上 下
27 / 53

27  side女官への1番

しおりを挟む
「ただ今室外へと出てまいりました」
『進行方向は?』
「東北へ、真っ直ぐにそちらへ向かっております」
『そう……』
「如何致しましょう」

 捕縛、捕縛監禁、地下牢へ繋ぎ尋問拷問ありとあらゆる行為はお手のものです。

『――――ああそう言うのはまだいいから取り敢えず尾行して』

 チっ、ただの尾行……子供の遊びに付き合う程暇でもないし第一面白くはない。

『への1番、余計な事は考えなくともいいよ』

 あら、お見通しなのですか。

『今の君は私の与えた任務をこなせばいいのだからね』
「はい、では大人しく尾行致します」
『変わった事があればその都度――――ホウレンソウだからね。もしそれを違えれば言わなくとも賢い君ならわかる……よね』

 その一言で全身に寒気が走るのと同時に冷汗で背中がびっしょりと濡れていく。

「は、はい、しっかりと任務に励みます!!」
『そうよかったよ。君が聞いているよりも察しのいい子で私も助かるよ。じゃあね』


 私は深く嘆息するとイヤーカフ付の小型マイクをオフにした。

 本当に怖いなんてものではない。

 恐怖そのものだ。

 
 私は王宮の……付きの女官暗号名はへの1番。

 それ以上でも以下でもない。

 彼の御方の許には暗部と言うこの国の闇を管理する組織がある。

 現在の私はそこに所属をしている。

 
 因みに表の顔も女官だったりする。

 日中普通の女官達と一緒に仕事をしていると何とも言えずほっこりとした幸せを噛み締めてしまう。

 だが裏の顔でもあるへの1番である私自身も嫌いではない。

 放り込まれた経緯は色々考えさせられるものは確かにあるし全てを受け入れている訳でもない。

 しかしこの職業は私の趣味に嵌っている事もあって存外に愉しい。


 今回の任務は目の前の女がターゲットだ。


 簡単な経緯は聞いてはいるけれどもだ。

 男を抱き込んで堂々と王宮へ潜り込めばだ。

 王子漁り……ってそんなに言う程よくもないぞと言い聞かせてやりたい。

 とは言え招待状なしの完全なる侵入者なのだからさっさと手っ取り早く捕縛をすればだ。

 尋問拷問、新しい自白剤の人体実験でもして目的を吐かせばいいのに――――って十中八九目的はわかり過ぎている。


 何故なら彼女達の狙うエサは見た目だけはとても美味しそうだから……な。

 そう過去の私も……って今はどうでもいい。


 兎に角だ。

 右や左と、本当に迷う事無く目的のエサの方へと確実に歩いている。

 時折考え込む動作も見受けられるけれどもだ。

 何かを思い出せばすたすたとエサの許へと歩いていく。


 罠を仕掛ける事も許されず私は退屈で死にそうになりながら女の目的地近くまで後ろをついて……って尾行をするのであった。
 

 勿論対象者には気づかれてはいない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

私、女王にならなくてもいいの?

gacchi
恋愛
他国との戦争が続く中、女王になるために頑張っていたシルヴィア。16歳になる直前に父親である国王に告げられます。「お前の結婚相手が決まったよ。」「王配を決めたのですか?」「お前は女王にならないよ。」え?じゃあ、停戦のための政略結婚?え?どうしてあなたが結婚相手なの?5/9完結しました。ありがとうございました。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

番(つがい)はいりません

にいるず
恋愛
 私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。 本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。  

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】真面目だけが取り柄の地味で従順な女はもうやめますね

祈璃
恋愛
「結婚相手としては、ああいうのがいいんだよ。真面目だけが取り柄の、地味で従順な女が」 婚約者のエイデンが自分の陰口を言っているのを偶然聞いてしまったサンドラ。 ショックを受けたサンドラが中庭で泣いていると、そこに公爵令嬢であるマチルダが偶然やってくる。 その後、マチルダの助けと従兄弟のユーリスの後押しを受けたサンドラは、新しい自分へと生まれ変わることを決意した。 「あなたの結婚相手に相応しくなくなってごめんなさいね。申し訳ないから、あなたの望み通り婚約は解消してあげるわ」  ***** 全18話。 過剰なざまぁはありません。

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

処理中です...