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35 sideエグモンド
しおりを挟むず、ずずずずずずずずずずずずず
は、速い!?
物凄く速い!!
まるで床を泳いでいる様に速い。
でも現実には泳いではいない。
こ、怖くて余り何度も振り返る事は出来ない。
だが角を曲がる際にほんの少しだけ……だ!!
しっかりとは見ていないし見るのが怖いし見れば自分の中で何かが終わる様な気がしてみられない!!
そう左右へ道が分かれる際にどうしても視界に入ってしまうとある物体。
濡れ羽色……って言うかびしょ濡れの黒い髪を振り乱し、その髪の奥に隠された様な顔。
ああ顔の良し悪しなんてわからないって言うかどうでもいい。
ただ身体の体型から言えば絶対女だ。
その顔と言うか肌の色は全体的に青白くと言うかだよ。
身に着けているドレスと言うのか?
夜会で身に纏う様な派手なものではない。
ましてや夜着でもない。
平民が着る様なモノでもなければなんだろう。
だぼっとした囚人服……いやいや囚人服の方が良くはないか。
然もだ。
所々煤汚れた感じがまた更に恐怖を煽る。
一番印象的なのは瞳だ。
びしょ濡れの髪の合間より見えるのはギラつきそれでいて生気を感じさせない。
でも一つだけわかる。
その瞳からは恨みや怨恨と言った意味不明なものが感じ取れたのだ。
はあ、はあ、一体何時俺がお前に何をしたのだと言うのだ!!
はあ、俺はお前のような不気味な奴と関わった事なんて一度もない。
お、俺は、俺はこれより先メロンと桃に包まれて幸せな人生を送るのであってだ。
お前の様な下賤なものに追いかけ回される謂れ等一切ない――――と声を大にして叫びたいが叫べない。
叫べば全てが終わる様な気がして怖くて叫べないしって言いうか本気で怖い!!
ずずずずずずずずずずずずずずずず
滑らかに、床を滑る様に匍匐前進する女が怖い。
「はあ、は、く、来る、な!!」
来るなと言って相手が止まる筈はない。
おまけになんだ。
ここは王宮の一角である筈なのにどうしてこうも全体が薄暗いと言うか、所々照明が点いたり消えたりしている。
このエリアの担当者は職場放棄をしているのか。
断固抗議しなければ――――って違う。
その薄暗さに何とも言えない照明の点滅が返って俺の恐怖心を煽っているのだ。
それになんだ。
どこからともなく肌に感じる生暖かい風。
然も何気に何か生臭い。
時折チリーンと聞こえるのは鐘の音ではない。
何とも寂しげに、物悲しく響く音。
それらと共に背後の女はスピードを落とす事なく僕を追い掛ける。
こいつは人間……なのか?
人間、いや人間だろうって……そう思いたい!!
いや人間でなければ何なのだ。
その先は考え――――⁉
ポチ
左へ曲がる際に僕は何かを踏んだようだ。
何かな……と思った瞬間だった。
ある意味僕はメロンと桃に包まれる前に死を覚悟したのである。
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