月が導く異世界道中

あずみ 圭

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15巻

15-2

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「……ええ、おかげで復興が成るのも大分短縮できそうです。ですからリミアは国としても彼らとの敵対を望みません」
「ごもっともです。そして今回、暗殺などくわだてた当家の愚息のため、治療にも貢献こうけんしてくださると」
「……」
「伝言での礼などでは、先方にいかにも失礼というものですな」
「……彼らは外国の商会、さほど礼節にはこだわりませんよ」
「いえいえ! 既に引退を決めた爺だからこそ。きちんと謝罪し、お礼を直接伝えるのが貴族の礼節というもの」
「……今なんと?」
「ちょうど明日にも彼らは領内を通るのだとか。このアルグリオ、クズノハ商会を全力で歓待し、土下座をしてでもこれまでの非礼をびる所存にございます。構いませんな、ヨシュア様。彼らとの関係は国としても重要な関心事なのだと、たった今、御自おんみずから仰ったのですから」
「ホープレイズ卿、貴方は……」
「敵対や妨害などいたしませんとも。ですので、何卒なにとぞ同席はご遠慮いただきたく。なに、王族がこれほどまでに大切に扱う方々ならば、ホープレイズ家もまた同様に賓客ひんきゃくとしてもてなすのが当然。今更ながらそう考えただけです。いけませんな、年を取ると耄碌もうろくする。オズワールに家督を譲るのも、適切な時期だったと言わざるを得ません。はっはっは」
「――っ、先方のご迷惑にだけはならぬよう配慮を願います」
「はっ、お任せを」

 一瞬のぞかせた苦々しい顔を笑顔で覆い隠し、ヨシュアが立ち上がる。
 アルグリオもそれに負けぬ笑顔で立ち上がり、王子を見送った。


 ◇◆◇◆◇


「お疲れ様、ヨシュア」

 アルグリオとの面会を終えたヨシュアを、別室で待っていた響がねぎらう。

「ええ、疲れました。ですがホープレイズ家は家督を譲る流れで決着しました。これで古い体質にしがみつく貴族の派閥はばつに、大きな亀裂が入るでしょう」
「まともな考えをした貴族なら、多くの貴族を味方につけた王家の意向には逆らえない。あとは外部からの干渉に目を光らせておけば、自然と彼らの力もがれていくわ」

 普段響が王子に向けている敬意はりをひそめ、二人の間に流れる空気は親しい友人や同志のものに変わっていた。

「響の考えに感化された若い貴族が後継ぎになる家も多い。はかどりますね、これからは」
「で、あの老人はどうだった?」
「……」

 一瞬押し黙ったヨシュアを見て、響が首をかしげる。

「ヨシュア?」
「思ったよりもこちらの札は切りませんでしたね。クズノハ商会に対する悪行あくぎょうの証拠を押さえている事、長男オズワールが重体で治療中である事、その治療にクズノハ商会をませるから手出し無用だと言う事、それから私が女である事。話したのはそのくらいですね」
「貴方の秘密より、ここの不正蓄財で攻めた方が良かったんじゃない?」
「向こうから切り出してきたので、返さざるを得ませんでした。暴露はリミアの利にはならないし、そちらもタダで済まないとね」
「ご老人、やはりもう退陣すべきよね。手札にならない事も理解できずに話すんだから」

 響があきれたようにため息を吐く。

「彼もある程度分かってはいたみたいですよ。そうせざるを得ない状況に追い詰めた、私の調子が少し良かったようです。既にある程度の腰巾着こしぎんちゃくの貴族をつぶしてある事を匂わせたのも効果があったのかもしれません。ほぼ、想定内の結果に終わりました」
「……ほぼ?」
「……流石さすがは大貴族とでも言いましょうか。何やらまだたくらんでいる様子があります。負けを認めたような晴れやかな顔をして引退を了解したくせにね」
老獪ろうかい、か。厄介ねえ」
「明日、ここを通るクズノハ商会を引き留めて、一連の不始末の謝罪と、歓待をするそうです。王族も賓客として扱う方々なのだから、ホープレイズもそれにならうべきだろうと。数々の非礼に直接謝罪したいのだそうで」
「ちょ、まずいわよ。彼らを下手に刺激する事になったら、魔族との戦争どころじゃなくなる可能性だって」
「我々の同席はご遠慮願う、と」
「何それ、明らかに不審じゃないの!」
「……盛大に土下座をするから恥ずかしくて見せたくないそうですよ、ホープレイズ卿は」
「どけ……ざ、って。前言撤回、無茶苦茶厄介な爺様じゃないの」

 響は心底嫌そうな声音で前言をひるがえした。
 老獪という言葉に相応しく、アルグリオはその場を綺麗きれいつくろい、かつ、頷かざるを得ない言い訳でヨシュアや響抜きでクズノハ商会と会おうとする。
 現時点でその意図を読み切る事など到底不可能だが、響達に都合が良い流れだとは思えない。

「その通りです。激昂げきこうさせたまま折ろうと思っていたのですが、急にしなやかな対応に変じました。あれでは油断などとてもできませんよ。まだうごめいてやると宣言された気分です」
「面倒な……。長男って逃げ道を残しておいてやっぱり正解だったわね」

 響の言葉にヨシュアも頷く。

「ホープレイズ卿がもう一人の息子まで失っていたら、私と彼はまさしく相打ち――国を巻き込む大混乱の中に落ちていたでしょう」
「一瞬、オズワール殿にはあそこで死んでもらって、当主が死ぬまで待つ長期戦も考えたんだけどね。でも、ホープレイズレベルの大貴族なら、子種なんてそこら中に撒き散らしているでしょうし、親族を含めて後継ぎなんてぽこぽこ出てくる。そう思ったから、長男を助けて恩義を感じさせる方にしたのだけど」
「大正解でしたよ、響。彼は実子に家を継がせる事に強く執着していました。親族への継承など、絶対に禍根を残す事態になっていたはずです」
「ついでに愛人の子も出てきて大騒ぎ――って、なるんじゃないの?」

 響は冗談めかしてそう言ったが、意外にもヨシュアは首を横に振った。

「……それはアルグリオ=ホープレイズという御仁ごじんあなどりすぎですね。確かに彼は愛人も多く、血を引く子も数多あまたいますが」
「あのさ、その話を聞くと更にあの老人への評価が落ちるんだけど。むしろ過大評価していた気分になる」
「ですが、それは周知の事実。後継ぎとして認めている実子はオズワールとイルムガンドだけなんですよ。死んだイルムガンドと、戦場にいたオズワールだけ。愛人に子供ができたら、十分すぎる手切れ金を渡してさっさと捨てていましたからね」
「……」

 アルグリオの非情な行為を、大した事でもないように淡々と話すヨシュア。
 響は何も言わなかったものの、愛人を次々に捨てる彼の振舞いは決してめられた行いではないだろうと、微妙な反応を示した。

「捨てられた子のうち何人かは、血縁を武器にホープレイズ家に入り込もうとしましたが、ホープレイズ卿は例外なく母子共々始末しています。遊びは遊びにすぎず、家を継ぐ子は確かな血筋の者に。愛人が子を産むところまでは認めても、家に関わろうとしたり過ぎた野心を持ったりするのは決して許さない。厳然げんぜんとしたものですよ」
「なら、最初からそんな遊びをするなと言いたくなるけどね。まあ、ホープレイズの家を守る事について徹底しているのはよく分かったわ。私に言わせれば、病的なまでの血筋への拘りね」
「良くも悪くも彼は貴族ですから。あれで従順な民には寛容かんような主で、無法な真似も少ない。不作の年には税の減額や支払いの猶予ゆうよなどをしますし、領民が増えれば身銭を切って耕作地の開墾かいこんを行ったり仕事を用意したりしています」
「……ただし、国に納めるべき税を誤魔化ごまかし、切った身銭も結局は民から出た税金で、全ては彼が私腹を肥やすためのもの」
「……ですから、良くも悪くも、なのですよ。現実的にはリミア王国の広大な領土を、王族と役人だけで管轄かんかつする事は不可能です。事実、ホープレイズ領は数ある豊かな貴族領の中でも暮らしやすいと評判で、ホープレイズ卿は優れた領主だと評価されているのですから」

 リミアにおいてホープレイズ領は豊かで寛大な領主が治める、国民にとって人気の領地である。
 当然、入ってくる民は多く、出ていこうとする民は少ない。
 人々が従順である限り、アルグリオは彼らにそれなりにむくいる統治をしていたからだ。
 もっともそれは響が考えるように露骨な搾取さくしゅか、巧妙こうみょうな搾取かの違いでしかないが。
 とはいえ、そんなホープレイズの影響下にある土地では、クズノハ商会の評判は悪い。
 商会について、ある事ない事、尾ひれがついた噂が流れていた。どの話の中でもクズノハは悪、ホープレイズは善で統一されている。
 住まう民衆にとっては問題のない、むしろ自分達の事を考えてくれる優れた領主様――アルグリオが悪になるわけがない。
 それに、不正を働き過少申告しているといえども、王家に納めている税金の額は他のどの領よりも多い。そのホープレイズと敵対する商会など、たとえ王家の招待であっても、歓迎しない貴族や民衆が多いのは当然だ。
 響とヨシュアはそれを、リミアに蔓延はびこる貴族至上主義の古い体質を破壊する一手として利用した。
 ライドウへの襲撃はもとより、リミア滞在中に彼らに対して負の行動を取ったやからをことごとく割り出し、それまでに揃えた不正の証拠とあわせて多くの貴族を沈没させていった。
 端的たんてきに言えば、クズノハ商会をえさにしたわけだ。
 商会の密偵であるライム=ラテの助力もあり、この計画は順調に進み、大きな成果を挙げた。
 暗殺者の襲撃その他への報復は約束すると響に説得されたライムは、こうした敵対的な動きに内心怒りを感じていた事もあり、商会に損はないと確信して響達に協力したのだ。
 ちなみにライドウは自分達に対して良からぬ動きがあったなど、まるで知らなかった。
 何せ、全ての妨害ぼうがいは彼に届いていないのだから。
 彼はただローレルの巫女が倒れた事を若干気にしながらのんびりとリミアの復興の様子をながめ、適度に商売の話を聞き流していただけだ。
 従者のみおはある程度胡散臭うさんくさい気配を感じていたようだが、降りかかるを払うだけに留めて、積極的には動かなかった。
 彼女にはそれ以上の目的――主であるライドウに響は相容あいいれぬ存在だと分かってもらおうとの思いがあったからだ。ついでにヒューマンの大国リミアに、ライドウとクズノハ商会の力を示す事で警告しようという思惑も。

「でも、そうなると、長男に多少の恩を着せたところで、ホープレイズ家はまだ篭絡ろうらくできそうにないわね。やっぱりある程度の長期戦は覚悟しなきゃ駄目か」

 響は戦場で死に掛けていたところを助けたホープレイズ家長男を思い出す。親に忠実であり、年齢の割に若さを感じさせない男という印象だった。彼が当主になったとしても、アルグリオの影響を強く受けると確信できる。
 面倒は続きそうだった。
 もっとも、クズノハ商会のおかげで大分事態は進んだのだから、全体的に見ればプラスの展開である。
 落胆らくたんはしていられないと、響は気持ちを切り替えた。

「ホープレイズ卿の操り人形のままのあの方では、家督が移ってもあまり意味はありません。ですから……」
「?」

 そうね、と同意しようと思っていた響だったが、ヨシュアの言葉がまだ続きそうな事に怪訝けげんな表情を浮かべた。

「変わってもらう事にしました」
「……どうやって?」
「いつの世も、殿方を変えるのは女性でしょう?」
「そう断定するのは、創作の見すぎ読みすぎ聞きすぎだと思うわよ……」

 少しばかり呆れ気味の響に、ヨシュアは真顔で応える。

「そうですか? 私が耳年増みみどしまである事は認めますが、実際有効な手だと思いますよ? 少なくとも、試す価値は十分にあると考えています」
「やってこちらに損はないとは思うけど……」

 響の言葉は歯切れが悪い。

「今、彼はなくなった右腕とほそった体を見て絶望しています。人を落とすのは傷心しょうしんの時が良いという話もありますから」
「すぐにやるつもり?」

 人の弱みにつけ込むえげつない話だが、響はあえて内容には突っ込まずに、そう質問した。
 治療中の今が有効な時期であるのは、彼女も認めるところだ。

「既に始めています。彼の看護に当たっているのは全てそれなりの家の子女で、経験のある実力者だけ。容姿や年齢についても彼の女性遍歴を調べて好みの者を六人ほど集めました」
「……」

 既に計画が始まっている事に響は絶句する。
 彼女は見舞いがてらオズワールが自分の考えに少しでも理解を寄せてくれれば、などと考えていたが、行かなくて良かったと、密かに胸をろした。
 下手をすればヨシュアの邪魔をする事になりかねない。

「結局、我々でどうにもならない欠損は腕だけのようですからね。六人がかりの治療と看病で足が元通りになり、体が普通に動かせるようになる頃には、誰かに手をつけるんじゃないですか?」
「やっぱりあの腕は駄目か。でもヨシュア、彼が看病についた女の子に手を出したといっても、付き合ったり結婚したりまで行く可能性は低いんじゃないかしら? 変えるというなら、そのくらい濃い関係が必要だと思うのだけど」

 響がオズワールを助けた時、既に右腕は腐り果て、更にその毒が体を侵そうとしていた。
 両足も千切れる寸前の状態で、見た目には完全に手遅れだった。
 助かったのは幸運の要素がかなり絡んでいたと見て良い。
 響はその場で右腕を切り落とし、応急処置だけして一応その右腕も持ち帰った。腕はもう駄目だろうと考えていたが、事実その通りになったわけだ。
 むしろ千切れかけた足がつながった事は、当時力を尽くした治癒魔術師達の奮闘ふんとうたたえてもいいだろう。

「その六人が彼を落とせれば良し。遊ばれて終わるとしても……一応、本命は別に用意しています」
「本命?」
「触れ込みとしては一流の治癒魔術師ですが、実際は嫁候補一番手ですね」
「チヤちゃんは絶対駄目よ」

 一流の治癒魔術の使い手と聞いて、響は冗談交じりに仲間の名を口にした。

「そんな事をしたら、ローレルとの外交問題どころか一気に戦争に発展してしまいますよ」
「なら安心。で、私の知っている人?」
「いいえ。ホープレイズから見ると少し格下の家の次女です。バツイチ、子供なし」
「彼、そういうのが趣味?」
「人妻だろうと未亡人だろうと、お構いなしですね。ただ、珍しく年上が好きなようです」
「リミアの貴族って十代過ぎると女は価値を下げていくって発想だもんね、基本。女性としてはまだまだこれからがさかりなのに、その点では馬鹿ばっかりだわ。なら、その次女さんも結構必死な感じ?」
「もう二十三ですからね。内心相当焦っていると思います。ここ一年は縁談もなかったようで、こちらの提案に飛びついてきました。相手はホープレイズなのですから、当人からも両親からも文句などありませんでしたね。即答です。むしろおがまれました」
「上手くいくと良いけど……」
「演出も協力もしますから、期待できると思っていますが」
「うーん」

 それだけでは弱いのではないかと、響は考えていた。
 二十三歳で離婚歴ありというのは、リミアでは女性としての価値を相当低く見られる。
 相手の男だけならともかく、その親を説得するのは容易ではない。
 普通に考えればハードルが高すぎて、望み薄だ。

「まあ女性の方もやる気はありますし、欠損した右腕を献身的に治療して元に戻すのですから、印象は強いでしょう。更にそれが彼の好みと一致して家柄いえがらも問題ないのであれば、最悪側室か愛人にはなれると見込んでいます」
「……待って、腕を治すですって? 今無理って言ってたじゃない」
「我々には無理です。ですが、ホープレイズ家の事は伏せてライドウに相談してみたところ、そのくらいならやせると、軽く言われました」
「あ、それでさっき治療にクズノハ商会を使うって。……でも、あの黒っぽい紫色に変色している肩の傷口から腕を生やす?」
「魔術ならすぐにでもと、澪殿を寄越よこそうとしてくれたのですが、流石にそれをやるとホープレイズ家絡みと周囲には気付かれますから丁重にお断りしました。薬を中心にした治療で済ませられないかとたずねたら、これも問題ないと。もちろん、物が物だけにそれなりの値はしましたけれど、買い求めました。用法を完全に習得させてから、腕を治療する彼女を投入する予定です」

 とはいえ、薬を用いる相手はロッツガルドでクズノハ商会に絡んで妨害した上に、暗殺者を差し向けた首謀者しゅぼうしゃでもあるホープレイズ家である。いくらライドウでも、それに勘付かんづけば断るかもしれないと、ヨシュアも考えていた。

「薬で、腕を……」
錠剤じょうざいと塗り薬だそうです。魔術の補助が必要とはいえ、とんでもない技術ですね。今は大いに助かりますが」

 喜ばしい側面と、厄介な事になる側面を同時に思い浮かべ、響は複雑な表情で呟く。

「そんな薬が世界中にばら撒かれるのか……」
「こちらの思惑通り、オズワールが七人の誰かと結婚し、他何名かを側室か愛人にしてくれればやりやすくなるでしょうね。皆、お膳立ぜんだてをしたのが誰で、何を求めているかを知っている娘ばかりなのだから」

 ヨシュアはそう言いながら、本来考えていた考えの一つを心中で思い返して苦笑する。

本音ほんねを言えば、礼を尽くしてアルグリオの子供であるアベリアを、アベリア=ホープレイズとして招き、首だけではなく全身を取り替える手が打ちたかったけれど。王国になんの伝手つてもない彼女が当主になれば、臣下は私や響の意に賛同する者ばかりを送り込めるでしょうし。ただ……あの娘はクズノハ商会関係者、というか〝彼〟の教え子だものね。流石に不確定要素が多すぎて、断念せざるを得なかった。商会からの協力が得られれば最高だけど、万が一不興ふきょうを買って他国を優遇ゆうぐうされようものなら元も子もないもの)

 ロッツガルド学園の奨学生アベリア――彼女がアルグリオの愛人の子である事は調査済みだった。
 アベリアがホープレイズ家を良く思っていないのを知った上で、場合によっては弱体化に協力願うという手も、ヨシュアは考えていた。
 しかしライドウとの関係を考慮した結果、この案が実行に移される事はなかった。
 つか黙り込んだヨシュアに、響が切り出す。

「……ヨシュアは十分に王様をやれる気がするわよ。もう女王様になっちゃってもいいんじゃない? もしベルダ君が何か言うようなら、私が説得してあげるし」
「冗談はやめてください。私は王のうつわではありませんよ。王とは、人をきつける強い力を持っていなくてはいけません。大国であればあるほど、個人の政務能力が優れた者より、民や臣下から象徴としてかつぎたいと思われる者こそが王となるべきなのです。政治でもいくさでも実務能力を持った者など、厳選すればいくらでも見つかるのですから」
「担ぎたいと思われる象徴が王の器、かあ。女王ってのもすごく印象的だし、十分な資格だと思うよ?」
「それは物珍しさにすぎません。ベルダにはつい手助けしたくなる、応援したくなる、そんな魅力があります。ただ、その魅力が彼よりも強く、しかも実務能力まで兼ね備えているのが……貴方なんですけどね、響」
「私は王家の血は引いていないもの。最初から除外」
「一つ手順は増えますが、方法はありますよ。私としてはそれが理想ですね。リミアが女王を迎えるなら、それは私ではなく貴方であるべきです」
「もしもし。頼れる親友で協力者でもある麗人れいじんが、私に弟との結婚を勧めてきます。どうしたらいいでしょうか」
「是非受け入れてください。道は広く開けておいてあげますから。その後も遠くから見守るつもりですしね」
「……勘弁かんべんしてよ」

 未だ課題の残るリミア王国では、響を中心とする変革の勢力が、王都の復興とともに力をつけてきている。
 だが、ホープレイズ家は蠢動しゅんどうを止めず。
 未だ道筋みちすじは明らかになっていなかった。


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