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第14章 勇者と魔王降臨編
第164話 魔王 vs 憤怒
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「俺を退屈させるな! 俺を満足させろ! 俺をもっと楽しませろ! 憤怒よ! 俺に本気を出させろ!」
自らの左手に剣を突き刺した魔王の手から、血がドボドボと流れ落ちる。
「舐めるなよ、人如きが! 我は憤怒、怒りを司る者。脆弱な人が我にハンデだと? ならば本気で戦ってやろう。塵も残さず滅ぶがいい!」
憤怒のさらなる怒りに、触手からなる筋肉が膨張していく。凶々しい黒いオーラが憤怒の全身を包み込み、体が二回り以上大きくなる。
魔王によって切り飛ばされた左腕からは、新たなる触手が生まれ再び左腕を形成していく……以前よりもより強靭で強固な肉体へと体を作り替えた憤怒が魔王の前に現れた。
(さあ、ここまでは作戦通りだ。ハンデを課して憤怒を煽り、奴の怒りを僕に向かせる。少なくともリーシアが動けるようになるまでは、僕に注意を向けさせておかなければ……)
魔王がミスリルロングソードへ勇気を溜め始めると、剣身が黄金の輝きを放つ。同時に闘気を体にまとわせることで、蒼龍の鎧が反応し防具の表面から蒼い陽炎が立ち登る。
「いいぞ、さあ全力で来い! 力を隠したまま死ぬなんてつまらない戦いにしてくれるなよ? 俺は最高難易度で楽しみたいんだからな! さあ! お前を遊び尽くさせろ!」
「ほざくな! 人風情が! 滅びるがいい!」
その言葉に憤怒が怒りを爆発させてハルバードを振りかぶると、魔王に向かって大きく跳躍する。
「パワースレイブ!」
黒いオーラをまとった必殺の一撃が魔王に向かって放たれた!
「やはり憤怒の技を使えるか……だが、無駄なんだよ!」
魔王は憤怒が跳躍した瞬間、すでに魔王は動き出していた。震脚を踏み爆発的な力を推進力に変えた魔王が、蒼炎のイルミネーションを残しながら憤怒へと剣を振るう!
「ブレイブストラッシュ!」
魔王の剣技と勇気の力が、憤怒の攻撃に真っ向から立ち向かう!
「避けずに向かってくるか、ならばそのまま死ね!」
莫大な威力を秘めた自分の攻撃を避けてやり過ごすだろうと考えた憤怒……攻撃に転じた魔王を叩きつぶそうと手に持つハルバードに渾身の力を込めた!
空中で激突するミスリルロングソードとハルバード! ぶつかり合う黄金と黒のオーラが、互いの存在を否定しあう!
互いの武器が振り抜かれると、何かがさらに上空へと宙を舞い、空中で交差した二人は再び大地へ足を着ける。
着地と同時に剣を構えながら再びカイザーに振り向く魔王……同じく着地しながらも背を向けたまま手に持つハルバードを凝視する憤怒を見る。そして魔王が心底残念そうな顔をすると、二人の間に切り裂かれたハルバードの斧刃部分が突き刺さった。
「ば、ばかな! 触手の槍は我が体の一部……我が権能、絶対防御スキルはあらゆる攻撃を弾くはず! なのになぜだ!」
「カイザーの力は真似られても、戦闘技術と戦いの記憶は継承されないのか?……拍子抜けだ」
憤怒が切り裂かれた触手ハルバードを見ながら、驚愕の表情を浮かべていた。
息を止めている間だけ、あらゆる攻撃を体の表面で弾く絶対防御スキル……それをヒロの黄金の輝きが糸も容易く突破してしまった。
「おのれ、人如きが!」
憤怒が怒りの表情を浮かべながら振り向くと、新たなる触手でハルバードを再び形作り、魔王へと襲い掛かる!
接近戦に持ち込まれた魔王……だが彼は右手に持った剣一本で攻撃を捌き、次々と繰り出される憤怒の攻撃を魔王は難なく避け、剣で弾き防いでしまう。
いかなる斬撃も魔王には擦りもしない……サイプロプスとの文字通り、命懸けの果てに手に入れた力が憤怒を凌駕する。
「なぜだ、なぜ当たらぬ」
「わからないのか? なら、教えてやる。お前には戦いに必要な経験が圧倒的に足りていない。いくら攻撃に力と速さがあったとしても当てる技術がなければ意味がないのさ!」
憤怒の攻撃を淡々と捌くヒロ……攻撃を当てられない憤怒から焦りの色が見え始めると、やがで攻撃は大振りになりワンパターンになっていく。
「おまえ、ほとんど格下としか戦ったことがないな?」
「我は憤怒、人を滅ぼすもの、我より強い人など存在せん!」
「戦いに工夫がなさ過ぎて、面白くないぞ」
ハルバードを横に一閃し、状態を屈めて避けた魔王に向かって流れるような流麗な蹴りを放つ憤怒……ハルバードを持った両手を地面に置き、超低空の後ろ回し蹴りが魔王の足を刈り取りにいく。
「見え見えなんだよ」
だが、それを予測していた魔王はあろうことか、迫りくる憤怒の蹴りに震脚を繰り出していた。
「グオォォォッ!」
黄金の輝きをまとった左足が、憤怒の足を大地に縫いとめた! 震脚によって発生した力が体を駆け上がり体の捻りで増幅され右腕へと伝わると、魔王の拳が憤怒の顔へと叩き込まれる。
痛みに耐えながらも憤怒は縫いとめられた足の触手を解き放ち捨て去る。弱点である呼吸……痛みで声を上げた憤怒に、絶対防御スキルが発動できない。
どれだけの威力があるか分からない魔王の拳に憤怒は恐怖を覚え、片足を犠牲にしてでも、魔王の攻撃から逃げようとしていた。
縫い止められた足の膝から下を捨て、大地に置いた両手に力を入れた憤怒は、自らの体を後方へと無理やりに転がす。
ゴロゴロと転がり逃げる憤怒、その姿を見た魔王は嘲笑いながら言い放つ。
「無様だな。これがお前の力か? つまらない、弱過ぎる! 絶対防御スキルなんて、もう攻略済みなんだよ。そんなものを今さら出されて、俺が満足できると思っているのか? ふざけるな。さあ本気を出せ! もっと歯応えのある攻撃をしてこいよ。俺をもっと楽しませろ!」
魔王との距離を取り動きを止めた憤怒が、這いつくばりながら憎しみに歪んだ表情で顔上げた……その瞳に怒りの炎を灯す憤怒は、忌々しい者を見る目で魔王に怒りをぶつける。
「おのれ、おのれ、おのれぇぇぇ! 人如きが我を見下すだと? あってはならん! 我は憤怒、怒りを司る者、我が母の悲しみを思い知れ! 滅びよ、滅びよ、人よ滅び去れ!」
右腕に宿る憤怒の紋章から凶々しい黒きオーラが全身を包むと、失った片足の断面から触手が生え出し、新たなる足を形成する……だが体の変化はそれだけでは収まらず、体のフォルムが人型から異形なる姿へと変化していく。
背中から翼を生やし、両肩とその脇の下から触手の腕が生えだすと六本の腕ができ上がる。腰から伸ばした触手が馬の胴体を形作り後ろ足を形成する。
四つ脚に六腕と翼を生やした憤怒……ケンタウロスのシルエットに酷似した憤怒の姿がそこにあった。
「へえ、イイぞ! 力と速度に加えて手数を増やしたか、少しは歯応えが出るか?」
「ほざけ! 人如きが我に敵うと思うな。さあ滅びるがいい!」
前脚を上げ立ち上がる憤怒が、背中の翼を広げると、羽にあたる触手が一斉に魔王に向かって撃ち出される!
「Bダッシュ!」
触手の射程範囲を瞬時に見切った魔王が、横へダッシュで避ける。
「チョコマカと逃げおって! だが、いつまで避け続けられるかな!」
「なるほど……遠距離攻撃に乏しい俺相手に、手数と距離で勝負しようって訳か?」
「アッハッハッハッハッハッ! そうだ! お前はその剣を投げて爆発させるしか遠距離の攻撃手段があるまい? 対して我はこの距離を保って攻撃すればいいのだからな!」
「素晴らしい!……知恵を絞って俺を楽しませようとするその心意気に免じて、遠距離戦で勝負してやろう!」
するとヒロが手に持つ剣を地面に突き刺すと、足元に転がっていた片手に収まる程度の石を両手にひとつずつ持ち、それを握り絞めながら立ち上がる。
「クックックックッ、そんな石二つでどうするというのだ?」
「もちろん、おまえに勝つのさ!」
ヒロの握る手の間から黄金の輝き溢れる。
「なら……やってみるがいい! 死ね!」
憤怒が再び翼を広げ、触手の羽を魔王に向かって打ち出すが、彼は避ける素振りすら見せず、黄金の光を内包した両手に渾身の力を込めると手の中で岩を砕いてしまう……それと同時に両手に闘気をまとわせた魔王は、右手に握った物を憤怒に向かって思いっきり投げつけていた!
握りつぶされた岩が、小さな小石となって憤怒へと放たれる!
宙に黄金の軌跡を残し突き進む流星雨! 憤怒が放った触手にぶつかると大爆発を起こし次々と爆発が連鎖して打ち出された全ての触手が撃ち落とされる!
爆煙が魔王と憤怒の間に立ち込めて二人の姿を隠してしまう。すぐさま憤怒は息を止め絶対防御スキルを発動すると、当然のように体の全面を六本の腕で守り黒いオーラをまとう。
触手繭状態をだった時、憤怒はヒロの黄金に輝く流星の攻撃を受け、多少のダメージを受けたが触手は攻撃に耐え切っていた……あの時と同じ状態ならばと、腕を防御に回しさらに黒いオーラで防御力を高めて流星雨に備える!
次の瞬間、憤怒の防御に回した六腕に黄金の軌跡が殺到する。腕の防御と黒いオーラで防げると思っていた憤怒……だがその考えこそ魔王の罠だった!
触手の腕も黒いオーラも……絶対防御スキルすら関係なしに黄金の流星雨が憤怒の防御をズタボロに引き裂き爆発する。
憤怒はことに至りようやく気がついた。
触手繭状態で受けた黄金の攻撃……あれは魔王に手加減されていたのだと。そして全てはこの攻撃を当てるための布石だったことに憤怒はようやく気がついた。
防御を破られダメージを受けてしまう憤怒。だが、なんとか耐え切った! あとはダメージを受けた部分を触手で修復して反撃を許さない密度の攻撃で攻めれば……。
そんな事を考えながら頭部を守る腕を解いた憤怒の目の前に、腕を振りかぶり何かを投げようとする魔王の姿が映っていた。
「スナイプショット!」
黄金に輝く魔弾が魔王の手から解き放たれた!
「ばかな!」
投げられたと思った瞬間、凄まじいスピードで憤怒の顔に小石が当たり大爆発が巻き起こった!
「アッハッハッハッハッハッ! やっぱり騙されやがった!」
触手で作られた顔を吹き飛ばされた憤怒は、爆風に倒され、地面を再び何度か転がると、うつ伏せのまま地面に『ドン』と拳を叩きつけ魔王を睨む。
「なぜだ! きさまは石を二つしか持っていなかったはず⁈ なのになぜ?」
「俺が石を二つしか持たないからって、二度しか攻撃が出来ないといつから思っていた? 俺はあの時、砕いた小石をひとつ指に挟んで投げずにいたんだよ! 面白いように引っかかってくれて、ありがとう。笑いが止まらないぞ! アッハッハッハッハッハッ!」
顔を上げて邪悪な笑みを浮かべて笑う魔王。
「おのれ! 滅びよ! 人は滅び去れ!」
魔王に手玉に取られ怒りと憎しみで、魔王以外が目に入らなくなる憤怒。
「さあ、第一ラウンドの接近戦は俺の勝ち! 第ニラウンドの遠距離戦も俺の勝ち! オイオイ、いくらなんでもストレート勝ちはないだろう? お前にチャンスをやる、三本先取制にしてやるからもう少しガンバレよ。さあ、俺を楽しませろ!」
魔王 vs 憤怒の戦いは第三ラウンドへと、もつれ込むのであった!
〈魔王に圧倒される憤怒……果たして憤怒に勝機はあるのか⁈〉
自らの左手に剣を突き刺した魔王の手から、血がドボドボと流れ落ちる。
「舐めるなよ、人如きが! 我は憤怒、怒りを司る者。脆弱な人が我にハンデだと? ならば本気で戦ってやろう。塵も残さず滅ぶがいい!」
憤怒のさらなる怒りに、触手からなる筋肉が膨張していく。凶々しい黒いオーラが憤怒の全身を包み込み、体が二回り以上大きくなる。
魔王によって切り飛ばされた左腕からは、新たなる触手が生まれ再び左腕を形成していく……以前よりもより強靭で強固な肉体へと体を作り替えた憤怒が魔王の前に現れた。
(さあ、ここまでは作戦通りだ。ハンデを課して憤怒を煽り、奴の怒りを僕に向かせる。少なくともリーシアが動けるようになるまでは、僕に注意を向けさせておかなければ……)
魔王がミスリルロングソードへ勇気を溜め始めると、剣身が黄金の輝きを放つ。同時に闘気を体にまとわせることで、蒼龍の鎧が反応し防具の表面から蒼い陽炎が立ち登る。
「いいぞ、さあ全力で来い! 力を隠したまま死ぬなんてつまらない戦いにしてくれるなよ? 俺は最高難易度で楽しみたいんだからな! さあ! お前を遊び尽くさせろ!」
「ほざくな! 人風情が! 滅びるがいい!」
その言葉に憤怒が怒りを爆発させてハルバードを振りかぶると、魔王に向かって大きく跳躍する。
「パワースレイブ!」
黒いオーラをまとった必殺の一撃が魔王に向かって放たれた!
「やはり憤怒の技を使えるか……だが、無駄なんだよ!」
魔王は憤怒が跳躍した瞬間、すでに魔王は動き出していた。震脚を踏み爆発的な力を推進力に変えた魔王が、蒼炎のイルミネーションを残しながら憤怒へと剣を振るう!
「ブレイブストラッシュ!」
魔王の剣技と勇気の力が、憤怒の攻撃に真っ向から立ち向かう!
「避けずに向かってくるか、ならばそのまま死ね!」
莫大な威力を秘めた自分の攻撃を避けてやり過ごすだろうと考えた憤怒……攻撃に転じた魔王を叩きつぶそうと手に持つハルバードに渾身の力を込めた!
空中で激突するミスリルロングソードとハルバード! ぶつかり合う黄金と黒のオーラが、互いの存在を否定しあう!
互いの武器が振り抜かれると、何かがさらに上空へと宙を舞い、空中で交差した二人は再び大地へ足を着ける。
着地と同時に剣を構えながら再びカイザーに振り向く魔王……同じく着地しながらも背を向けたまま手に持つハルバードを凝視する憤怒を見る。そして魔王が心底残念そうな顔をすると、二人の間に切り裂かれたハルバードの斧刃部分が突き刺さった。
「ば、ばかな! 触手の槍は我が体の一部……我が権能、絶対防御スキルはあらゆる攻撃を弾くはず! なのになぜだ!」
「カイザーの力は真似られても、戦闘技術と戦いの記憶は継承されないのか?……拍子抜けだ」
憤怒が切り裂かれた触手ハルバードを見ながら、驚愕の表情を浮かべていた。
息を止めている間だけ、あらゆる攻撃を体の表面で弾く絶対防御スキル……それをヒロの黄金の輝きが糸も容易く突破してしまった。
「おのれ、人如きが!」
憤怒が怒りの表情を浮かべながら振り向くと、新たなる触手でハルバードを再び形作り、魔王へと襲い掛かる!
接近戦に持ち込まれた魔王……だが彼は右手に持った剣一本で攻撃を捌き、次々と繰り出される憤怒の攻撃を魔王は難なく避け、剣で弾き防いでしまう。
いかなる斬撃も魔王には擦りもしない……サイプロプスとの文字通り、命懸けの果てに手に入れた力が憤怒を凌駕する。
「なぜだ、なぜ当たらぬ」
「わからないのか? なら、教えてやる。お前には戦いに必要な経験が圧倒的に足りていない。いくら攻撃に力と速さがあったとしても当てる技術がなければ意味がないのさ!」
憤怒の攻撃を淡々と捌くヒロ……攻撃を当てられない憤怒から焦りの色が見え始めると、やがで攻撃は大振りになりワンパターンになっていく。
「おまえ、ほとんど格下としか戦ったことがないな?」
「我は憤怒、人を滅ぼすもの、我より強い人など存在せん!」
「戦いに工夫がなさ過ぎて、面白くないぞ」
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「見え見えなんだよ」
だが、それを予測していた魔王はあろうことか、迫りくる憤怒の蹴りに震脚を繰り出していた。
「グオォォォッ!」
黄金の輝きをまとった左足が、憤怒の足を大地に縫いとめた! 震脚によって発生した力が体を駆け上がり体の捻りで増幅され右腕へと伝わると、魔王の拳が憤怒の顔へと叩き込まれる。
痛みに耐えながらも憤怒は縫いとめられた足の触手を解き放ち捨て去る。弱点である呼吸……痛みで声を上げた憤怒に、絶対防御スキルが発動できない。
どれだけの威力があるか分からない魔王の拳に憤怒は恐怖を覚え、片足を犠牲にしてでも、魔王の攻撃から逃げようとしていた。
縫い止められた足の膝から下を捨て、大地に置いた両手に力を入れた憤怒は、自らの体を後方へと無理やりに転がす。
ゴロゴロと転がり逃げる憤怒、その姿を見た魔王は嘲笑いながら言い放つ。
「無様だな。これがお前の力か? つまらない、弱過ぎる! 絶対防御スキルなんて、もう攻略済みなんだよ。そんなものを今さら出されて、俺が満足できると思っているのか? ふざけるな。さあ本気を出せ! もっと歯応えのある攻撃をしてこいよ。俺をもっと楽しませろ!」
魔王との距離を取り動きを止めた憤怒が、這いつくばりながら憎しみに歪んだ表情で顔上げた……その瞳に怒りの炎を灯す憤怒は、忌々しい者を見る目で魔王に怒りをぶつける。
「おのれ、おのれ、おのれぇぇぇ! 人如きが我を見下すだと? あってはならん! 我は憤怒、怒りを司る者、我が母の悲しみを思い知れ! 滅びよ、滅びよ、人よ滅び去れ!」
右腕に宿る憤怒の紋章から凶々しい黒きオーラが全身を包むと、失った片足の断面から触手が生え出し、新たなる足を形成する……だが体の変化はそれだけでは収まらず、体のフォルムが人型から異形なる姿へと変化していく。
背中から翼を生やし、両肩とその脇の下から触手の腕が生えだすと六本の腕ができ上がる。腰から伸ばした触手が馬の胴体を形作り後ろ足を形成する。
四つ脚に六腕と翼を生やした憤怒……ケンタウロスのシルエットに酷似した憤怒の姿がそこにあった。
「へえ、イイぞ! 力と速度に加えて手数を増やしたか、少しは歯応えが出るか?」
「ほざけ! 人如きが我に敵うと思うな。さあ滅びるがいい!」
前脚を上げ立ち上がる憤怒が、背中の翼を広げると、羽にあたる触手が一斉に魔王に向かって撃ち出される!
「Bダッシュ!」
触手の射程範囲を瞬時に見切った魔王が、横へダッシュで避ける。
「チョコマカと逃げおって! だが、いつまで避け続けられるかな!」
「なるほど……遠距離攻撃に乏しい俺相手に、手数と距離で勝負しようって訳か?」
「アッハッハッハッハッハッ! そうだ! お前はその剣を投げて爆発させるしか遠距離の攻撃手段があるまい? 対して我はこの距離を保って攻撃すればいいのだからな!」
「素晴らしい!……知恵を絞って俺を楽しませようとするその心意気に免じて、遠距離戦で勝負してやろう!」
するとヒロが手に持つ剣を地面に突き刺すと、足元に転がっていた片手に収まる程度の石を両手にひとつずつ持ち、それを握り絞めながら立ち上がる。
「クックックックッ、そんな石二つでどうするというのだ?」
「もちろん、おまえに勝つのさ!」
ヒロの握る手の間から黄金の輝き溢れる。
「なら……やってみるがいい! 死ね!」
憤怒が再び翼を広げ、触手の羽を魔王に向かって打ち出すが、彼は避ける素振りすら見せず、黄金の光を内包した両手に渾身の力を込めると手の中で岩を砕いてしまう……それと同時に両手に闘気をまとわせた魔王は、右手に握った物を憤怒に向かって思いっきり投げつけていた!
握りつぶされた岩が、小さな小石となって憤怒へと放たれる!
宙に黄金の軌跡を残し突き進む流星雨! 憤怒が放った触手にぶつかると大爆発を起こし次々と爆発が連鎖して打ち出された全ての触手が撃ち落とされる!
爆煙が魔王と憤怒の間に立ち込めて二人の姿を隠してしまう。すぐさま憤怒は息を止め絶対防御スキルを発動すると、当然のように体の全面を六本の腕で守り黒いオーラをまとう。
触手繭状態をだった時、憤怒はヒロの黄金に輝く流星の攻撃を受け、多少のダメージを受けたが触手は攻撃に耐え切っていた……あの時と同じ状態ならばと、腕を防御に回しさらに黒いオーラで防御力を高めて流星雨に備える!
次の瞬間、憤怒の防御に回した六腕に黄金の軌跡が殺到する。腕の防御と黒いオーラで防げると思っていた憤怒……だがその考えこそ魔王の罠だった!
触手の腕も黒いオーラも……絶対防御スキルすら関係なしに黄金の流星雨が憤怒の防御をズタボロに引き裂き爆発する。
憤怒はことに至りようやく気がついた。
触手繭状態で受けた黄金の攻撃……あれは魔王に手加減されていたのだと。そして全てはこの攻撃を当てるための布石だったことに憤怒はようやく気がついた。
防御を破られダメージを受けてしまう憤怒。だが、なんとか耐え切った! あとはダメージを受けた部分を触手で修復して反撃を許さない密度の攻撃で攻めれば……。
そんな事を考えながら頭部を守る腕を解いた憤怒の目の前に、腕を振りかぶり何かを投げようとする魔王の姿が映っていた。
「スナイプショット!」
黄金に輝く魔弾が魔王の手から解き放たれた!
「ばかな!」
投げられたと思った瞬間、凄まじいスピードで憤怒の顔に小石が当たり大爆発が巻き起こった!
「アッハッハッハッハッハッ! やっぱり騙されやがった!」
触手で作られた顔を吹き飛ばされた憤怒は、爆風に倒され、地面を再び何度か転がると、うつ伏せのまま地面に『ドン』と拳を叩きつけ魔王を睨む。
「なぜだ! きさまは石を二つしか持っていなかったはず⁈ なのになぜ?」
「俺が石を二つしか持たないからって、二度しか攻撃が出来ないといつから思っていた? 俺はあの時、砕いた小石をひとつ指に挟んで投げずにいたんだよ! 面白いように引っかかってくれて、ありがとう。笑いが止まらないぞ! アッハッハッハッハッハッ!」
顔を上げて邪悪な笑みを浮かべて笑う魔王。
「おのれ! 滅びよ! 人は滅び去れ!」
魔王に手玉に取られ怒りと憎しみで、魔王以外が目に入らなくなる憤怒。
「さあ、第一ラウンドの接近戦は俺の勝ち! 第ニラウンドの遠距離戦も俺の勝ち! オイオイ、いくらなんでもストレート勝ちはないだろう? お前にチャンスをやる、三本先取制にしてやるからもう少しガンバレよ。さあ、俺を楽しませろ!」
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