月が導く異世界道中

あずみ 圭

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序章 世界の果て放浪編

馬車に揺られてツィーゲへ ~澪~

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※こちらは「月が導く異世界道中」の書籍化に伴いダイジェスト化した部分になります。
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 若様と一緒に旅。
 最高です。
 でも二人きりならもっと最高です。
 若様、深澄真様。
 まともな記憶も持たない、飢えるばかりの私に今と未来を下さった方。
 私の生涯を賭してお仕えしようと決めた方。
 澪という名を与えてくれて、私が元は災害の黒蜘蛛という存在であった事をご存知なのに普通に扱ってくださる方。
 ……その若様が決めたから仕方ないことなのですけど。
 ふぅ。
 特にやることもなく御者台に腰かけて荒野を眺めている間、こんな事ばかり考えてしまいます。
 でも、若様と……あとは食べ物の事くらいしか考えるべき事もないのだから、仕方なくもあります。
 亜空で食べる物はまだそれなりに美味しいのですけど、この荒野の馬車道中はベースの滞在時も含めてあまり美味しい物が食べられませんでしたから食べ物の方は特筆するようなことはありません。
 飢えで理性すら失っていた身なのであまり拘るのも贅沢とは思いますけど、実は私、最近は味の方も気になってきています。
 まあそれは良いとして、若様と私が二人きりではない原因。
 荷台にいる冒険者とかいう連中は同行者というよりは私達が保護しているようなもの。
 ソレラが私と若様の時間に割り込んでくるのがどうにも不快でなりません。
 好きで一緒にいるとでも思っているのでしょうか、あの連中は。
 折角、巴さんが若様に耳元で「武者修業」とか「レベルアップ」とか囁かれて荒野に飛び込んでいってくれたというのに。
 せめて子供のリノンだけなら、まだ苦にもならない。
 でも冒険者という連中は魔物や亜人を狩って生計を立ててでもいるのか、馬車を襲う馬鹿どもを私が始末する光景を見て、やたらと私に話しかけてくるようになった。
 それどころか、若様に話をつけて魔物の体の一部を採取などし始めて。
 仕舞いには、若様まで感化されたのか魔物の弱点とか持ち帰る素材がどうとか勉強され始めて、私は若様から手加減の練習と言われて寄って来る魔物を、一々狙いをつけて殺さなくてはならなくなってしまいました。
 なんて面倒。
 寄って来るのを始末していいのなら、真っ先にこの冒険者連中を始末したい気分でした。
 リノンの姉のトアと……あと他何名か。
 こんなことならあのベースを壊すんじゃありませんでした。
 つい、巴さんと手柄の件で揉めた上での事とは言え、少々反省です。
 頭に血が上るとどうにも、まだ自分を抑えられません。
 ここのところの手加減、手加減で少しは我慢とか加減というのも身につけた、つもりですけど。
 この旅を振り返ると……。
 若様とご一緒できて嬉しい。
 でも邪魔な連中もいて鬱陶しくもある。
 ……でも嬉しい方が上ですわね。
 御者台で一緒になるリノンなどはよくよく話をすると可愛げもありますし。
 それに、次に辿り着くツィーゲという街で旅も一旦はお仕舞い。
 冒険者とも別れることができます。
 うふふふ。
 ツィーゲはベースなどと比べ物にならない位大きな街で、人も物も沢山だとか。

「すっっっっごーーーーい!!大きな壁ーー!」

 しばらく周りの景色を見て足をパタパタさせていたリノンが大きな声を上げた。
 丘を登って開けた視界に、確かに大きな壁が見えます。
 ふぅん。
 あれがツィーゲかしら。
 確かに大きな街みたいです。
 まだ結構距離はあるけれど、結構高い場所にあるのねえ。
 隘路のように徐々に高い壁に阻まれる道の先に、街と荒野を分けるように巨大な外壁が。
 両側の切り立った断崖はとりあえず視界の限り左右に続いているから通行は出来なそうだから……実質あそこを通らないとツィーゲには入れない、ということになるんでしょうね。
 まあ、私や若様なら何の問題もありませんけど、馬車を担いでいくのも面倒ですし、やましい事もないですから普通に進めばそれでいいでしょう。
 若様とリノンがなにやら話すのを見て、私は小さく息を漏らす。
 終点が見えるというのはやっぱり良いですわ。
 もう少しだから我慢しようと思えますもの。

「あはは、ですね。というか、ここまで快適・安全だと、この輸送を商売にしても十分以上に食べていけますよ」

 いつの間にかリノンの姉、トアも会話に混ざっていたようですね。
 まったく、冒険者をやっているこの者たちの所為でどれだけ面倒臭い思いを私がしていると思ってるんでしょうね。
 もう少しの付き合いだから我慢もしますけど。
 
「お兄ちゃん、なにかいる!!」

 っ!
 リノン、余計な事を。
 若様が気付かなければ、事後報告にして私がさっさと始末する気でいたというのに!

「若様、あそこです」

 仕方なく、若様に報告する。
 その方角を指差してお知らせしました。
 あぁ、これでまた面倒が……。
 若様も気付かれて群れの内容を確認なさっているのを横目に、私も一応確認しておく。
 蟻と、蜂ですか。
 蟻は……この間私の着物を溶かした馬鹿じゃありませんの。
 最初に潰さないといけませんね。
 蜂は何か色合いが違いますけど、まあ問題ありませんわね。
 できる事なら迂回して逃げる方を若様が選んでくださるといいんですけど、冒険者が興奮気味で何か言っていますし、恐らくは……。

[澪、頼む]

 やっぱり。

「もう、あの蟻、この前わたしの服溶かしたんですよ?」

 袖の端っこの欠けた部分は今も気になっています。
 若様はほんの少しじゃないかと仰いますけど、そういう問題じゃありません。

[街についたら直せるよ、とりあえず今はな?]

「しかたありません……」

 とはいっても、若様のお言葉ですものね。
 我慢、我慢……。

「澪様! サイズアントは鎌残してください!」

 ピクリ。
 その気が失せる言葉。

「ルビーアイは頭は絶対つぶさないで!」

「あとルビーアイは羽根も……」

 カチンと。
 カチンときました。
 ……そうですわ。
 若様は殆ど戦っておられないんだし、あの程度ではどうせ退屈しのぎにもならないでしょうけど。
 うん、決めました。

「……若様」

[なんだい?]

「私、嫌です。若様にお願い申し上げます」

[ぼ、僕にやれと?]

「もう、毎回毎回毎回毎回……面倒くさいんですの!あそこを残せ、そこを狙えと。これまで何とか我慢してきましたけどもう限界です!」

[で、でもな澪。一応貴重な素材でもあるんだろうし、お前の修行にもなるだろう?]

「もう手加減の勉強なら十分いたしました!若様こそ良いご修行になりますわ?どうぞお譲りいたします!」

 たまには私だって我が侭の一つも申します。
 大体、あんな輩の素材を利用した物なんて、どうせ私たちは使わないんです。
 なのにどうして気を遣って殺さないといけないんです。
 若様も手加減とか少しお勉強されればいいんですわ。
 仕方ないといった顔で荷台から弓矢を取り出す若様。
 私はリノンを抱えてお手伝いをしませんと暗にお伝えしながらその様子を見ていました。





◇◆◇◆◇◆◇◆





 私の想像を遥かに超えて、ツィーゲという街は人に溢れた場所でした。
 内心、あまりの騒々しさに嘆息しながらヒューマンや亜人で賑わう街を見て回りながら冒険者ギルドへ。
 同行していた冒険者たちもそこで報告など終えて一旦別れた後。
 若様と私は大通りを歩いていました。

「若様、あれなんでしょうか?」

[串焼き、かなあ? まだ夕食の約束まで時間あるし食べようか]

「はい!」

 いくつかでていた屋台や、時にはお店に入って匂いに誘われるままの食べ歩き。
 幸せです。

[うーん、何を見ても珍しい。しばらくは店を見て回るだけでも飽きなそうだ]

 立ち並ぶ店を、こっち側と向こう側問わず次々に見ては感想を漏らす若様。
 私にとっても初めてのものばかりですけど、若様は食べ物以外にも色々興味をお持ちのようで、私以上にあっちを見たりこっちを見たり忙しそうでした。

「若様もここでお店をやるんですか?」

[一応そのつもり、なんだけど。結構競争激しそうだ。何を売るかも問題だし。悩むなあ]

「どんなお店でも、私お手伝いいたします」

[ありがとう]

 できれば、食べ物を扱うお店が良いですけど。
 競争、と若様は他のお店を気にしてらっしゃるけど、そんなもの、なくしてしまえば関係ありませんものね。
 どんなお店でも繁盛します、絶対。

「あら? あの若様? あそこ、なんでしょう。少し変わった匂いがします」

[うん?]

 変わった匂い。
 でも、初めてでは……ありません。
 ええっと、あれは確か。
 ああ!

「そう、ドワーフの工房に似た感じです!」

[へえ。ツィーゲの武器職人がいるのかな。見た感じ、職人街って感じだし……行ってみようか]

「面白いもの、あると良いですわね」

[そうだね。どの程度のものを作っているのか気になるし]

 商店街とは少し違った雰囲気の通りに入っていくと、そこには目立つ煙突がある建物が並んでいました。
 更に、仕事をしている場所が外からも見える部分があり、金属を打ち鳴らす音もそこかしこから聞こえてきます。
 ……少し、美味しそうですね。
 最近、あまり工芸品の類は食べていませんでした。
 肉や野菜の方が好きではあるのですが、あちらはあちらで独特の味わいがあるんですよね。
 後でエルダードワーフの所に行く事にしましょう。

「随分と盛んなようですね。作っているものはパッとしませんけれど」

[エルドワがそれだけ優秀なんだよ、きっと。ツィーゲで武具を扱おうと思ったら、この辺りの親方さんと繋がりを作らないといけなかったりするのかな。あんまり名前を出している工房はないみたいだけど]

「本当。冒険者のように武具を作る者にもギルドがあって、そちらで管理している、とか」

 思いついたことをお話ししてみる。
 若様は私を見て、何度か頷いた。

[なるほど。確かに職人のギルドがあっても不思議はない。冒険者や商人にあるんだからね。澪、凄いぞ。その辺り忘れてた]

「そんな、思いつきですから」

[職人のギルドならこの辺りにありそうだ。場所だけでも知っておきたいな]

「では探しましょう。あ、若様。あそこに看板がいくつか出ていますわ」

[いくつか? あれか。あれは商会の名前みたいだね。ギルドの看板じゃない。……ハンザ商会。ハンザ商会っていう店らしい。武具を扱うんだろうな、多分]

「なら……きっとアレですわ!」

[お、あれは……当たりだ澪。なるほど、通りからそんなに離れてないな。冒険者ギルドよりもかなり大きいのは……材料とかも保管しているのかな?]

 若様は足を止めて周りを見てはギルドや職人の仕事振りを頷いては眺めていました。
 商店を見ていた時と同じ、夢中になっています。
 若様は、本当に色んな事に興味がおありなのですね。

[うん、今日はこの辺にしておこう。時間はあるし、慌てて全部見て回る必要もない。宿に戻ろうか澪。そろそろトアさんから夕食の連絡があるかもしれない]

「はい。散々迷惑をかけてくれたのですからどれだけ美味しいお店に連れて行く気なのか、凄く楽しみです」

[なんとなくだけど冒険者って美味しい店を知っていそうな気はするよ。期待していいんじゃないかな]

「そうなのですか。期待が増しましたわ」

 トアなる冒険者からの連絡を宿で待とうと若様と宿に戻ると、間もなく連絡が。
 間の悪い。
 ならもっと早く連絡があれば、直接店で迎えたというのに。
 暗くなった通りを、今度は大きな飲食店が多く立ち並ぶ区域へ進んでいきました。
 するとトアから示されたその場所にはある種の雰囲気がある建物が。
 
[肉屋、とはまたド直球な名前だね]

「肉屋、ですか。店主の自信でしょうか」

[名前と雰囲気は実に良いよ。さ、入ろう]

「はい」

 短いやり取りの後で、二人でお店に入る。
 案内された円卓には既に冒険者たちとリノンがいました。
 誰もが立ち上がって歓迎の笑顔で若様と私を迎え入れます。
 当然ですね、あれだけ疲れさせてくれたのですから。
 ただ、既に私の目は卓上に並ぶ皿に注がれていました。
 うん、うん。
 これは期待できそうです。
 どれも美味しそう……。
 思わず笑みが浮かぶのを自覚しながら料理を見ていると、若様が何やら叫んでふらふら円卓の一点に吸い寄せられていきます。
 行き先には……骨付きの大きなお肉。
 お目当てはあれかしら。
 そのまま若様はその骨付き肉を手にして感動されているみたい。
 あ、あのお肉はそんなにも美味しいの?
 早く、早く食べたいです!

「じゃ、ツィーゲへの帰還とライドウさん、澪様との出会いに、乾杯!」

 食事が始まると若様は早速そのお肉を手にして豪快にかぶりつきました。
 そしてしばらく動きがなくなりました。
 再び動き始めると勢いを増してお肉を平らげ始めました。
 やっぱり凄く美味しいのですね、それ!
 私に追加の注文を命じながらその他の料理もどんどん口に運ぶ若様。
 乾杯で飲んだお酒は少し物足りない感じでしたけど、料理は本当に期待できそうです。
 私も手早く注文を済ませて料理に手を伸ばす。
 もちろん、最初はあのお肉。
 味は……衝撃的に美味しかった。
 若様がお好きというのも、私にとっては優れた調味料の一つですが、それを差し引いても肉汁と香辛料の香り、食感と肉の旨味が絶妙です。
 これは、私の記憶の中で五本の指には入りますね。
 素晴らしい。
 若様もご自分で追加を注文され始めて私も色々食べ進めていくと、その多様な味にとにかく驚かされました。
 ヒューマンのやる事など大した事はないと思っていますが、しかしこの料理というものは凄いですね。
 これはもう魔術と呼んでも差し障りがないように思えます。
 ただ肉と野菜を食らっていた私には感動、ただ感動です。
 気付かぬウチにかなりの速度で食べていたようで、気付いた時には結構な量の皿を積み上げていました。
 これは、少々はしたないことをしたと思っています。
 でも、その位美味しくて美味しかったと後悔はしていません。
 ……その後また食事に没頭してしまいましたしね。
 おかげで全メニューを制覇できました。
 お酒以外は満足と感動のひと時でした。
 もっと強いお酒があれば言うことは何もないのですが、こればかりは叶いませんでした。
 一番強いものでも、多少トロ味と舌に残る酒の風味はあれど、こうお腹にガツンと来るような私が求める強さがありません。
 味はそれなりに多様だっただけに残念です。
 若様の方は、冒険者ともそれなりに話をされていたようで、料理の方も十分お楽しみになったようでした。
 トア達も、最後に良い仕事をしましたね。
 良い宴会でした。





◇◆◇◆◇◆◇◆





 翌日。
 肉屋の感動も冷めやらぬ中、若様と私は亜空にきました。
 ハイランドオークのエマから亜空での建築作業その他の進捗を確認し、その後は私の眷属であるアルケーから周辺調査の報告を聞く事になっていたのですがエルダードワーフの長老が来てそちらが先になり。
 武具の注文などをしました。
 私は鉄扇と着物。
 防具といっても、私にはあまり必要なものではないので今着ている物と着回せるようなデザインでお願いしておきました。
 若様は何やら魔力をエサに性能を出すような不思議なコートを選ばれたようです。
 表地と裏地が切り替わったり、色々複雑なようですけど、若様にあのような防具は果たして必要なんでしょうか?
 エルダードワーフも何か若様の為にしたいのでしょうから、口を挟んだりはいたしませんけれど。
 彼らに見送られた後は、アルケー達からの報告を聞く為にあの子たちを集めた場所へ若様と二人で向かいました。
 うふふ。
 若様とここのところずっとご一緒。
 こんな日はどれだけ続いてくれても構いませんわね。
 木材や鉱石、それに草木、果実、茸。
 沢山の物について報告と質問がありました。
 特に若様は茸について、複雑な表情をされました。
 慎重に扱って欲しいと。
 食べてどうなるものでもありませんのに、と申し上げたら若様どころかアルケーにまで引いた表情をされました。
 不本意ですわ。
 あの子たち覚えてなさいよ。

「いいか、澪。茸はやばいんだ。本当に、気をつけないといけないんだよ」

「お前のピリッとして美味しい、は皆にとって下痢と嘔吐を繰り返すレベルの毒なんだ。お前のゾクッとして美味しい、は一撃で昏倒、悪くて死亡レベル。嫌な匂いがします、で触るな即死レベルの凶悪な毒なんだよ」

「何でか知らないけど、ここの茸や薬草は良くも悪くも威力が強くなってるんだから、何でもかんでも口に入れちゃ駄目だよ?」

「出来れば毒は食べないでほしい」

 あの子たちまで変な顔をした所為で、若様からはこんなお小言まで頂いてしまって。
 
「ふぅ」

 今はもう、若様はいない。
 ここは若様の記憶を巴さんが記録化して残した資料室。
 日本の言葉がわかる私が若様に頼まれてこの場所に残り、アルケー、あの子達からの報告にあった物や、オーク、リザードから上がっている各種の報告に対応できるように情報を集めているところ。
 元々は巴さんがやるべきことだと思うと、中々やる気も出ない。
 はあ、若様とツィーゲの散歩がしたいです。

「おー、澪までおったか! まあよいわ。さて、それでは儂は……おお、あったあった。やはり水戸○門、ご老公から参ろうか」

「ちょっと、巴さん? 戻ったなら若様に報告に行くのが先じゃありません?」

「堅い事を言うな。お前とて何やら見ておったではないか」

「あれは若様に頼まれて貴女の代わりをしていただけです!」

 もう!
 巴さんときたら!
 そもそも私が若様のお供が出来ないのも貴女の所為みたいなものじゃありませんか!
 
「わかった、わかった! まったく、五月蝿いのう。確認だけしたらすぐに若に報告に向かうわ」

「そんなことを言って。お叱りを受けても知りませんからね」

 巴さんの株が落ちればその分私はお傍にいられる時間は増えそうですから?
 これ以上は言いませんけれどね。
 私はまた、若様の記憶を見る作業に戻る。
 不思議な場所の不思議な知識。
 若様はやはり、何か秘密をお持ちだ。
 いつか、私にも全部話してくれるでしょう。
 早く、それだけの信頼を頂く私にならなくては。
 ん?
 これ、なんでしょう?
 絵が動いてます。
 ふふ、面白い。
 絵が演劇をやっているように見えますね。
 子供など、喜びそうなものです。
 ……。
 本当に、面白いですわね。
 
「……」

 その動く絵に私は魅せられていきました。
 三十分ほどで終わってしまうソレを何話か見た頃には、私の手は完全に止まり、夢中になっていました。
 そして、すぐに探れる場所にソレの続きはなくなってしまいました。
 いけない。
 こんな事をしていないで若様からの頼まれ事をちゃんとしないと。
 ……でも。
 もう一話だけなら。
 うん、あと一話だけ見たらやればいいですわ。
 でも探す時間は惜しいですわね……あ!
 いました!
 便利なのが!

「巴さん!」

「……」

「巴さん!!」

「なんじゃ澪。儂は今忙しいんじゃ。用なら後にせい」

「いいからこちらへ!」

「ちょっ、待たんか! 今から殺陣たてじゃぞ!? お前何というタイミングで、待てと言うに!」

「これの、続きを探してください」

「んんっ!? お前、何を?」

「これの! 続きを! 見たいんです!」

「と言われてもじゃなあ……」

「見つけてくれないならあの続きなんて見せてあげません。邪魔します」

「……子供か。まあ、良い。ふむ、これなら……ほれ、あの辺りにまとめて転がっておる」

「流石。もういいですわ」

「色々アレじゃが……今は最高潮の続きが大事じゃ。見逃してやろう」

 巴さんの言葉を聞き流して私は続きを発見し、鑑賞に没頭しました。
 そう、若様が来るまで。
 夢中になるって、恐いですわ。
 ……巴さんがもう少し文句を言わずに動いたらもう一話見れましたのに。
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