22 / 53
22 sideユリアーナ
しおりを挟む「俺を見捨てないでくれええええええええええええ」
そう私のドレスの足元へ縋りつき泣き喚く旦那様。
本当に幼い頃より何時も何かをやらかした際は私の足元へと縋りつく。
いえ最初は同じくらいの背丈でしたもの。
抱き着いて泣いていた……でしたわね。
そうして年を重ねお互いが成長していく間に抱き着いていた場所が徐々に下へ、ええ肩から腰へ、腰より足元へと変わったのは本当に何時の頃だったのかしら。
カミルは良くも悪くも大人しく真面目な性格。
優しくて素直……でも悪く言えば少々大人の男性としては頼りない。
何時も友人達からのお願いと言う無茶ぶりで自分勝手な望みをカミルへ押し付ければです。
彼はそんな友人達の望みを断り切れず何時も何だかんだと最後には受け入れていましたわ。
勿論最終的にはカミル自身対応出来ず婚約者である私へと泣きついてきたのですけれど……。
私の家族……いえカミルの家族もそんな優柔不断で意志薄弱なカミルとは無理に結婚しなくともよいからと、何故か周囲からか見るよりも好条件な子息や王宮の、然も王族付きの女官や文官へ推薦してくれましたの。
しかしその何れをも断り二ヶ月前にカミルと晴れて夫婦となったのはカミルの、私への変わらぬ一途な想い……なのでしょうね。
若しくはお馬鹿な子程可愛い……いえこの場合は夫ですわね。
まあ私は事務的な事が比較的得意分野でもありましたし、カミルのやらかした後始末も退屈な人生においてちょっとしたエッセンスかとも思い至りましたのよ。
それに必要とするよりも必要とされる方が何かと上手くいくものですしね。
ともあれ最終的には私自身カミルの事が放っておけないのと同じくらい愛していたのでしょう。
ただ今回ばかりは少々頭が痛いですわね。
カミルの悪友……もとい駄目で屑男の代表格でもありさる侯爵家のしがない三男であるエグモンド様。
学生時代より何かとカミルへ無理難題を押し付けて来られた一人。
私自身エグモンド様に対していい印象はこれっぽっちもありません。
はっきりと申しまして何時の日か折りを見計らいどの様に料理してやろう……かと虎視眈々と狙い澄ましておりましたの。
ほほ、それは当然でしょう。
何が悲しくて夫が私へ縋りつく……いえ抱き着く位置が腰ではなく足元限定になったのか。
その理由はほぼほぼこいつ様の持ち込み案件の所為でもありますからね。
然もですわ。
度し難い事にエグモンド様は私が崇拝する公爵令嬢ヤスミーン様の婚約者と言う事実!!
流石にヤスミーン様ご本人へ確認させて頂きましたのよ。
さすればヤスミーン様ご本人も『親が決めた婚約ですわ』と何とも悔しそうに、いえ淑女の鏡でもあられるご令嬢は常に仮面を身に着けておいでです。
普通の会話や表情では一切その様な感情を滲ませられる事はありません。
ですが私達の様にヤスミーン様を崇拝するものにはわかるのです。
ああこの婚約には納得されておられない事を……。
しかし私達は貴族なのです。
意に染まぬ結婚だからとは言えその背景にある領地領民の幸せの為とあっては捧げたくはなくともです。
時に心を押し殺し夫婦とならねばならない、それが貴族へと生まれた者の宿命。
その点でいえば私は幸せなのかもしれません。
何故なら多少苦労はしますけれども一応恋愛を経てからの結婚ですからね。
「ごめんね、ごめんなざいユリー。どうか俺を捨でないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ドレスの裾ごと私の足、ええ太ももではなく脹脛へこれでもかと縋り泣き叫ぶカミル。
泣き叫ぶ顔はボロボロで、涙だけでなく鼻水までも私のドレスへ擦り付けて泣き叫んでおります。
はっきり言って煩いですわ。
考えを纏めようとすればする程カミルの声が邪魔になるのです。
しかしここで煩いから口を閉じろ……等と一言告げた瞬間今度こそ脹脛でなく足首若しくは足背へと顔を擦り付けて泣くのでしょうね。
もっと男らしく堂々となって欲しい……そう意味を込めてお義父様は隠居なされたと言うのにです。
親の心子知らず……まさにその言葉通り。
ついでに言えば妻の心夫知らずも付け加えましょうか。
兎に角このままではいけません。
あの糞男の所為で場合によっては我が伯爵家の未来も風前の灯。
いえその前にヤスミーン様への悪意のある裏切りも許せませんわ。
この機会に奴を綺麗に屠ってしまいましょう。
その為にも今は一刻も早くヤスミーン様へ連絡をしなければ!!
どがっ
「あう!?」
あう?
「ひ、酷……う、うぅい、いだい〰〰〰〰」
「ごめんなさいカミル」
ついうっかりでしたわ。
縋りついていた者の存在を忘れて部屋を後にしようとすればです。
どうやら一歩踏み出した際に思いっきりカミルの顔面へ蹴りを入れていたようです。
はあ、これはこれで慰めるのも一苦労……ですが私は事を急いでおりますのでカミルへの対応を後回しにすれば、振り返らずに謝罪の言葉だけを残しその部屋を後にしました。
まあそれもこれも問題を請け負った貴方も悪いのですからねカミル。
22
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

痛みは教えてくれない
河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。
マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。
別サイトにも掲載しております。

結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?
ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。
レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。
アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。
ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。
そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。
上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。
「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている
カレイ
恋愛
伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。
最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。
「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。
そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。
そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう
井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。
その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。
頭がお花畑の方々の発言が続きます。
すると、なぜが、私の名前が……
もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。
ついでに、独立宣言もしちゃいました。
主人公、めちゃくちゃ口悪いです。
成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる