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14巻
14-2
しおりを挟む「では、次のローレライの方をお呼びしますよ?」
「はい」
ローレライ。魔族の亜種らしいんだけど、はっきり言って、彼らについて質問はほとんどない。
……だって、僕が質問しようと思っていた事なんて全部資料にあるから。
亜空に加わった元魔王の子サリに調査やとりまとめを頼んだら、彼女が気合入れて仕事しまくってくれたおかげだ。
よくあるご質問ならぬ、〝若様がなさりそうなご質問と回答〟なんていうコーナーまで巻末に用意してある万能っぷりだ。
なので〝最近どうですか?〟〝ぼちぼちです〟〝じゃよろしくお願いします〟……そんな感じのやり取りで問題ないと思う。
巴達と違って、サリは事前に資料を完璧に整える子なんだろう。つまり、僕に何かしらの経験をさせようという〝仕込み〟をしない。
至れりつくせりの資料を手にしたローレライとの面談は、まさに世間話。
資料の記載内容を簡単に確認したり、サリの話をしたり。
サリはローレライから頼りにされていて、彼女の方も親しみを感じているのか、親身になって関わりを持っているようだ。
何度かサリが彼らの村で宿泊している様子からも、それは伝わってきた。
「ああ、そういえば、皆さんは楽器の演奏が得意だとか」
お祭りの話題の前振りなのか、エマが彼らの特技の一つに触れた。
「はい。私達は楽器の作製、演奏ともに得意としています。亜空にはまだ触れた事のない素材も沢山あるので、今から楽しみでなりません」
「私達も皆さんの演奏が聞けるのを楽しみにしています」
「他の種族の方と合同で近いうちに披露できるかと思います。楽しんでもらえるように、今は皆で練習に励んでおります」
楽器の類が駄目な僕なんかは、演奏は結構な特殊能力だと思う。芸能方面に達者な種族なのかも。
ローレライの場合、戦闘でも旋律を魔術と組み合わせて活用するようだから、楽器の演奏能力の高さはそのまま彼らの戦闘能力にも繋がるんだろう。
ん? 演奏が得意って事は、それに合わせて踊ったりもできるのかな?
「あの、もしかして舞踊なんかも得意なのでは?」
思い切って聞いてみた。
「はい。歌唱はあまり用いませんが、祭事などでは必ず舞踊を組み合わせています」
おお、それは好都合!
「でしたら、今度の演奏披露の際、それも見てみたいですね」
「いえ、舞踊はなんと海王の皆様が担当してくださるんです。彼らの超一流の舞踊を見られる機会はそう多くありませんし、その場で演奏できる事も滅多にありません。なので、本職である楽器の演奏に集中したいと考えております」
海王――足の生えたマグロマンを見かけたことがあるけど、僕の中ではとにかく摩訶不思議な種族って印象だ。
彼らの踊りというと……マグロとタラバのキモ竜宮城が思い浮かんで回避できない。
超一流ってくらいだから期待していいんだろうか。
話だけ聞くと、歌と演奏に対して踊りが完全にオチ担当になってる気がする。
コントじゃないんだから、オチはなくていいのに。
「そう、ですか。分かりました。楽しみにしています」
思わず声がうわずってしまった。
「はい。それで、我々は今後もこの地に住まわせていただけますか?」
「ええ。皆さんには港湾都市の中核を担ってほしいと思っています」
「ありがとうございます!」
ローレライは陸寄りの種族でもあるしね。
「サリ殿と協力し、皆さんの一員として奮起して参ります」
「サリには今後も皆さんと関わってもらうと思いますが、彼女には今回移住する種族全体のフォローをお願いする予定です。なので、これまでほどには頻繁に連絡が取れないかもしれません。そこはご了承ください」
「出世ですか、喜ばしい事です」
「やり甲斐があると本人から聞いていますし、実際に優秀ですから。第一、このエマに街を二つ任せてしまうと、多忙で倒れてしまいます」
「若様!」
「僕としては、彼女にはこうして怒る余力があるくらいでいてほしいので。その分、サリに頑張ってもらう気でいます。皆さんも協力してあげてください」
サリは僕へのご機嫌取りで〝やり甲斐がある〟と言った風でもなかったから、このまま海方面で頑張ってもらう事にした。
信用や実績で言えばエマに任せたいと思っていたのも事実だけど、今の激務を考えると難しいのは分かる。あんまり無理させるのもなんだしね。
涼しく伝えてみたものの、実際のところ亜空は慢性的に人手が足りていない。
言わなくてもいい事だから触れないけどね。
そもそも、人手が足りない原因は、亜空の住人自身が次から次へと仕事を提案し続けるからという、非常に悩ましい問題が大前提として君臨している。
みんな、もう少し休もうよ。
「魔族と袂を分かった我らが、こんな豊かな場所で生活できるとは。……ふぅ、本当に、世の中とは何が起こるのか分からぬものですね」
感無量なのか、ローレライの代表者は涙を浮かべていた。
厳しい大地での生活に見切りをつけて海に希望を求めたローレライは、そこでも決して豊かとは言えない生活をしていたらしい。
不遇に不遇を重ねた彼らだけに、亜空の海は楽園に見えているんだろうな。
彼らが喜んでくれるなら、僕も嬉しい。
「そうですね。魔族は今、領土を広げ、勢いもかつてないほどではありますが、あちらはヒューマンとの戦争を抱えています。対して、皆さんはここで平和に街づくりを始める。本当に、分からないものです」
「これからよろしくお願いいたします、若様」
「こちらこそ」
改めて深く一礼して、ローレライは去っていった。
「魔族の亜種、ローレライか」
「厳しい環境で生きてきた方々だけあって、忍耐強く堅実な皆様ですね」
ここでの亜種ってのは、僕らで言えば人種の違いみたいな感覚らしい。つまり、白人か黒人か黄色人種か、みたいな差異でしかない。
遺伝子レベルではもっと違うのかもしれないけど、見た目では正直〝亜種〟って言われるほどなのかと首を傾げたくなるくらいだ。
「魔王と共にヒューマンと女神に挑む魔族と、流れ流れて亜空に来たローレライ。どっちが幸せなんだろうね」
「それは、何を幸せとするかによって答えが変わる問いですよ」
「そっか……ところで、エマはローレライや魔族にしこりはないの?」
彼女達ハイランドオークは、以前魔族の策で危機に瀕した事がある。
全員がそれを知っているわけじゃないけど、エマは知っている。僕はそれが気になったのだ。
「ローレライには何も思うものはありません。魔族には……多少ありますが、おかげで若様と会えたのも事実。巴様にお聞きした言葉ですが、〝終わり良ければ全てよし〟と思えるようになってきました」
「そう。ならいい」
「では、次をお呼びします」
で、次は……来た。
来ました、海王!
三人。いや、三匹?
どっちでもいいや。
マグロと、とげとげしいカニ、多分タラバクラブとかいう奴。
それに、もう一人が……クジラ。
クジラなんだけど……小さいぞ、おい。
出オチか?
クジラで身長二メートルくらいって、そりゃあ小さいだろう?
「はじめまして、海王の皆様。深澄真です。こちらはハイランドオークのエマ、僕の部下です」
これまでの種族とは色々と心構えが違ったから、気合を入れて挨拶した。
すると、まず向かって左のマグロと右のカニが膝を突いて頭を下げた。
騎士がやりそうな優美な仕草で。
真ん中にいたミニクジラはそこから一歩前に出て、これまた優雅に一礼した。
クジラに手足が生えたクジラマンなのに、確かな気品を感じた。
凄いな、おい。
「はじめまして、亜空の王、真様」
そこまで言うとクジラは一歩下がり、控えていたマグロマンが口を開く。
「飛脚として流通など担当しております、マグロ族の都名と申します。よろしくお願いいたします、真様」
マグロでツナ。早速名前でボケてきた。
「強力として土木、建築、力仕事を主に担当しております、タラバクラブ族の花咲と申します。よろしくお願いします、真様」
タラバって言ったじゃん、名前がハナサキガニってなんだよ!?
どっちなんだよ!
「そして私が、臥煙として皆の生活を守り、長も務めております、クジラ族セル鯨と申します。本日はお目通りが叶い、この上ない喜びを感じております」
せる、げい。
女神……お前、何を創造してるんだよ。
いや、あの女神が創造したにしてはあまりにも造形がひど……個性的すぎる。
元からいた古代の種族なのかもしれない。
だとすると、上位竜クラスの歴史がある事になるけど。
そういえば、海を管理している上位竜っていないよね……まさか海王の名前通り彼らが海の守護者ってわけじゃないよね、違うよね?
「臥煙……ですか。あの、失礼ですが、僕の知識だと臥煙とは火消しで、ならずも――じゃなくて、イメージがあまり良くない言葉なのですが?」
大体、職が臥煙っておかしいだろ?
お前海にいるじゃん?
火事ないじゃん?
臥煙って言ったら、江戸の町火消し――と言えば聞こえは悪くないけど、僕の知ってる限りだと実質火事の時に家を壊しまくるのが仕事みたいな連中で、普段はヤ○ザだ。
海王って〝なんとか一家〟ってノリなのか、もしかして。
飛脚はまあいいとして……僕の中で強力は荷運び兼山岳案内人って感じだ。力仕事には違いないんだけど。
「お詳しいですね。確かに我らの間でも臥煙とは火消しを意味する言葉の一つで、イメージも良くありません。しかし驚きました。飛脚や強力についても事前にご存知だったようですし、その上臥煙の事まで。真様は随分博識な方なのですね」
めっちゃ紳士的な受け答えをする、自称臥煙のセル鯨さん。
この人だけ完全に音読みなのは、多分気にしたら負けだ。
しかし、博識とか言って持ち上げるけど、僕は普通より少し詳しい程度じゃないかな。
飛脚とか強力、それに臥煙なんて、時代劇を見てれば自然と覚えるからなあ。江戸時代の職なら〝取っ替えべえ〟なんか博識の内に入るかもしれないけどさ。
「セル鯨様はその名の意味合いを知って、それでも自ら臥煙を名乗られているのです」
都名からフォローが入った。
「セル鯨様ほどに高潔な方は他におりません」
花咲からも入った。
こいつの正体ももう気にしない方が良いだろう。
正直、ハナサキガニなんて、名前しか知らない。
食用の意味でなら旅番組で見たけど、生態とか種としてタラバガニとどう違うかなんて、全く分からないし。
そんな珍奇な見た目と構成はともかく、海王はどの種族からも評判が良く、その上僕らにも非常に協力的だ。
サリだけじゃなくて、巴や澪、識からの評価も良い。
資料からは問題は読み取れない、品行方正な種族だったりする。
しかし、今しがた都名と花咲がセル鯨を気遣うような態度を見せたのが少し気になる。何かあるならここで聞いておきたい。
「何か事情がおありですか?」
僕が水を向けると、セル鯨さんは真剣な眼差しで応じた。
「真様にはお話しするつもりで今日ここへ参りました。我ら海王の恥にもなる事ですが、聞いていただけますか」
「もちろんです。亜空に住むとなれば家族のようなものですから。その事情も含めて受け入れたいと思っています」
「海王は世界の海を統べる、海の守護者とも言える存在。様々な外見の者がおりますが、いずれも優れた能力を持ち、古来から海の治安を守らんとして参りました」
「海の守護者……」
嘘ー。
「守護者などと偉そうに申しましても、種族である以上、何度かの摩擦や内乱はあり、勢力を分けて他種族を巻き込んだ戦争に突入した過去もございます。これらはヒューマンの歴史に記される事はありませんが、海も陸から見えぬ場所では各地で争いを繰り広げて参りました」
「はあ」
海は海で大戦争も経験しているってわけか。
「今はそのような戦乱もなく平和な世を過ごしておりますが、一つ問題が持ち上がりました。実は、王の息子である私は双子で、生き写しの兄がいるのです」
「という事は、王位はお兄様が継がれる?」
「既に継ぎました。私には王位を争う気がなく、兄をもりたてていく所存でしたので、障害もなく順調に王位は兄に移動しました」
何も問題ないじゃん。
「種族を割っての争いなど馬鹿げていますし、私は将軍としてこの身を海王の国と民に捧げていければよかったのです。しかし、なまじ私の方が兄よりも個体の能力で勝る部分が多かったのと、軍のトップという地位が良くなかったのでしょう。徐々に私と兄の間に悪い空気が生まれはじめました」
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「兄は私が軍を自由に動かせるのが危険だと思うようになり、自分の派閥を固め、王の権力の中に軍を取り込もうとしました。海王は権力の集中を避けるためにいくつかの意図的な分権を行なっていまして、普段の兄はその事に十分な理解を示していたのですが」
「海王って凄く進んだ政治をしていたんですね」
分権って言葉、この世界で前に聞いたのはいつだっけ?
集権とどっちが優れているかじゃなくて、権力について色んな考え方が存在するのが凄いよ。
僕もこっちにきてようやく三権分立とか中央と地方の権利とか、呪文みたいな言葉の意味が理解できるようになったくらいだしさ。
それまではただの暗記項目でしたよ。
「ありがとうございます。私も後に禍根が残りそうな王への過剰な集権は阻止しつつ、兄との関係修復に努めたのですが、結局、恐れていた内乱を避けられない状況になってしまいました。自分の無能を恥じるばかりです」
「内乱ですか」
「もはや避ける方法は一つも残っていない、誰もがそう思っていました。しかし光はありました。私が海王の国から追放される事です。兄は、恐らく宣戦布告のつもりでその言葉を私に突きつけたのでしょうが、それは私にとっては本当に救いでした。追放を受け入れた私は臥煙を名乗り、海を放浪する身になったのです」
セル鯨伝説の第何章か知らないけど終わったっぽい感じだ。
「ええと、そこから方々を回って各地の海王さんと生活するに至った、という事ですか?」
「いえ。追放された私を国の戦士や民衆が追ってきてくれたのです。しかし兄からは追っ手がかかり、なんとか最小限の戦いで切り抜けて、隠れ里をつくって生活していました。そこに、亜空から声を掛けて頂いたのです」
「それはまた、本当に凄いタイミングでしたね」
「私達は皆この奇跡に心から感謝しております。今後はこの海を故郷とし、そこに生きる皆と手を取り合って、真様にお仕えする――そう決心しております」
セル鯨さんの目力が凄い。
今聞いた通り、流石に荒波に揉まれてきただけの事はある。
というか、こんなしっかりした人でも、一回勢いがついた政争って止められないものなんだな。
「海王の皆さんは他の種族からの評判も良いですし、こちらのルールについても事前に了解を頂いています。よって、これからもここに住んでもらって構いません。歓迎します。そちらからは何かありますか?」
「ありがとうございます。まことに図々しいと思いますが、こちらからは二つほど望みがございます。一つは亜空ランキングなる強者の集いに我らも参加したく、便宜をお願いしたいという事。もう一つは先ほどの話にも関わるのですが、もし兄の率いる海王と問題が起きた場合、我々は戦いには参加できない、というものです」
参加できない……妥当な線か。
戦わないでくれ、と言いだしてもおかしくないとも思うし。
しかし、これにエマが反論した。
「では、海王の皆さんは、彼らが侵略してきたとしても戦わないと仰るのですか?」
もしも、にしてもあまりにもない話だけど。
「万が一、そのような事態になった時には、我らは自決します。それがなんの償いにもならないのは承知です。しかし、戦えぬ事で他の種族の方に迷惑をかけてしまう……それだけは、堪えられぬのです」
苦渋に顔を歪ませるセル鯨さん。その気持ちは分からないでもないが、僕としては認められない考えだ。
「駄目だ。自決は駄目。そこは別の手を考えてください」
「真様……しかし」
セル鯨さんの表情は苦しげなままだ。
「申し訳ありません、私がついおかしな想定で話をしてしまいました。この件は海王の皆さんへの若様からの宿題という事で」
エマが会話に割り込んで流れを切った。
セル鯨さんの答えが彼女の予想と大きく違っていたからかもしれない。
「エマ殿。自決については我らが全員で議論をして出した結論で――」
「セル鯨殿。どうか、聞き分けてください。でないと、その可能性をゼロにしようと考える方が、亜空には数名いらっしゃいますから」
エマの真剣な目を見て何かを察したらしく、セル鯨さんは鋭く息を呑む。
「ゼロ……? それは……っ!?」
「ご想像にお任せします。自決だなんて、若様も私達も皆さんに望んでいませんから。もう一度、よく議論なさってください」
ゼロ? ゼロねえ。
ああ、なるほど。兄の方の海王を皆殺しにすれば万が一の事態は絶対になくせるのか。
そもそも亜空に攻め込むなんて可能性は低いだろうけど、ゼロにするってなら、それか。
「分かりました。では、私達はこれで失礼を。若様、エマ殿。今後ともよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」
引っ掛かっていた事を思い出し、帰っていくセル鯨さんを呼び止める。
「あ、そうだ。セル鯨さん!」
「なんでしょうか、若様」
早くも僕を若様と呼ぶセル鯨さん。
「追放されたから臥煙って、なんかしっくり来ないんですが。だって、海には火消しの仕事なんてないでしょう?」
「ああ、それですか。私は元々、軍務につく前から火山の処理をしていましたから」
「海で火山?」
「真様、海にも海底火山というものがございます。様子は異なりますが、陸の火山と同じように噴火もいたします。規模は小さかったながら、以前私はその噴火を一人で止めた事がありまして、それで〝一番纏〟のセル鯨と呼ばれておりました」
「海底火山。はぁ、そうなんですか。それで臥煙。分かりました」
「それでは」
深く頭を下げて三人は今度こそ退室した。
一番纏で、今は臥煙ねえ。海底火山の噴火を火事に見立てたわけか、なるほど。
うんうん頷いていると、エマが震える声で僕に呼び掛けてきた。
「わ、若様? あの方、あんな小さな体で山の噴火を止めた、と仰いましたが?」
「……おお、確かに」
火山の噴火って、小さいとか言っても相当だよ。
海底火山がどういうものか見た事はないけど、結構な偉業じゃないか。
「海の種族もまた、底知れぬ実力者がいるのですね……皆に伝えなくては」
「名前で出オチした以外は真面目な人達だったしね。海王、恐るべしだ」
そんなわけで、その後も何種族かの面談を行い、海にしかいられない種族にはこっちから出向いたりもして、無事に全種族の移住が決まった。
亜空の人口も――まあ、人口と言っていいのか分からないけど――これで二千を超えた。
うーん。
二千人以上から若様と認識されるのか。
僕としては〝大家さん〟くらいでいいんだけどなあ。
◇◆◇◆◇
クズノハ商会二階応接室。
真が海の種族と面談をしていたその時、彼の従者である識は、四人の学生と会っていた。
ライドウこと真が講師を務めるロッツガルド学園のジン、アベリア、シフ、ユーノ。将来クズノハ商会に就職を望んでいる学生達だ。
「識さん、ライドウ先生の反応はどうでした?」
出されたお茶に口をつける余裕もないジンが、緊張した様子で聞いた。
識はいつも学生に向ける穏やかな表情のまま口を開く。
「ジンについては、なかなか肯定的でしたよ。給料はそんなに出せないんだけど、とは言っていましたが」
「本当ですか!」
「ええ。ただ……本当に大変な割に、あまりお金は出ない職場だと思いますよ、ここは」
「金なんて、食べて寝られればそれでいいです。クズノハ商会では、必要に応じて従業員に武具の支給があるんでしたよね?」
「必要と、その人の実力に応じて、ですよ」
「はい! よし、よし!!」
ジンは拳を握りしめ、これまでにないほど喜びを露わにした。それだけ、クズノハ商会が彼にとって魅力的な職場だと分かる光景だ。
食べ物と寝床、あとは武具さえ賄えるなら金などどうでもいいという、彼の価値観も窺える。
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