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第17章 勇者と嵐の旅立ち編
第224話 勇者と集う者たち
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「おお! 心の友よ~!」
白黒のまだら模様のカラスは、サイプロプスの足を払い除け、ヒロの頭の上に降り立った。
「頭の上に乗るなアホカラス!」
「ふ~、やっぱりここが落ち着くな」
「降りろ、エルビス!」
ヒロは鬱陶しそうに頭に乗るカラスを振り落とそうとすると、ピョンと飛び立ち、再び頭の上にエルビスは降り立つ。
「まあ、そう邪険にするなよ~。一緒に憤怒の坊やと戦った仲じゃん。これでも心配してたんだぜ。坊やにやられていないかってさ。でもS領域にいるってことは、やっぱり負けたのか?」
「いや、勝つには勝った」
「お⁈ あの状況から勝つなんて、やるじゃん。さすがオレ様が見込んだ男だ。さぞ坊やは悔しがっただろう。『フェニックスの魂』なんてレアスキルを、ヒロがもっているなんて、夢にも思っていなかっただろうしな。ケッケッケッ」
エルビスはいやらしい声で笑い、ヒロは怪訝な顔をする。
「どういう意味だ?」
「俺たち災厄は、紋章を介して地上世界に干渉できる。紋章を宿した継承者の魂に、自らの存在を上書きして紋章を継承しているんだ。だが、ヒロの所持しているスキル、『フェニックスの魂』は、魂の変質を防ぐ効果があるって詳細にあったからな」
「つまり憤怒に、僕の体を乗っ取られないとわかっていた?」
「その通りだ。魂の上書きが出来なければどうなるかは、わからなかったけどな。最悪、体を乗っ取られても、オレ様なら坊やの存在を取り込めただろうし、問題はないはずだった」
「……その場合、僕はどうなる?」
「オレの存在がヒロの魂に上書きされて消滅? 最終的にはオレ様が地上に復活して、めでたし、めでたしだな」
「降りろや! アホカラス!」
「ギャ!」
ヒロは本気でエルビスの首根っこを掴み、地面に叩きつけていた。
「心の友よ、なにするんだよ」
「何が心の友だ! どこもめでたくないわ!」
ヨタヨタと立ち上がりヒロを見上げるエルビス……その瞳に涙を浮かべていた。
「うう……いくら魔眼の力を与えたと言っても、あの状態で勝てるかわからないから、心配していたのに、ひどい~」
「エルビス、せめて首から下の舐めた格好を表情に合わせてから言えよ」
涙を流しながら、お尻を翼でポリポリ掻くエルビスを見たヒロは、胡散臭そうな視線を送る。
「冗談だって、本気にするなよ~。心配したのはホントなんだぜ? しかし序列最下位とはいえ、災厄のひとりを倒しちまうとは……」
「いや、正確には倒していない」
「どういう意味だ?」
「フェニックスの力で、憤怒は今、僕の中で封印されている」
「んん⁈ フェニックス? 倒さずに封印した? ……ヒロ、ちょっと見せてもらうぜ」
「見る? なにを?」
「お前のステータスさ。『解析』」
するとエルビスな瞳に希望の紋章が浮かび上がり、ヒロをジッと見つめ出した。
「……ふ~ん。なるほど、なるほど。ほほ~、ホントに坊やが封印されちまっているな。しかも変換中⁈ マジでかよ!」
「な! 本当に見えるのか⁈」
「おう、バッチリだ。オレを誰だとおもってやがる。ステータス鑑定なんてお手のものさ。それにしても……」
固有スキル デバック LV2
言語習得 LV2
Bダッシュ LV5
二段ジャンプ LV4
溜め攻撃 LV LV6
オートマッピング LV3
ブレイブ LV2
コントローラー LV2
不死鳥の魂
ラプラスの魔眼
ハイパースレッディング LV 1
デコイ LV 1
憤怒の紋章【変換中……2/100】
所持スキル 女神の絆 LV3
女神の祝福 (呪い)LV10
災厄の縁
身体操作 LV6
剣術 LV5
体術 LV1
震脚 LV1
投擲術 LV5
気配察知 LV4
空間把握 LV4
見切り LV4
回避 LV4
「憤怒の坊やをその身に宿し、存在の書き換えをしているのにも驚いたが、それ以上に……おまえなんで女神に呪われてるの? どんな変態行為をすれば、【女神の祝福 】(呪い)』なんて代物が手に入るんだよ?」
「好意で貰ったスキルなんだが……」
エルビスの言葉に、ヒロもスキル詳細を開き確かめる。
【女神の祝福】 LV 10 (呪い)
女神より直に祝福された者が取得可能なスキル
重すぎる想いは呪いとなり、災厄を招く可能性がある
経験値取得にプラス補正
「しかもマイナス効果がエグい! 経験値取得にプラス補正で相殺できないくらいのエグさだ。よく生きていられたな」
「どういう意味だ? たしかにそのスキルは、災厄を招く可能性があると書いてあるが……」
「ん~、オレの【解析】だと、このスキルはお前が異性とある程度イチャイチャすると、強敵を引き寄せる効果があるみたいだな。覚えはないか?」
「え……強敵⁈」
エルビスの言葉に、ヒロはハッしながら、数々の戦いを思い出す。ランナーバード、オーガベアー、ミミック……どの魔物も、リーシアとイチャコラした後に現れた。
「覚えはあるな……」
オーク村に囚われた辺りまでは、たしかにリーシアとイチャイチャ……もとい仲良くした際に強敵は現れた。しかしそれ以降、その兆候は見られない。オーク村でイチャコラして邪魔されたことはあるが、強敵には出会っていない。辻褄が合わないエルビスの言葉にヒロは訝しむ。
「ん~、まあ異性と一定以上イチャイチャしなければいいみたいだし、いまのヒロの強さなら問題ないだろ。いや~、モテる男はつらいね。頼むからオレが地上に復活するまでは生きていてくれよ? サポートはするからさ」
「まさか、僕についてくる気か?」
「当たり前じゃ~ん。ヒロみたいな、おもしろそうな奴、そうそういないからな。それに……坊やを倒しちまった以上、他の災厄が放っておくわけない。オレ様がいれば助言してやれるから遅れはとらないぜ。感謝しろよ~」
「なんで他の災厄が僕を? というか、エルビスといるだけでトラブルに見舞われる気がするから、一緒にいたくないな」
「おいおい、そうつれないこというなよ~。オレを連れて行った方が絶対にお得だからさ。ほら、いま見せた【解析】スキルも覚えられるかもしれないし。だから、なっ!」
片目をつぶりウィンクするカラス……胡散臭いオーラがダダ漏れだった。うまい話には裏がある。怪しさ爆発のエルビスの提案をヒロはどうしたものかと思った時――
「話の途中で悪いが説明しろ。コイツはなんだ?」
――白いひとつ目の仮面を被り、アソコにモザイクを入れた怪しさ大爆発の男が、話に割りこんできた。
「ん? 僕のすべてを知るお前でも、わからないことがあるのか?」
「ああ、大概は知っているが、コイツのことはまったく知らん。いったい何者だ?」
エルビスを指差すサイプロプスの声は、少し緊張していた。
「こいつの名は、『お控ぇなすって! お控ぇなすって!』」
サイプロプスの質問に答えようとするとヒロの言葉を、少し腰をかがめて、右手を前にしたエルビスの声が遮る。
突然のことにヒロとサイプロプスは、思わず口を閉ざしてしまう。
「さっそくのお控え、ありがとうございます。手前、生国はガイヤメインシステム内であります。人に絶望を与えるため、創世神によって作られしものがひとり!」
「ヒロ、この生き物はなんだ?」
「よくは知らん……」
いきなり任侠映画で出てきそうな仁義を切りはじめたエルビスに、ヒロとサイプロプスは困惑していた。
「現在を知り、過去を学び、未来を視せる。自らの行いを諦めきれず、叶わぬと知ってもなお、その足を前に進ませ、人に永遠の苦しみを与え続ける。災厄の中で最悪の存在! 善なる災厄! 予知を司る者、エルビスと申します。ここであったがなにかの縁、以後、お見知りおきを!」
「予知を司るだと? 善なる災厄⁈ そんなもの今まで一度も……まさか? いやだからこそ……」
ドヤ顔で自己紹介したエルビスを見て、サイプロプスはブツブツと何かをつぶやきながら立ち尽くしていた……モザイク丸裸の格好で!
「ふ~、うまく言えた。練習した甲斐があったぜ」
「今の練習するほどなのか?」
「ああ、数百年も一人でいるとやることなくてさ。自己紹介の仕方を練習してヒマを潰していたんだ。いまのは東の国にあるというジパーングとかいう国の挨拶の仕方だ。オレ様って博識~♪ ところでヒロ……この仮面をつけて、ブツブツつぶやく丸裸の危ないのは誰なの?」
「ああ、奴の名はサイプロプス、見ての通り変人だ」
「あ~、それは言わなくてもわかるな。漂うオーラが普通じゃないっていうか……アレ?」
何かに気づき、サイプロプスを『ジ~』と見つめていたエルビスは、首を傾げるながら黙り込んでしまう。
やがて二人は目を閉じ、思考の海へと潜り込んでいく。ヒロは動かなくなった二人を見て、互いの顔の前で手をパタパタするが、反応をまったく示さない。
一分、二分と待っても変化のない二人に、ヒロはヒマを持て余し、仕方なしと地べたに座り込んだ。
二人に続けとばかりに目を閉じたヒロは、脳内で妄想ゲームのスタートボタンを押すと、煌びやかな宝石の映るゲーム画面が、まぶたの裏に浮かび上がる。やがて――
「……だとすると、これが女神の導きとやらか? イレギャラーな存在か……いいだろう。奴を引きずり出すためならば、なんだろうと関係ない」
「この気配……間違いない。フッフッフッ、ヒロ、お前といると、おもしろいことだらけだ。こんなに楽しい気持ちになるのは数百年ぶりだぜ」
――ヒロが脳内ゲームに没頭してから数分の時が経った頃、ついにサイプロプスとエルビスは何かの答えにたどり着き、同時に目を見開くとそこには……。
「フッハッハッハッハッ! いいぞ、この時を僕は待っていた! さあ、これで仕上げだあぁぁぁぁ!」
地べたに座り込み、気持ち悪い動きをするヒロの姿があった。
「きっも! 何してんのコイツ?」
「おそらく、脳内ゲーム中だな。発作みたいなものだから気にするな。精神状態を保つコイツなりのルーティンだ。ほっとけばそのうち元に戻る」
「ふ~ん。さすがに詳しいな。サイプロプスだっけ?」
ニタリと目を細めるエルビスに、サイプロプスの仮面についた赤い宝石が怪しく光る。
「なにかを知ったようだな」
「まあな。少なくとも、いまお前と敵対するメリットはないことくらいはわかった。オレ様と同じく、お前もヒロが必要なんだろ?」
「ああ」
「なら、お互いにコイツの利用価値がなくなるまで、手を組もうぜ。オレ様たちが手を組めば、大抵のことはどうにかできるはずだ。どうだ?」
「……いいだろう。オレの邪魔にさえならなければ、問題はない。こんな序盤でコイツには死なれても困るしな。ヒロのお守り代わりと考えればオレにはメリットがある。それに敵対するのなら、消去すればいいだけの話だ」
「⁈」
凍てつくような感情のない声色を聞き、エルビスの背筋にゾクリと冷たいものが走る。
(オレ様にだけ殺気を放って、一瞬でも怯ませるとは、なんてヤツだ。こっそり【解析】を使っても見れないステータスといい……底が見えない)
顔を険しくするエルビスは、地べたに座り不気味な表情を浮かべる気持ち悪い男に視線を向ける。
「変われば変わるもんだな。おまえ……どれだけの地獄を見てきたんだ?」
「数えきれんほど見た。もう途中で数えるのもやめてしまうくらいにな。だが……無限に近い地獄も、もう終わりかもしれん」
サイプロプスの声に、ほんの少しだけ熱がこもる。
「本上 英雄という希望が、ついに目の前に現れたのだからな。いや、異世界ガイヤにとっては絶望か? フッフッフッ……」
「絶望ね。まあどんな存在になるにしろ、オレ様の目的のためにコイツは必要だ。道は違えど、お互いにヒロが必要なのに変わりはない。じゃあ今からオレとお前は手を組むってことで決まりな。よろしく頼むぜ悪友よ!」
「悪友? 戯れ合うつもりはない」
「わかっているさ。あくまでヒロを利用させてもらうだけだ。オレ様はオレ様で好きにやらせてもらう」
「なら、いい」
サイプロプスはそう言うと、ヒロの方に視線を向ける。
「さて、ではまずコイツに迫るバッドエンドをなんとかしないとな。状況はわかっているか?」
「おうよ。さっき『解析』したときに、ヒロの記憶を見た。リーシアってヒロにとって大事な女が、『傲慢』の罠に掛かって殺されそうなんだろ?」
「ああ、リーシアの死はオレの望む未来ではない。手を貸してもらうぞ。このイベントをクリアーするために、お前の持っている傲慢の情報を教えろ」
「いいぜ。代わりにこっちは、ヒロの身に起こる未来の情報をもらうぞ。情報は多ければ多いほど『予知』の未来は確実性を増すからな」
「ああ、いくらでも教えてやる。さあ、それでは始めるとしようか……」
「オレ様たちの目的のために……」
「「「運命の改変を!」」
妄想ゲームに没頭する二人の呟きはヒロには聞こえず、虚空に消えていくのであった。
〈変態プレイ中の勇者をよそに……変態たちが集うとき、世界の運命は大きく変わる〉
白黒のまだら模様のカラスは、サイプロプスの足を払い除け、ヒロの頭の上に降り立った。
「頭の上に乗るなアホカラス!」
「ふ~、やっぱりここが落ち着くな」
「降りろ、エルビス!」
ヒロは鬱陶しそうに頭に乗るカラスを振り落とそうとすると、ピョンと飛び立ち、再び頭の上にエルビスは降り立つ。
「まあ、そう邪険にするなよ~。一緒に憤怒の坊やと戦った仲じゃん。これでも心配してたんだぜ。坊やにやられていないかってさ。でもS領域にいるってことは、やっぱり負けたのか?」
「いや、勝つには勝った」
「お⁈ あの状況から勝つなんて、やるじゃん。さすがオレ様が見込んだ男だ。さぞ坊やは悔しがっただろう。『フェニックスの魂』なんてレアスキルを、ヒロがもっているなんて、夢にも思っていなかっただろうしな。ケッケッケッ」
エルビスはいやらしい声で笑い、ヒロは怪訝な顔をする。
「どういう意味だ?」
「俺たち災厄は、紋章を介して地上世界に干渉できる。紋章を宿した継承者の魂に、自らの存在を上書きして紋章を継承しているんだ。だが、ヒロの所持しているスキル、『フェニックスの魂』は、魂の変質を防ぐ効果があるって詳細にあったからな」
「つまり憤怒に、僕の体を乗っ取られないとわかっていた?」
「その通りだ。魂の上書きが出来なければどうなるかは、わからなかったけどな。最悪、体を乗っ取られても、オレ様なら坊やの存在を取り込めただろうし、問題はないはずだった」
「……その場合、僕はどうなる?」
「オレの存在がヒロの魂に上書きされて消滅? 最終的にはオレ様が地上に復活して、めでたし、めでたしだな」
「降りろや! アホカラス!」
「ギャ!」
ヒロは本気でエルビスの首根っこを掴み、地面に叩きつけていた。
「心の友よ、なにするんだよ」
「何が心の友だ! どこもめでたくないわ!」
ヨタヨタと立ち上がりヒロを見上げるエルビス……その瞳に涙を浮かべていた。
「うう……いくら魔眼の力を与えたと言っても、あの状態で勝てるかわからないから、心配していたのに、ひどい~」
「エルビス、せめて首から下の舐めた格好を表情に合わせてから言えよ」
涙を流しながら、お尻を翼でポリポリ掻くエルビスを見たヒロは、胡散臭そうな視線を送る。
「冗談だって、本気にするなよ~。心配したのはホントなんだぜ? しかし序列最下位とはいえ、災厄のひとりを倒しちまうとは……」
「いや、正確には倒していない」
「どういう意味だ?」
「フェニックスの力で、憤怒は今、僕の中で封印されている」
「んん⁈ フェニックス? 倒さずに封印した? ……ヒロ、ちょっと見せてもらうぜ」
「見る? なにを?」
「お前のステータスさ。『解析』」
するとエルビスな瞳に希望の紋章が浮かび上がり、ヒロをジッと見つめ出した。
「……ふ~ん。なるほど、なるほど。ほほ~、ホントに坊やが封印されちまっているな。しかも変換中⁈ マジでかよ!」
「な! 本当に見えるのか⁈」
「おう、バッチリだ。オレを誰だとおもってやがる。ステータス鑑定なんてお手のものさ。それにしても……」
固有スキル デバック LV2
言語習得 LV2
Bダッシュ LV5
二段ジャンプ LV4
溜め攻撃 LV LV6
オートマッピング LV3
ブレイブ LV2
コントローラー LV2
不死鳥の魂
ラプラスの魔眼
ハイパースレッディング LV 1
デコイ LV 1
憤怒の紋章【変換中……2/100】
所持スキル 女神の絆 LV3
女神の祝福 (呪い)LV10
災厄の縁
身体操作 LV6
剣術 LV5
体術 LV1
震脚 LV1
投擲術 LV5
気配察知 LV4
空間把握 LV4
見切り LV4
回避 LV4
「憤怒の坊やをその身に宿し、存在の書き換えをしているのにも驚いたが、それ以上に……おまえなんで女神に呪われてるの? どんな変態行為をすれば、【女神の祝福 】(呪い)』なんて代物が手に入るんだよ?」
「好意で貰ったスキルなんだが……」
エルビスの言葉に、ヒロもスキル詳細を開き確かめる。
【女神の祝福】 LV 10 (呪い)
女神より直に祝福された者が取得可能なスキル
重すぎる想いは呪いとなり、災厄を招く可能性がある
経験値取得にプラス補正
「しかもマイナス効果がエグい! 経験値取得にプラス補正で相殺できないくらいのエグさだ。よく生きていられたな」
「どういう意味だ? たしかにそのスキルは、災厄を招く可能性があると書いてあるが……」
「ん~、オレの【解析】だと、このスキルはお前が異性とある程度イチャイチャすると、強敵を引き寄せる効果があるみたいだな。覚えはないか?」
「え……強敵⁈」
エルビスの言葉に、ヒロはハッしながら、数々の戦いを思い出す。ランナーバード、オーガベアー、ミミック……どの魔物も、リーシアとイチャコラした後に現れた。
「覚えはあるな……」
オーク村に囚われた辺りまでは、たしかにリーシアとイチャイチャ……もとい仲良くした際に強敵は現れた。しかしそれ以降、その兆候は見られない。オーク村でイチャコラして邪魔されたことはあるが、強敵には出会っていない。辻褄が合わないエルビスの言葉にヒロは訝しむ。
「ん~、まあ異性と一定以上イチャイチャしなければいいみたいだし、いまのヒロの強さなら問題ないだろ。いや~、モテる男はつらいね。頼むからオレが地上に復活するまでは生きていてくれよ? サポートはするからさ」
「まさか、僕についてくる気か?」
「当たり前じゃ~ん。ヒロみたいな、おもしろそうな奴、そうそういないからな。それに……坊やを倒しちまった以上、他の災厄が放っておくわけない。オレ様がいれば助言してやれるから遅れはとらないぜ。感謝しろよ~」
「なんで他の災厄が僕を? というか、エルビスといるだけでトラブルに見舞われる気がするから、一緒にいたくないな」
「おいおい、そうつれないこというなよ~。オレを連れて行った方が絶対にお得だからさ。ほら、いま見せた【解析】スキルも覚えられるかもしれないし。だから、なっ!」
片目をつぶりウィンクするカラス……胡散臭いオーラがダダ漏れだった。うまい話には裏がある。怪しさ爆発のエルビスの提案をヒロはどうしたものかと思った時――
「話の途中で悪いが説明しろ。コイツはなんだ?」
――白いひとつ目の仮面を被り、アソコにモザイクを入れた怪しさ大爆発の男が、話に割りこんできた。
「ん? 僕のすべてを知るお前でも、わからないことがあるのか?」
「ああ、大概は知っているが、コイツのことはまったく知らん。いったい何者だ?」
エルビスを指差すサイプロプスの声は、少し緊張していた。
「こいつの名は、『お控ぇなすって! お控ぇなすって!』」
サイプロプスの質問に答えようとするとヒロの言葉を、少し腰をかがめて、右手を前にしたエルビスの声が遮る。
突然のことにヒロとサイプロプスは、思わず口を閉ざしてしまう。
「さっそくのお控え、ありがとうございます。手前、生国はガイヤメインシステム内であります。人に絶望を与えるため、創世神によって作られしものがひとり!」
「ヒロ、この生き物はなんだ?」
「よくは知らん……」
いきなり任侠映画で出てきそうな仁義を切りはじめたエルビスに、ヒロとサイプロプスは困惑していた。
「現在を知り、過去を学び、未来を視せる。自らの行いを諦めきれず、叶わぬと知ってもなお、その足を前に進ませ、人に永遠の苦しみを与え続ける。災厄の中で最悪の存在! 善なる災厄! 予知を司る者、エルビスと申します。ここであったがなにかの縁、以後、お見知りおきを!」
「予知を司るだと? 善なる災厄⁈ そんなもの今まで一度も……まさか? いやだからこそ……」
ドヤ顔で自己紹介したエルビスを見て、サイプロプスはブツブツと何かをつぶやきながら立ち尽くしていた……モザイク丸裸の格好で!
「ふ~、うまく言えた。練習した甲斐があったぜ」
「今の練習するほどなのか?」
「ああ、数百年も一人でいるとやることなくてさ。自己紹介の仕方を練習してヒマを潰していたんだ。いまのは東の国にあるというジパーングとかいう国の挨拶の仕方だ。オレ様って博識~♪ ところでヒロ……この仮面をつけて、ブツブツつぶやく丸裸の危ないのは誰なの?」
「ああ、奴の名はサイプロプス、見ての通り変人だ」
「あ~、それは言わなくてもわかるな。漂うオーラが普通じゃないっていうか……アレ?」
何かに気づき、サイプロプスを『ジ~』と見つめていたエルビスは、首を傾げるながら黙り込んでしまう。
やがて二人は目を閉じ、思考の海へと潜り込んでいく。ヒロは動かなくなった二人を見て、互いの顔の前で手をパタパタするが、反応をまったく示さない。
一分、二分と待っても変化のない二人に、ヒロはヒマを持て余し、仕方なしと地べたに座り込んだ。
二人に続けとばかりに目を閉じたヒロは、脳内で妄想ゲームのスタートボタンを押すと、煌びやかな宝石の映るゲーム画面が、まぶたの裏に浮かび上がる。やがて――
「……だとすると、これが女神の導きとやらか? イレギャラーな存在か……いいだろう。奴を引きずり出すためならば、なんだろうと関係ない」
「この気配……間違いない。フッフッフッ、ヒロ、お前といると、おもしろいことだらけだ。こんなに楽しい気持ちになるのは数百年ぶりだぜ」
――ヒロが脳内ゲームに没頭してから数分の時が経った頃、ついにサイプロプスとエルビスは何かの答えにたどり着き、同時に目を見開くとそこには……。
「フッハッハッハッハッ! いいぞ、この時を僕は待っていた! さあ、これで仕上げだあぁぁぁぁ!」
地べたに座り込み、気持ち悪い動きをするヒロの姿があった。
「きっも! 何してんのコイツ?」
「おそらく、脳内ゲーム中だな。発作みたいなものだから気にするな。精神状態を保つコイツなりのルーティンだ。ほっとけばそのうち元に戻る」
「ふ~ん。さすがに詳しいな。サイプロプスだっけ?」
ニタリと目を細めるエルビスに、サイプロプスの仮面についた赤い宝石が怪しく光る。
「なにかを知ったようだな」
「まあな。少なくとも、いまお前と敵対するメリットはないことくらいはわかった。オレ様と同じく、お前もヒロが必要なんだろ?」
「ああ」
「なら、お互いにコイツの利用価値がなくなるまで、手を組もうぜ。オレ様たちが手を組めば、大抵のことはどうにかできるはずだ。どうだ?」
「……いいだろう。オレの邪魔にさえならなければ、問題はない。こんな序盤でコイツには死なれても困るしな。ヒロのお守り代わりと考えればオレにはメリットがある。それに敵対するのなら、消去すればいいだけの話だ」
「⁈」
凍てつくような感情のない声色を聞き、エルビスの背筋にゾクリと冷たいものが走る。
(オレ様にだけ殺気を放って、一瞬でも怯ませるとは、なんてヤツだ。こっそり【解析】を使っても見れないステータスといい……底が見えない)
顔を険しくするエルビスは、地べたに座り不気味な表情を浮かべる気持ち悪い男に視線を向ける。
「変われば変わるもんだな。おまえ……どれだけの地獄を見てきたんだ?」
「数えきれんほど見た。もう途中で数えるのもやめてしまうくらいにな。だが……無限に近い地獄も、もう終わりかもしれん」
サイプロプスの声に、ほんの少しだけ熱がこもる。
「本上 英雄という希望が、ついに目の前に現れたのだからな。いや、異世界ガイヤにとっては絶望か? フッフッフッ……」
「絶望ね。まあどんな存在になるにしろ、オレ様の目的のためにコイツは必要だ。道は違えど、お互いにヒロが必要なのに変わりはない。じゃあ今からオレとお前は手を組むってことで決まりな。よろしく頼むぜ悪友よ!」
「悪友? 戯れ合うつもりはない」
「わかっているさ。あくまでヒロを利用させてもらうだけだ。オレ様はオレ様で好きにやらせてもらう」
「なら、いい」
サイプロプスはそう言うと、ヒロの方に視線を向ける。
「さて、ではまずコイツに迫るバッドエンドをなんとかしないとな。状況はわかっているか?」
「おうよ。さっき『解析』したときに、ヒロの記憶を見た。リーシアってヒロにとって大事な女が、『傲慢』の罠に掛かって殺されそうなんだろ?」
「ああ、リーシアの死はオレの望む未来ではない。手を貸してもらうぞ。このイベントをクリアーするために、お前の持っている傲慢の情報を教えろ」
「いいぜ。代わりにこっちは、ヒロの身に起こる未来の情報をもらうぞ。情報は多ければ多いほど『予知』の未来は確実性を増すからな」
「ああ、いくらでも教えてやる。さあ、それでは始めるとしようか……」
「オレ様たちの目的のために……」
「「「運命の改変を!」」
妄想ゲームに没頭する二人の呟きはヒロには聞こえず、虚空に消えていくのであった。
〈変態プレイ中の勇者をよそに……変態たちが集うとき、世界の運命は大きく変わる〉
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加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。
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