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第13章 勇者と憤怒の紋章編
第149話 説明×休息=腹パンインターバル!
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「リーシア、恐れていた状況になってしまったかもしれません。僕とリーシアの二人に痣がないと言うことは……」
「憤怒の紋章がオークヒーローの子……シーザー君に継承されたと言うことですね」
ヒロとリーシア……二人は顔を暗くして互いに状況を確認し合う。
「ヒロ、どう言う事なの? オークヒーローの子? あなた達は何を隠しているの⁈」
二人の会話聞いていたナターシャが、聞きづてならない言葉に思わず声を上げ話に割り込んでくる。
「ナターシャさん……オークヒーローは、操られていたんです」
「操られていた? だれに?」
「奇妙な痣……憤怒の紋章がオークヒーローの体を乗っ取り、人を襲っていたんです」
「憤怒の紋章? にわかには信じられないけど……でもオークヒーローが倒されたのなら、その脅威は去ったのでは?」
「いえ、憤怒の紋章は継承されるみたいなんです。継承の条件は二つ……憤怒が取り憑いた者の直系の子供か、取り憑いた相手を倒した者のどちらかに、紋章は継承されてしまいます」
「……ヒロ、なぜあなたが、そんな事を知っているの?」
「それは……僕のスキル『言語習得』で、オーク語が話せるようになったからです」
「オ、オークと話せるですって⁈」
「オークって魔物だよ? 話せるわけが……」
「ええ! オークが話せるなんて……そんな話し聞いた事ありませんよ」
「待ってください。アイツらは私たちを襲う魔物ですよ?」
その話を聞いたナターシャを始め、ケイトやシンシア、そしてライムも驚きを隠せず、思わず声を出していた。
「私もヒロがオークと話をしていた時には驚きました。ですが、ヒロがオークと言葉を交わし交渉してくれたからこそ、私たちは殺されずに牢に囚われていたのです」
「それがオークに捕まっても殺されなかった理由なのね?」
「はい。牢に囚われている間、オーク達の話を盗み聞きして、オークヒーローに宿る憤怒の紋章や、継承の条件を知る事ができました」
「なるほど……ヒロ、あたなオークと交渉したと言う話しだけど、何を交渉したのかしら?」
ナターシャが腰に差した罪人の剣の柄に手を掛けながらヒロに質問する。
(やはり疑われますよね? まあ想定内です)
「すみません。リーシアと生き延びるため、ナターシャさん達がオークを討伐するために、大群で村を攻めて来ると話しました」
「あなた……それが裏切り行為だと、分かっていたわよね?」
ナターシャの目の色が青から赤い瞳へと変化し、ヒロの瞳を真っすぐに見ていた。
ナターシャが持つ固有スキル『真実の瞳』がヒロの嘘
を暴こうと心の中を覗き見る。
「分かっています。リーシアと二人……生き残るために僕は討伐隊の情報をオーク達に売りました。すべては僕の判断です」
「その結果が、あの夜襲って事ね?」
「はい……」
「ヒロ……あの夜襲で何人の兵士が死んだか分かっているの?」
「少なくない数は死んだはずです」
「死者40名、重傷者100名以上よ。あなた達二人が生き残るのに、これだけの人が死んだの……いくらオークヒーローを倒した功績があったとしても褒められた話ではないわ」
「分かっています。全ては僕の判断です。処罰は僕一人で受けます。ナターシャさんお願いします」
ヒロは真っすぐな目でナターシャの瞳を見返していた。むろんナターシャの持つ『真実の目』の能力の事は知っている。
知っているからこそ、ヒロは嘘を吐かず罪を認め、裁きを受ける覚悟を口にしていた。
(さあ、ここからが正念場です。できる女? ナターシャさんなら、コチラの意図を呼んでくれるはずです。あとはシナリオ通りに事が運べば……)
ヒロとナターシャが見つめ合い、互いに緊迫した間が流れる……ナターシャの瞳が赤から青色に変わると、再び口を開いた。
「そう……あなた一人の罪なのね? リーシアちゃん、ヒロの言っている事に間違いはないのね?」
ナターシャが、ヒロの横で暗い顔を俯いていたリーシアに確認すると……リーシアが顔を上げてヒロを指差した。
「はい! 間違いありません。私はダメだって言ったのに、コイツが勝手に自分が助かりたい一心でケイトさんからのメール情報をオーク達に売ったんです。人族を裏切ってまで助かりたいなんて最悪です! オークを倒すために協力はしましたけど、さっさとパーティーを解散したいですよ」
「なるほど……まあヒロの罪はアルムの町に戻るまで保留にしましょう」
ナターシャの言葉に、ヒロはとりあえずシナリオ通りに事が運んだと胸をなでおろすが、横にいたリーシア心は揺れていた。
嘘が下手なリーシアが吐く、精一杯の嘘……事前にヒロに説明され、彼女はシナリオ通りに事を運んでいた。
それはエクソダス計画において、最少の犠牲で最大の幸せを生み出すために、ヒロが描いた計画の一旦だった。
アルムの町にいる教会と孤児院を守るため、リーシアは吐きたくもない嘘を、皆の前で言わなければならなかった。人族を裏切る行為をヒロが一人で被るために……。
もしここでリーシアがヒロを庇えば、同罪とみなされ確実に教会と孤児院の子供たちにまで責が及ぶ。
ヒロは全てが終わった後のことも考えて、罪を被ると事前に説明してくれた。リーシアも最初は反対したが、ヒロの思いに押し切られる形になってしまった。
復讐を誓うリーシアにとって、教会と孤児院は生きていくために、身を寄せる場所だけのはずだったのに……なぜか教会にいるみんなの顔が頭をよぎると、リーシアは何も言えなくなってしまった。
ヒロのシナリオ通りに事は運んだが、嘘と分かっていても自分の発した言葉にリーシアの心は悲しみ、泣いていた。
「それで、オークヒーローの子とは?」
「牢屋内で見たのですが、オークヒーローにはシーザーと言う子供が一人いました」
「子供が……」
ナターシャが何かを思いアゴに手を当て思考すると、『ハッ!』と何かを思い声を上げた。
「子供! そうよ! だれか、この中で子供のオークを見た者はいない?」
「そう言えば子供のオークは一人も見てないわ?」
「砦の中でしょうか?」
「いえ、砦の中にはオークはもう一匹もいません。僕の『オートマッピング』スキルに反応がありませんから……」
「すると、オークヒーローの子供はこの場から離れて逃げたと考えた方が良さそうね」
「そう考えるのが妥当です。だとすると憤怒の紋章が僕とリーシアに継承されなかった事にも納得ができます」
「どう言う事なの?」
「牢屋に入れられていた時、僕はオークヒーローと憤怒の紋章について話をしました。そして憤怒の紋章は自分が死ねば、子供か自分を倒した相手に継承されると……」
「オークヒーローが? なぜ、そんな話をあなた達に?」
「言葉を交わして分かりましたが、憤怒の紋章は人を憎み、常に人を滅ぼそうとしていたみたいです。このままではオークヒーローも、いつか体が乗っ取られ、自らの意思とは関係なしに人を殺すためだけの、バーサーカーと化してしまうと……そしてそれが他のオークに波及しないか心配していました」
「オークヒーロー自身は戦いを望んでいなかったと?」
「多分オークヒーローも、家族を守りたかったのかも…… 自分の子供に憤怒の紋章を継承させないために……だから、自分を倒せる存在を求めたのかもしれません」
「するとオークヒーローを倒したあなた達に、その紋章がないとなると、憤怒の紋章は必然的に子供に継承されてしまったわけね?」
「そうなります。僕とリーシアに継承されてないのなら……あのオーク達が共食いをする最中、子供だけが逃げ伸びた可能性はあります」
「親が子を生かすため、オークの子だけを逃したのね。だとすると、一体どこに逃げたかだけど……」
ナターシャは村の外に広がる南の森を見て、ため息を吐いた。
「この広い森の中で、たった一匹のオークを見つけるのは至難の業ね。放っとくわけにもいかないし、どうしたものかしら……」
広大な南の森から、たった一匹のオーク探すなど不可能に近い状況にナターシャは頭を悩ますが……。
「……手はあります」
「本当に? どうやって?」
ヒロが何かを思いつき、メニュー画面を操作して自分のステータスを表示していた。
名前 本上 英雄
性別 男
年齢 6才(24才)
職業 プログラマー
レベル :15 →20
HP:180/355(+190)
MP:100/305(+190)
筋力:267(+190)
体力:287(+190)
敏捷:267(+190)
知力:287(+190)
器用:277(+190)
幸運:252(+190)
固有スキル デバック LV 2
言語習得 LV2
Bダッシュ LV 4→ LV 5
2段ジャンプ LV 3→ LV 4
溜め攻撃 LV 3→ LV 4
オートマッピング LV 2
ブレイブ LV 1 (ロック)
コントローラーLV 1
不死鳥の魂
所持スキル 女神の絆 LV 2
女神の祝福 【呪い】LV10
身体操作 LV 4→ LV 5(LVアップ)
剣術 LV 4
投擲術 LV 3
気配察知 LV 2
空間把握 LV 2
見切り LV 2
回避 LV 2
そして彼は、あるスキルをタップし説明文を読み返していた。
【オートマッピング】LV 2
頭の中に、自分の通った道を自動的にマップ化するスキル。
通った事がない道は表示されない。
今まで出会った事があるキャラは、名前リスト表示される。
名前リストに表示された1キャラのみ、選択すれば簡易MAPに未踏破地域であっても光点を表示可能。
「僕の所持するスキル『オートマッピング』があれば居場所が分かるかもしれません。試してみます」
ヒロが視界に映る簡易MAPに指で触れると、今までヒロがガイヤで出会い、知り合った人たちの名前がズラッと表示されていた。
そしてヒロは表示の中から、オークヒーローの子供、シーザーの名前を見つけ出し、迷わず名前をタッチする。
すると簡易MAPが縮小され、画面の北西に光点が映し出されていた。
「見つけました! ここから北西の位置ですが、光点が移動しています。これは……アルムの町に向かっているのか?」
「な、なんですって⁈ 確かなのヒロ?」
「はい……光点が北東にあるアルムの町に向かって移動しています」
「マズイ! もし、あの触林でアルムの町が襲われたら……町が壊滅してしまう! ライム、急いでアルムの冒険者ギルドにメールを飛ばして! 町に厳戒態勢を敷かせなさい」
「分かりました」
「私たちも動ける者を中心に討伐隊を再編、急ぎアルムの町へ向かいます。怪我人や動けない者はこの場に止まり、折を見て帰還しなさい! 伝令!」
ナターシャの呼び声に、討伐隊の伝令が駆けつけ、残った討伐隊と森の開けた空間に置いてきた部隊に情報を伝えていく。
「ナターシャさん、僕とリーシアは憤怒の紋章を追います」
「あの化け物を相手に、あなた達だけでは危険よ」
「憤怒の紋章がいる場所とココでは距離が開きすぎています。行軍のスピードを考えると、このままでは奴が先にアルムの町に到着してしまいます」
「ほ、本当ですかヒロ!」
リーシアがヒロの胸ぐらを掴みながら首を揺する。
「リーシア、落ち着いてください。首を揺すらないで!」
「ですが、憤怒が町に辿り着いたら……町は……孤児院のみんなが!」
「だから、僕たち二人が先行して憤怒の足止めをします」
「足止め? でもヒロは今、距離が開きすぎていて、先に憤怒が町に到着してしまうと?」
「ええ、討伐隊の足に合わせたらです。僕とリーシアなら、憤怒に追いつける可能性があります」
「それはなんですか!」
再びヒロの首をリーシアが揺りまくり、ひろの脳が頭の中で激しくシェイクされる。
「さ、さっきレベルアップした時に、獲得したスキルです。『暴れ馬召喚』というスキルがステータス欄に表示され、そのスキルの詳細を確認しました」
「『暴れ馬召喚』?」
リーシアがステータス画面を開き所持スキルを確認してみるが……。
名前 リーシア
性別 女
年齢 15
職業 バトルシスター
レベル :20 → 21
HP:180/215
MP: 0/80
筋力:230
体力:210
敏捷:270
知力:77
器用:125
幸運:46
固有スキル 殺しのライセンス
聖女の癒し
天賦の才
所持スキル 近接格闘術 LV 8 → LV 9
発勁 LV 8 → LV 9
震脚 LV 8 → LV 9
回避 LV 7 → LV 8
回復魔法(滅)LV 10
「ヒロ、どこにもありませんよ?」
「ん? 僕のスキルにはなかったから、リーシアが獲得したスキルかと思ったのですが……そうか! コントローラースキルで聖女モードにならないと使えない限定スキルなのかも?」
「とすると……私たちが次にコントローラースキルを使えるのは……20分後ですか⁈ 時間がもったいないです! ヒロスキルが再使用できるまで、少しでも歩いて距離を縮めましょう!」
リーシアはヒロの腕に手を回すと、そのままヒロを引きずって歩き出すが……。
「リーシア待ってください。慌てないで! まずは回復が先です」
「ですが!」
「このまま回復もせずに憤怒の追いついたとしても、傷つきMPも尽きた僕たちでは憤怒に勝てません! 僕たちは憤怒の追いつくのが目的ではありせん……奴を倒さなければならないのです」
「……わかりました。ヒロ、ごめんなさい」
リーシアがヒロの腕から手を離し、ションとしながら謝ると、彼はリーシアの手を取り真剣な面持ちで少女を見つめていた。
「リーシアの気持ちは分かります。僕も孤児院の子たちを助けたい気持ちでいっぱいなんです。だから信じてください。【暴れ馬召喚】の詳細を見た僕を……あのスキルなら絶対に追いつけると判断した僕を!」
その真剣なまなざしを見たリーシアの瞳から不安がなくなり、心の中にあった焦りの色も消えていた。
「……はい! 信じますよ。変態ですが、ここ一番のヒロの言うことは信じられますから!」
「変態……リーシアの中で僕は一体どんな存在になっているんでしょうか……はあ~」
ヒロはため息を吐きながら困った表情を浮かべ、それを見たリーシアは、ヒロの手を両手で強く握り返しながら笑っていた。
「と言うわけでナターシャさん、回復ポーションをありったけください。まずは回復しなければ奴に勝てません」
ヒロが手を握ったまま、ナターシャの方へ顔を向けると……二人のやりとりを見ていたナターシャが、手をパタパタしながら自分の顔を仰いでいた。
「熱いわね。あなた達……」
「こっちまで熱くなってくるよ」
「お互いに信頼し合っているんですね……いいな~」
ケイトとシンシアも、二人の雰囲気と熱に当てられて手をパタパタしていた。
「え?」
ヒロとリーシアが、ふと周りを見ると……。
「若いな~」
「青春って感じだな」
「あの若さなら、あんなもんだろ?」
「あそこで手を握る二人の微笑ましさがなんとも」
「だな~、甘酸っぱい青春、ごちそうさまです」
いつの間にか討伐隊の生き残りや冒険者たちが集まり思い思いに二人を見て感想を述べていた
「ええ、な、な、な、な、な……」
そこへ殲滅の刃、ポテト三兄弟がヒロ達に近づいて来ると……。
「君たち、それは物語として盛り上がりに欠けるね。できれば僕とジェニファーのように、熱いキスで締めくくってくれないと」
ポテト三兄弟末っ子フライドが、自分の愛弓に熱いキスをして手本を見せていた。
「このくらい熱いキスをしとかないと、伝説としては盛り上がらないよな?」
次男ジャーマンがフライドを指差す。
「確かに……勇者の伝説にしては手をつなぐだけじゃな……見なかった事にするから、やり直すか?」
長男マッシュがリテイクを提案してきた!
「キ、キ、キ、キ、キス⁉︎ ヒ、ヒ、ヒ、ヒリュト!」
リーシアが恥ずかしさから、顔を真っ赤にしてバグってしまう。
「リ、リーシア大丈夫ですか?」
フリーズしたリーシアの肩をヒロが揺する。
「だ、だ、だ、だ、大丈夫でふ」
噛み噛みのリーシアに、ヒロがさっきのお返しとばかりに彼女の首を揺する!
「リーシア! しっかり!」
首をガクガクされるリーシア。
「ちょっ、ヒロ、だ、だ、だ、大丈夫ですから」
だがヒロの揺さぶりは止まらない! ここぞとばかりにやり返す!
「ヒ、ヒ、ヒロ、も、もう大丈夫だって……言っているじゃないですか!」
次の瞬間、フリーズから復帰したリーシアの拳がヒロの腹にめり込んでいた!
「グハッ!」
下から突き上げる拳が横隔膜を突き上げ、地獄の痛みが腹部に走る! 膝から地面に足をつき倒れるヒロ……痛みが治らず地面を転げ回る。
「いい加減にしてください! 皆さんも茶化すなら腹パンチですよ!」
「……」
その場にいた全員が口を閉し、無残に地べたを転げ回る勇者の姿を見ながら、心の中でヒロに謝るのだった。
…………
「さて、ある程度、HPとMPも回復しました。ヒロ? コントローラースキルはどうですか?」
「リーシア……まだお腹が……」
「ヒールしてあげましょうか? 特別に詠唱もしてあげます。お腹を出してください♪」
「いえ! 気のせいでした! 痛みなんかなにもありません! いやー今日も体は快調です! さあ、コントローラースキルのクールタイムも終わりました! さっそくジョイントしましょう!」
腹パンチから30分……ヒロとリーシアは回復ポーションを飲み、ある程度まで回復していた。
ヒロはオークヒーローから受けた傷よりリーシアからの腹パンチの方がダメージが大きく、未だ腹に響く鈍い痛みが消えていなかった!
「ヒロ、急ぎましょう。皆さん離れて耳を塞いでください! もし声を聞いていた人がいたら……」
リーシアが手をポキポキしながら、周りにいた者達が、ヒロとリーシアの声が聞こえない位置にまで下がり、後ろを向くと耳を塞いでいた。
「ではリーシア、行きますよ。ジョイントオープン!」
するとリーシアの左胸に魔法陣が浮かび、リーシアが固唾を飲んで待ち構える。
「コントローラーコネクト!」
時間がない今、悠長にコネクトしていられないと、リーシアの提案で一気にジョイントをヒロが試みる。
「アッ!、お、大っきい、やっぱりユックリと、アッアアッ! や、だ、だ、だ、だめぇぇぇ♪」
リーシアの嬌声が響き渡るが、ヒロ以外には聞こえていない! もし、聞こえていると悟られればタダでは済まない……特に男連中は耳を塞ぐ指に力をいれ、完全に外界からの音をシャットダウンしていた!
そしてまゆばい光が二人を包むと……喧嘩上等の文字を背負い、白い特攻服を着た聖女が再びナターシャ達の前に現れた。
「良し、準備は整った。急ぐぜヒロ!」
(分かっています。リーシア、ステータス画面にある所持スキルから『暴れ馬召喚』を選択してください)
「おう! ステータスオープン!」
名前 リーシア
性別 女
年齢 15
職業 聖女ヤンキー
レベル :??? → ???
HP:450/735
MP: 240/457
筋力:755
体力:745
敏捷:452
知力:515
器用:603
幸運:463
固有スキル 殺しのライセンス
聖女の癒し
天賦の才
Bダッシュ LV 5
二段ジャンプ LV 4
溜め攻撃 LV 4
コマンド入力
オートマッピング LV 2
言語習得 LV 2
絆 LV 5
暴れ馬召喚(限定)
所持スキル 近接格闘術 LV 9
発勁 LV 9
震脚 LV 9
回避 LV 7
回復魔法(滅)LV 10
女神の祝福 【呪い】LV 10
身体操作 LV 5
剣術 LV 4
投擲術 LV 3
気配察知 LV 2
空間把握 LV 2
見切り LV 3
「おっ! あった! コレだな? 押すぜヒロ」
聖女が『暴れ馬召喚』をタップすると……少女の足元に光り輝く魔法陣が現れ、中から巨大な物が少しずつ浮かび上がってくる。
「な、なんだこれ? どう見ても馬じゃないよな?」
聖女が、魔法陣から現れた物を見ながらヒロに尋ねる。
(予想通りでした。さあリーシア、これで憤怒に追いつきますよ!)
ヒロがコントローラーをカチカチしながら、嬉しそうにモニター画面を見つめていた。
そのモニターには、ヒロの世界では珍しくもなんともない……ガイヤの世界にとっては異質で異常な物が、映し出されているのだった。
〈聖女の目の前に、その身を鋼鉄で包み込む……暴れ馬が現れた!〉
「憤怒の紋章がオークヒーローの子……シーザー君に継承されたと言うことですね」
ヒロとリーシア……二人は顔を暗くして互いに状況を確認し合う。
「ヒロ、どう言う事なの? オークヒーローの子? あなた達は何を隠しているの⁈」
二人の会話聞いていたナターシャが、聞きづてならない言葉に思わず声を上げ話に割り込んでくる。
「ナターシャさん……オークヒーローは、操られていたんです」
「操られていた? だれに?」
「奇妙な痣……憤怒の紋章がオークヒーローの体を乗っ取り、人を襲っていたんです」
「憤怒の紋章? にわかには信じられないけど……でもオークヒーローが倒されたのなら、その脅威は去ったのでは?」
「いえ、憤怒の紋章は継承されるみたいなんです。継承の条件は二つ……憤怒が取り憑いた者の直系の子供か、取り憑いた相手を倒した者のどちらかに、紋章は継承されてしまいます」
「……ヒロ、なぜあなたが、そんな事を知っているの?」
「それは……僕のスキル『言語習得』で、オーク語が話せるようになったからです」
「オ、オークと話せるですって⁈」
「オークって魔物だよ? 話せるわけが……」
「ええ! オークが話せるなんて……そんな話し聞いた事ありませんよ」
「待ってください。アイツらは私たちを襲う魔物ですよ?」
その話を聞いたナターシャを始め、ケイトやシンシア、そしてライムも驚きを隠せず、思わず声を出していた。
「私もヒロがオークと話をしていた時には驚きました。ですが、ヒロがオークと言葉を交わし交渉してくれたからこそ、私たちは殺されずに牢に囚われていたのです」
「それがオークに捕まっても殺されなかった理由なのね?」
「はい。牢に囚われている間、オーク達の話を盗み聞きして、オークヒーローに宿る憤怒の紋章や、継承の条件を知る事ができました」
「なるほど……ヒロ、あたなオークと交渉したと言う話しだけど、何を交渉したのかしら?」
ナターシャが腰に差した罪人の剣の柄に手を掛けながらヒロに質問する。
(やはり疑われますよね? まあ想定内です)
「すみません。リーシアと生き延びるため、ナターシャさん達がオークを討伐するために、大群で村を攻めて来ると話しました」
「あなた……それが裏切り行為だと、分かっていたわよね?」
ナターシャの目の色が青から赤い瞳へと変化し、ヒロの瞳を真っすぐに見ていた。
ナターシャが持つ固有スキル『真実の瞳』がヒロの嘘
を暴こうと心の中を覗き見る。
「分かっています。リーシアと二人……生き残るために僕は討伐隊の情報をオーク達に売りました。すべては僕の判断です」
「その結果が、あの夜襲って事ね?」
「はい……」
「ヒロ……あの夜襲で何人の兵士が死んだか分かっているの?」
「少なくない数は死んだはずです」
「死者40名、重傷者100名以上よ。あなた達二人が生き残るのに、これだけの人が死んだの……いくらオークヒーローを倒した功績があったとしても褒められた話ではないわ」
「分かっています。全ては僕の判断です。処罰は僕一人で受けます。ナターシャさんお願いします」
ヒロは真っすぐな目でナターシャの瞳を見返していた。むろんナターシャの持つ『真実の目』の能力の事は知っている。
知っているからこそ、ヒロは嘘を吐かず罪を認め、裁きを受ける覚悟を口にしていた。
(さあ、ここからが正念場です。できる女? ナターシャさんなら、コチラの意図を呼んでくれるはずです。あとはシナリオ通りに事が運べば……)
ヒロとナターシャが見つめ合い、互いに緊迫した間が流れる……ナターシャの瞳が赤から青色に変わると、再び口を開いた。
「そう……あなた一人の罪なのね? リーシアちゃん、ヒロの言っている事に間違いはないのね?」
ナターシャが、ヒロの横で暗い顔を俯いていたリーシアに確認すると……リーシアが顔を上げてヒロを指差した。
「はい! 間違いありません。私はダメだって言ったのに、コイツが勝手に自分が助かりたい一心でケイトさんからのメール情報をオーク達に売ったんです。人族を裏切ってまで助かりたいなんて最悪です! オークを倒すために協力はしましたけど、さっさとパーティーを解散したいですよ」
「なるほど……まあヒロの罪はアルムの町に戻るまで保留にしましょう」
ナターシャの言葉に、ヒロはとりあえずシナリオ通りに事が運んだと胸をなでおろすが、横にいたリーシア心は揺れていた。
嘘が下手なリーシアが吐く、精一杯の嘘……事前にヒロに説明され、彼女はシナリオ通りに事を運んでいた。
それはエクソダス計画において、最少の犠牲で最大の幸せを生み出すために、ヒロが描いた計画の一旦だった。
アルムの町にいる教会と孤児院を守るため、リーシアは吐きたくもない嘘を、皆の前で言わなければならなかった。人族を裏切る行為をヒロが一人で被るために……。
もしここでリーシアがヒロを庇えば、同罪とみなされ確実に教会と孤児院の子供たちにまで責が及ぶ。
ヒロは全てが終わった後のことも考えて、罪を被ると事前に説明してくれた。リーシアも最初は反対したが、ヒロの思いに押し切られる形になってしまった。
復讐を誓うリーシアにとって、教会と孤児院は生きていくために、身を寄せる場所だけのはずだったのに……なぜか教会にいるみんなの顔が頭をよぎると、リーシアは何も言えなくなってしまった。
ヒロのシナリオ通りに事は運んだが、嘘と分かっていても自分の発した言葉にリーシアの心は悲しみ、泣いていた。
「それで、オークヒーローの子とは?」
「牢屋内で見たのですが、オークヒーローにはシーザーと言う子供が一人いました」
「子供が……」
ナターシャが何かを思いアゴに手を当て思考すると、『ハッ!』と何かを思い声を上げた。
「子供! そうよ! だれか、この中で子供のオークを見た者はいない?」
「そう言えば子供のオークは一人も見てないわ?」
「砦の中でしょうか?」
「いえ、砦の中にはオークはもう一匹もいません。僕の『オートマッピング』スキルに反応がありませんから……」
「すると、オークヒーローの子供はこの場から離れて逃げたと考えた方が良さそうね」
「そう考えるのが妥当です。だとすると憤怒の紋章が僕とリーシアに継承されなかった事にも納得ができます」
「どう言う事なの?」
「牢屋に入れられていた時、僕はオークヒーローと憤怒の紋章について話をしました。そして憤怒の紋章は自分が死ねば、子供か自分を倒した相手に継承されると……」
「オークヒーローが? なぜ、そんな話をあなた達に?」
「言葉を交わして分かりましたが、憤怒の紋章は人を憎み、常に人を滅ぼそうとしていたみたいです。このままではオークヒーローも、いつか体が乗っ取られ、自らの意思とは関係なしに人を殺すためだけの、バーサーカーと化してしまうと……そしてそれが他のオークに波及しないか心配していました」
「オークヒーロー自身は戦いを望んでいなかったと?」
「多分オークヒーローも、家族を守りたかったのかも…… 自分の子供に憤怒の紋章を継承させないために……だから、自分を倒せる存在を求めたのかもしれません」
「するとオークヒーローを倒したあなた達に、その紋章がないとなると、憤怒の紋章は必然的に子供に継承されてしまったわけね?」
「そうなります。僕とリーシアに継承されてないのなら……あのオーク達が共食いをする最中、子供だけが逃げ伸びた可能性はあります」
「親が子を生かすため、オークの子だけを逃したのね。だとすると、一体どこに逃げたかだけど……」
ナターシャは村の外に広がる南の森を見て、ため息を吐いた。
「この広い森の中で、たった一匹のオークを見つけるのは至難の業ね。放っとくわけにもいかないし、どうしたものかしら……」
広大な南の森から、たった一匹のオーク探すなど不可能に近い状況にナターシャは頭を悩ますが……。
「……手はあります」
「本当に? どうやって?」
ヒロが何かを思いつき、メニュー画面を操作して自分のステータスを表示していた。
名前 本上 英雄
性別 男
年齢 6才(24才)
職業 プログラマー
レベル :15 →20
HP:180/355(+190)
MP:100/305(+190)
筋力:267(+190)
体力:287(+190)
敏捷:267(+190)
知力:287(+190)
器用:277(+190)
幸運:252(+190)
固有スキル デバック LV 2
言語習得 LV2
Bダッシュ LV 4→ LV 5
2段ジャンプ LV 3→ LV 4
溜め攻撃 LV 3→ LV 4
オートマッピング LV 2
ブレイブ LV 1 (ロック)
コントローラーLV 1
不死鳥の魂
所持スキル 女神の絆 LV 2
女神の祝福 【呪い】LV10
身体操作 LV 4→ LV 5(LVアップ)
剣術 LV 4
投擲術 LV 3
気配察知 LV 2
空間把握 LV 2
見切り LV 2
回避 LV 2
そして彼は、あるスキルをタップし説明文を読み返していた。
【オートマッピング】LV 2
頭の中に、自分の通った道を自動的にマップ化するスキル。
通った事がない道は表示されない。
今まで出会った事があるキャラは、名前リスト表示される。
名前リストに表示された1キャラのみ、選択すれば簡易MAPに未踏破地域であっても光点を表示可能。
「僕の所持するスキル『オートマッピング』があれば居場所が分かるかもしれません。試してみます」
ヒロが視界に映る簡易MAPに指で触れると、今までヒロがガイヤで出会い、知り合った人たちの名前がズラッと表示されていた。
そしてヒロは表示の中から、オークヒーローの子供、シーザーの名前を見つけ出し、迷わず名前をタッチする。
すると簡易MAPが縮小され、画面の北西に光点が映し出されていた。
「見つけました! ここから北西の位置ですが、光点が移動しています。これは……アルムの町に向かっているのか?」
「な、なんですって⁈ 確かなのヒロ?」
「はい……光点が北東にあるアルムの町に向かって移動しています」
「マズイ! もし、あの触林でアルムの町が襲われたら……町が壊滅してしまう! ライム、急いでアルムの冒険者ギルドにメールを飛ばして! 町に厳戒態勢を敷かせなさい」
「分かりました」
「私たちも動ける者を中心に討伐隊を再編、急ぎアルムの町へ向かいます。怪我人や動けない者はこの場に止まり、折を見て帰還しなさい! 伝令!」
ナターシャの呼び声に、討伐隊の伝令が駆けつけ、残った討伐隊と森の開けた空間に置いてきた部隊に情報を伝えていく。
「ナターシャさん、僕とリーシアは憤怒の紋章を追います」
「あの化け物を相手に、あなた達だけでは危険よ」
「憤怒の紋章がいる場所とココでは距離が開きすぎています。行軍のスピードを考えると、このままでは奴が先にアルムの町に到着してしまいます」
「ほ、本当ですかヒロ!」
リーシアがヒロの胸ぐらを掴みながら首を揺する。
「リーシア、落ち着いてください。首を揺すらないで!」
「ですが、憤怒が町に辿り着いたら……町は……孤児院のみんなが!」
「だから、僕たち二人が先行して憤怒の足止めをします」
「足止め? でもヒロは今、距離が開きすぎていて、先に憤怒が町に到着してしまうと?」
「ええ、討伐隊の足に合わせたらです。僕とリーシアなら、憤怒に追いつける可能性があります」
「それはなんですか!」
再びヒロの首をリーシアが揺りまくり、ひろの脳が頭の中で激しくシェイクされる。
「さ、さっきレベルアップした時に、獲得したスキルです。『暴れ馬召喚』というスキルがステータス欄に表示され、そのスキルの詳細を確認しました」
「『暴れ馬召喚』?」
リーシアがステータス画面を開き所持スキルを確認してみるが……。
名前 リーシア
性別 女
年齢 15
職業 バトルシスター
レベル :20 → 21
HP:180/215
MP: 0/80
筋力:230
体力:210
敏捷:270
知力:77
器用:125
幸運:46
固有スキル 殺しのライセンス
聖女の癒し
天賦の才
所持スキル 近接格闘術 LV 8 → LV 9
発勁 LV 8 → LV 9
震脚 LV 8 → LV 9
回避 LV 7 → LV 8
回復魔法(滅)LV 10
「ヒロ、どこにもありませんよ?」
「ん? 僕のスキルにはなかったから、リーシアが獲得したスキルかと思ったのですが……そうか! コントローラースキルで聖女モードにならないと使えない限定スキルなのかも?」
「とすると……私たちが次にコントローラースキルを使えるのは……20分後ですか⁈ 時間がもったいないです! ヒロスキルが再使用できるまで、少しでも歩いて距離を縮めましょう!」
リーシアはヒロの腕に手を回すと、そのままヒロを引きずって歩き出すが……。
「リーシア待ってください。慌てないで! まずは回復が先です」
「ですが!」
「このまま回復もせずに憤怒の追いついたとしても、傷つきMPも尽きた僕たちでは憤怒に勝てません! 僕たちは憤怒の追いつくのが目的ではありせん……奴を倒さなければならないのです」
「……わかりました。ヒロ、ごめんなさい」
リーシアがヒロの腕から手を離し、ションとしながら謝ると、彼はリーシアの手を取り真剣な面持ちで少女を見つめていた。
「リーシアの気持ちは分かります。僕も孤児院の子たちを助けたい気持ちでいっぱいなんです。だから信じてください。【暴れ馬召喚】の詳細を見た僕を……あのスキルなら絶対に追いつけると判断した僕を!」
その真剣なまなざしを見たリーシアの瞳から不安がなくなり、心の中にあった焦りの色も消えていた。
「……はい! 信じますよ。変態ですが、ここ一番のヒロの言うことは信じられますから!」
「変態……リーシアの中で僕は一体どんな存在になっているんでしょうか……はあ~」
ヒロはため息を吐きながら困った表情を浮かべ、それを見たリーシアは、ヒロの手を両手で強く握り返しながら笑っていた。
「と言うわけでナターシャさん、回復ポーションをありったけください。まずは回復しなければ奴に勝てません」
ヒロが手を握ったまま、ナターシャの方へ顔を向けると……二人のやりとりを見ていたナターシャが、手をパタパタしながら自分の顔を仰いでいた。
「熱いわね。あなた達……」
「こっちまで熱くなってくるよ」
「お互いに信頼し合っているんですね……いいな~」
ケイトとシンシアも、二人の雰囲気と熱に当てられて手をパタパタしていた。
「え?」
ヒロとリーシアが、ふと周りを見ると……。
「若いな~」
「青春って感じだな」
「あの若さなら、あんなもんだろ?」
「あそこで手を握る二人の微笑ましさがなんとも」
「だな~、甘酸っぱい青春、ごちそうさまです」
いつの間にか討伐隊の生き残りや冒険者たちが集まり思い思いに二人を見て感想を述べていた
「ええ、な、な、な、な、な……」
そこへ殲滅の刃、ポテト三兄弟がヒロ達に近づいて来ると……。
「君たち、それは物語として盛り上がりに欠けるね。できれば僕とジェニファーのように、熱いキスで締めくくってくれないと」
ポテト三兄弟末っ子フライドが、自分の愛弓に熱いキスをして手本を見せていた。
「このくらい熱いキスをしとかないと、伝説としては盛り上がらないよな?」
次男ジャーマンがフライドを指差す。
「確かに……勇者の伝説にしては手をつなぐだけじゃな……見なかった事にするから、やり直すか?」
長男マッシュがリテイクを提案してきた!
「キ、キ、キ、キ、キス⁉︎ ヒ、ヒ、ヒ、ヒリュト!」
リーシアが恥ずかしさから、顔を真っ赤にしてバグってしまう。
「リ、リーシア大丈夫ですか?」
フリーズしたリーシアの肩をヒロが揺する。
「だ、だ、だ、だ、大丈夫でふ」
噛み噛みのリーシアに、ヒロがさっきのお返しとばかりに彼女の首を揺する!
「リーシア! しっかり!」
首をガクガクされるリーシア。
「ちょっ、ヒロ、だ、だ、だ、大丈夫ですから」
だがヒロの揺さぶりは止まらない! ここぞとばかりにやり返す!
「ヒ、ヒ、ヒロ、も、もう大丈夫だって……言っているじゃないですか!」
次の瞬間、フリーズから復帰したリーシアの拳がヒロの腹にめり込んでいた!
「グハッ!」
下から突き上げる拳が横隔膜を突き上げ、地獄の痛みが腹部に走る! 膝から地面に足をつき倒れるヒロ……痛みが治らず地面を転げ回る。
「いい加減にしてください! 皆さんも茶化すなら腹パンチですよ!」
「……」
その場にいた全員が口を閉し、無残に地べたを転げ回る勇者の姿を見ながら、心の中でヒロに謝るのだった。
…………
「さて、ある程度、HPとMPも回復しました。ヒロ? コントローラースキルはどうですか?」
「リーシア……まだお腹が……」
「ヒールしてあげましょうか? 特別に詠唱もしてあげます。お腹を出してください♪」
「いえ! 気のせいでした! 痛みなんかなにもありません! いやー今日も体は快調です! さあ、コントローラースキルのクールタイムも終わりました! さっそくジョイントしましょう!」
腹パンチから30分……ヒロとリーシアは回復ポーションを飲み、ある程度まで回復していた。
ヒロはオークヒーローから受けた傷よりリーシアからの腹パンチの方がダメージが大きく、未だ腹に響く鈍い痛みが消えていなかった!
「ヒロ、急ぎましょう。皆さん離れて耳を塞いでください! もし声を聞いていた人がいたら……」
リーシアが手をポキポキしながら、周りにいた者達が、ヒロとリーシアの声が聞こえない位置にまで下がり、後ろを向くと耳を塞いでいた。
「ではリーシア、行きますよ。ジョイントオープン!」
するとリーシアの左胸に魔法陣が浮かび、リーシアが固唾を飲んで待ち構える。
「コントローラーコネクト!」
時間がない今、悠長にコネクトしていられないと、リーシアの提案で一気にジョイントをヒロが試みる。
「アッ!、お、大っきい、やっぱりユックリと、アッアアッ! や、だ、だ、だ、だめぇぇぇ♪」
リーシアの嬌声が響き渡るが、ヒロ以外には聞こえていない! もし、聞こえていると悟られればタダでは済まない……特に男連中は耳を塞ぐ指に力をいれ、完全に外界からの音をシャットダウンしていた!
そしてまゆばい光が二人を包むと……喧嘩上等の文字を背負い、白い特攻服を着た聖女が再びナターシャ達の前に現れた。
「良し、準備は整った。急ぐぜヒロ!」
(分かっています。リーシア、ステータス画面にある所持スキルから『暴れ馬召喚』を選択してください)
「おう! ステータスオープン!」
名前 リーシア
性別 女
年齢 15
職業 聖女ヤンキー
レベル :??? → ???
HP:450/735
MP: 240/457
筋力:755
体力:745
敏捷:452
知力:515
器用:603
幸運:463
固有スキル 殺しのライセンス
聖女の癒し
天賦の才
Bダッシュ LV 5
二段ジャンプ LV 4
溜め攻撃 LV 4
コマンド入力
オートマッピング LV 2
言語習得 LV 2
絆 LV 5
暴れ馬召喚(限定)
所持スキル 近接格闘術 LV 9
発勁 LV 9
震脚 LV 9
回避 LV 7
回復魔法(滅)LV 10
女神の祝福 【呪い】LV 10
身体操作 LV 5
剣術 LV 4
投擲術 LV 3
気配察知 LV 2
空間把握 LV 2
見切り LV 3
「おっ! あった! コレだな? 押すぜヒロ」
聖女が『暴れ馬召喚』をタップすると……少女の足元に光り輝く魔法陣が現れ、中から巨大な物が少しずつ浮かび上がってくる。
「な、なんだこれ? どう見ても馬じゃないよな?」
聖女が、魔法陣から現れた物を見ながらヒロに尋ねる。
(予想通りでした。さあリーシア、これで憤怒に追いつきますよ!)
ヒロがコントローラーをカチカチしながら、嬉しそうにモニター画面を見つめていた。
そのモニターには、ヒロの世界では珍しくもなんともない……ガイヤの世界にとっては異質で異常な物が、映し出されているのだった。
〈聖女の目の前に、その身を鋼鉄で包み込む……暴れ馬が現れた!〉
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