【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ

リリス

文字の大きさ
上 下
29 / 53

29  sideカルステン

しおりを挟む
 ガツン――――


 対象者を見下ろしていた窓は開いていた。

 そこへ衝撃音と共に鍵爪……って結構な大きさだ。

 然もその先にはどうやら縄がついているらしい?


 しゅたっ。

 
 ぎり、ぎりぎり……。

「うっしゃあああああああああああ!!」

 階下より謎の掛け声?

 
 うんしょうんしょと何かが昇ってくるようだ。

 まさかとは思うのだが……。

「ね、ねえ殿下、まさかとは思いますがもしかしなくとも某ホラー映画のTV画面から~ではなく、窓からって事あり得ます?」

 ロメオは冗談半分本気半分からの若干引いた感じで声を掛けてくる。

「そんな訳があるか。第一ここは建物の三階であり普通の令嬢ならば無理だ。東国にいると言う忍者、くノ一ならば可能かも……まあ漆黒の長い髪を振り乱している〇子ならば可能……なのか?」

 そうここは三階にある俺の執務室。

 普通ここへ入室する際は背後にある扉からである。

 それが一般的な常識だ。

 だが何故なのだろう。

 窓枠へしっかりと喰らい付いた鍵爪についている縄がきりきりと軋む音をさせる度に何とも言えない不安に駆られてしまうのは……。


 こんな、この様な不安に駆られる事等今までになかったぞ。

 一応対象者についてはちゃんと調べは終えていた。


 エリーゼ・プロイス17歳。

 没落寸前、いや既に平民とほぼ変わりのない名ばかりの男爵家の娘。

 使用人はいない為家の事は家族で行っている。

 故にエリーゼ自身生きていく為に一通りの事は何でもこなせるようだ。

 貴族令嬢らしかぬ外でも働いていた経歴もある。

 
 だがその見た目と反して選んだ仕事はどれも地味、身体や色目を使う職場ではなくだな。

 健全なカフェでウェイトレスではなく裏方として働いていたらしい。


 普通に楽して稼ぐ事の出来る豊満な身体と美しい容貌を持ちながら……である。


 因みに口癖は『!!』だとか。

 
 それ故決まった相手を作らず、吸い寄せられる様にやってくる男達をひらりと躱していたらしい。

 ああ一番近しいのが従兄のエグモンド屑男か。

 あいつだけは他の男よりも愛想よくしていたとか。

 実にふざけた女である。


 抑々我が国に王子は二人しか存在しない。

 王太子である兄には既に妃が存在している。

 それに俺には――――。


 屑男にはと偽り色々生活を用立てて……ってその用立ても金品ではない。

 しがない侯爵家の三男……には土台無理な話である。

 だから問題にならない程度に食料品を調達して貰っていたとか。


 まああいつにはそれくらいしか出来ないだろうな。

 何と言ってもあいつは――――。


 また頭は決して悪くはない。

 いや頭の回転は速い方だろう。

 だが没落寸前の男爵家の娘を学院で学ばせられる事も出来なかったのも事実だ。

 しかしエリーゼは我が身の不運を呪うのではなく何故か前向きに、王都へある図書館へ仕事の合間に行けばである。

 書を読み耽り仲良くなった司書達より色々と教えを乞うていたらしい。

 本当に俺の理解を遥か斜め上へと貫いた女だ。


『殿下、彼女の見た目に騙されれば痛い目に遭いましてよ。経過はどうであれこの私が興味を持った令嬢ですもの』


 不意にヤスミーンの言葉が脳裏に浮かぶ。

 俺の大切な従妹姪。

 聡明で美しい淑女。

 その彼女が興味を示した女――――って俺はそっと窓の下を何気に見てしまった。

「――――⁉」

 ヤバい、ヤバすぎるぞヤスミーン!!

 確かに貴女の興味を引いた女なのかもしれないが、俺はそれ以上にある意味引いてしまったし我が身の危機を今実際にひしひしと感じてしまった。

 何気にゾゾ――――っと背筋に冷たいものが走ればだ。

 全身の皮膚がぶふぁっと泡立っていく。


 そう窓の下から見えたもの。

 俺の瞳の色のドレスを纏った女郎蜘蛛がこちらへ目掛けてよじ登ってくる姿。


「? ……カルステン⁉」

 俺の視線に気づいた女郎蜘蛛は喜色を浮かべそう叫べばだ。

 一気にその速度がパワーアップした?

 も、最早ホラーだ。

 俺は何もやらかしてはいない。

 なのに何故この様な状況になる?

「ヤスミーン姫を諦めない……から?」

 へらりとした表情でロメオは笑いながらそう告げた。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

手放したくない理由

ねむたん
恋愛
公爵令嬢エリスと王太子アドリアンの婚約は、互いに「務め」として受け入れたものだった。貴族として、国のために結ばれる。 しかし、王太子が何かと幼馴染のレイナを優先し、社交界でも「王太子妃にふさわしいのは彼女では?」と囁かれる中、エリスは淡々と「それならば、私は不要では?」と考える。そして、自ら婚約解消を申し出る。 話し合いの場で、王妃が「辛い思いをさせてしまってごめんなさいね」と声をかけるが、エリスは本当にまったく辛くなかったため、きょとんとする。その様子を見た周囲は困惑し、 「……王太子への愛は芽生えていなかったのですか?」 と問うが、エリスは「愛?」と首を傾げる。 同時に、婚約解消に動揺したアドリアンにも、側近たちが「殿下はレイナ嬢に恋をしていたのでは?」と問いかける。しかし、彼もまた「恋……?」と首を傾げる。 大人たちは、その光景を見て、教育の偏りを大いに後悔することになる。

大恋愛の後始末

mios
恋愛
シェイラの婚約者マートンの姉、ジュリエットは、恋多き女として有名だった。そして、恥知らずだった。悲願の末に射止めた大公子息ライアンとの婚姻式の当日に庭師と駆け落ちするぐらいには。 彼女は恋愛至上主義で、自由をこよなく愛していた。由緒正しき大公家にはそぐわないことは百も承知だったのに、周りはそのことを理解できていなかった。 マートンとシェイラの婚約は解消となった。大公家に莫大な慰謝料を支払わなければならず、爵位を返上しても支払えるかという程だったからだ。

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。 そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。 第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。 周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

処理中です...