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13巻
13-1
しおりを挟むプロローグ
ライドウこと深澄真が魔族の国で魔王と面会していた頃、クズノハ商会ロッツガルド支店は大忙しだった。
理由は単純、人手不足だ。
真の従者の一人にして実質的にこの店の責任者と言える――識が、主の供で留守だった事に加えて、御用聞きや配達、売り場の店員までこなすライム=ラテが密命により店を空けていたのが影響していた。彼は現在真の従者、巴の密偵としての任務に就いている。
クズノハの店舗は広くなり、店の評判は上がる一方。増える客の数に、対応する店員が追いついていない。
もちろん、大きな商談や寄り合いへの出席による一時的な人数不足に対しては事前に手を打ってあったが、それでも日常業務が回るか回らないか、ギリギリのラインといったところである。
「も、もうすぐ閉店にできる。しかしもう堪えられない、私は早退す……」
「寝言か、エリス。むしろもっと分身を増やせ。ラストスパートとばかりにお客様が来ている」
日暮れ前の一時。
今日も多すぎる客足に恵まれたクズノハ商会で、浅黒い肌の森鬼の娘が二人、まるで同時に複数人存在しているかのような足捌きで接客に励んでいた。
なんとか乗り切ろうと踏ん張る長身のアクアと、残り時間に絶望する小柄なエリス。
どちらもフラフラである。
「ははは、アクア。私はもう、カラッカラのボロ雑巾だよ。搾っても何も出ない。この上接客奥義を連発すれば、コスモが枯渇する」
「ほら、お前の常連が来たぞ? 笑顔笑顔」
「ん、いらっしゃいませー!! ……はっ、つい染み付いた業がっ!」
彼女達にとって唯一の救いは、店主ライドウが定めた一日の販売量だった。
それがあるからこそ、ゴールが見える。
もし無制限に商品を売って、毎日閉店時刻まで店を開けていたなら、既に二人は過労で寝込んでいたかもしれない。
商人としての嗅覚が未だ鈍いライドウだったが、今回の魔王謁見に際して彼が決めた販売量については、偶然にも素晴らしい一点を突いていた。従業員の一日の体力をギリギリまで削るという意味において。
「あと一時間もすれば在庫が切れる。気合だ、エリス。カラカラだろうと引き千切るくらいに搾れ。で、飲もう。皆と飲もう」
「せめてライム、あいつさえいればぁっ」
「巴様の命で今頃はローレル連邦だ。無茶を言うな」
「……決めた。今日はバナナブリス・ライムを飲む」
「ライムが考案したカクテルか。あれで意外となんでもやるな、あの男は。あの酒については、若様が名前をつけたから、原型があるかもしれんが」
「……ジョッキで」
「介抱はしないからな。でも一杯目は付き合おう。……今日は亜空で飲むことになるか。うん、頑張ろう」
「ろ、六番目じゃあ駄目なんだ。もう目覚めるしかない、究極のコス……」
「だから寝言はやめろと。あ、いらっしゃいませー! 今日は……はい、そうですね、いつものはまだ時期が早いので、こちらの品などいかがですか?」
「ライムめぇ! お土産は高いやつだぞ!」
ぶつくさ文句を口にしながらも、二人は接客をこなす。
まだ日が落ちたばかりだというのに、在庫切れでの閉店が見込めるほど、クズノハ商会は繁盛していた。
◇◆◇◆◇
「っくし!」
「あら、ライム。風邪?」
「いや、誰かが噂でもしてんだろ」
「噂くらいだったらいいけど。……夜はお盛んみたいだもの、そのうちどこかの女に刺されたりしないでしょうね?」
「遊ぶときゃ勇者殿のパーティとは別行動の体だ。迷惑はかけねえよ」
瓦屋根の日本風家屋や土蔵の建ち並ぶ――しかし伝統的な日本のそれとはどこかセンスが違う――街を、男女が並んで歩いていた。
男はライム=ラテ。
クズノハ商会の一員であり、今はリミア王国の勇者と行動を共にしている。
女は音無響。
彼女こそリミア王国が有する勇者その人であり、魔族との戦争においてヒューマン側の希望となっている存在だ。
日本においては、クズノハ商会の店主ライドウこと深澄真と先輩後輩の関係だった女性でもある。
「別に、女遊びをするなって言ってるわけじゃないわ。スマートに遊ぶなら別に構わないって思ってるし」
「へえ、若い女にしちゃ寛容なことで。その割に、パーティの兄さん方は羽目を外してるようには見えないが?」
「ウーディは妻子持ちで奥さんにベタ惚れ。ベルダはそもそも遊ぶ気がないみたい。あの分だと女性経験もまだないんじゃないかな。まあ、私からそういうのを勧めるつもりはないけどね」
「……ベルダの兄さんについちゃ、それだけじゃないだろ?」
「やっぱり……分かる? どうも私の事が好きみたいね。好かれるのは嬉しいけど……彼の想いに応える気はないわ」
「きっぱりとまあ……。だったら、さっさと言ってやるのも優しさだと思うぜ?」
「彼が告白してきたら、きちんと断るわ。想いを察してこちらから振るなんて、後味悪いでしょ? 彼にしても、ちゃんと覚悟して、自分で口に出して、それで終わりにした方が引きずらないと思うんだけど。男性ってそういうものじゃないの?」
「……優しいんだか、きっついんだか。ま、俺には関係ねえや。話を振っといてなんだが、好きにしてくれ」
ライムは両手で天を仰ぎ、肩を竦めた。
「そうするわ。今日は悪いわね、付き合ってもらっちゃって」
「別に。兄さん方二人が風土病でダウンとくりゃ、仕方ねえさ」
「ウーディもベルダも運が悪いわ。それとも、ライムが幸運なのかな」
「俺が幸運なのは間違いねえな。だから今も生きてるし、クズノハ商会に勤めてる」
「その辺りは……聞いても?」
「構わねえよ。答えられる事は多くないけどな」
「……何よ、それ。大体、ロッツガルドとツィーゲで商売をしている貴方達が、どうしてここにいるのよ?」
響とライムが歩く先には中央に手すりの設けられた長い石階段が続き、その先に一際大きな青色の神殿がそびえていた。
二人の足取りから、そこが目的地であると分かる。
「うちの旦那がローレルのお偉いさんに誘われてるんだよ、こっちにも店出しませんかってな。随分熱心なもんだから無下にもできず、俺はその下見ってわけだ。あんたらと一緒になったのは偶然だぜ?」
ライムはそう語ったが、本当の目的は響らの動向調査だ。
当然、そうとは悟らせないための表向きの理由はきっちり用意されている。
その辺りに抜かりはなかった。
「お偉いさん、ね。ちなみに名前は?」
「おいおい、まるで尋問だ。彩律ってお人だ。先方に確認すんのは自由だけどよ、俺が来てるってのは内緒で頼むぜ。下見に来たなんて知れちまうと、また旦那宛に念話と手紙のオンパレードだ。あんた、旦那の学校の先輩でもあるんだろ? 少しは後輩を助けてやっても罰は当たらないと思うぜ?」
「彩律……。ふぅん、分かったわ。貴方の名前は出さない」
「よろしく」
「先輩後輩だって言うなら、私にも後輩の手を借りたい時があるんだけど?」
「そこは先輩なんだから、一つ、やせ我慢で頼む。旦那もあれでいっぱいいっぱい……苦しんでおられるんでな」
「……困った後輩だわ」
二人は会話を続けながら、幅の広い石段を一歩ずつ上る。
その横を絶えず沢山の人が行き交っており、この先の神殿の参拝客がいかに多いか、一目で分かるというものだ。
「それにしても……ローレルは本当に精霊への信仰が盛んね。確か水の精霊だったかしら。明らかに女神よりも強い信仰を向けられている」
「強い力を持ち、女神よりも出現の機会の多い上位精霊は、庶民にとっては十分信仰の対象になる。それに、精霊信仰なんて言っても、精霊は皆女神に仕えるものって括りなんだから、実質的には女神信仰でもあるんだしな」
「なかなか詳しいのね」
「お、見直してくれたかい? なら、精霊についてもう一つ。かつて魔族が大侵攻をかけた時に彼らにも助力した土と火の精霊は、その行いから亜精霊とも言われている。この二つは人でも亜人でも、今なお信仰している連中は少ないな。ドワーフなんかは頑固に土の精霊を信仰しているが、彼らはその際立った鍛冶の腕のおかげで女神から目こぼしされている感じだ」
「……そこまで知ってれば大したものよ。クズノハ商会って、ただのヒラ従業員でもそのくらい知識がないと入れないの?」
「どうかな……ウチはどっちかっていうと一芸を尊ぶ傾向があるから、別に物知りじゃなくても、際立った特技があればいけるんじゃねえか?」
「なら、私も入社しようかしら。深澄君のコネで」
冗談とも本気とも取れない表情の響に、ライムは苦笑しながら返す。
「コネは一芸じゃねえだろうよ。……勇者稼業は転職考えるほどブラックかい?」
「真っ黒ね。相手も環境も、最悪に近いわ。ま、それ以上にやり甲斐があるのが問題か。やめられないもの。兼業は無理かしら? 店に利益を出す店員になる自信はあるわよ?」
「ウチはかけもち禁止」
「あら残念……。ふぅっ、ようやく到着ね。まったく、長い階段。ところでチヤちゃんの修業、そろそろ終わりだって言ってたんだけど、どう思う?」
響は今しがた上り終えた階段を振り返って、うんざりした目を向ける。
「この程度で息を乱すようじゃ、修業が足りねえよっと。どう思うって言われても、俺はあの巫女さんがここで何をしてるのか知らねえから、なんとも。あんたに付き合って一緒に来ただけだしな」
「……本当にチヤちゃんが何をしているか、知らないの?」
「……ああ、何も」
「……じゃ、そういう事にしておいてあげる」
「信用されてねえなあ」
「ふふっ」
軽口を言い合いながら、響とライムは神殿に入る。
身分の確認と簡単な身体検査の後、二人は神殿内の部屋に通された。
彼ら――というか、響が今日ここを訪れたのは、パーティの仲間でもあるローレルの巫女チヤの修業が、今日で終わると聞かされたためである。
幼いながら頼れる仲間を自ら迎えに来たのだ。
本来なら同じパーティメンバーであるウーディやベルダが同行するところだが、彼らは今病に臥している。
そこで響は、ローレルで出会ったクズノハ商会の従業員を名乗る男、ライムに同行を持ちかけた。
何故彼を誘ったのかは、彼女自身にもはっきりとは分からない。ただ、一人で行く事が危険だと、そう直感したのだ。
話を持ちかけられたライムの方は、突然の勇者の来訪にも慌てた様子はなく、気軽に付き合う旅先の友として、彼女の誘いを受けた。
巴から命じられた勇者の動向調査をするにはこの上ない距離に近づけるのだから、彼の判断は当然と言える。
「で? あの巫女さん、修業してどう強くなるんだ?」
「それは秘密ね」
「できればそれが、自分の身を守れるような成長だと、ありがたいんだがなあ」
「ありがたい? それってどういう……!!」
ライムの不可解な発言に一瞬訝しげな目を向けた響だが、その顔に一気に緊張が走る。
「気付いたかい?」
「何か、変ね」
「変、か。まあ直感だけで言っているなら大したもんだ。ソレ、抜いときな」
ライムは油断なく腰の刀に手を掛けたまま、響の背にある剣を視線で示した。
「敵? でもローレルには魔族の侵攻なんて過去一度だって……」
「さ、魔族かどうかは知らねえが。とりあえず、空間が隔離されたのは事実だ。今のここは異界とか異空間ってやつだな」
「空間の隔離? 結界が発動したって事?」
「その通り。ただし、随分と大掛かりだ。神殿の防御機構とは思えねえ。神殿内部に長期間かけて何か仕込んでおいた、そんな感じだな」
ライムは冷静に状況を分析する。彼はクズノハ商会で斥候を担当する事もあるだけに、このような事態でも慌てたり戸惑ったりしない。
真っ先に異常を察知し、誰よりも早く考えはじめていた。
「っ!? じゃあ、チヤちゃんが!」
「ああ、危険に晒されている可能性は高いな。だからさっき、どんな強さを得たか聞いてみた」
「何を悠長な! 手を貸して、すぐに救出に動く!」
「……ああ、〝貸す〟ぜ。その言葉は、忘れるなよ?」
「ええ、貸したと思ってくれていいわ。いずれ、返す」
「いやいや、それほど大仰に考えてくれなくていい。あの巫女さんがどんな力を得る予定なのか聞かせてくれれば、それで十分。どうも、一度気になると、どうしても知りたくなっちまう性質でな」
「なら、移動しながら話すわ。貴方、前衛よね?」
響はライムの刀を見てそう判断していた。
「ああ。肩並べても背中預けられても、それなりの仕事をするぜ、俺は」
ライムの返事を待たず、ドンッと音を立てて響が木製の扉を蹴り破る。
廊下は先程までとは違い、少し歪んだように揺らぎを見せている。明らかに通常空間とは違う、不安定な場所にいると窺い知れる光景だ。
「ならついて来て。後ろも隣も、どっちもやってもらうわ」
「了解。まずは右と左、どっちに向かう? 巫女さんのいる場所は知ってるんだろ、勇者殿?」
「左ね。それから、私の事は響でいいわ。〝勇者殿〟って、なんかくすぐったいのよね。実は同じ戦場に立つ人には、あまりそう呼ばれたくはないの」
「響ね。そう呼べって言うなら、俺は構わねえよ。じゃ、行くか」
「ええ。ホルン!」
響の呼びかけに呼応して、彼女の腰に巻かれた銀帯から見事な毛並みの狼が出現する。
「うおっと!? 召喚するならそう言ってくれ。びっくりするだろうが」
「あら、ごめんなさい。あまり臨時のメンバーとは組まないから、無頓着だったわ」
響は軽く頭を下げて謝罪すると、狼に言い聞かせる。
「チヤちゃんの所に行くわ。もし何か分かったら教えて」
意思の疎通ができているらしく、狼は主の言葉に頷いて応える。
即座に駆け出す二人と一匹。
ライムが言った通り、神殿はまさしく異空間、ダンジョンのようになっていた。
本来の構造とは異なった廊下が続いていたり、鍵のかかっていないはずの扉が開かなかったり。それに、本来なら神殿内部には絶対にいないはずの魔物の類まで出没していた。
それらはどれも敵対的であり、先を急ぐ響らに容赦なく襲い掛かってくる。
「随分と、余裕で戦うのねっ! やっぱり、ただの従業員じゃないでしょ、貴方!」
「なに、他国の下見を任される程度に心得があるだけさ。それより、そちらの狼さんといい、あんたも勇者の名前に恥じない強さだ。見直した!」
響達は襲い来る魔物に行く手を塞がれるどころか、ほとんど一撃のもとに斬り伏せて、むしろ徐々に速度を上げて突き進んでいく。
ライムは時折響に視線を向けて観察しながら、ぴったり彼女の後をついていった。
息を乱す事もなく自分の速度についてきて、まるで呼吸を読んだかのように刃を振るうライムを見て、響の頭にかつて共に戦った仲間の幻影が浮かぶ。しかし、その友――ナバールはもう帰ってきてはくれないのだと、心に言い聞かせ、彼女はそれを振り払った。
「お、どうやら、ここか?」
大きな扉の前で足を止めた響に、ライムが尋ねる。
「……はぁっ、はぁっ」
(こいつ、凄い。息もほとんど乱れてない。それに、私の動きを邪魔しないように立ち回って。本当にナバールみたい……いえ、彼女よりもきっと上手だ……)
先頭を切って走ったのは響だったが、後をついてきたライムがまるで疲労を抱えていない事に驚き、そして彼の身のこなしや刀捌きに感心していた。
「少し休むかい? 巫女さんも多分無事みたいだぜ?」
「……」
息を整えながら、響は黙って首を横に振った。
(それに、私自身もそうだ。明らかに本来の私よりも強くなっているような気がした。この人が――ライムが、力を引き出してくれた? まさか、そんなはずないだろうけど……)
一つ大きく息を吐く。
視線を上げると、そこにはライムの背がある。何故か響には、その背中が随分と大きく見えた。
「しっかし、心の目? 心眼だっけか? そんな能力だけで、よく耐えたもんだ。あんまり一人での戦闘は得意そうじゃなかったのにな、あの巫女さん」
ライムは道中で響から聞いた巫女の新しい能力に言及する。
響がライムに教えたチヤの能力の名は、心眼。言い換えれば心の目だ。
対象の真実の姿を問答無用で見抜く、巫女だけが持つ能力である。
しかし、響は一つライムに隠し事をしていた。
それは、心眼は副作用的に獲得した能力である事。
チヤの全体的な能力強化を施す儀式を受けるのが今回の目的であり、その過程で心眼という能力も得るのだ。
肝心の能力強化については、彼に教えなかった。
「それは……いえ、行きましょう!」
危うくライムに全てを話しそうになり、響はすんでのところで言葉を呑み込んだ。
確かに現在は協力関係にあるが、ライム=ラテはクズノハ商会の一員。
響から見てクズノハ商会はひどく危うい存在であり、全てを明かすのは危険な気がしたのだ。
「あいよ」
ライムが大きな扉を開けると、そこには――
「っ!!」
膝を突き、両手を組んで、目を閉じて祈りを捧げるチヤの姿、そして彼女を護る力強い障壁が見えた。
そして、障壁を取り囲む三人の魔族。
「魔族、かい。なんだかな、どうもこりゃ計画的とは思えない臭いがしやがる……上手くねえ。らしくもねえな」
ライムが呟く。
肩で息をして、魔術を編んでいるのが巫女であると、ライムにも分かった。
彼女の周囲には、巫女の護衛と思しき者が無残な姿で横たわっている。
あまりにお粗末な光景から、ライムは何か突発的な事があったのではと予測したのだった。
「待てよ……そうか、心眼か。それの習得で巫女は思わぬものを見ちまって、それであの三人が慌てて……って構図か? それならこの様子も――」
僅かな情報から瞬時に状況を推測するライム。
だが、冷静だったのは彼だけだった。
「こ、のっ!!」
「っ!?」
右隣から怒りの声を聞いたライムは、そちらにいるはずの響を見た。
飾り帯の銀帯がにわかに輝き、彼女の全身を包む。
次の瞬間、異様な力の高まりとともに響の姿がかき消えた。
そう。巴に鍛えられた彼の目にも、響が消えたように見えたのだ。思わず背に冷たいものを感じて、ライムは息を呑む。
「ぎゃあっっ!!」
「……マジかよ」
前方からの悲鳴でライムは響の所在を知る。
既に彼女はチヤの張った障壁の傍にいた。そして、足元には三人の魔族が転がっている。
反応できたわけではなく、幸運にも反射的な防御が〝当たった〟三人目だけが、悲鳴を発する事ができた。
他の二人は反応する間もなく一太刀で両断されていた。
悲鳴を許された一人も、明らかに致命傷の一撃を受けている。即死ではなかった、ただそれだけの違いにすぎない。
間もなく、口から大量の血を吐き、その魔族も死に至った。
場に静寂が戻る。
(やれやれ。生かしておいて顛末を吐かせるのが常道だとは思うが……。響にとって、あの巫女は余程特別な存在なのかもな。だとすれば、いざという時の牽制に使えるかもしれねえ。実際人質にしなくても、臭わせるだけで動きは鈍るもんだしな。それにしても……とんでもねえ速さだ。ありゃあ、反応できねえわ。下手すれば俺も一瞬でやられるな。ここで見ておけて良かった。……あの物凄い格好を含めて、な。冷や汗分以上の目の保養だわ、拝んどこ)
ライムは巫女の存在や、彼女が張った強力な障壁、それに響の行動の一切を記憶に留める。
加えて、響の奥の手かもしれない超高速機動……と、その際に彼女が纏った実に露出度の高い衣装も。
「大丈夫だった!? チヤちゃん!!」
「響お姉ちゃん! 来てくれた! 来てくれたー!!」
その声と同時に障壁が脆く崩れ去り、響とチヤは抱き合う。
「良かった! 間に合って本当に良かった! もう大丈夫だからね」
「怖かったけど、きっと助けが来るって信じてたの! だから、ずっと障壁だけ張って頑張ったの!」
幼いチヤのこの対処は、実に冷静で勇敢だと言えた。
下手に攻めに出るよりもミスを犯す可能性は低く、確実に生き長らえる事ができる。
ただし、相手を排除できないため、最終的な生存率は助けをどの程度期待できるかによってかなり変わってくるが。
チヤは助けが来る方に賭けて、見事に勝ったわけだ。
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