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第15章 勇者と異世界電脳編

第171話 異世界OSとプログラマー!

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 クラッキング……他人のコンピューターに侵入し、中のデータを不正に入手、改ざん、または破壊するなど、悪意ある意志の元に行われる犯罪である。

 ハッキング……コンピュータープログラムを解析し作り変える行為を指す。この言葉に悪い意味はなく、本来は技術者がシステムやソフトウエアをより良いものへと作り変える『賢き工夫』と言う意味合いがある。
 
 クラッキングをハッキングと混同する人は多いが、この二つは明確に意味合いが違う。昨今ではホワイトハッカー、ブラックハッカーの言葉で区別される傾向になりつつある。

 どちらの行為も高い技術力を必要とし、生半可な知識ではコンピューターのハックなど夢の話である
 高いレベルの知識とスキル、その両方を有する者だけが、ハッカーを名乗ることが許されるのだ。
 
 ハッカー……それは創造と破壊、異なる二つの意味を有するプロフェッショナルを指す言葉である。

 現代コンピューター辞典 ハッキング欄抜粋



…………



「リーシア待っていろ。悪魔に魂を売ってでも、僕は絶対に君を助けて見せる!」

 決意を固めたヒロは迷いない目でそう言い放った。

「よし、手始めにメインシステムとの切断を止めないとな。切り離されたら記述の書き換えもクソもない。ちょっと待て」

 エルビスが目を閉じ意識を集中すると、ヒロの目の前にモニター画面が浮かび上がり、手元にはキーボードが現れた。
 そしてすぐに真っ暗だったモニターが明るくなると、画面に読めない文字とロゴマークみたいなものが表示されていた。

『繝代う繝ウ繝峨え繧コ』

 画面に表示されるロゴを見て、ヒロがおかしな事に気づく。

「ん? なんだこれ? まさかこれは異世界のOSなのか? 僕の世界にあったVINDOWSとパイナップルの二つを足して2で割ったようなロゴだな……エルビスこのモニターに映っているのは何だ?」

「神が作った世界とつながるものと聞いた事はあるが、詳しくは知らない……神代文字で書かれているのは分かるが、簡単な使い方しか俺も知らない。これがなんなのか分かるのか?」

「僕がいた世界にあるものと似てる。文字が読めないので、なんとも言えないけど、アイコンや配置はそっくりだ」

 ヒロはモニターに表示された画面を見るや否や、元いた世界にあったものと、どことなく似た異世界のOSに興味が湧きキーボードを叩き始める。

「やっぱり文字は読めない。これが神代文字なのか? けど表示されるアイコンの配置やマークは僕の知っているOSに似てる。そうするとOSの中身もまさか……」

  凄まじいスピードでキーボードを叩くヒロ…… 高速に次々と表示される画面に目を走らせ、異世界OSの解析を始めてしまう。
 元の世界にあったOSの表示と同じ場所にあった神代文字を、脳内で変換して日本語に置き換えいく。
 画面を選択し表示されるメッセージは、元プログラマーの経験則から予想変換し言葉の意味を割り当てる。

『險ュ螳』

「エルビス! この文字はなんて読みます?」

 ヒロは確認のため画面に指差した文字をエルビスに尋ねる。

「それは『設定』だな」

「やはり……すると、この『險?隱』は『言語』と読むのでは?」

「ああ、たしかにそれは『言語』って意味だが、ヒロ神代文字が読めるのか?」

「いや、読めない。ただ僕の世界に非常に良く似たものなので、予想した」

「へえ~、異世界にもシステムが存在するのか?」

「正確にはオペレーションシステムと言うけどな」

 ヒロは素早く言語設定の項目を変えようとするが……。

「チッ! 神代文字以外に言語が入っていない。ガイヤ標準語に言語変換できればと思ったが甘かった。エルビス、僕が指差した部分の神代文字を訳してくれ」

 ヒロは恐るべきスピードで神代文字をマスターし始めていた。それは彼のもつ【言語習得】スキルの力だけではなく、極限まで高められた集中力と27年間生きてきた中で培った経験が、未知の言語すら短時間の学習で習得しようとしていた。

「それは構わないが、まずは先にメインシステムからの切断を止めるのが先だろ」

【エラー! 接続経路の遮断に失敗しました】

「それはもう終わっている」

「はあ? 俺はまだ何も指示してないぞ? どうやって?」

「これでもプログラマーだ。自分の知るOSと似ているなら大体おなじ事ができると踏んだ。ようはシステムがメインシステムに切断を命令したのなら、もう一度回線を接続して、再びシステムから切断命令が出せないように通り道ポートを閉じて施錠ロックした」

「そんなことしたら俺たちもメインシステムにアクセスができなくなるんじゃ?」

「別の通り道ポートを開けて、そこからメインシステムに僕たちだけがアクセスできるようにしている。システムがいくら命令を要請しても、もうメインシステムにアクセスはできない」

「ヒ、ヒロ……おまえ一体何者だ?」

「何者でもない。ただの異世界から来たプログラマー兼ゲーマーなだけだ! さあ早く訳してくれ、メインシステムにアクセスしてリーシアの記述を書き換えるのは時間との勝負のはずだ。おまえの指示を聞きながら作業していたら、時間が掛かりそうだからな。できれば指示なしで動けるようになりたい。作業中に邪魔者が現れないともいえないしな」

「おまえ、ガーディアンの存在を、なぜ知っている?」

「言われなくても大体分かる。言っただろう? 僕の世界にも同じようなものがあるって……メインシステムなんて言うくらいなら、セキュリティが存在しない訳がないからな」

「アイツらは外部からの侵入者に対して容赦しないから、見つかれば即消去デリートされちまう」

「だから今、いくつかの対抗プログラムを組んでアプリを作成するから、少し時間をくれ」

「アプリ?」

「説明は後だ。時間が惜しい。まずは神代文字を学ばないと……エルビス、この文字の意味は?」

「ああ……それは……」

 エルビスが、矢継ぎ早に指差す文字を読み上げ意味を教えていく。ヒロは一秒でも時間を無駄にするものかと、極限まで意識を集中していた。

 集中しろ!
 一字一句漏らさず、頭の中に神代文字を叩き込め。

 集中しろ!
 画面に出てくる未知の言語を予想し、脳内で変換するんだ。

 集中しろ!
 表示されるシステムメッセージの文脈を読み取り、文を読み解け。

 集中しろ!
 これはコンピューター言語を覚えるようなものだ! C言語、C++、C#、Unity、JavaScript、Ruby、Swift 、今まで学んできた言語を覚えるより、ずっと難易度は低い。

 集中しろ!
 神代文字も日本語やガイヤ標準語とそう大差ない。このモニターの中に走るOSは僕の知っているものに似て非なるもの……今まで経験した異世界ガイヤと元の世界の類似点を考えれば、この未知の異世界OSとメインシステムも根本的なとこは、すべて同じだ。
 
 集中しろ!
 なら、メインシステムにログインして、中の情報を漁り、見つけたデータを改ざんする……クラックのやり方もそう大差ないはずだ。思い出せ。かつて自分の開発したオンラインゲームに侵入してチート行為をやらかそうとした奴らの手口を。

 集中しろ!
 思い出せ。不正侵入しようとするクラッカー達から、どうやってゲームサーバーを守っていたのかを! メインシステムに侵入するのに正攻法じゃリスクが高い。逆の立場からクラッカーにやられると困った事はなんだ? 思い出せ!

 そして数十の単語と意味を教えてもらったヒロは、たったそれだけで答えにたどり着いてしまった。

【神代言語を習得しました】
【言語習得がレベルアップしました。 LV 2 → LV 3】

「よし、神代言語と文字をマスターできた,これでやっとプログラムを組める」

 ヒロはそうつぶやくと、キーボードを打ち込む手の動きがさらに加速する。レベルアップによるステータスアップ効果が発揮され、ヒロの手は残像を残すほどの凄まじい動きで次々とキーボードを叩き、モニター画面に目まぐるしいスピードで文字が表示されていく。

「やっぱり.この異世界OS……僕の世界のOSとほとんど一緒だ。自作OS? それにこのフォルダーのツール……アプリ作成用のツールか? 仕様は分からないがいつも使っていたツールにかなり似てる。するとプログラム言語もそのまま……使える! ならやれるはずだ」

 ヒロは画面に映っていたアイコンを選択し次々とソフトを立ち上げていく。

「まずは神代文字とガイヤ標準語のコンパイルソフト作成……次にデコイ用AIプログラムの構築……検索系クラックソフトの作成、これはシステムの検索機能を拝借。メインシステム内で作業中の姿を隠すルートキットもいるな」

 ナイアガラの大瀑布のような勢いで、下から上へと打ち込まれた文字が高速にスクロールすると、一瞬で画面から消え失せ、新たなる文字がガンガン表示されていく。

「お、おいヒロ、おまえ一体、何をやっているんだ⁈」

「ちょっと待て! 改ざん後のダミープログラムと、セキュリティ足止め用ウィルスの作成……逃走の際、アクセスログの改ざんによる痕跡の消去とバックドアの構築プログラム……こんなもんか? よし、エルビス準備ができたぞ」

『ふ~』と、体に溜まった熱い熱気を吐き出し、額に掻いていた汗をヒロは拭う。

「ヒロ、おまえ……それが操作できるのか?」

「ああ、神代文字さえ分かれば、僕が元いた世界のものと大差ない。多少の違いはあるが修正の範囲内だった」

「……」

「どうしたんだ? 急に黙って?」

 とんでもないようなものを見た顔をするエルビスが口を閉じ考え込んでいた。

 
 かつて神がガイヤを創造する際に用いられた創世の箱……その中に収められていたものがシステムへと置き換わったと伝えられている。
 そして創世の箱を使い、システムの全てを掌握、理解運用できるものは、この世界でただ一人しかいないはずだった。

 世界を管理する神族はおろか、神の代行者である三女神でさえ、元からあるシステムに入っていたいくつかの道具ツールを使うくらいしかできない。
  
 それを目の前の男は当たり前のように操作して見せた……言葉の意味は分からないが、ただ一人を除いて不可能とされる道具《ツール》を作り出した節がある。
 システムを理解し、さらに新たなる道具《ツール》を想像できる存在、それは……。


「そんなバカな話……だが、もし本当にそうだとしたら、ヒロについて行けば、少なくとも退屈はしなそうだな。ケッケッケッ」

 エルビスはヒロに聞こえないよう、小声でつぶやき愉快に笑っていた。

「なにか言ったか?」
 
「いや、なんでも……さあ、急いでメインシステムへアクセスするぞ! 俺がリーシアって女のデータ近くまでお前ををしてやる」

「ん? ……? おまえメインシステムに入った事があるのか?」

「遥か昔の話だ。俺たちはメインシステム内で生まれ、その後すぐメインシステムから放り出されたのさ……その時の記憶があるだけだ。データが保管されている大まかな場所までなら案内できる。そこからは地道に探すしかないぞ?」

「大丈夫だ。検索範囲が狭まるなら、ツールで探す時間の短縮ができる。エルビス案内してくれ!」

「よし、まずはメインシステムに侵入する前にシステムを掌握する。退路を絶たれたら元も子もない! 行くぞ! コマンド実行「シフト」!」

 エルビスの言葉と供に、ヒロの意識が一瞬遠のいた。
立ちくらみに似たブラックアウトを感じたヒロは、天地が逆さまになる感覚に襲われながらも、意識を保っていた。そして元の平衡感覚を取り戻し目を開けた時、ヒロの目の前に、電脳世界の摩天楼が立ち並んでいた!

【警告、システムへの不正侵入を確認。システム保護のため、強制停止信号により対象者の生命活動を停止します】

〈異世界で……電脳戦が始まろうとしていた!〉
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