月が導く異世界道中extra

あずみ 圭

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extra51 ビル=シートの蜃気楼都市滞在記②ビル、悪運危機一髪

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 この街を辿り着き財を成した冒険者は多い。
 優れた武具、魔道具を手にしてランクを一つ二つ駆け上がった者も大勢いる。
 ランクと言えば、最近の冒険者ギルドでは通常ランクの他に荒野入りを許された者に新しく専用のランク付けが必要だ、という提言が為されている。
 賛成だ。
 荒野に入る時点で冒険者としては皆一流に足を突っ込んでいる。
 ……スラムや黄昏街から違法に入り込むやからもいるが、あれはまあ、どうせほぼ死ぬんだから気にする必要もないだろう。
 ギルドが定めた最低限の基準さえ満たせないのに急いで荒野入りして一攫千金を狙うなど、愚劣の極み。
 以前かのアルパインのメンバーにはそんな経歴を持つ者もいる、などという根も葉もない噂が立った事がある。
 長く最奥のベースに滞在し、その壊滅を報告。
 ツィーゲに戻ってすぐ、数々の功績を上げて名実ともにトップ冒険者に駆け上がった彼らがその様な愚挙に手を染める筈もないだろうに。
 よしんばメンバーの誰ぞがそうであったとして、きっちり生き残って成果も実力も示したのだ。
 ならばギルドの基準では見極めきれない例外だった、というだけだ。

 私としては、現在の冒険者ギルドの荒野入りの基準は最低限の「ふるい」として良く出来ていると考えている。
 しかし入ってからとなると、特に冒険者を選別するものはない。
 ランクは中でも外でも共通だ。
 なら例えばAプラスであればどのパーティでも荒野で似たような成果を出せるかと言えば答えはノーなのだ。
 適性もあるし、時には確たる実力差も存在する。
 極端な話SSSランクなどは雲の上の存在には違いないが、あれはもうそれ以上の分類が無いというだけで。
 アルパインと竜殺しソフィアのどちらが強いかと問われれば、これは見当もつかないのだ。
 もしかしたらアルパインが数で圧倒して一方的に嬲る展開になるかもしれない。
 逆にほぼソロで世界中で活動しているらしいソフィアがアルパインを虐殺するかもしれない。
 更に穿うがって考えれば、リーダーのトア一人でソフィアよりも強い可能性さえある。
 今やツィーゲではSSSを冠する冒険者パーティもそれなりに存在する。
 数年前は世界で五組しか存在しなかったというのに、現在ツィーゲと荒野内のベースだけで六つ、全世界では十ある。
 そしてツィーゲにはそこに至ろうとするパーティが今も幾つかある。
 この突然のSSSバブルに、事情を知らない他の国の連中などには何かインチキをしているように見えるらしく。

「ツィーゲのSSSは金で買える」
「真のSSSではない」
「心が伴っていないとか」

 まあ色々言われているようだ。
 確かに内々を知る身としては「色々」ある。
 力量や実績については全世界共通の基準を持つ冒険者ギルドが審査しているのだから、金で買えたり本物偽物がある訳もないが。ギルドランクのかたりなど、あっという間に粛清されるしな。
 だからこそ荒野入りした冒険者だけのランク付けや適性を鑑みた新たなシステムが必要だと私は思うのだ。
 折角荒野ギルドとルーキーギルド、いや一般ギルドで区域分けして入り口も別にしてとやっているのだから。
 改革はある程度一息に進めねば、組織というものはすぐに「現状」で安定を得ようとしがみつく。

「ビル、今度はやたらと難しい顔してる」

「……ん」

 蜃気楼都市で我々に宛がわれたのは四人で一部屋。
 とはいえツィーゲでのちょっとしたレンタルホーム位の広さはあるし、客人を迎える為の部屋というだけあって不満は湧いてこない。
 シャワー、トイレも部屋の外にあり、清潔に保たれている。
 男二人女二人の構成は貴族であれば二部屋を要求するかもしれないが、こちらは皆冒険者だ。
 何も問題は無い。
 むしろ至れり尽くせりだ。

「ここでの立ち回りを考えてる系?」

 私に話しかけてきたこの女は同道していたパーティの一つ「シェルカウンター」の生き残り。
 ここに辿り着かずに何とかどこかで生き残っているヤツがいなければ、パーティは消滅だ。
 リーダーは彼女じゃなかったからな。
 ちなみに私ともう一人の男であるアコスが所属していたのが「ロシナンテ」で大本の依頼を受けたメインパーティ。私もアコスもリーダーではなく、このままならまず消滅する。
 残る一人がリーダーをしていたパーティが「シルベ」で、こちらはもしかしたら再結成されるかもしれない。

「色々と、考え事をな。ギットはこの街をどう考える?」

「どうって、蜃気楼都市でしょ? 住民もそれを認めてるし。アキナって人以外に冒険者やヒューマンを見ないのは少し不自然かなって思うくらいかな。でもさでもさ」

「うん?」

 ギット=ブルーショー。
 水魔術の使い手で属性的に回復系が多い中、火力となる攻撃魔術ばかりを習得し続け、極めようとしている変わり者だ。シェルカウンターは彼女の火力が効果的に決まる相手との相性が抜群に良いパーティだった。
 聡明な女性ではあるが、今は両の瞳が金貨袋になっている。
 何を考えているのかは一目瞭然だった。

「ここに来れたって事は個人的な収支は真っ黒黒の大黒字になるって事でしょ? 今回の依頼は私らは随伴だったから失敗の責もさほど無いだろうし、何をどれだけもらって帰れるんかなって。もう楽しみで楽しみで」

「冒険者の基本はギブアンドテイク。彼らは情報を欲しているようだから、そこにどれだけ応えられるかだろうな」

「……ビル君は真面目に答えてるんだ?」

「当然だ」

「私はまだスタンスを決めかねてるんよ。アコス君もそうみたい」

「そのようだな。私としては誠実に振舞うべきだと思っている。彼らはヒューマンではないが、命の恩人には違いない。待遇も良く、ここから戻った者の多くは大金に変わる貴重な素材や武具も贈られている」

「うーん、確かにねぇ。ギブアンドテイクは私たち、厳密には私たち同士の基本よねぇ」

「……何が言いたい?」

「ラナイの考え方も、冒険者の基本だよねって話」

 ラナイか。
 ラナイ=エニジア。
 Sランクパーティ「シルベ」のリーダーであり、ヒーラーにして神殿の上位司祭だった女だ。
 欲が過ぎて身を滅ぼしながら、冒険者として再出発してまた成功者となっている辺り、したたかで、優秀なのは疑いようもない。
 奴の考え方。
 目についた物は全て手に入れろ。
 奪える物は奪え。
 強者は全てを許される。
 確かに、それも冒険者にとっての基本で間違いない。
 時と状況によるがな。

「はぁ……まあ、そうだな」

 その最後の理を重視しろ、というのだ。
 ここで我々が誰に勝てるというのか。
 頭が痛いし、危なっかしい。
 一応、本当に一応、年の為にだが。
 私はこの四人の内誰かがこの都市で罪を犯した場合、他の者はどうなるのかを最初にアキナと名乗る冒険者に尋ねてみた。

「連座などは一切ない。共謀の場合は同様に処する」

 との事だった。
 しかしだ。
 本当に厄介な事に。
 私はあの女、ラナイを愚かな女だと見捨てる訳にはいかない。
 少なくとも今はまだ。
 私は前衛の戦士、同じパーティのアコスは槍専門の前衛兼中衛だ。
 そしてギットは純粋な後衛で攻撃担当。
 回復役がいないのだ。
 ラナイが何らかの暴走で「処された」場合、どれだけの物資をもらったとしてもツィーゲまで生きて帰れる確率はかなり低い。
 蜃気楼都市から出た後の事は体験談を思い出してみても結構まばらだ。
 どこかのベース近くだったり、ツィーゲが見える場所だったり。
 だがそうでない場合が無いと何故言えるだろう。
 私は一つの恐ろしい推測を既に確信に近いものとして考えている。
 危険な場所、迷い込んだ場所付近で解放される例は無いのかと。
 あったとして、冒険者が死んでいれば体験談には上がってこない。
 この蜃気楼都市で狼藉を働くとどうなるのか。
 これも、不思議と体験談には無い。
 冒険者の間で蜃気楼都市は一攫千金の代名詞だ。
 ならその素材は、武具は。
 略奪したものなのか。
 侵略の成果なのか。
 そういう体験談は「無い」のだ。
 友好的な亜人や魔物が仲良く暮らす街で歓待され、滞在して土産をもらう。
 そんなフェアリーテイルが大半だ。
 私の推測はこうだ。

 ここで暴力で何かを得ようとした冒険者は誰一人ツィーゲに帰れなかった。
 ここの住人と友好的に過ごさなかった冒険者も誰一人ツィーゲに帰れなかった。

 のではなかろうか、と。
 不思議ではあったのだ。
 馬鹿な亜人を騙してお宝を奪ってきてやった。
 我々冒険者の武勇伝だというなら、こちらでもまるで問題は無い。
 むしろ、亜人に助けられるというよりも余程体裁も整う。
 なのに、無い。
 少なくとも、人並み以上に興味を持って情報を集めていた私は一切聞いた事がない。
 確度が低そうな世迷言にはいくつかそんな内容もあったが。

「で、ギットはここから奪いたいのか?」

「だから迷ってるんだってば。確かにここの亜人は良いヤツばっかだし、ご飯は美味しい、酒も美味い。天国みたいに思える」

「ああ」

「なら、そいつらが大事にしてるお宝は、もっともっと凄いとんでもない代物なんじゃないの、ってね。ラナイじゃないけど思わなくもない」

「……っ、おい、まさか」

「ん?」

「ラナイとアコスは」

「門に行った、よ」

「!!」

 あの馬鹿ども!
 というかラナイだな、あれ自体は優秀でもヒーラーだ。
 門番をどうかするなんぞ、絶対に出来ん。
 アコスを篭絡した訳か!

「あの向こうにはもっと凄いモノがあるってのは住人の反応から明らかだもん」

「死ぬ、と言われはしなかったか?」

 立ち上がり、ギットを見下ろしながら聞く。
 私は確かに聞いた。

「門番の試しを受けなくても門を抜けられたら、それはそれで合格、なんだって」

「門番の目を盗んで門を超える気なのか!? 信じられない愚か者どもだな!」

「そっかな、一つの手だと思うけど。きっとさ、蜃気楼都市帰りの冒険者で凄い武具を持ってるようなのは門超えに挑んだチャレンジャーなんじゃないの?」

 ギットがのんきな事を口にする。
 それは有り得ない。
 私は確かに聞いている。
 これまでに、この区画から先に進んだ冒険者は「ゼロ」だと。
 断言できる。
 退かせなければ二人が死ぬ。

「……あの門を超えた冒険者はいない。数人を除いてはな」

「へ? ちょっと言ってる事わかんないんだけど。というか何でそんなに自信満々?」

「アキナと、他数人のこの都市に雇われた冒険者だけがあの門の向こうにも行けているらしい。迷い込んだ冒険者で門を超えていった奴は一人もいないんだ」

「マジで?」

「冗談を言ってどうする! ギット、さっさと二人を止めに行くぞ。大体だな」

 私はギットを立たせ、連れ立って部屋を出る。
 目的地は当然門だ。
 上って越えられる高さじゃない。
 門番がいる場所から扉を通って抜けるしか方法はない。
 進みがてらギットに私の推論と、ラナイを死なせる訳にはいかない理由も伝える。
 蜃気楼都市についての夢の様な良い噂しか頭にないギットも、段々と状況を飲み込んでいき、焦りを顔に出した。
 お互い全力ダッシュである。
 家に着くまでが仕事だ、とは本当によく言ったものだと思う。
 そう、蜃気楼都市に来てもツィーゲに帰れなかった冒険者が一体どれだけいるのか。
 私たちは知らないのだ。
 もしかしたら今の状況まではさほどに珍しい事でも何でもなく、むしろここから無事にツィーゲに帰るのが最難関となる可能性だって当たり前に残されていると見るべきなのだ!

「ヤバ! ラナイの魔力感じる! 門番とこ!」

「あの馬鹿女が! アコスも少しは頭を使え! くそっ、間に合ってくれよ!!」

「もしあの奇襲されたとこに放り出されたらまず死ぬし! ラナイがいても大体死にそうなレベルだけど!」

 まず死ぬのと大体死ぬのでは持てる希望が大分違う。
 絶対に後者の方が良い。
 それにここで今のより装備をグレードアップ出来れば、油断したら死ぬレベルに緩和されるかもしれん。

「ところでビル君! 二人を退かせたら許してくれるんかな?」

「……祈れ!」

「ぴえーーーん! 行かすんじゃなかったよー!」

 全くだよ!

「話がわかる門番だったはずだが、ラナイが何を口にしたかまではわからんからな!」

 確かサイサリスと同じ種族で、とてもそうは見えなかったが、可愛らしいオークだった。
 ミト、と名乗っていた。
 あれで戦士という事は無いだろうから魔術師タイプだろうか。
 ハイランドオークという名前は荒野の奥で遭遇例はあるが、実態はあまり知られていない。
 だが、戦士にしろ魔術師にしろ。
 相手がその気なら二人がまだ生きている保証すらない。
 私たちは全速力のまま、門番の駐在するちょっとした広場に駆け込んだ!

「ラナイ! あ、血。でも生きてる!」

 ギットの安堵の言葉。
 アコスも重傷のようだが、生きてはいるようだ。
 うずくまってラナイの治癒魔術を受けていた。
 意識の有無は怪しいな、あれは。
 ラナイは腕一本無くしたか。
 馬鹿め。
 だが、最悪中の最悪ではない、かもしれない。
 状況は何らかのイレギュラーらしい。
 門番のハイランドオーク、ミトの他にもう一人、体の各部に包帯を巻いた……ヒューマンらしき女がいた。
 二人は何か言い争っているような、あまり穏やかな雰囲気ではない。
 もしかすると、アキナと同じ雇われ冒険者の一人か?
 とりあえず、今私が出来る最初の行動は一つ!

「申し訳なかった蜃気楼都市の門番殿!」

「!?」

 ギットが呆気に取られるのを気にもせず私は深く頭を下げて謝罪した。
 私にならうかと思っていたギットはぽかんとしたままだったから、後頭部を掴んで無理やり同じようにさせた。
 突然の私とギットの行動に、ミトともう一人の女は一旦口論を止めて我々の方を見た。

「貴方はビルでしたか。もう一人はギット。客人ですね」

「はい」

「申し訳ない、とは?」

 ミトの言葉は硬い。
 挨拶をしにいった時とはまるで違う。
 当然か、今の彼女は門番として私たちと相対しているのだから。

「同室の客人仲間、ラナイとアコスが門を越えようと貴女に挑んだ事だ」

「ビルが詫びるべき事は何一つありませんが。この向こうを見たくなって門番に挑む。客人に許された権利の一つですよ」

 淡々とミトは言葉を紡ぐ。
 そして死ぬのもまた、その冒険者の選んだ行動の結果だと、言外に言っていた。
 隣のギットもその意図に気づき、身を震わせる。

「ねえ、ミト。邪魔しないで、あいつらは門番に挑んだ。負けの宣言もない、ならまだ試しは続行でしょ」

 ぞっとする殺気が放たれた。
 ヒューマンの女、冒険者かと思ったがコレはどうやら違う。
 我々への、ヒューマンへの純然な憎しみと殺気を感じる。
 容姿はこちらよりでもこの包帯女は、ミトよりもずっと我々から遠い。

「今の門番は私です、レヴィ」

「運動不足なの、少しくらい良いでしょ」

「ダメです。今の貴女がここの門番なんてしたら挑んだ人が皆死んでしまうでしょう、まったく。怪我人なんだから、大人しく寝てなさいな。大体、運動不足だからってコロシアムじゃなく、こんなところに来るなんて、らしくないわ」

「っ!!」

「それにヒューマンの安い挑発にも嬉々として乗って。自分より弱い者を憂さ晴らしに殺した所で気など晴れませんよ」

「違う!」

「違いません」

 ミトとレヴィの口論はヒートアップしていく。
 いや、ヒートアップしているのはレヴィだけだ。
 ミトの方はどちらかといえば呆れたような冷めた様子だ。

「あの女が喧嘩を売ってきたんだ。強い者は全てを許されるって、裏切り者でもそのくらいわかるでしょうって!」

「レヴィ……」

「裏切り者って誰? 私の事なんでしょ? ヒューマンが私にそういうってのは殺し合いを始めようって符号なのよ! 私はお前たちなんかと同じじゃないって、見せてやったの! あいつらより強いんなら何したっていいんでしょう!」

「力量差もわからぬ愚か者なのは私も認めます」

「だったらさ!」

「けれど、それをレヴィが言いますか? 力量差もわからず、連携も乱して、挙句に負けて大怪我をして戻った貴女が」

「!? そ、それは」

「丁度良いのサンドバックがいた、なんて思ったかもしれませんけどね。かっこ悪いですよ、レヴィ」

「う」

「さっさと帰りなさい」

「でも」

「挨拶代わりの二発で向こうはもう壊滅です。気が済んでよかったですね、帰りなさい」

「ミトー」

「カエレ」

「……ミトのバーカ!!」

 二発で防御もろくにさせずラナイとアコスを両方戦闘不能にして、捨て台詞はバーカ、か。
 こちらのラナイが一見ヒューマンに見えるレヴィに何を言ったかは大体わかる。
 結果相手の方が圧倒的に強かった訳で、それでもまた命は助かるとか、ラナイの悪運は凄まじい。
 あの女と同じ勢力にいれば生き残れたりするんだろうか。
 ……無いな。
 シルベは壊滅状態じゃないか。
 ラナイだけが生き残る悪運だというなら、近づかない方が安全だ。
 ともあれ、嵐のような女性レヴィは扉を開けて「向こう」に帰っていった。
 また一つ大事な事がわかったな。
 向こうか、この都市が敵対している何かの中にはあのレヴィを半殺しにするような怪物も存在するって事が。

「うちの者が見苦しいところをお見せしましたね」

「いえこちらのラナイこそ、馬鹿の極みでして。先ほどの女性のお怒り、そのものはわからずとも十分にお気持ちは理解できます」

「……門番への挑戦は自由ですし、途中での投降も自由です。ペナルティはありません。どうぞ、お仲間を連れて戻って頂いて結構ですよ。後ほど薬を持たせましょう」

 ミトはちらりとラナイとアコスも視線を向け、一瞥する。
 何とか、許されたと見て良いのか。
 だが、これも勘に過ぎないがあのレヴィの乱入が無ければ。
 二人はミトに迅速に殺されていた気がする。
 ミトの態度は丁寧で物腰も柔らかいが、あまり親愛は感じない。
 門番だからか、それとも元々か。
 我々が冒険者だからか、まだ何もわからない。
 だが愚行に走る冒険者は少なくとも過去にも沢山いて。
 彼女もまた何度もその処理をしてきたのだと、感じられた。
 私とギットはラナイとアコスを連れて部屋に戻る。
 ラナイの腕とアコスの大破した槍もだ。

 腕、私の右腕、熱い、熱いとラナイが呻きながら本能でなのか治癒魔術を自分とアコスにかけ続けていた。
 やるべき事はやるのがまた、この女の厄介なところだろうな。
 なにされた、俺、何も見えなかった、などとこれまた意識を朦朧もうろうとさせながらアコスは悪夢にうなされるかのように荒い息で寝言を吐く。
 ラナイに簡単に篭絡された罰だ、馬鹿め。

 ともあれ、危機は脱した。
 今日明日は住人達に頭を下げ通しだろうが、誠意として何をすれば良いのか。
 そういえば彼等は冒険者のプレートにも興味がある様だったな。
 なら私のを見せて機能やら何やら、もう知っているかもしれないが説明してみるのも悪くない案か。
 ラナイにアコス。
 怪我人だろうが何だろうが、今日は寝かせてなどやらんからな。
 説教だ。
 それから現状を正しく認識させてやる。
 無事にツィーゲに帰る為に、何をすべきで、どう在るべきなのか。
 その強欲でポンコツで、色惚けな頭に叩き込んでやるから覚悟するんだな。

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