【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ

リリス

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22  sideユリアーナ

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「俺を見捨てないでくれええええええええええええ」

 そう私のドレスの足元へ縋りつき泣き喚く旦那様。

 本当に幼い頃より何時も何かをやらかした際は私の足元へと縋りつく。


 いえ最初は同じくらいの背丈でしたもの。

 抱き着いて泣いていた……でしたわね。

 そうして年を重ねお互いが成長していく間に抱き着いていた場所が徐々に下へ、ええ肩から腰へ、腰より足元へと変わったのは本当に何時の頃だったのかしら。


 カミルは良くも悪くも大人しく真面目な性格。

 優しくて素直……でも悪く言えば少々大人の男性としては頼りない。

 何時も友人達からのお願いと言う無茶ぶりで自分勝手な望みをカミルへ押し付ければです。

 彼はそんな友人達の望みを断り切れず何時も何だかんだと最後には受け入れていましたわ。

 勿論最終的にはカミル自身対応出来ず婚約者である私へと泣きついてきたのですけれど……。


 私の家族……いえカミルの家族もそんな優柔不断で意志薄弱なカミルとは無理に結婚しなくともよいからと、何故か周囲からか見るよりも好条件な子息や王宮の、然も王族付きの女官や文官へ推薦してくれましたの。

 しかしその何れをも断り二ヶ月前にカミルと晴れて夫婦となったのはカミルの、私への変わらぬ一途な想い……なのでしょうね。


 若しくは鹿……いえこの場合は夫ですわね。

 
 まあ私は事務的な事が比較的得意分野でもありましたし、カミルのやらかした後始末も退屈な人生においてちょっとしたエッセンスかとも思い至りましたのよ。

 それに方が何かと上手くいくものですしね。

 ともあれ最終的には私自身カミルの事が放っておけないのと同じくらい愛していたのでしょう。

 ただ今回ばかりは少々頭が痛いですわね。



 カミルの悪友……もとい駄目で屑男の代表格でもありさる侯爵家のしがない三男であるエグモンド様。

 学生時代より何かとカミルへ無理難題を押し付けて来られた一人。

 私自身エグモンド様に対していい印象はこれっぽっちもありません。

 はっきりと申しまして何時の日か折りを見計らいどの様に料理してやろう……かと虎視眈々と狙い澄ましておりましたの。


 ほほ、それは当然でしょう。

 何が悲しくて夫が私へ縋りつく……いえ抱き着く位置が腰ではなく足元限定になったのか。

 その理由はほぼほぼこいつ様の持ち込み案件の所為でもありますからね。


 然もですわ。

 度し難い事にエグモンド様は私が崇拝する公爵令嬢ヤスミーン様の婚約者と言う事実!!

 流石にヤスミーン様ご本人へ確認させて頂きましたのよ。

 さすればヤスミーン様ご本人も『』と何とも悔しそうに、いえ淑女の鏡でもあられるご令嬢は常に仮面を身に着けておいでです。

 普通の会話や表情では一切その様な感情を滲ませられる事はありません。

 ですが私達の様にヤスミーン様を崇拝するものにはわかるのです。

 ああこの婚約には納得されておられない事を……。


 しかし私達は貴族なのです。

 意に染まぬ結婚だからとは言えその背景にある領地領民の幸せの為とあっては捧げたくはなくともです。

 時に心を押し殺し夫婦とならねばならない、それが貴族へと生まれた者の宿命。


 その点でいえば私は幸せなのかもしれません。

 何故なら多少苦労はしますけれども一応ですからね。


「ごめんね、ごめんなざいユリー。どうか俺を捨でないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 ドレスの裾ごと私の足、ええ太ももではなく脹脛ふくらはぎへこれでもかと縋り泣き叫ぶカミル。

 泣き叫ぶ顔はボロボロで、涙だけでなく鼻水までも私のドレスへ擦り付けて泣き叫んでおります。

 はっきり言って煩いですわ。

 考えを纏めようとすればする程カミルの声が邪魔になるのです。

 しかしここで……等と一言告げた瞬間今度こそ脹脛でなく足首若しくは足背へと顔を擦り付けて泣くのでしょうね。


 もっと男らしく堂々となって欲しい……そう意味を込めてお義父様は隠居なされたと言うのにです。

 親の心子知らず……まさにその言葉通り。

 ついでに言えば妻の心夫知らずも付け加えましょうか。


 兎に角このままではいけません。

 あの糞男の所為で場合によっては我が伯爵家の未来も風前の灯。

 いえその前にヤスミーン様への悪意のある裏切りも許せませんわ。

 この機会に奴を綺麗にほふってしまいましょう。

 その為にも今は一刻も早くヤスミーン様へ連絡をしなければ!!


 どがっ


「あう!?」

 あう?

「ひ、酷……う、うぅい、いだい〰〰〰〰」
「ごめんなさいカミル」

 ついうっかりでしたわ。

 縋りついていた者の存在を忘れて部屋を後にしようとすればです。

 どうやら一歩踏み出した際に思いっきりカミルの顔面へ蹴りを入れていたようです。

 はあ、これはこれで慰めるのも一苦労……ですが私は事を急いでおりますのでカミルへの対応を後回しにすれば、振り返らずに謝罪の言葉だけを残しその部屋を後にしました。

 
 まあそれもこれも問題を請け負った貴方も悪いのですからねカミル。
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