勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

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第14章 勇者と魔王降臨編

第165話 勝者と敗者は紙一重!

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「さあ、第一ラウンドの接近戦は俺の勝ち! 第ニラウンドの遠距離戦も俺の勝ち! オイオイ、いくらなんでもストレート勝ちはないだろう? お前にチャンスをやる、三本先取制にしてやるからもう少しガンバレよ。さあ、俺を楽しませろ!」

「おのれ! おのれ! おのれ! おのれぇぇぇっ!」

 黄金の流星雨によって体をズタボロにされ爆発で体の表面を焼かれた憤怒が怨嗟の声を上げながらゆっくりと立ち上がる。

「待ってやるから、早く傷を回復しろ! そのままじゃ一瞬で勝負がついてしまうからな」

「人の分際で我を命令だと? ふざけるな!」

 ゲームを楽しむため、あえて憤怒の回復を待つ魔王に、憤怒の心が怒りに燃え上がると、傷つき焼かれた体の触手が大地にボロボロと落ち、新たに生える触手が憤怒の体を回復してしまう。

『ヒ、ヒロ! 憤怒を煽りすぎですよ! 本当に大丈夫なんですか⁈』

 魔王の頭の中にリーシア声が届くと、彼はミスリルロングソードに勇気を溜めながらパーティーチャットで問いに答える。

「ああ、あの程度じゃ、歯応えがなさすぎる! もう少し難易度が高くないとつまらないからな」

『憤怒相手につまらないって……正気の沙汰じゃありませんよ?』

人生ゲームは困難なほど得られる喜び大きくなるものなんだよ。そのためにあえてハンデを課し自分ルールで縛りプレイをするゲーマーがいるくらいだ」

『縛りプレイ? また変態ヒーロー行為ですか? 人の趣味嗜好にとやかく言うつもりはありませんが。ほどほどにしないと……いつか捕まりますよ?」

「いや、違うから! 俺の言う縛りは物理的な話じゃなく精神的な話だからな! 決して物理的に縛られて快感を感じるマゾな方じゃないから! それより体力は回復できたのか?」

 ペタンと地面に座り込むリーシアが四肢に力を入れて体の状態を確認する。

『はい。まだ走れなそうですが、歩けるくらいにまでは……』
 
「そうか……しかたない名残惜しいが、最後の締めに取り掛かるとしよう」

 魔王の持つミスリルロングソードの剣身に黄金の輝きが宿ると、ヒロは剣を両手で持ち青眼に構える。

 魔王の前には、傷を癒やし完全に復活した憤怒が怒りの形相でヒロを睨み、黒いオーラを全身にみなぎらせていた。
 六本に増えた腕には、触手で出来た新たなるハルバードが握られ、その数を三本に増やしていた。

「今度は接近戦の手数を増やしたか? いいぞ! 面白くなってきた! さあ来いよ! 遊んでやる!」

「ほざけ! 人よ滅び去れ!」

 憤怒が四つ脚に力を込め、魔王に向かって猛烈な勢いで走り始める! 手に持つ三本のハルバードを構えた憤怒が六本の腕を巧みに動かし、三つの斬撃を時間差で放つ!

「死ぬがいい!」

 右水平へのなぎ払い、左斜め下からすくい上げ、上からの叩き下ろし……ギリギリのタイミングで放たれた斬撃に、前後はおろか上下左右の逃げ場すらない魔王……だがその攻撃を前に彼は口もっと吊り上げて笑っていた!

「いいぞ! そう言うのを待っていた!」

 迫り来る凶撃に嬉々として飛び込む魔王! 

 水平になぎ払われた攻撃を剣で受けようとする様を見た憤怒が、ハルバードを振る腕に力を込め、さらに斬撃の攻撃スピードを早める。
 攻撃のタイミングをズラしつつ、相手のリズムを崩す
高度な技……だがそんな技も魔王には通じない。

 ハルバードと剣がぶつかろうとした瞬間、剣がハルバードの下をヒョイッとくぐり抜け宙にVの字を描く! 
 同時に魔王が自らの上体を下げ、ハルバードの下を潜り抜けると……魔王の剣がそのまま通り過ぎたハルバードを後ろから追いかけぶつかる! 魔王が水平に打ち出された斬撃の軌道を無理やりに変える。
 
 水平に打ち出された斬撃が斜め下方向へとその軌道を変えると……そこには斜め下からすくいあげる形で打ち出されたハルバードがあった!

 火花を散らし、ぶつかり合う二つのハルバード!
 だが憤怒は攻撃を避けられた事など気にも掛けず、本命の攻撃に力を込める。

「滅びよ、パワースラム!」

「お前がな! ブレイブストラッシュ!」

 二人の異形なる者が互いに吼えた!

 叩きつけるように打ち下ろされるハルバードに、魔王は真っ向から勝負をかけた。

 上下攻撃の違い……戦いにおいて、上からの攻撃は圧倒的アドバンテージを持っている。武器の重量による加速、力の入れ方、相手の動きを見て変幻自在に変えられる攻撃の軌道……完全に攻撃に特化した上からの攻撃を下から破るのは厳しい。
 
 普通ならば攻撃を避けて空振った隙を攻めるのが常套手段セオリーなのだが……魔王はあえて真っ向から挑む! それは真の廃人ゲーマーが持つ矜持プライドがなせる狂気だった。

 憤怒の凶々しい黒きオーラをまとわせた一撃に、魔王の勇気を溜めたチャージした黄金の輝きが迎え撃つ!

 二つの刃がぶつかろうとした時だった!

「Bダッシュ!」

 魔王が左足で跳び上がり、すぐさま右足で二段ジャンプすると同時にBダッシュを発動させる!

 進行方向に働く力のベクトルをバグらせ、上方へとさらなる加速を持って跳び上がるバグ技が、魔王を空へと押し上げる!
 
 上からの攻撃にも負けない、下からの切り上げの一撃が放たれた!

 そして次の瞬間! 黄金と黒い輝きがぶつかり合い、光が弾けた!

 上空へとその身を踊らせた魔王の刃が、憤怒の攻撃を跳ね除け、その体を切り裂いていた!

「なんだと!」

 必殺の一撃を真っ向から破られ驚愕の表情を浮かべる憤怒……だが魔王の攻撃は終わっていなかった!

「パワースラッシュ!」

 本来なら技の硬直のため、不可能とされるスキルの連続使用……空中で体を回転させ体勢を変えた魔王が、剣を構え落ちていく!

 闘気をまとったミスリルロングソードの剣身が白い光を放ち、さながら白い流星が地表に落ちるかのごとく、白い軌跡を残して大地に落ちる!

 憤怒の呼吸を読み取り、絶対防御スキルが働かない絶妙なタイミングで馬の胴体部分に魔王の剣が放たれる!

 闘気をまとった剣は、何の抵抗もなく憤怒の体を真っ二つに切り裂いた! 馬の胴体部分から後ろが、大きな音を立てて地面に横たわる。

 ヒロは着地と同時に後ろに飛び退きながらも、剣を構え再び勇気を溜める。

「ばかな! なぜだ! なぜ攻撃が当たらん!」

「言っただろう? 戦い方に工夫がないと? 戦いは力をだけじゃないんだよ! Bダッシュ!」

「グハッ! な、何だと⁉︎」

 震脚を踏むと同時にBダッシュを合わせた魔王の姿がかき消えると同時に、憤怒の腹に激痛が走る!
 
 見下ろす憤怒の赤い瞳に、魔王が拳を振り抜き腹パンを繰り出している姿が映っていた。

「呼吸のタイミングさえ把握してしまえば、もはや絶対防御スキルは意味をなさないな。カイザーなら呼吸のタイミングさえ、戦いの中で無意識に変えていたのに……継承されるのはスキルだけか? 肝心の戦闘技術や経験は受け継がれてないようだな」

「黙れ!」

 憤怒が三本のハルバードと三つの拳を別々の角度から懐に入り込んだ魔王に振るうが、すでにそこに彼の姿はなかった!
 
「な! ど、どこへ行った⁈」

「こっちだ!」

 背後から聞こえる魔王の声に憤怒が振り向くと、そこには距離を取り剣を構える男の姿があった。

「あの歩法は私の! しかも、私より滑らかですよ⁈」

 リーシアは声を上げて驚嘆する。地を滑るようにして歩く覇神六王流独特の歩法……魔王が大地を滑るように憤怒の股下を一瞬でくぐり抜けていた。

 股下をくぐり抜け、背後に抜けられたことに憤怒は知覚すら出来ず、目の前に立つ男に驚愕の表情を浮かべていた。

「お、お前は一体なんなのだ!」

「おれか? おれはただの勇者廃人さ! 数多あまた世界ゲームの危機を救ったクリアーした勇者廃人だ!」

勇者廃人だと⁈  意味のわからんことを!」

「分からなくて結構だ。おまえの底は見えた。もう遊び尽くしたか?……なら、そろそろ倒させてもらうぞ」

 魔王の持つ剣に再び黄金の輝きが宿る……それは今までとは比較にならぬ程のまばゆい輝きだった。

 最後に残る全ての勇気ブレイブを一点へと集めた魔王は、剣を右手で逆手に持ち、背の後ろに引いて構える。そして魔王の闘気が剣に注ぎ込まれていく。

 魔王が持ち得る全てを一点に集中した時、ミスリルロングソードは全ての闇を打ち払う、太陽の如き輝きを放っていた。

「ばかな……こ、これほどの力を、ただの人が出せるはずが! おのれぇぇぇっ!」

 右腕に宿る紋章から、凶々しい憎しみのオーラが噴き出し憤怒の体を覆ってゆく。そのオーラの色は漆黒……全てを暗い闇に塗りつぶす闇のオーラが、六腕の持つ三本のハルバードに余すことなく注がれる。全てのハルバードを後ろに引き憤怒は構える。

 魔王の放つ太陽の光と憤怒の放つ漆黒の闇……相反する二つの力はあいまみえ、互いの存在を消し去ろうと二人の間で闘気がぶつかり合う!

「これは気勢ですか⁈ ヒロと憤怒の力が拮抗して……闘気をまとっていても動けない!」

 魔王と憤怒が最後の一撃を確実に当てるため、互いに闘気を放ち空間を支配して相手の動きを封じようとしのぎを削っていた。

 リーシアですら動きを封じられる凄まじい闘気の重圧プレッシャーが、空間を満たす!

 その場で動ける者は、もはや二人以外に誰もおらず、戦場に不気味な静寂が訪れていた……ただ、草原に吹く風に揺れる草の音だけが聞こえていた。そして……。

「滅びよ! 人は滅び去れ!」

 憤怒が先に動いた! 先手必勝とばかりに四つ脚に力を込め草原に深い足跡を残して魔王に突進した!

「Bダッシュ!」

 自分の動きに合わせて魔王も動いたとき、憤怒はあろうことか手に持つ三本のハルバードの内、二本をヒロに向かって投げつけた!

 ブーメランのように、丸い円を描く回転を伴った二本のハルバードが、時間差で魔王を襲う!

 魔王はほんの一瞬、頭の中のスイッチをオンに入れ、意識をスローモーションの世界へと誘う。

 スイッチの使用限界を迎えていた魔王の頭に、ハンマーで殴られたような激しい痛みが走り、体が無理やりスイッチをオフにしようとするが、魔王が意思の力を持ってねじ伏せる!
 
 長大化した時間感覚の中で、痛みに耐えながらも魔王が憤怒の攻撃を読む。

 ゆっくりとしたスローモーションの世界で、魔王は先に下から襲い来る攻撃に、タイミング合わせた震脚を用いてハルバードを地面に縫い付けた!

 同時に震脚で発生した力の波を体の捻りで増幅し、剣を持たない左手で上から襲い掛かるハルバードに、拳を振り上げる!
 すると下から加えられた攻撃に、軌道が乱されハルバードは在らぬ方向へと弾き飛ばされた。
 
 攻撃を避けるため、Bダッシュによる突進の勢いをなくした魔王に、六腕でハルバードを持つ憤怒が近づき、渾身の力を込めて振りかぶる。

「滅びよ!」

 全てを込めた漆黒の黒き一撃が魔王を襲う!

 絶対に避けられないタイミングと、防御不可能な攻撃……当たれば魔王とて死は間逃れない。
 だが、絶体絶命の状況にあって、彼の目は絶望していなかった。

「気殺刃!」

 魔王の言葉と共に、憤怒の背後からこの世のものとは思えないほどの殺気が溢れ出し、襲い掛かって来た!

 憤怒は突如現れた殺気に恐怖を感じ、魔王に打ち出そうとしていた一撃を、とっさに背後から襲い来る気配に向かって解き放った!

「なんだと⁈」

 憤怒の目に、殺気だけが満ち溢れた何もない空間が映り……必殺の一撃が空を切った。

 気殺刃……それは倒す技にあらず、戦いにおいて相手に一瞬の隙を作るただ一度のフェイント技。一流の戦士であればあるほど、抗うことは不可避であり、タネが割れれば二度目は通用しない騙しの技フェイクスキル
 
 騙されたことに気がついた憤怒が、急ぎ振り抜いたハルバードを構え直しながら後ろを振り返ると……すでに魔王が体勢を整え、技を打ち出すモーションに入っていた!

「憤怒よ……おまえはここでゲームオーバーだ!」 

「おのれぇぇぇっ!」

「フルブレイブ!」

 魔王の持つ剣からまばゆい光が溢れ出し、憤怒の体にその刃が打ち込まれた!

 とっさにハルバードと六腕を盾にして防御に回すが、魔王の一撃はハルバードごと全ての腕を両断しその刃が憤怒の体を捉える……そして魔王の剣が憤怒の体を斬り裂くと同時に、激しい光が草原にある全てのものを照らし出す!

 草原に全ての闇を打ち払う、太陽の輝きが満ち溢れた。

 地上に突如現れた太陽の如きまぶしい光に、リーシアは目を開けていられず、とっさに目を腕で覆い隠しやり過ごす。

 そして目ぶたを閉じても、なおまぶしい光が収まったのを確認し少女が目を開けると……そこには剣を杖代わりに、片膝をついた魔王と、体に大きな傷を負い横たわる憤怒の姿があった!

「ヒロ、良かった……」

 勝った喜びよりも、ヒロが生きていることに安堵するリーシア……真っ二つにされた憤怒はピクリとも動かず完全にその動きを止めていた。

 ヒロは完全に力を使い果たし、剣に寄り掛かるように体を預け、つらそうに肩で息をしていた。
 ヒロに急いで回復ポーションを渡そうと、少女はかろうじて動く体にムチを入れ無理やりに体を立たせる。そしてヒロの元へ歩き出したとき、彼女の目に信じられない光景が飛び込んできた。

『ヒロ! 逃げて!』

 リーシアの必死な声が頭の中に響くと、魔王は地面に差した剣を引き抜き、後ろを振り向きながら剣を振るう!

 白い光を発するミスリルロングソードが何かを斬る手応えを感じながら魔王は見た。自分に向かって殺到する無数の触手の姿を……。

「グッ! まさか攻撃が浅くて仕留め切れなかったのか⁈」

 体に触手がまとわりつき、魔王の動きを封じていく……殺到した触手は凄まじい力で体中を絞め上げる。

 倒したはずの憤怒の姿が、音もなく崩れ無数の触手となってヒロに襲い掛かる姿をリーシアは見ていた。

「まずい……力が……」

 触手の拘束は関節とは逆の方向に力を加えられ、少しでも力を抜けば関節ごと肉体を破壊されようとしていた。

 体中に力を入れ肉体を破壊されまいと抗うが、力を使い果たした魔王には触手を振り払う力は残されておらず、ミスリルロングソードが手からこぼれ落ちる。

「ヒロ! いま助けま⁈ なっ!」

 リーシアがヒロを助けようと震脚を踏む寸前……背後から何かが飛びついてきた。

「な、なんで、どこから……」

 触手がリーシアの背後から襲い掛かり、少女の体を絞め上げてその自由を奪い取る……それは最初に魔王が斬り落とした憤怒の左腕だった。地面に捨て置かれた左腕がいつの間にかリーシアに忍び寄り、拘束の機会をうかがっていた。

「フッハッハッハッハッハッ!」
 
 草原に笑い声が響き渡った。必死に抵抗する二人は、その声の出所に視線を向ける……それはヒロが斬り裂かれ、地面に打ち捨てられていた馬の胴体と後ろ足から聞こえてきた。

 すると横たわっていた馬の胴体がグニャリと曲がり、人の姿を形作ると、それは下卑げびた笑い声を上げながら立ち上がった。

「アッハッハッハッハッハッ! 愚かな人よ、勝ったと思った瞬間に足をすくわれる気分はどうだ? ハッハッハッハッハッハッ!」

「まさか、最初からそっちに本体を隠していたのか⁈」

「散々お前たちにしてやられたからな、最後に我が騙してやった! 最高に気分がいいぞ! どうだ? 歯応えはあったか? 楽しめたか? 遊び尽くせたか? 愚かな人よ! ゴミがいくら知恵を働かせようが我には勝てんのだよ! さあ、お前たちに最上の苦しみを与えた上で殺してやろう! 人よ滅びよ! 一人残らず滅び去れ!」

 一瞬にして切り替わる勝者と敗者……怒りの憤怒の前に希望はついえようとしていた。

〈勇者と聖女は囚われ、戦場に絶望の風が吹き荒んだ!〉
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