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終章 月と亜空落着編
勝利の条件
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魔族は思ったよりもずっと追い込まれてる、かもしれない。
響先輩から聞く限りではね。
「といった感じね。これまでの苦戦を思うと怖いくらいに順調よ。もっとも……ステラの時みたいに誘い込まれて実は罠がって展開も十分ある相手だけど」
むしろ自分の役割はその奇襲に備える事だと先輩は思っているみたいだ。
「あー、奈落でしたっけ。例の巨大落とし穴」
「当然のように知ってるのね真君」
ステラ砦の罠。
それはロナが仕掛けた砦前の大穴トラップ、奈落の事だ。
面白い様に軍勢が崩れて沢山殺せた、爽快だったと本人は上機嫌で語ってた。
流石に先輩にはロナの様子までは伝えない。
必要ないし無駄に空気を悪くするだけだ。
「これでも商人なんで」
情報が命の職業です。
奈落って名前はともかくあそこであった事だけならレンブラントさんも知ってるだろうな。
しかし奈落ってネーミング。
魔族にも賢人やらローレルやらの知識やセンスが入り込んでるのかな。
確か、魔将に一人そっち系の名前のがいたし。
符術とか使う人。
「……未だ魔将も出てこないから、嫌な予感だけは膨らむのだけどね。あの時もそうだったのに、私にはその先が読み切れない。悔しいものね」
「と言いますと、先輩から見て魔族にはもう手が無い筈だと?」
将棋とか囲碁である、何手も先を読んでなお相手には打つ手がない詰みの状態。
今回の進軍とその成果は、ヒューマンと魔族の戦いを決着させるだけの状態にあると先輩は考えてるんだろうか。
僕は魔将や魔王、それに魔王の子なんてのまで直接見てるから彼らにまだ何か手があるんだろうとは何となく思ってる。
例え予定外の進軍であってもそのまま攻め込まれて負けました、なんて人達じゃないから。
確かに戦況はまあ良くない。
そこは向こうも認めざるを得ないとは――
「起き上がろうにも膝を砕かれた、くらいには傾いた戦況だと思う。だって彼らにとって第二、第三の都市は既に私たちが占領してるもの。残るサンドグリフ、首都が陥落すれば御仕舞いだから――」
「え?」
「? 真君?」
あ、そうか。
僕が招かれたのは古都だった。
首都じゃなかった。
てか首都ってサンドグリフなんて名前だったっけ?
先輩が知ってるなら多分智樹も知ってるだろうし、あいつは魅了でそれなりに正確な情報もゲットできる。
……。
あれ、何か引っかかる。
何か引っかかるんですが……引っ張ってこれない。
っと。
今はそれよりも先輩か。
古都とか首都とか名前とかは後だ。
「首都が陥落すれば御仕舞い、ですか」
「ええ、主だった都市は既に落としたから。首都機能を移転出来る程の都市は彼らにはもうない筈よ」
「つまり、首都で決戦があるんですか?」
「ですか、と聞かれても困るわね。通常なら、更に退く選択肢は無いわ。何が気になってるの?」
引っかかってるのは首都とかどうとかじゃないナニカにです。
僕が先輩の問いに、え、と間の抜けた疑問を口にした理由は――
「若様が疑問に思われたのは、では首都に魔将も魔王も精鋭たちも全て集結しているのか、という点です」
識が代わりに答えてくれた。
更にいえば主だった街を落として首都も占領したとしても、反抗の意思ある限り戦争は終わらない。
最悪ヒューマンの領地に逃げ延びてゲリラだテロだとやり始めるだろう。
つまるところ、この戦いの面倒はそこだ。
先輩がどう考えているかはわからない。
でも僕なら反抗の意思の有無が一番大事だと考える。
確固たる意志で戦いを終わらせるつもりなら、ヒューマンと魔族の戦争の場合、刃を向ける相手として戦闘員とか非戦闘員は関係ないんだ。
非人道的で……同時に正しい意見だと自信がある。
「魔族の残存戦力については確かに未知数よ」
「それに、情報もでしょう」
「情報?」
「例えば、魔将は何人いてそれぞれどんな容姿をしていて戦闘スタイルはどんなタイプか知っていますか?」
「イオに、ロナ、それに後方に研究者のモクレン、イオと同じ武将でレフトでしょ」
先輩は続けて魔将の戦闘スタイルについても把握してる情報を並べていく。
……なるほど、正確じゃない。
僕らが持ってるのより随分と曖昧で、容姿についてもモクレンははっきりしてない。
「なるほど。では魔王は? 名と容姿はわかりますか?」
「魔王……確か名前はゼフ。容姿は精悍な金髪の魔族というくらいしか」
「なら、何も知らぬのと同じです。魔王が影を置いてどこかに逃げ延びても貴女たちヒューマンに知るすべはない」
「っ。身代わりの影。そうね、その可能性はもちろんあるか」
「魔王に近しい者ほど忠誠心はもちろん、勇者の魅了にも今回の戦術にも詳しくなります。むざむざ魅了されて情報を抜かれる前に自決するでしょう、更に言えば魔王の子、後継者は誰なのかも当然知らぬ訳でしょう?」
「……なるほど。相手の玉を取り逃がす危険が色濃く残ってる。魔族にしては随分消極的にも見える逃げの手……いえ、追い込まれればそこまでしてくる?」
まあ、ロナは魅了にかかったけどね。
識の言葉にはあいつへの嫌味も多分に含まれてるのかもしれない。
自決ってのもまさにあいつが選んだ手だ。
それに僕を使うなって話は置いといて。
おかげでロナの奥の手も知れた、ついでに僕がそれに耐えたのもロナにとっては大分衝撃的だったみたいで一石二鳥の結果になったと思えなくもない。
……めっちゃくちゃ痛かった!
あまり思い出しくない事も思い出してしまった。
「魔王ってそういえば結婚はどうしてるのかな」
「わ、若様? そうですね、王というからには妻も複数、子も複数いるのが普通かとは思いますが」
「だよねえ。にしては子どもや奥さんの情報は無いよなあと思ってさ」
一度会ってるし結婚はしてなくて血が繋がってる子もサリ一人なのは知ってる。
ただゼフがどうこうじゃなく魔族の王、魔王は結婚はどうしてるのかとふと気になった。
後継者は実力者なんだから下手に子どもを残さないのが慣例なのか、それとも間違いなく強者の血なんだから率先して子作りに励むものなのか。
歴代の魔王はどうしてたんだろ。
「つまり、私の抱えてる嫌な予感の正体はトラウマ半分情報不足半分だ、と言いたいのかしら識さんは」
「……さて」
「まだ何か思うところがあるのなら、せっかく学園都市にいるのだから識先生と真先生に私も教わりたいですわ」
「私が少しばかり危惧しているのは本当に常識的な事ですが」
「構いません、英雄講師の助手のお言葉ですもの」
……先輩、それは僕にクリティカルします。
芝居がかっていればノーダメージなんてことにはならないんです。
「いくら快進撃でも少しばかり縦一直線に奥に入り込みすぎかと。性急な進軍ゆえ十分な兵站もなく、万が一決着に至らずカウンターなどという話になれば目も当てられない。などと愚考します」
「快進撃過ぎる……真先生からは?」
「さっき少し言った事と同じになりますよ?」
「是非」
「ヒューマンと魔族の戦争では街を幾つ奪ったか、は勝利条件になりません。ちゃんと情報収集をして相手の首を確実に撥ねるまで油断しない方が良いと思います」
「甘さは捨てろ、ね。シンプルだけど辛辣。で、まさに今忘れちゃいけないことね」
「かといって憎悪に染まれとは言いませんが。先輩には似合いませんし」
「……そう?」
一瞬、先輩が目を細めて不安を醸しながら僕に尋ねてきた。
本当に一瞬だけの、幻かと思ってしまうほどの……。
「先輩は自分の憎悪さえ冷静に利用できる超人だと思ってます」
「真君はしがない生徒会長をどんな目で見てたのかしら」
「そう、そんな感じが僕から見た響先輩の印象ですね」
即座に切り替えて僕を責める表情で尋問する響先輩を見て心からの感想を口にする。
「まったく、ふざけた事ばかり言って。サンドグリフを攻めてみたらクズノハ商会が出てきた、なんてのだけは勘弁してよ」
「魔族の街にクズノハ商会の出張所はありませんよ」
「……信じていいのね?」
「ええ。ご武運を」
なるほど。
僕らが既に魔族側についていないか。
先輩はその不安も消しに来たのか。
いよいよ、魔王と勇者の激突は近いんだな。
智樹が軍を削り道をあけ、先輩が特攻の矢か。
女神の布陣はシンプルながら確実だね。
駄目押しのパワーアップもつけてる。
それから少しばかり雑談をして、先輩は帰っていった。
あの様子だと少し学園に留まるかもしれない。
展示されてるだけの秘蔵の魔道具とか学園に出してもらいたい感じもあった。
智樹が来て強請られて、時間差で先輩が来て強請られる。
ゆすられて、ねだられて。
同じ字なのにイメージは大分違う。
でも結果は結構同じ。
「なあ、識」
「はい若様」
「いつになく、女神が本気だな」
「ですね、万全の態勢で戦争を畳みにかかっている様子です」
「いやさ、何の根拠もないんだけどさ」
「はい」
「アレが手堅く確実な手を選べば選ぶほど……失敗する気がするんだ」
「常なら女神もさような事にはならぬと思いますが、今は若様がおられますからわかりませんね」
「どういう意味!?」
「若様の存在がイレギュラーを生む、若様と同じく何の根拠もありませんが私も何故かそう思えております」
「ま、まあ僕の存在はともかく。クズノハ商会って名前は先輩や魔族にとってそれなりに大きい意味があるみたいだよね」
そんなプラスとマイナスが合わさるとマイナスになる、みたいな事がそうそう現実に起こり得はしない。
と同時に。
僕と女神の関係でいうならプラスとマイナスってのは意外と合ってる例えかも。
「マイナスとプラスの関係といいますか。若様と女神はきっと弾き合うでしょうから、ははは」
「くしくも同じ事を考えてたか。さて、本当のところゼフさんはどんな手を残してるんだろ」
「余程の勝負手である事だけは間違いありませんが、悔しい事にわかりかねます」
識でも読めない、か。
ところで、識の中で僕と女神、どっちがプラスでどっちがマイナスなんだろう。
当然聞いてみたけど識は苦笑するばかりで結局お答えいただけなかった。
き、気になる。
響先輩から聞く限りではね。
「といった感じね。これまでの苦戦を思うと怖いくらいに順調よ。もっとも……ステラの時みたいに誘い込まれて実は罠がって展開も十分ある相手だけど」
むしろ自分の役割はその奇襲に備える事だと先輩は思っているみたいだ。
「あー、奈落でしたっけ。例の巨大落とし穴」
「当然のように知ってるのね真君」
ステラ砦の罠。
それはロナが仕掛けた砦前の大穴トラップ、奈落の事だ。
面白い様に軍勢が崩れて沢山殺せた、爽快だったと本人は上機嫌で語ってた。
流石に先輩にはロナの様子までは伝えない。
必要ないし無駄に空気を悪くするだけだ。
「これでも商人なんで」
情報が命の職業です。
奈落って名前はともかくあそこであった事だけならレンブラントさんも知ってるだろうな。
しかし奈落ってネーミング。
魔族にも賢人やらローレルやらの知識やセンスが入り込んでるのかな。
確か、魔将に一人そっち系の名前のがいたし。
符術とか使う人。
「……未だ魔将も出てこないから、嫌な予感だけは膨らむのだけどね。あの時もそうだったのに、私にはその先が読み切れない。悔しいものね」
「と言いますと、先輩から見て魔族にはもう手が無い筈だと?」
将棋とか囲碁である、何手も先を読んでなお相手には打つ手がない詰みの状態。
今回の進軍とその成果は、ヒューマンと魔族の戦いを決着させるだけの状態にあると先輩は考えてるんだろうか。
僕は魔将や魔王、それに魔王の子なんてのまで直接見てるから彼らにまだ何か手があるんだろうとは何となく思ってる。
例え予定外の進軍であってもそのまま攻め込まれて負けました、なんて人達じゃないから。
確かに戦況はまあ良くない。
そこは向こうも認めざるを得ないとは――
「起き上がろうにも膝を砕かれた、くらいには傾いた戦況だと思う。だって彼らにとって第二、第三の都市は既に私たちが占領してるもの。残るサンドグリフ、首都が陥落すれば御仕舞いだから――」
「え?」
「? 真君?」
あ、そうか。
僕が招かれたのは古都だった。
首都じゃなかった。
てか首都ってサンドグリフなんて名前だったっけ?
先輩が知ってるなら多分智樹も知ってるだろうし、あいつは魅了でそれなりに正確な情報もゲットできる。
……。
あれ、何か引っかかる。
何か引っかかるんですが……引っ張ってこれない。
っと。
今はそれよりも先輩か。
古都とか首都とか名前とかは後だ。
「首都が陥落すれば御仕舞い、ですか」
「ええ、主だった都市は既に落としたから。首都機能を移転出来る程の都市は彼らにはもうない筈よ」
「つまり、首都で決戦があるんですか?」
「ですか、と聞かれても困るわね。通常なら、更に退く選択肢は無いわ。何が気になってるの?」
引っかかってるのは首都とかどうとかじゃないナニカにです。
僕が先輩の問いに、え、と間の抜けた疑問を口にした理由は――
「若様が疑問に思われたのは、では首都に魔将も魔王も精鋭たちも全て集結しているのか、という点です」
識が代わりに答えてくれた。
更にいえば主だった街を落として首都も占領したとしても、反抗の意思ある限り戦争は終わらない。
最悪ヒューマンの領地に逃げ延びてゲリラだテロだとやり始めるだろう。
つまるところ、この戦いの面倒はそこだ。
先輩がどう考えているかはわからない。
でも僕なら反抗の意思の有無が一番大事だと考える。
確固たる意志で戦いを終わらせるつもりなら、ヒューマンと魔族の戦争の場合、刃を向ける相手として戦闘員とか非戦闘員は関係ないんだ。
非人道的で……同時に正しい意見だと自信がある。
「魔族の残存戦力については確かに未知数よ」
「それに、情報もでしょう」
「情報?」
「例えば、魔将は何人いてそれぞれどんな容姿をしていて戦闘スタイルはどんなタイプか知っていますか?」
「イオに、ロナ、それに後方に研究者のモクレン、イオと同じ武将でレフトでしょ」
先輩は続けて魔将の戦闘スタイルについても把握してる情報を並べていく。
……なるほど、正確じゃない。
僕らが持ってるのより随分と曖昧で、容姿についてもモクレンははっきりしてない。
「なるほど。では魔王は? 名と容姿はわかりますか?」
「魔王……確か名前はゼフ。容姿は精悍な金髪の魔族というくらいしか」
「なら、何も知らぬのと同じです。魔王が影を置いてどこかに逃げ延びても貴女たちヒューマンに知るすべはない」
「っ。身代わりの影。そうね、その可能性はもちろんあるか」
「魔王に近しい者ほど忠誠心はもちろん、勇者の魅了にも今回の戦術にも詳しくなります。むざむざ魅了されて情報を抜かれる前に自決するでしょう、更に言えば魔王の子、後継者は誰なのかも当然知らぬ訳でしょう?」
「……なるほど。相手の玉を取り逃がす危険が色濃く残ってる。魔族にしては随分消極的にも見える逃げの手……いえ、追い込まれればそこまでしてくる?」
まあ、ロナは魅了にかかったけどね。
識の言葉にはあいつへの嫌味も多分に含まれてるのかもしれない。
自決ってのもまさにあいつが選んだ手だ。
それに僕を使うなって話は置いといて。
おかげでロナの奥の手も知れた、ついでに僕がそれに耐えたのもロナにとっては大分衝撃的だったみたいで一石二鳥の結果になったと思えなくもない。
……めっちゃくちゃ痛かった!
あまり思い出しくない事も思い出してしまった。
「魔王ってそういえば結婚はどうしてるのかな」
「わ、若様? そうですね、王というからには妻も複数、子も複数いるのが普通かとは思いますが」
「だよねえ。にしては子どもや奥さんの情報は無いよなあと思ってさ」
一度会ってるし結婚はしてなくて血が繋がってる子もサリ一人なのは知ってる。
ただゼフがどうこうじゃなく魔族の王、魔王は結婚はどうしてるのかとふと気になった。
後継者は実力者なんだから下手に子どもを残さないのが慣例なのか、それとも間違いなく強者の血なんだから率先して子作りに励むものなのか。
歴代の魔王はどうしてたんだろ。
「つまり、私の抱えてる嫌な予感の正体はトラウマ半分情報不足半分だ、と言いたいのかしら識さんは」
「……さて」
「まだ何か思うところがあるのなら、せっかく学園都市にいるのだから識先生と真先生に私も教わりたいですわ」
「私が少しばかり危惧しているのは本当に常識的な事ですが」
「構いません、英雄講師の助手のお言葉ですもの」
……先輩、それは僕にクリティカルします。
芝居がかっていればノーダメージなんてことにはならないんです。
「いくら快進撃でも少しばかり縦一直線に奥に入り込みすぎかと。性急な進軍ゆえ十分な兵站もなく、万が一決着に至らずカウンターなどという話になれば目も当てられない。などと愚考します」
「快進撃過ぎる……真先生からは?」
「さっき少し言った事と同じになりますよ?」
「是非」
「ヒューマンと魔族の戦争では街を幾つ奪ったか、は勝利条件になりません。ちゃんと情報収集をして相手の首を確実に撥ねるまで油断しない方が良いと思います」
「甘さは捨てろ、ね。シンプルだけど辛辣。で、まさに今忘れちゃいけないことね」
「かといって憎悪に染まれとは言いませんが。先輩には似合いませんし」
「……そう?」
一瞬、先輩が目を細めて不安を醸しながら僕に尋ねてきた。
本当に一瞬だけの、幻かと思ってしまうほどの……。
「先輩は自分の憎悪さえ冷静に利用できる超人だと思ってます」
「真君はしがない生徒会長をどんな目で見てたのかしら」
「そう、そんな感じが僕から見た響先輩の印象ですね」
即座に切り替えて僕を責める表情で尋問する響先輩を見て心からの感想を口にする。
「まったく、ふざけた事ばかり言って。サンドグリフを攻めてみたらクズノハ商会が出てきた、なんてのだけは勘弁してよ」
「魔族の街にクズノハ商会の出張所はありませんよ」
「……信じていいのね?」
「ええ。ご武運を」
なるほど。
僕らが既に魔族側についていないか。
先輩はその不安も消しに来たのか。
いよいよ、魔王と勇者の激突は近いんだな。
智樹が軍を削り道をあけ、先輩が特攻の矢か。
女神の布陣はシンプルながら確実だね。
駄目押しのパワーアップもつけてる。
それから少しばかり雑談をして、先輩は帰っていった。
あの様子だと少し学園に留まるかもしれない。
展示されてるだけの秘蔵の魔道具とか学園に出してもらいたい感じもあった。
智樹が来て強請られて、時間差で先輩が来て強請られる。
ゆすられて、ねだられて。
同じ字なのにイメージは大分違う。
でも結果は結構同じ。
「なあ、識」
「はい若様」
「いつになく、女神が本気だな」
「ですね、万全の態勢で戦争を畳みにかかっている様子です」
「いやさ、何の根拠もないんだけどさ」
「はい」
「アレが手堅く確実な手を選べば選ぶほど……失敗する気がするんだ」
「常なら女神もさような事にはならぬと思いますが、今は若様がおられますからわかりませんね」
「どういう意味!?」
「若様の存在がイレギュラーを生む、若様と同じく何の根拠もありませんが私も何故かそう思えております」
「ま、まあ僕の存在はともかく。クズノハ商会って名前は先輩や魔族にとってそれなりに大きい意味があるみたいだよね」
そんなプラスとマイナスが合わさるとマイナスになる、みたいな事がそうそう現実に起こり得はしない。
と同時に。
僕と女神の関係でいうならプラスとマイナスってのは意外と合ってる例えかも。
「マイナスとプラスの関係といいますか。若様と女神はきっと弾き合うでしょうから、ははは」
「くしくも同じ事を考えてたか。さて、本当のところゼフさんはどんな手を残してるんだろ」
「余程の勝負手である事だけは間違いありませんが、悔しい事にわかりかねます」
識でも読めない、か。
ところで、識の中で僕と女神、どっちがプラスでどっちがマイナスなんだろう。
当然聞いてみたけど識は苦笑するばかりで結局お答えいただけなかった。
き、気になる。
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