勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

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第13章 勇者と憤怒の紋章編

第144話 バグ聖女、触林を駆け抜けろ!

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覇神はじん六王流ろくおうりゅう爆心ばくしん治癒ちゆこう!」

 本来は止まった心臓を気の力で無理やり動かし、蘇生をうながす回復の技だが……リーシアは、それをあえて攻撃に転用した。

 幾度いくどとなくヒロを蘇生し、技を熟知したリーシアだからこそ、可能とする規格外のバグ技!

 的確な角度とスピードで打ち出された気が、憤怒の体内で爆発する!
 
 ハートブレイクショット……文字通りの攻撃が憤怒の心臓を破壊し命の時を止める!

(やったか? いくらなんでも心臓が止まれば!)

「まだだ、ヒロ! 奴の闘気が消えてねえ! 油断するな!」

 聖女ヤンキーが震脚を踏むと、地面を滑るように後退し距離を取る。

 ヒロと聖女は、憤怒の右腕に莫大な闘気と凶々しいオーラが溜まっていくのを感じていた。

「我は滅びぬ! 人を滅ぼすまで我は滅びぬ! 我は不滅! 我が怒り尽きぬ限り何度でも蘇る! 滅び去れ! 全て滅びるがいい!」
 
 心臓の動きを止められても、まだ動く憤怒に聖女が苦い顔をしていた。
 
「まずいぜ! 奴はまだ何かやるつもりだ! どうするヒロ⁈」

 ヒロはすでにスローモーションの世界へ入り込み、思考を開始していた。

 集中しろ!
 心臓を止められても死なない? 無敵の存在? いや……奴は怒りが尽きぬ限り何度でも蘇ると言った。

 集中しろ!
 蘇る……奴はなぜその言葉を使った? 蘇ると言うことは、死からの生還を意味している。つまり奴は絶対に倒せない存在ではない?

 集中しろ!
 そうだ。奴は倒せない存在などではない。現にリーシアのヒールでダメージを受け、痛みで苦しんでいる。だが、心臓に直接のダメージはヒールの比ではないはずだ……なのに奴はなぜ動ける?

 集中しろ!
 奴に痛みはある……だが深刻なダメージ受けても動ける理由……そうか! 奴は僕たちと同じなのか! カイザーの体を憤怒は何かしらの方法で操っているとすれば……あの禍々しいオーラで操っていると考えるのが妥当か? 体が生命活動を停止したとしても、無理やりオーラで体を動しているのか⁈

 集中しろ!
 だとすればあのオーラの出所……今もなお、膨れ上がる右腕の憤怒の紋章自体をどうにかするか、カイザーの体を動けなくなるまで、バラバラに切り刻む必要がある。

 チラリとヒロがモニターに表示されるEXゲージを見ると、ゲージはMAXまで貯まり、ストックゲージも二本点滅して表示されていた。

(リーシア! 超必殺技を使います! 合わせて下さい!)

「あれか……チッ! 仕方ねえ! いいか? 技を出す順番とタイミングはオレが決めるからな? お前に任せたら体をメチャクチャにされちまう」

(分かりました。リーシアに合わせます。もう時間がありません。急がなくては……)

「ああ、分かってる。よし、いくぜヒロ! 教訓その5、これだけやってもまだ分からない奴は、あとで何してくるか分からねえ! だからられる前にれ! 先手必勝だ!」

 ヒロと聖女の動きが再びシンクロする!
 
(Bダッシュ!)

 今だその場から動かない憤怒に、ヒロと聖女が先に攻撃を仕掛けた。
 
 震脚を踏むと共に発動したBダッシュが、聖女の姿をかき消してしまう。

 姿を消した聖女が憤怒の前に姿を現し、ひじをくの字に固めた体当たりに近い一撃を打ち出そうとした瞬間だった!

 聖女を無視した憤怒が、地面に向かって莫大な闘気と禍々しいしいオーラを込めた拳を叩きつける!

「ヤバい!」

 聖女の直感が警鐘をガンガン鳴らす!

(止まるな! 脇を駆け抜けろ!)

 ヒロの言葉に反応したリーシアは、体が壊れるのをいとわず、緊急回避の震脚を踏んでいた!
  
 急な進行方向の修正に、震脚した足が悲鳴を上げたが、痛みを無視した聖女はそのまま憤怒の横を通り抜ける。

 その直後、真下の地面から強烈な殺気と禍々しいオーラが噴き出し、地面から無数の触手が生え出してきた!

「こなくそ!」

 地面から次々と生えてくる触手を蹴り飛ばし、流れるような体捌きで聖女が触手の範囲から抜け出そうと足掻く。

 一瞬にして触手の竹林ならぬ触林が形成され、憤怒を中心とした半径10メートルが、触手で埋め尽くされていた。

(マズイ、閉じ込められた。強行突破するしかない!)

「ヒロ、気合を入れろ!」

 聖女の振るう拳が触手を殴り倒し、一蹴する蹴りが触手を蹴り倒す!

 コマが回転するかの如く、淀みない流麗な動きが、触手を押し流す激流のように道を開く。

 あと4メートル……もう目と鼻の先に外周部が見えた時、聖女の行くてを、ひときわ太く長い触手がさえぎった。
 高さ5メートルを超える触手が数本生え出し、聖女に向かって一斉に触手を叩きつける!

「ヒロ!」

「こいつ! これを狙って! 間に合え!」

 ヒロがヒールコマンドを瞬時に入力すると、頭上に向かって聖女の蹴りが放たれた。

 触手が足に宿る光に触れると次々と塵へと変わる。だが……数本を塵に変えた所で、ヒールの光は消えてしまった。

「ちぃっ」

 舌打ちをしながらも体勢を立て直し、迫り来る触手を迎撃しようと気を練り、拳を放とうとした瞬間!

「横です! リーシア!」

 モニター越しに戦場を見ていたヒロは、一瞬はやく憤怒の攻撃が見えていた。

 聖女を刺し殺そうと、横から放たれた触手を少女はギリギリで避ける。
 
 しかし触手は聖女を刺し貫けなかった代わりに、彼女の両手に巻き付きその腕を封じてきた。

「ウゼェ!」

 リーシアの蹴りが触手を断ち切るも、両手に巻き付いた触手が固く硬化し聖女の動きを阻害する。

 なおも新しい触手が行手に生え出し、少女の頭上から触手が振われる。

「なめんな!」

 両手を封じられ、拳が満足に打てない聖女は両手を地面に置くと、左足で迫り来る触手を蹴り飛ばす!

 そして封じられた腕を器用に動かし、右足で迫りくる触手に回し蹴りを打ち出していた。逆立ちした状態から、まるブレイクダンスを踊るかのように、迫る触手をドンドン蹴り倒す!

 ヒロが聖女の技を画面越しに見た時、自分の世界にあったカポエラと言われる足技の格闘技を思い出していた。

 手枷をはめられた奴隷が戦うために編み出した実戦格闘技……手を地面に置いた独特な構えから打ち出される、変幻自在な超高速の蹴りと……トリッキーな動きから、一撃で人をほふる破壊力。

 ヒロの世界に置いても同じ格闘技はあったが、彼女の技は次元が違った。

 その鋭い蹴りの一撃は触手を切り裂き、近づくものを片っ端から蹴り倒す!

 まるで暴風のように連続で繰り出される美しい足技が、見る者を魅了する。

「このまま逃げ切るぜ!」

 腕の拘束を解く時間すら惜しみ、聖女は触手の猛攻に上下逆さのまま戦い続ける。
 
 初めて見る戦闘スタイルに、下手な手出しは無用と判断したヒロは、彼女に体のコントロールを託し、自分は憤怒に勝つための情報をかき集める。

 足技を変幻自在に繰り出す聖女が、ついに外周にあと一歩の距離にまで辿り着いた時、最後の砦とばかりに禍々しいしいオーラをまとった触手が彼女の前に立ちはだかる。

 明らかに他の触手とは異なる気配。おそらく憤怒の左腕から生えていたのと同等の触手に……聖女が警戒する。

「邪魔だ! 退きやがれ!」

 聖女が練り込んだ気を足に流し込み、渾身の蹴りを打ち出そうとした時だった!

「なんだと!」

 聖女の軸足である左足首に、いつの間にか小さな触手が巻き付いていた。

 直前まで気配を殺し、最高のタイミングで足を絡め取るのを、憤怒は待っていたのだ。

「滅び去れ!」

 バランスを崩して倒れ込む聖女に、触手が殺到する。

「リーシアちゃん!」

  千鞭のナターシャが罪人の剣シナーソードを手に立ち上がるが間に合わない。

「マズイ! リーシア!」

 ヒロもモニターに映る映像頼りだったため、注意を怠ってしまった。
 コントローラースキルの弱点……モニター越し故に、ヒロは外の気配や殺気を感じることができないのだ。

 しかし、聖女が空中でバランスを取り地面に手を着くと、拘束された左足に絡みつく触手を、気を練り込んだ右足のカカトで切り裂く!

 足の拘束から抜け出した聖女が、その勢いを維持したまま、前転してヒールを放つが……。

「間に合わねえ!」

 すでに放たれた触手の一撃に、聖女の攻撃と防御は間に合わない……不慣れな闘気を体にまとわせ、ダメージ覚悟の防御に移ろうとした時!

「リーシア! そのまま攻撃です!」

「おうよ!」

 ヒロの言葉に、聖女は迷わない。

 防御も回避も捨てて、攻撃に移る。

 前転した勢いのまま、聖女は両手の拳を祈るように握り込み、くの字に肘を曲げたまま、迫る触手に拳を振り下ろす。

 ダブルスレッジハンマー……両手を握り、頭上高く大きく振り上げと勢いよく振り下ろされた剛なる打撃技にヒールの光が宿る……だが触手の方が僅かに速い!
 
 聖女も戦いの経験から、先に触手が自分を刺し貫ぬくことは分かっていた……間に合わない少女の攻撃。

 だが、ヒロは言った。攻撃しろと! ならば聖女に恐れる心はない。
 
 渾身の力を持って、目前の触手に聖女が祈りの拳を振り下ろす!

ブヒヒヒブヒブヒヒそのまま打ち込むだ~!」

 オークのいななきが聞こえた瞬間、触手の背後に槍が突き刺さり動きが鈍った!……聖女の打ち出したダブルスレッジハンマーが、先に触手へ炸裂する!

 回復の光に触れ、触手がちりと化し、ようやく触林の猛威から少女は抜け出した。

「あ、危なかったぜ! あの野郎、こんな隠し玉をまだもってやがったとは」

 聖女が冷や汗をかきながら、触林を警戒する。

「ギリギリでした。オク次郎さんが槍を投げてくれなかったら、殺されてました」

 ヒロはモニター越しに、憤怒の呪縛から逃れたオーク族の戦士、オク次郎が闘気をまとい槍を投擲する姿が見えていた。集中によるシミュレーションから、聖女の攻撃が先に当たると計算したのだ。

「助かったぜ。しかしあの触手……あの場所から動く気配はないねえな? 何か狙ってやがるのか?」

「分かりませんが、どうやら半径十メートル以上には、触手は出せないようですね? リーシア、一旦ナターシャさんの所にまで下がります」

「ああ、分かった」

 ヒロの言葉に、聖女は素直に従い、バックステップで後方へと下がる。

「リーシアちゃん、大丈夫なの?」

 ナターシャの元にまで下がるなり、聖女を心配して皆が集まってくる。

「リーシアさん怪我は?」

「ああ、右足がイカれかけてやがる。済まねえがヒールしてくれ。オレのヒールじゃ癒せねえからな。あとMP回復ポーションがあったらくれ。MPが尽きそうだ」

 すぐさまヒーラーのシンシアが、ヒールを唱え怪我の治療に入る。

「コレを飲め。で? アレに勝てるのか?」

 殲滅の刃、長兄マッシュ・ポテトが青い液体が入ったビンを少女に手渡す。

 ビンのフタを口に咥え、キュポッと開けるとペッと、地面に吐き捨てた聖女が、グビグビと豪快にポーションを飲み干した。

「プハ~! まっじいな~! こんなもんより甘いストロングベリージュースで一杯やりたいぜ!」

 なんか仕草や言葉遣いがオッサン臭いが、飲み物は可愛らしいパツキン聖女ヤンキーに、皆が微妙な顔をしていた。

「アレに勝てるかどうかは、ヒロにしか分からねえ。今アイツが憤怒を倒す算段を立てるから、小休憩しろってさ」

「ほ、ほんとに二人が一つになっているのね? 信じられないわ」

 戦士ケイトが驚きの声を上げる。

「まあ、あんな戦いを見せられちゃ……信じるしかねえ……おい、ソイツを止めておけ」

「この戦いを見てない者に話しても、誰も信じてくれないだろうね。ライムさん止めておいた方がいいですよ!」

「離して! あれを! あのピクピクしている触手を解体させてぇぇぇっ!」

 ポテト三兄弟の次男ジャーマンと末っ子フライドが、ギルド職員ライムを必死に止めていた。

 どうやらライムの解体癖が、触手を見た瞬間に我慢できなくなり、暴走を始めたらしい。

「何にしても、リーシアちゃんが無事で良かったわ」

「ナターシャの姉御、すまねえ。心配させちまった」

「いいのよ。それより……あのオーク達、リーシアちゃん達に用があるみたいよ?」

 ナターシャが顔を向けた先に、オク次郎と数名の古参オーク達が遠巻きに様子をうかがっていた。

「ああ、ナターシャの姉御、攻撃しないでくれ。アイツらに助けてもらわなかったら、オレはさっき死んでた。命の恩人なんだ……頼むよ」

「まあ、さっきもオークヒーローと、なぜか敵対して私たちと共闘してたし、この戦いが終わるまでは休戦としましょう」

「姉御、ありがとう。おーい! お前たちコッチに来い!」

 リーシアが手を大きく振り、オーク達に手招きすると、ゾロゾロとオーク達が歩いて来る。

「ジークポーク! 雰囲気が違うけど、ヒロといた娘だべ~?」

「ん? なんでお前らの言葉が分かるんだ? ヒロとコントローラースキルでつながっているからか?」

 なぜかオク次郎の言葉が分かる聖女。

「リ、リーシアちゃん? お、オークの言葉が分かるの?」

「あっ! ……あ、アレだあれ、何となく、そう何となくだよ! イヤ、オークの言葉なんが話せるわけないじゃん!」
  
 オークと話せることは内緒にしなければならない……ヒロの言いつけを忘れていた聖女が、慌てて誤魔化す。

 ジト目になるナターシャ達……聖女の目が泳ぎまくっていた!

「まあ、そう言う事にしといてあげるわ。あなた達といると驚くことばかりで、気が休まらないわ」

「あはは……あっ! ヒロが作戦を思いついたって言ってるぜ」

「ホント?」

「ああ……え? いや作戦名なんてどうでも……わかったよ。全くうるせいな~、言えばいいんだろ?」

「ど、どうしたのリーシアちゃん?」

「いや、ヒロの奴が作戦を説明する前に、作戦名を伝えろってうるせえんだよ……分かった。分かったから」

 頭の中に響くヒロの声に、聖女が耳を手で塞ぐが意味はなかった。

「これからヒロが憤怒の紋章を倒す作戦を説明するぜ。作戦名は『ガンガンいこうぜ!』」

〈謎の作戦……『ガンガンいこうぜ!』が、ガイヤの世界で発動された!〉
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