月が導く異世界道中extra

あずみ 圭

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extra24 その頃山(ただし亜空)

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 風が葉を揺らし周囲に一斉に葉擦れの音が鳴った。
 僕の脳裏に懐かしい良き思い出が蘇る。
 と同時に凶悪な思い出も蘇る。
 相殺されて微妙な気持ちだ。
 いや。
 記憶というのは、辛い経験の方が強く残るらしく、後味はどちらかと言えば悪い。
 今日は結構な大所帯で亜空のある場所に来ていた。
 同行者は巴に澪に識。
 それにオークとアルケーが合わせて何十人か。
 独特の景色を前に深く息を吸う。
 朝である事を差し引いてもひんやりとした空気が体に入る。
 さてと。

「見事なものですなあ。いや風情がある」

「こんな所に食材があるんですか?」

「ふぅむ……ローレルとアイオンで似たモノを見た事はありますがもっとずっと細かったような。葉の感じは似ておりますがこれほど太くはなかったと記憶しています」

 オークもきょろきょろしているが、従者の三人も興味津々といった感じで周囲を見渡している。
 識の奴、似たモノをって。
 葉がにているけど木じゃないっていうと、笹とか?
 あれもモノによってはヒメタケが取れるな、確か。
 こっちの世界だと筍はソレを指すんだろうか。
 そう。
 僕達は今、竹林にいる。
 正確には竹林予定地の竹薮。
 ここ、結構大事だ。
 昔日本にいた頃に何度か行った事がある。
 京都の嵯峨野にも負けない凄い場所らしかった。
 ただし所有者談。
 ……まずその嵯峨野に行った事が無い僕にその凄さはわからない。
 どこに連れて行かれるのかと思ったら竹薮だったから、素直にこの竹薮で何をするのか、と僕は連れて来た先生に聞いた訳だ。
 すると先生は、あ、という顔をした。
 直後僕は後ろから肩をがっしり掴まれた。
 振り返るとそこには怖い笑顔をした中年男。
 先生と接している内に笑顔の怖いのと怖くないのがわかるようになったのは、こういった経験もあってだと思う。
 で、言われた。
 ここは竹林だと。
 断じて竹薮じゃないと。
 俺が丹精込めて作った竹林なんだと。
 ……平らな竹林で行われる筈だった弓の練習が、斜面みたいな勾配のある竹薮での練習に変わったんだったな。
 地獄だった……。
 筍の美味さよりも全身筋肉痛で動く苦痛の方が頭に残ってる。
 まあ、それは今は関係ない事。
 ちょっと思い出しただけだ。
 今日はこの、結構な速度で拡大している場所を管理し始める為に来たんだからな。
 ただでさえ育つのが早いからな、亜空だと更に特性が強くなっているっぽい。
 澪辺りは筍にしか興味がなさそうだけど。

「しかし厄介な広さだね。ただでさえ竹は成長が早いから……まずは広がるのを止めないと」

「よくしなる・・・し、強い。それにやたら数がある。何かに使えないものか」

「中は部分的に空洞になってる。削ったり編んだりして日用品に使ったりも出来るよ」

「それは興味深いです。何本か切って持ち帰ってみるとしましょう」

 多分僕には聞いてなかった気もするけど巴に答えておく。
 
「澪。今つついているソレが食材になる筍」

「あ、いえ。別にこれはその。変わった形だなあって思っただけで……え? これが食材? タケノコという物ですか?」

「そう見えて色々使える万能選手だよ。それも掘って、後で皆で味見しよう」

「はい!」

 濃い茶色の皮に包まれた筍を畳んだ扇でつついている澪に、正体を教えてやる。
 
「よーし! じゃあ手分けしてまずは竹林の端を把握しようか。アルケー、頼める? ハイランドオークの皆は取り敢えず竹以外の木で邪魔になりそうなのを伐採ね」

「では私はまずこの植物を調べるとしましょう。若様、何かご存知の事は?」

「識。竹は地下茎で広がっていく。あと、雌雄があって雌の方が強いから、管理するときは雄を間引くと良い、らしい。正直聞きかじっただけだから細かには余り知っている事はないんだ。筍の食べ方は色々教わったんだけどね」

「地下茎……なるほど。となると色々使えそうですな。現状では厄介な面もありますが深さは……おや、大分浅い。なるほどなるほど……」

 識は竹自体の分析を始めた。
 亜空での識はすっかり農業の人だ。
 それも研究までこなす、地域に一人は欲しいタイプ。
 僕は雌雄の見分け方も知らないし、そんなの関係無しに筍を掘ってたからなあ。
 申し訳ない。
 全身を酷使して、首から下が常時震えていた記憶が苦い。

「若様、この茶色のは食材との事ですから避けて作業した方がよろしいですか?」

「いや、作業を優先して。別に踏んだり潰したりしてもそれは仕方無い。多分次々に出てくるから気にしなくて良い」

「そう、ですか」

 食べ物を粗末にしてしまう事に抵抗があるのか、聞いてきたオークが微妙な表情を浮かべた。
 これだけ広いなら本当に幾らでも出てきそうな気がするから気にしなくていいのは本当だ。
 大体、食べ尽くせなくても竹を増やしたくないなら潰すしかないんだし。

「あの、若様? このタケノコなるもの、少々不穏な性質を感じるのですが」

「不穏って。識、それは毒も無いし、アクだって除去は難しくない――」

「うおああっ!?」

「っ!?」

 突如あがった叫び声に、僕は声のした方向を見る。

 ナンダッテ?

 筍、らしきものが打ち出されていた。
 真上に。
 かなりの勢いで。
 上昇していく。
 近くにいたオークは飛び退いて尻餅をついている。
 ……ええっと、本当に何事?

「どうした?」

「わ、若様。いえ、いきなり地面が盛り上がるような感触が足の下でしたと思ったら」

「思ったら」

「何かが上に……」

「上……」

 さっきのは本当に筍なのか?
 何だその妙な仕様は?
 見上げた先から何かが落ちてくる。
 結構かかったな。
 どれだけ高く飛んだのか。
 地に墜ちたのは間違いなく筍。
 墜落の衝撃で木っ端微塵に砕けて黄色い食用部分が散乱しているけど。
 つまり、飛んだ訳だな。
 ロケット花火よろしく。
 筍が?
 うーん、謎だ。
 謎の現象に皆の動きが止まる。
 
「足の下って事は、踏んだって事だよな。って事は踏むと飛ぶ? 天然の地雷とでも?」

「若様。どうやら若様の知らない特徴も持っているようですな」

「みたいだね。とにかく……ああ、あれでいいか。巴!」

 適当に頭を出している筍を見つけて巴を呼ぶ。

「何をすればよろしいですかな」

「アレ、ちょっと上から押してみて」

「御意」

 巴が刀の柄で軽く筍の頭を打つ。
 
「おお?」

 巴の行動を合図にしたかのように全身を震わせたソレは、天高く飛んでいった。
 マジか。

「ちょっと、そこのやつも。今度は根元付近で横から斬ってみて」

「……御意」

 言われた通りにやってみせる巴。
 今度は特に震えるでもなく地面に転がった。
 先端を押させてみても飛んだりしない。
 何て奇妙な。

「横からなら大丈夫なようですな。地下茎に一定以上の圧力がかかると飛ぶのでしょうか」

「さ、さあ。とにかく。皆、見える筍は刃物で横から斬っていって! 足元に変な感触があればすぐにその場を離れるように!」

 新たな指示を出す。
 今日はそんなに疲れないだろうと思ったんだけど、どうやらそんなに楽は出来なそうだ。





◇◆◇◆◇◆◇◆





 結局。
 原因は地下茎にあったようだ。
 あの後広大な広さの竹林の端を確認した僕と従者、それにアルケー。
 当面の対処として地下茎を切断して土もどかして堀のようにしておくことにした。
 でまとめてやればと識が魔法を使ったところ。
 爆発しやがりました。
 阿呆かと。
 それほどの規模では無かったけど思わず術を中断する位には爆発した。
 厄介さが桁違いになった。
 まあうまく爆発を抑えながら応急処置の堀は識とアルケー、それに巴と澪、勿論僕もと、要はオーク以外の皆で完成させたけど。
 結構な作業だった。
 その後は澪のお待ちかね、筍の採取に取り掛かった。
 何となく警戒していたから予想通りでもあるんだけど、地下茎に近い深い部分で掘ると、横からの衝撃でも飛んでくれた。
 いっそ翼人に連絡して上でキャッチしてもらおうかとも思った。
 でもそのあまりにも無駄な仕事をさせるのが心苦しかったから内心で思うだけにして。
 程よい深さで、斧やナタを使用して採取する事にした。
 僕の考えた通り、とても取りきれない位の筍が至るところで出ていた。
 管理、結構大変かもしれない。
 最悪の場合、竹薮のままにしておく方が良いかも。
 広がらないようにだけしといて。
 どこかの種族が好んで食べるようなら御の字だけど。
 こればかりは素材か、僕が知っている調理法がヒットする事を祈るしかないな。
 ハイランドオークと僕らで、その場で皮を剥いた食用部分を運搬して戻った。
 根から先の方に向けて、気持ち深く刃を入れて開くだけだから大して難しくも無い。
 運ぶ時の重量が一気に軽くなるからこの方が便利だ。

「ああ、エマ、根元の方の赤っぽいそれは大雑把でいいから削って。次に鍋に水と米ぬかを入れてそこに筍を入れて。そうだ、大きめのは半分に切ってね。で煮立ったら火加減を弱めにしてしばらく火にかけておく。あとはゆっくり冷まして下準備は終わり」

「こうするとどうなるんですの?」

「筍ってそのままだと苦味とか渋みがあるんだ。こうするとその辺の食べにくさが減る。掘ったばかりの若いのだったらそのままでも食べられるとか聞くけど、僕はやったことないな」

「はぁ、手間がかかるんですね。コレはどんな料理に使う物なんでしょう?」

「ご飯に炊き込んだり、ツユで煮たり、包み蒸しにしたり、そのまま醤油をつけて刺身みたいに食べたり、衣をつけて揚げたり。とにかく色々だよ。量は沢山取れるから試してみると良いよ。でも、こうやって水煮にする所までは基本的に共通だから覚えておいてね」

「はい。野菜のお刺身……。それは初めてです。サラダとはまた違うんでしょうか……。楽しみです!」

 澪は慣れた手つきで調理の下準備に加わる。
 皮付きでそのまま焼いたりするのもテレビで見た事あるけど、あれはやった事がないんだよなあ。
 僕が知らないやり方だと、最初に紹介するのには適してない。
 後々自発的に研究してくれる分には歓迎だから、森鬼のバナナのように、誰かの味覚に致命的な一撃を加えてくれる事を密かに祈る。
 野外に特設した調理場では、オークの女衆が殆ど総出で調理にあたっている。
 煮る所までいったら、待ち時間にレシピの紹介を挟もう。
 竹林に戻った識と巴もその内こっちに来るだろうし、来なかったら料理ができた位に呼べばいいや。
 順調だな。
 まさか飛ぶとは思わなかったけど。
 何となくカグヤ姫を思い出すよ。
 あれも筍ロケットなんてのは出てこないにしても、月に戻る話だし。
 この亜空は未だどこにあるかもわからない。
 でも月はある。
 空が暗くなり始めれば空に姿を見せる。
 今日もだ。
 月読様、少しは元気になられたかな。
 竹林に筍料理。
 強く故郷を思い出す一日。
 僕はこの世界に来る時に出会った神様を思い出していた。





◇◆◇◆◇◆◇◆





 亜空の竹林は広大な物はオークに管理を任せた。
 押し付けた訳じゃなく、彼らが率先してやりたいと言ってくれた。
 翼人が事務仕事的なものを分担してくれるようになって、少し人員にも余裕があるらしく問題は無いから、と。
 だけど何とか普通を装って僕に説明するエマも、本音を隠しきれていない。
 どうやらハマったようだ。
 筍に。
 オークといえば僕の中でそのイメージは豚か猪だった。
 ハイランドオークは豚に近い印象。
 よく猪は筍を食うと言われるけど、確かに家畜化された後の魔改造された姿とは言っても同じ種と言えなくはないのだから、ハイランドオークに似た嗜好があっても不思議はない。
 考えてみれば栗や芋も好きだしな。
 肉も食べるけど結構ベジタブルが好きな人達だ。
 それであの筋肉。
 どうなってるんだかね。
 人間とかヒューマンって意外と不便なのかも。
 ちなみに亜空には豚も猪もいるけど、僕は猪は出てきたら食べるけど、豚は食べないようにしている。
 何となくオークの人に悪いような気がしているからだ。
 そんな遠慮とは関係なく、彼らは普通に豚も食べるし、だからこそ食卓にも結構並んでいるようだ。
 ただ僕が食べないからか巴も澪も識もあまり進んで食べない。
 遠慮しなくて良いとは伝えているけど、好みもあるかもしれないから食べる事を強要してもいない。
 どこまで影響しているかはわからないけど、豚はまだゴルゴンや翼人も家畜化の対象として手を出していない。
 豚はこのままだといずれ猪に戻るんじゃないかとも思うんだ。
 ハイランドオークの何人かにそれとなく聞いてみると、彼らにとって猪や豚は姿こそ似ているが自分たちとは完全に別種だと認識しているみたいだった。
 聞いてみた限り、人間が猿を見るのに近い感覚みたいだ。
 ……僕だったら、猿を食べるのは躊躇するだろうな。
 彼ら自身に忌避感が無いなら美味しいのは確かだし、僕もいつかは食べるようにして、家畜にしていくのが良いんだろう。
 角煮、生姜焼き、回鍋肉ホイコーロー、トンカツにカツ丼、汁物なら豚汁。
 ……うん。
 あまり意地を張らない方が良いかも。
 僕のレシピの中ですら魅力的過ぎるな。
 父さんやレンブラントさん曰く、脂っこいものは若いうちに楽しんでおけ、らしいし。
 案の定、報告の後で筍レシピを聞いてきたエマに、土佐煮のレシピを教えながら。
 豚肉を解禁する日はそんなに遠くないな、と考えていた。
 外の世界はともかく、亜空は今日も結構平和だ。
 
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