世界に出て見聞を広めているとあるグリズリーの為に彼の希望の品を差し入れようとここにきている。
改めて確認すると熊って草食寄りなのかな。
それともあのポンコツテイマーが肉しか食わせてないんだろうか。
確かにあのツキノワグリズリーは見た目の迫力も雰囲気も全身で肉食を醸し出している。
熊が雑食だって事くらいは僕だって知ってる。
でもリストの中は清々しいまでに肉以外で埋まってる。
「苦労してんだね。赤ヘル君」
いや、あれからまた改名してもらったんだっけか?
ローズ何とかってのも聞いた気がする。
……。
うん、せめて口にするものくらい便宜を図ってあげるとしよう。
?
おおう。
裏面もあった。
梨?
コーヒーの実?
デコポン……裏のは菜園にはないものばかりだった。
後で樹園の方にも行かないとダメか。
わさわさと何かの草をかき分けながらトウモロコシの群生してるとこに到着した。
げ、底部に葛が広がってるじゃないか。
本当に生命力強いな。
上から覆いかぶさってないだけマシなのかねえ。
「甘いのは、っとはいはい、この辺ねありがと」
トウモロコシの株全体が揺れて今が収穫どきの当たりを教えてくれた。
ご親切にどうも。
十本ほど頂いて離れると、今度は右手の先で砲丸投げの準備段階ですと言わんばかりにぐわんぐわん宙を回ってるカボチャを発見。
あっちか。
当然だが亜空でも普通に畑は存在してるし、何週間か育てて普通に収穫もしてる。
何週間かで収穫できるのもどうかと思うけど、そこはスルーする。
そっちからもらって済ます手もあったんだけど、日頃の疲れを労う意味でもより良い品をと思った僕は菜園まで足を運んだ訳だ。
ここでは畑に移されて大人しくなる前の原種の野菜たちが特に集まっている。故に菜園だ。
原種たちは畑のよりも頭二つほど抜けた美味で、同時に個性や自我も強く容易に収穫を許さない。
強烈な生命力と生存力と攻撃力と防御力を兼ね備えてる。
自分より弱い奴に食われるのを断固拒否し、逆に養分にしてくれるとばかりに襲い掛かってくるんだ。
さっき見かけた葛なんかは上位の実力者ならぬ実力種であり、下手に絡めとられると野菜即死コンボの始まりだ。
縛られ撃たれ刻まれ殴られ。
亜空でもランキング上位に位置する戦士たちですら幾度血祭にあげられた事か。
かぼちゃの風圧を顔に浴びながら僕はかぼちゃの傍へ。
こいつは自我を持つ最も大きな実がハロウィン仕様のジャックオーランタンになってて司令塔となり、他の実を手足のように操り遠心力を活かして叩きつけてくる。
骨くらい簡単に砕く威力の殴打は必殺の一撃として恐れられている。
今回は既に僕に屈服しているから余計な争いは一切うまれない。
ふわりと僕の手の中に優しく収まったカボチャを二つ受け取る。
ずっしりして実が詰まってるのがわかる。
「ナスはあれか……」
上空にナスの棘が撃ち出されて場所を知らせてくれる。
ナスとかキュウリって、あれで結構えぐい棘がついてるんだよね。
菜園のナスだと対空だけじゃなく普通にそれを射撃してくる。
特製のぶっとい紫の棘を。
菜園の狙撃手その一として有名だ。
長い棘で威力もかなりある。
食味としても得意じゃないからか、ミスティオリザードは特にこれが苦手だと言っていた。
なのにほぼ同種、いたりよったりの攻撃を仕掛けてくるキュウリは好きでさほど苦手意識もないらしいから不思議だ。
食の好き嫌いと戦闘の得手不得手は別物だと思うんだよなあ、僕は。
ぽろぽろと自らヘタの棘を落としてくれたナスも収穫完了。
オークやリザードマン、森鬼は戦士としての試練の一つとして「菜園二泊三日の行」というのを儲けていて月に何度かは彼らはここを訪れる。
無事に乗り越えられたら一人前として次の段階に進むんだと聞かされた覚えがある。
ただこれ、毎度毎度阿鼻叫喚の地獄絵図になるらしい。
遠中近距離全てが噛み合った高耐久力の野菜たちに初めはそれはもうボッコボコにされ、心を折られ。
特に耐久力と速度、隠密性に優れる葛が忌み嫌われているらしく葛餅とかわらび餅が試練以降しばらく食べられなくなる人が続出するんだとか。
ちなみにトウモロコシはショットガンとかゼロ距離ボムとか言われてる。
ナスはポイズンライフル。
カボチャは必殺鈍器。
大豆小豆はマシンガンルーレット。
よく考えるものである。
前に澪と話しててやはり食味と狩りの得手不得手は別問題だよね、としみじみ同意し合ったり。
大体僕に言わせればここで一番厄介なのって白くて小さな花が咲いてる時の蕎麦だと思うんだけど。
さて。
他の食材も適度に収穫していく。
樹園にもいかないといけないからのんびりも出来ない。
僕からすれば畑よりも美味しい野菜を楽に手に入れられる場所とはいえ、一応危険区域の中でもあるし。
「てっきり鮭とか要求されるかと思ってたんだけどなあ。予想外の収穫祭りになってしまった」
ツィーゲも今が大事な時期だ。
テイマーみたいなこれまで理解の浅さから不遇だった職の実力もしっかり把握して冒険者のバリエーションを充実、生存能力をもっとあげてもらわないと危なっかしい。
亜空で最初のテイミングモンスターになった彼には頑張ってもらわないとだな。
海でも山でも河でも行ってあげようじゃありませんか。
といっても菜園は実はコンパクトにまとまってて大体東京ドームで二個分くらいの広さなので恩に着せる程の重労働でもない。
試練と違って僕はフリーパスなので余計に。
これで感謝してもらうのが申し訳ない。
「っしょっと」
小豆に麻袋に六割程入ってもらって収穫物を全部まとめて担ぐ。
小豆かあ。
これどうやって食べるつもりなんだろ。
あんこにするにも料理に使うにも、僕の脳内だと煮る以外の料理法が浮かばない。
人がアーモンドとか落花生を食べるみたいにそのままいっちゃうんだろうか。
……美味しいのかね。
どうでもいい疑問を頭に残しつつ、後ろから撃たれる事もなく僕は菜園を無事に出た。
「次は樹園か。今日に限って誰も付き合える余裕が無いってんだから困ったもんだ。とりま樹園に向かうとして、鮭の方はどうしようかなあ」
樹園は亜空特有の樹木が多く生息する樹の楽園だ。
僕の目から見てもかなり衝撃的な光景が広がってる場所で、ここも試練の地として恐れられている。
と同時に森鬼たちにとっては畏敬すべき地、というやつらしく不真面目が服を着てるようなエリスでされここで活動できるよう頻繁に鍛錬に来ている、特殊な場所だ。
リーダー格のモンドは何度かここに連れてきた後に、最初の頃みたいな挑発的な態度がナリを潜めて真面目な性格に変わってきた。
森と一緒に暮らしてきたエルフの祖である森鬼にとっては、特に感じ入る何かがある場所らしい。
今日は誰も共にいないけどね!!
……んー。
やっぱり時間見つけて鮭も都合してもらうか。
嫌いって事はなかろう。
たまにのんびりと一人の時間を確保できたこの日。
僕はツキノワグリズリーへの差し入れの為に半日程時間を使って亜空の名所を数か所、回る事にした。
目的地に着いた僕は周囲を見渡す。
膝丈くらいまで緑が繁った一面の草原。
……そう、げんと言っていいものかな。
ここは愛しき我らが亜空の一角。
僕や従者の皆にとっては危険でもないけど、そこそこの種族にトラウマを植え付けたりしている……いわゆる名所の一つでもある。
特に森鬼、ハイランドオーク、ミスティオリザードといった亜空の初期からいるメンバーは名を聞けば緊張感が生まれる程度には印象的な場所だ。
僕がまんま名付けた名前は「菜園」。
文字通り野菜が沢山育っているし、ここで生活する種族のいくらかが鍛錬や試練に使っている。
見た目はまったく畑じゃないけどね。
耕作放棄地、いや遊休農、違うか。
荒野同様の荒廃農地というべきだろう。
場所によっては人の背丈をゆうに超える草木も沢山ある。
あ、あそこにあるのトウモロコシだな。
確か今回の収穫リストにもあった。
界を使って効率的に回るつもりだったけど目についたし、最初はあそこでいいだろ。
「とうもろこしにカボチャ、ナスに……」
大豆に、小豆?
白菜、それにキャベツ、だと?
今日僕は亜空から外の世界に出て見聞を広めているとあるグリズリーの為に彼の希望の品を差し入れようとここにきている。
改めて確認すると熊って草食寄りなのかな。
それともあのポンコツテイマーが肉しか食わせてないんだろうか。
確かにあのツキノワグリズリーは見た目の迫力も雰囲気も全身で肉食を醸し出している。
熊が雑食だって事くらいは僕だって知ってる。
でもリストの中は清々しいまでに肉以外で埋まってる。
「苦労してんだね。赤ヘル君」
いや、あれからまた改名してもらったんだっけか?
ローズ何とかってのも聞いた気がする。
……。
うん、せめて口にするものくらい便宜を図ってあげるとしよう。
?
おおう。
裏面もあった。
梨?
コーヒーの実?
デコポン……裏のは菜園にはないものばかりだった。
後で樹園の方にも行かないとダメか。
わさわさと何かの草をかき分けながらトウモロコシの群生してるとこに到着した。
げ、底部に葛が広がってるじゃないか。
本当に生命力強いな。
上から覆いかぶさってないだけマシなのかねえ。
「甘いのは、っとはいはい、この辺ねありがと」
トウモロコシの株全体が揺れて今が収穫どきの当たりを教えてくれた。
ご親切にどうも。
十本ほど頂いて離れると、今度は右手の先で砲丸投げの準備段階ですと言わんばかりにぐわんぐわん宙を回ってるカボチャを発見。
あっちか。
当然だが亜空でも普通に畑は存在してるし、何週間か育てて普通に収穫もしてる。
何週間かで収穫できるのもどうかと思うけど、そこはスルーする。
そっちからもらって済ます手もあったんだけど、日頃の疲れを労う意味でもより良い品をと思った僕は菜園まで足を運んだ訳だ。
ここでは畑に移されて大人しくなる前の原種の野菜たちが特に集まっている。故に菜園だ。
原種たちは畑のよりも頭二つほど抜けた美味で、同時に個性や自我も強く容易に収穫を許さない。
強烈な生命力と生存力と攻撃力と防御力を兼ね備えてる。
自分より弱い奴に食われるのを断固拒否し、逆に養分にしてくれるとばかりに襲い掛かってくるんだ。
さっき見かけた葛なんかは上位の実力者ならぬ実力種であり、下手に絡めとられると野菜即死コンボの始まりだ。
縛られ撃たれ刻まれ殴られ。
亜空でもランキング上位に位置する戦士たちですら幾度血祭にあげられた事か。
かぼちゃの風圧を顔に浴びながら僕はかぼちゃの傍へ。
こいつは自我を持つ最も大きな実がハロウィン仕様のジャックオーランタンになってて司令塔となり、他の実を手足のように操り遠心力を活かして叩きつけてくる。
骨くらい簡単に砕く威力の殴打は必殺の一撃として恐れられている。
今回は既に僕に屈服しているから余計な争いは一切うまれない。
ふわりと僕の手の中に優しく収まったカボチャを二つ受け取る。
ずっしりして実が詰まってるのがわかる。
「ナスはあれか……」
上空にナスの棘が撃ち出されて場所を知らせてくれる。
ナスとかキュウリって、あれで結構えぐい棘がついてるんだよね。
菜園のナスだと対空だけじゃなく普通にそれを射撃してくる。
特製のぶっとい紫の棘を。
菜園の狙撃手その一として有名だ。
長い棘で威力もかなりある。
食味としても得意じゃないからか、ミスティオリザードは特にこれが苦手だと言っていた。
なのにほぼ同種、いたりよったりの攻撃を仕掛けてくるキュウリは好きでさほど苦手意識もないらしいから不思議だ。
食の好き嫌いと戦闘の得手不得手は別物だと思うんだよなあ、僕は。
ぽろぽろと自らヘタの棘を落としてくれたナスも収穫完了。
オークやリザードマン、森鬼は戦士としての試練の一つとして「菜園二泊三日の行」というのを儲けていて月に何度かは彼らはここを訪れる。
無事に乗り越えられたら一人前として次の段階に進むんだと聞かされた覚えがある。
ただこれ、毎度毎度阿鼻叫喚の地獄絵図になるらしい。
遠中近距離全てが噛み合った高耐久力の野菜たちに初めはそれはもうボッコボコにされ、心を折られ。
特に耐久力と速度、隠密性に優れる葛が忌み嫌われているらしく葛餅とかわらび餅が試練以降しばらく食べられなくなる人が続出するんだとか。
ちなみにトウモロコシはショットガンとかゼロ距離ボムとか言われてる。
ナスはポイズンライフル。
カボチャは必殺鈍器。
大豆小豆はマシンガンルーレット。
よく考えるものである。
前に澪と話しててやはり食味と狩りの得手不得手は別問題だよね、としみじみ同意し合ったり。
大体僕に言わせればここで一番厄介なのって白くて小さな花が咲いてる時の蕎麦だと思うんだけど。
さて。
他の食材も適度に収穫していく。
樹園にもいかないといけないからのんびりも出来ない。
僕からすれば畑よりも美味しい野菜を楽に手に入れられる場所とはいえ、一応危険区域の中でもあるし。
「てっきり鮭とか要求されるかと思ってたんだけどなあ。予想外の収穫祭りになってしまった」
ツィーゲも今が大事な時期だ。
テイマーみたいなこれまで理解の浅さから不遇だった職の実力もしっかり把握して冒険者のバリエーションを充実、生存能力をもっとあげてもらわないと危なっかしい。
亜空で最初のテイミングモンスターになった彼には頑張ってもらわないとだな。
海でも山でも河でも行ってあげようじゃありませんか。
といっても菜園は実はコンパクトにまとまってて大体東京ドームで二個分くらいの広さなので恩に着せる程の重労働でもない。
試練と違って僕はフリーパスなので余計に。
これで感謝してもらうのが申し訳ない。
「っしょっと」
小豆に麻袋に六割程入ってもらって収穫物を全部まとめて担ぐ。
小豆かあ。
これどうやって食べるつもりなんだろ。
あんこにするにも料理に使うにも、僕の脳内だと煮る以外の料理法が浮かばない。
人がアーモンドとか落花生を食べるみたいにそのままいっちゃうんだろうか。
……美味しいのかね。
どうでもいい疑問を頭に残しつつ、後ろから撃たれる事もなく僕は菜園を無事に出た。
「次は樹園か。今日に限って誰も付き合える余裕が無いってんだから困ったもんだ。とりま樹園に向かうとして、鮭の方はどうしようかなあ」
樹園は亜空特有の樹木が多く生息する樹の楽園だ。
僕の目から見てもかなり衝撃的な光景が広がってる場所で、ここも試練の地として恐れられている。
と同時に森鬼たちにとっては畏敬すべき地、というやつらしく不真面目が服を着てるようなエリスでされここで活動できるよう頻繁に鍛錬に来ている、特殊な場所だ。
リーダー格のモンドは何度かここに連れてきた後に、最初の頃みたいな挑発的な態度がナリを潜めて真面目な性格に変わってきた。
森と一緒に暮らしてきたエルフの祖である森鬼にとっては、特に感じ入る何かがある場所らしい。
今日は誰も共にいないけどね!!
……んー。
やっぱり時間見つけて鮭も都合してもらうか。
嫌いって事はなかろう。
たまにのんびりと一人の時間を確保できたこの日。
僕はツキノワグリズリーへの差し入れの為に半日程時間を使って亜空の名所を数か所、回る事にした。
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真母NTRだったのかーorz
母親の昼ドラ脳と父親のNTR趣味が酷すぎて真は醜悪ジジイの色欲の犠牲になった種違いで夫婦のお花畑思考で実子として育てられてるんじゃ?って思った。ヒューマンらしい思考回路だわ
親が魔族の男誑かされたバカ女とかドン引きだわ
魔族と分かってもそれで燃えてたとか頭ハッピーセット女が全ての根源やんけ
こんな親をバカにされてキレるとかアホかと