勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

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第17章 勇者と嵐の旅立ち編

第212話 取り調べ……聖女の供述

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「あなた達、一体なにをしているの!」


――野太い女性口調の声が、部屋の中を駆け抜けた。

 聞き覚えがあるオネエ言葉に、リーシアは視線をチラリと入り口に向けると……そこには黒い短パンレザーに素足の黒革靴、そして乳首スッケスケの網目タンクトップを着た、いかついオッサンが立っていた!


「あっ! ナターシャさん」

「キサマはナータ!」

「いやねえ~、ドワルド指揮官、町ではソウルネームのナターシャって呼んでちょうだい」


 冒険者ギルドのマスター、ナターシャ(魂の名前)は、頬に左手を当てながら腕を組むと、ヤレヤレという仕草で顔を左右に振っていた。


「キサマも町に戻っていたのか?」

「ええ、つい今仕方ね。あの戦いで生き残った者は、全員無事よ。負傷者を抱えて、急ぎアルムの町に戻ったおかげでみんなクタクタだけどね」

「そうか。生き残った王国兵はどこに?」

「広場で町の人たちに歓待を受けているわ。でもビックリよ。アルムに戻ってみれば、町は勇者ヒロと聖女リーシアの話題で持ちきりだし。教会へリーシアちゃんに会いに行ったら、詰所に連れて行かれたと聞かされてビックリ。急いで来てみればこの騒ぎでしょ? 一体何があったの?」

「はい、それが……」


 リーシアは、困った表情を浮かべながら事情を説明しようとすると、ドワルドが横から怒鳴るような声で話に割り込んできた。


「この娘の連れが、オークヒーローの遺体を持ち逃げしたのだ! アレは我々のものだ! さっさとヒロとやらの居場所を教えろ!」

「ですので、何度も同じことをいいますけど、ヒロとは町に戻る前に別れてしまって……その後は私も知らないんです」

「知らないわけあるか! どこへ向かった? 吐け、ヤツの居場所を⁈」

「他の町で、オークヒーローを売るといっていましたけど、どこへ向かうかは聞いていません。だから答えようが……」

「ウソをつけ! ハッ、そうか……きさまら! あとでコッソリ合流して、オークヒーロー討伐の名誉と莫大な遺体の売却金を山分けするつもりだな!」

「いえ、そんなことしませんよ。ヒロの行方は、私も知りたいんです。あの人には責任をとってもらわないといけませんので……」

「あら? リーシアちゃん、あの人に責任って、まさか⁈ ……そう、そうなのね。フフ」


 ナターシャは、リーシアの言葉を聞いて温かな笑みを浮かべていた。


「笑っている場合か! オークヒーローの遺体はワシには必要なのだ! アレが……討伐した証拠がなければ、ワシは兵士に犠牲を出したことについて責任を取らされかねん。絶対にアレは必要なのだ!」

「まあまあ落ち着いて。私と違ってドワルド指揮官は、王国からオークの集落と、オークヒーローの討伐を任されているのは知ってはいるわ。でも遺体はなくても、あの戦いでヒロとリーシアちゃんがオークヒーローを倒した瞬間はみんな見ていた。だから討伐成功の真偽は問題ないはずよ」

「だめだ! オークの死体が大量にあればよかったが、奴らは共食いによりその数を減らしていた。あの場にあったオークの死体は百もなかった。せめてオークヒーローの遺体がなければ、討伐成功を認めてもらえんかも知れん!。だから……なんとしてもその娘に、男の居場所を拷問してでも吐かせねばならんのだ!」


 ナターシャに唾を飛ばす勢いで話すドワルド……彼も彼なりに必死だった。


「まあ、拷問なんてしなくても、真偽の確認くらいはできるわよ」

「なに?」


 するとナターシャはドワルドに背を向け、リーシアの前にまで近づくと少女の目を覗き込んだ。


「ナターシャさん?」


 ナターシャの瞳の色が青から赤へ変わり、真っすぐな視線でリーシアの慈愛に満ちた目を見る。


「あら? リーシアちゃん……そう、あなた変わったのね。ヒロのおかげかしら?」

「変わったですか?」


 ナターシャの問いリーシアはキョトンとする。


「フフ、なんでもないわ。さあ、リーシアちゃん、正直に答えなさい。オークヒーローを倒したあと、何があったの?」


 ナターシャの口にした言葉の意味を考える暇もなく、リーシアは問いに答える。


「えと、憤怒を追ってアルムの町へ急ぎ戻った私たちは、森の中で追いつき戦いになりました」

「憤怒は生きていたの?」

「はい。憤怒の本体は紋章に宿っていまして、紋章を継承した者に取り憑きその体を乗っ取る能力がありました。血縁関係にある者がいれば、乗り移れるみたいで、紋章はオークヒーローの子どもに継承されました」

「オークヒーローの子ども? オークは成長が早いから、いたとしても不思議じゃないわね。それで憤怒は?」

「何とかヒロと二人で倒しました」

「そう……すると憤怒は死んだのね?」

「いいえ……正確には死んでいません。いまヒロの中で封印されているみたいです」

「ヒロの中に封印?」

「ヒロの話だと、憤怒を倒し紋章が継承された際、自分の中で別の存在に生まれ変わろうとしていると……詳しいことはわかりません」


 リーシアはヒロから聞いた話を、ナターシャに偽りなく答えると、ナターシャは満足気にうなずく。


「うん。嘘はついていないようね」

「はい? ナターシャさん、嘘って?」


 ナターシャの言葉に『?』マークを出し、リーシアは首をかしげる。そんな二人のやり取りをみていたドワルドは痺れを切らし、横から怒鳴るような声を上げながら二人に詰め寄る。


「そんなことはどうでもいい! それよりもその後だ! オークヒーローの遺体は、どこにやった!」

「まあ、待ちなさい。いま私が聞いているのだからね。さて、リーシアちゃん、単刀直入に聞くわよ? あなたはヒロのいる場所を知っているの?」

「知りません。知っていたら教えてほしいくらいです」

「なるほどね。じゃあもうひとつ質問、リーシアちゃん、ヒロは好き?」


 ナターシャの唐突で意地悪な質問……それは相手に動揺を与え、真実を隠そうとする心に、揺さ振りをいれる尋問のテクニックだった。しかし、リーシアはその言葉を聞くと真っすぐな瞳で迷いなく答える。


「はい。だから今回の件、ヒロには個人的に責任を取ってもらわないといけませんので、早くヒロを追いかけたいんです。それに……」

「それに?」

「私は、ヒロのことが好きなんじゃありません……大好きなんです」

 リーシアは顔を赤く染めながらも、ハッキリと自分の気持ちを口にしていた。


「本当に変わったわね。フフ、分かったわ。じゃあここは私に任せなさい。悪いようにはしないから♪」


 ナターシャは、リーシアに笑みを浮かべながら片目をつぶりウィンクした。すると赤かった瞳を元の青い目に変えながら、ドワルドの方へと振り返る。


「というわけでドワルド指揮官、リーシアちゃんはヒロの行方を知らないみたいよ。だからこれ以上、彼女に尋問しても時間のムダよ」

「ふざけるな! なぜお前にそれがわかる!」

「わかるのよ。私のスキル『真実の目』ならね。このスキルには相手の嘘を見抜く力があるのよ」

「嘘を見抜くスキルだと? 王国全土でも数名しか持っていない希少なスキルをお前は持っているのか⁈」

「ええ、だからこそ私は領主であるパパに頼まれて、冒険者ギルドでマスターなんかやっているの。アルムの町は大きくなり過ぎた。おかげで町には血の気の多くて良からぬことをむたくらものも多くなった。そういうやから相手には、私のスキルは打ってつけってわけよ」


「そ、それでは、本当にヒロとやらの行方は?」

「本当に知らないようね。私のスキルは、リーシアちゃんが嘘をついていないと言っている」

「嘘だ! ……そうか、ナータ、キサマ嘘をついているな? お前はその娘と懇意にしている。だからその女を助けるためにワシに嘘を!」

「私が嘘を吐いているとでも? 笑わせないで! 痩せても枯れても冒険者ギルドのマスターよ! アルムの町を守るためならば、公私混同なんて決してしないわ! 神に誓ったっていいわよ!」

「ぐっ……」


 ナターシャの威圧感に負け、ドワルドは言葉に詰まる。このまま大人しく引き下がってくれればと、淡い期待を抱くナターシャだったが――


「黙れ! お前の話など信じられるか! おい、おまえら、その娘を取り押さえろ。どんな手を使っても構わん。男の行方を吐かせるんだ!」


――その期待をドワルドは砕く。もはや自分でも止められない黒い感情が心を満たし、ドワルドから冷静な判断力を奪っていた。


「い、いいのですか?」

「早くしろ! こいつは男とグルだ。知らないフリをして後で合流するつもりなんだろう。させんぞ。これは命令だ! 拷問してでも、ヒロとやらの行方を吐かせてやる」

「ですが……この方は……」

「ですがもへったくれもあるか! そいつはたしかに冒険者ギルドのマスターであるが、同時にマルセーヌ王国に住まう国民でもある。国民は王国で安全に暮らす代わりに、王国の要請にはできるだけ答える義務がある。そしてワシは王国に任じられたオーク討伐隊の指揮官となった。つまりワシの言葉は国の言葉だ。それを拒否するのは王国の意志に背く行為だと知れ!」

「そ、そんなムチャな話しが通るとでも?」


 横で聞いていた衛士のラングは、あまりにもムチャな話に呆れていた。


「衛士風情が黙れ! おい、お前らやれ! やらなければ、お前たちも王国の命に逆らった者として処罰するぞ」

「……」


 その言葉に、兵士たちは一瞬だけ躊躇ちゅうちょしたが、命令には逆らえず、腰に納めた剣を抜きながら前に出る。


「ドワルド指揮官、本気なのね?」

「本気もへったくれもあるか! オークヒーローを倒したのはワシだ。だからオークヒーローの遺体はワシのものだ!」


 目が血走り、負の感情を撒き散らすドワルド……明らかに普通ではない様子にナターシャはため息を吐くと――


「なら、ドワルド指揮官のその命令も、王国の定めた法に違反しているから、従うわけにはいかない。リーシアちゃんに手をあげるなら私が黙っていないわよ」


――ナターシャはリーシアを背にすると、獰猛な野獣な目つきで兵士たちを見て下唇を舐める。


「な、なんだと! ナータ、キサマ、ワシに逆らうつもりか!」

「別に逆らうつもりはないわよ。え~と、あなたは衛士の?」


 ナターシャは、剣を構える兵士たちに注意を向けながらも、横にいたラングに視線を向けた。


「衛士長のラングです」

「ではラング、いまリーシアちゃんは事情聴取のために、任意でここにいるのよね?」

「はい。真偽確認のため、事情を聞いていたところです」

「そう。それで話は聞けたの?」


 その時、ナターシャは顔を横に向けラングの顔を見ると、ドワルドに見えないよう、『パチパチ』とウィンクを何度も繰り返し何かを伝えようとしていた。それを見たラングは、ナターシャに話を合わせる。


「実は事情を聞くうちに、別件で重要な情報を漏らしました。それについて問いただしていますが、黙秘を続けていまして……」

「そう。そうなると王国法にのっとって、リーシアちゃんから情報を聞くために、衛士たちには彼女を拘束する必要があるわね」

「はい。王国法では、重要犯罪に絡む案件に関わる被疑者は、最大で二日間の勾留が認められています。その間は被疑者の逃亡や共謀を防ぐため、取り調べをする衛士、または教会関係者やその地を治める領主、代理人にしか面会は許されません」

「ふざけるな! こちらは国に任じられたオーク討伐隊だぞ」

「こちらも王国法を元に、職務を遂行しているだけです」


 ドワルドとラングの視線はぶつかり火花が散っていた。そんな一瞬即発な雰囲気をナターシャの声が断ち切る。


「ドワルド指揮官、衛士ラング、ふたりとも王国のために職務をまっとうしていることはわかったわ。でも、困ったわね。どちらの意見を聞いても王国法に触れてしまい、お互いに罰せられてしまう……そえねえ、ここはお互いの意見を尊重し合ってみてはどうかしら?」

「ナータ、どういうことだ?」

「つまり、ここはドワルド指揮官に一旦引いてもらって、二日後にリーシアちゃんの身柄を明け渡すってことよ」

「……」

「ナターシャさん、それは⁈」


 無言で考え込むドワルドに対して、ラングは声を上げていた。


「ドワルド指揮官が取り調べ中の被疑者を無理やり連れ出したりしたら、王国は黙っていないわよ? 逆に勾留期限が過ぎた後、リーシアちゃんの自由を縛る法はなくなるわ。手荒な真似をしないのであれば、彼女に尋問するのは問題ないわよ。どう? あまり事を荒立ててオーク討伐の名誉に傷を付けるのもどうかと思うけど?」

「グヌヌ……」


 ドワルドは忌々しいものを見るかのように、ナターシャを睨みつけていた。しかし、話しに納得はしていないものの、王国法に逆らうことはドワルドにもできない。法は法、これは王国の頂点である王ですら捻じ曲げられないのだ。いくらオークヒーローを討伐したオーク討伐隊の指揮官といえど、破ることなど決してできなかった。


「いいだろう。だが、二日の勾留期限が過ぎたら、必ずその女を明け渡してもらうぞ! いいな⁈」

「はい、はい。わかっているわよ」

「チッ!」


 ドワルドは不機嫌そうに舌打ちすると、ナターシャから視線を外す。そんなドワルドを見て、ナターシャは内心ホッと安堵の息を吐いていた。


「二日後にまた来る。お前たち行くぞ」


 ドワルドは二人の部下を引き連れて、来た時と同じようにドカドカと慌ただしく部屋を後にした。


「ふ~、まったく騒がしい人ねえ。悪い人じゃないんだけど」

「ナターシャさん、ありがとうございます」


 ドワルドに態度に、ヤレヤレとナターシャがため息を吐いていると、背に守られていたリーシアはその場でペコリと頭を下げ感謝の礼を述べていた。


「いいのよ。それにしても彼、少し様子がおかしかったわね?」

「そうなんですか?」

「ええ、たしかに保身に走るタイプではあったけど、自らを危険に晒してまで、地位や名誉を欲しがるガメツイタイプじゃなかったのよね。まあ、考えても仕方がないわね。それよりも、これからのことなんだけど……」


 ナターシャは神妙な面持ちで、リーシアとラングに顔を向ける。


「とりあえず、時間は稼げたわ。リーシアちゃんを勾留する二日間はドワルド指揮官も、手出しできないはず」

「ご迷惑をお掛けします」


 リーシアは申し訳なさそうに頭を下げていた。


「むしろリーシアちゃんは被害者なんだから、気にしないでいいのよ。ヒロの行方を知らないのは、私のスキルで本当だってわかっているし、あなたにはなんの罪はないわ。むしろ問題はヒロなのよね」

「え? も、問題ってなんですか?」


 ナターシャが口にした言葉に、リーシアは不安な表情を浮かべていた。その顔を見て、ナターシャはクスリと笑う。


「ドワルド指揮官のあの様子だと、自分が倒したオークヒーローの遺体を、ヒロが持って逃げたと報告しそうなのよね。下手したら王国に追われ、お尋ね者になる可能性も出てきたわ」


「お尋ね者⁈ 待ってください。オークヒーローを倒したのは、ヒロと私ですよね? ドワルドさんが倒したなんて、そんな嘘を報告して大丈夫なんですか? バレたらまずいんじゃ?」

「普通にマズイわね。でも、いまの彼ならやりかねない。軍人である以上、嘘の報告がバレれば重い処罰が待っている。とくに軍隊は規律を重んじているから、下手な虚偽報告は容赦なく罰せられるわ。それだけに、あのドワルド指揮官が命を懸けてまで、オークヒーローに固執するなんて信じられないのよね」

「たしかに……普通に考えて、王国に使える者は、大なり小なり罪を犯す者はいますが、それにしてもドワルド指揮官の様子は少しおかし過ぎでした。倒した魔物の所有権は倒した者にある。王国に住まう者なら当たり前の常識なのに……危険を承知でやっているとしたら、自殺願望があるとしか思えません」


 ナターシャの意見に、ラングも賛同し首かしげていた。


「ヒロが……どうにかできないものでしょうか? ヒロを追いかけてアルムを旅立ったあと、ふたり揃ってお尋ね者は、非常に困ります」


 自分も一緒にお尋ね者は困ると言いつつも、リーシアの瞳は憂に満ち、自分よりもヒロの身を案じていた。


「そうね……」


 ナターシャはリーシアの言葉に、腕を組みながら考える。


(リーシアちゃん、ヒロのことが本当に好きなのね。他人と距離をおいて生きてきた、一匹狼みたいな子が……変われば変わるものね。フフフ♪ こんな健気な姿を見せられたら私、頑張っちゃうわよ)

「大丈夫よ。私に任せてちょうだい」


 胸を『ドン!』と叩くナターシャは、ニッコリと微笑んでいた。


「とりあえず、今日から二日間、リーシアちゃんはこの詰所から出てはだめよ。おそらく外に、ドワルド指揮官の部下が目を光らせているはずだから。でも逆にここを出なければ、二日という時間が稼げる。その間に、私がなんとかしてあげるから安心してちょうだい」

「はい、わかりました。ナターシャさん、ありがとうございます」


 リーシアは、自分のことを思ってくれるナターシャに、感謝の礼を述べていた。


「お礼ならいいのよ。ヒロとリーシアちゃんは、この町を救ってくれた……だから、今度は私たちが二人を助ける番なだけよ。気にしないで。よし、まず教会に行ってくるわね。リーシアちゃんのことを、みんな心配しているでしょうから、事情を説明してくるわ」

「はい。みんなに私は大丈夫だと伝えてください」

「わかったわ。じゃあラング、リーシアちゃんをお願いね。何かあったら真っ先に連絡して」

「ハッ! 承知しました。勾留期限の間、何人たりとも留置所には近づけません!」


 直立不動で敬礼するラングの顔は勇ましかった。だが……それに反してリーシアの顔は渋かった!


「え~と、ラングさん……私って二日間、留置所で寝泊まりするんですか? あそこは暗くてジメジメしているので、できればこの部屋で……」


 ヒロがラングに捕まった時に訪れた地下の留置所……犯罪者や容疑者が逃亡しないよう、頑丈な鉄格子で囲われた部屋を、リーシアは思い出していた。

「ダメだ。ドワルド指揮官が強硬手段に訴え、詰所を襲撃する可能性もある。地下の留置所なら最悪の場合、ナターシャさんや増援が来るまで立て篭もれる。留置所とは犯罪者を逃さない監獄プリズンでもあり、外からの襲撃に備える要塞でもあるのだ」

「……わ、わかりました。はあ~、これで人生二度目の牢獄です。ほんと、ヒロに出会ってから、散々な目に遭ってばかりなような気がします」


 リーシアはため息混じりにぼやいていた。


「フフフ、たしかにヒロと行動を共にして、リーシアちゃんにとっては災難続きかもしれないけど、私から見たら随分と楽しそうだけどね。さて時間もないことだし、私は行くわ」

「はい。よろしくお願いします」


 リーシアは、入り口に向かって歩くナターシャの姿が見えなくなるまで、手を振り見送っていた。そのとき前を向いていた見送る少女は気づいていなかった。隣に並び立つラングの口元が吊り上がり、怪しい笑みを浮かべる衛士に……。


〈狡猾な悪意は、人知れず聖女の喉元にナイフを突き立てようとしていた!〉
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