上 下
2 / 7

1話

しおりを挟む
 意識がなくなって気がつけば異世界で王女になっていた。
 私の意識が目覚めるまでひと月程、私は眠ったままだったらしい。
 
 現代日本で誰かに言ったら正気を疑われるようなことが現実に起きていた。
 まぁ、一般人ではなく私の様な人種に言えば羨ましがられるだろうけど。

 正直、私も最初は戸惑った。
 最近流行りの異世界物のように、この世界は剣と魔法のファンタジー。
 そして私は結構な大国の王女として転生? 憑依? したようだった。
 目覚めたときには十四歳でそれまで普通に生活していたようだから……おそらく憑依なんだと思う。
 自分の中に微かに別の誰かを感じることがある。
 それも日々薄れていっているのも感じているので、おそらくそう遠くないうちにこの身体は完全に私だけのものになると思う。

 この身体の持ち主は前世で見たこともないような美少女で王女という地位と権力までもっているうえに、とんでもない回復魔法の才能を持つ『聖女』でもあった。
 なんだ、このチート……と思った。
 でもそれが今は自分なんだ。

 だけど……私は回復魔法が使えなかった。
 なぜなのかは分からない。
 なんとかバレないようにしなくては、と思った。
 バレたら折角の聖女の称号が危うい。

 でもバレないようにするための秘策もあった。
 元々のこの身体の持ち主は持っていなかったようだが……魅了というスキルが私にはあったのだった。
 これは元の王女ではなく私自身の能力なのではないか。

 魅力的な私に魅了のスキルがある、なんてのは考えてみれば当然なのかも。
 元の世界ではなんらかの理由でそれが表に出なかっただけなんだ。
 そうでもなきゃ、この私があんなに惨めな思いをするなんてありえない。

 元の世界の分までこの世界では好きに生きてやる。
 
 そう決めた私は、ますこの世界……そしてこれまでの私のことについて調べた。
 
 その結果、先で述べたようなことがわかったわけだけど……それ以外にも色々とわかったことがある。

 まずこの世界に聖女は一人しかいない。
 その代の聖女が死ぬと次の聖女が生まれる。
 だから私が回復魔法が使えなくなったとバレてはいけないと思ったわけだ。
 歴史上生きているのに聖女じゃなくなった人間はいないらしいけど、万が一ということがある。
 今の地位は絶対に死守する。
 私から何も奪わせてたまるか。
 今生は奪いはしても奪われるなんてこと絶対に許さない。

 これだけの美貌と地位があれば難しくないはずだ。
 それに魅了もある。
 今は不審に思われないよう少しずつ……国の中枢の男どもを私の虜にしている。

 それと、どうやら私は貴族の婦女子が通う学園に通っていたらしい。
 最近再び通うようになったのだけど、眠っていたことで記憶の混濁がある……だから前の私とは違うことがあるかもしれない、と理由をつけ誤魔化すことにした。

 そして……ここで私をイライラさせることが起こった。
 
 理由は、前の私がここに通っていたとき……いや、幼いころからの親友らしい公爵家の娘だ。
 コイツは絶対に不幸にしてやると決めた。
 それほど腹立たしかった。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

国の王子から婚約破棄&国外追放。追放された国で聖女の力に目覚めた私は神様になる。

夜にすみたい
ファンタジー
いきなり婚約破棄&国外追放を言い渡された聖女の候補の妖夢。 追放先で聖女の力に目覚めた私は神様に拾われ「次の世代の神になれ」と言われた。 その国の王子とも気が合いそうでうれしかったけどいきなり故郷の王子がきた。 「聖女妖夢よ!今帰ってくれば私との婚約破棄を無かったことにしてやろう!」 「何言ってるんですか?無理ですよ。私、半分竜ですから。」

聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!

さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ 祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き! も……もう嫌だぁ! 半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける! 時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ! 大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。 色んなキャラ出しまくりぃ! カクヨムでも掲載チュッ ⚠︎この物語は全てフィクションです。 ⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!

神殿から追放された聖女 原因を作った奴には痛い目を見てもらいます!

秋鷺 照
ファンタジー
いわれのない罪で神殿を追われた聖女フェノリアが、復讐して返り咲く話。

聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした

猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。 聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。 思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。 彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。 それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。 けれども、なにかが胸の内に燻っている。 聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。 ※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています

地球で死ぬのは嫌なので異世界から帰らないことにしました

蒼衣ユイ/広瀬由衣
ファンタジー
ぶちぶちと音を立てながら縮み消えていく骨と肉。溢れ続ける血に浮かぶ乳白色をしたゼリー状の球体。 この異常死が《神隠し》から生還した人間の末路である。 現代医学では助けられないこの事件は《魔法犯罪UNCLAMP》と称されるようになった。 そんなある日、女子高生の各務結衣は異世界《魔法大国ヴァーレンハイト皇国》で目を覚ました。 しかしその姿は黄金に輝く月の瞳に、炎が燃え盛るような深紅のロングウェーブという、皇女アイリスの姿だった。 自分がUNCLAMPである事に気付き、地球に戻ったらあの凄惨な死を遂げる恐怖を突きつけられる。 結衣は地球に戻らないために、地球に戻ってしまう原因を把握すべく行動に出る。 illust SNC様(Twitter @MamakiraSnc)

聖女にしろなんて誰が言った。もはや我慢の限界!私、逃げます!

猿喰 森繁
ファンタジー
幼いころから我慢を強いられてきた主人公。 異世界に連れてこられても我慢をしてきたが、ついに限界が来てしまった。 数年前から、国から出ていく算段をつけ、ついに国外逃亡。 国の未来と、主人公の未来は、どうなるのか!?

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

処理中です...