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第12章 勇者とエクソダス編

第138話 バグ聖女と回復魔法  ☆

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罪人の剣シナーソード
 巨大な剣であり、これを振り回すには相応の力を必要とする。

 特殊な魔法金属が使われており、現在では製法が失われ、再現が不可能なアーティファクトと化している。

 最大の特徴は、MPを大量に消費する事で、剣をムチ状に変化させた蛇腹剣として振える事である。

 大剣の刃が魔力で編まれたワイヤーで等間隔に分かれ、ムチのように敵を襲う連結刃と呼ばれるギミックを備える。

 剣の剛性とムチの柔性、剛柔一体と化した連結刃に触れたものは切削せっさくされ、ズタズタに切り裂かれる。

 そのムチの射程は魔力に比例し、使用者の魔力によっては数百メートルにまで伸ばせる。また魔力操作によって蛇のように剣先を自由自在に動かす事も可能である。


【ミスリルロングソード】
 ガイヤにおいて、極まれに採取される魔法金属であるミスリル鉱石を使って作られた武具。

 ミスリル鉱石は魔力を通しやすい性質をもっており、この鉱石を用いて鍛えられた武具による攻撃には、装備者のMPを攻撃力に変換する力が備わる。

 使用されるミスリルの含有量が多ければ多い程、魔力を通した際、白く発光する光は増し攻撃力が上がる。

 鋼鉄より硬く、他の鉱物に比べて軽いため、ミスリルをふんだんに使用して作られた武具は、見た目以上の攻撃力と軽さで扱いやすい。


巨大な籠手ギガンティック・ガントレット
 アダマンタイトと呼ばれる希少な金属を用いて作られた強固な格闘専用の籠手

 アダマンタイト鉱石はとにかく硬い金属であり、これを用いた装備を破壊するには同じアダマンタイトか、神の作りし伝説の金属、オリハルコンで鍛え上げた装備でなければ破壊は困難である。

 格闘家にとって致命的な防御力の低さをカバーしつつも、その硬さを持って敵の装備を破壊するおそるべき籠手。

 最大の特徴は、手の甲に装備された紅い魔石にある。

 拳を一定の強さで握り込むと、握る強さに応じて進行方向に重力魔法を発生させる。瞬間的に装備者の攻撃に重さが加わり、見た目からは想像もできない破壊力を秘めた攻撃が可能となる。
 
 大気に満ちる魔力を消費して重力魔法を発生させるため、使用者のMPは消費されない。


【蒼龍の鎧】
 神龍ブルードラゴンの鱗とミスリルを混ぜ合わせて造られた軽装鎧。
 
 単純な物理防御能力も高いが、ブルードラゴンの鱗を溶かし込む事で魔法攻撃にも高い耐性を持ち、特に水系統の攻撃には圧倒的な防御力を誇る。
 
 ガントレットの手首部分にある青い魔石に魔力を込めると、触れたものと魔石が魔力のワイヤーでつながり、自在に伸縮が可能となる。

 魔力消費量により、糸の強度や長さ、太さが変化しワイヤーの色も自由に変更が可能。


【紅炎の鎧】
 幻獣フェニックスの素材で造られた革鎧。

 金属でないにもかかわらず、その防御力は下手な金属鎧を凌駕する。軽さと動きやすさを重視しながらも物理防御力にも秀でた逸品。

 火属性に高い耐性を誇り、多少の傷や破損ならば自動で修復する機能が備わっている。また修復が完全に終わる度に防御力が上昇し、常に成長を続ける能力は正にフェニックスの名に恥じない。


 上記アイテムに関しては、現在勇者の子孫である辺境伯アルム・ストレイム家が家宝として所持している事が判明している。

 性能もさることながら、勇者が使用していたという事実だけで値段がつけられない逸品となっており、王家がアイテムの買い入れを打診しても、アルム家は決して首を縦に振る事はない。

 王の命に背くなど不敬であると言う貴族はいたが、王家は問題にする事はなかった。

 それがなぜなのか……その理由を知る者は王家の一部の者と勇者の末裔であるアルム家当主のみが知っていると言われている。

 市場に出れば天文学的な金額が付くのは明白であるが、売りに出る事は決してない装備は、アルム辺境伯の住むアルムの町で今も厳重に保管されている。

 商人ギルド著 アイテム図鑑 初代勇者の装備より抜粋


…………


「グッ……わ、わたしは……」

 男は体に走る痛みで目を覚まし、ボンヤリとした目で空を見ていた。
 
 最初に真っ青な青い空と白い雲が目に入る。

「ナターシャさん! 良かった目を覚ましたわ」

「良かった。ヒールも今ので最後だったから、危なかった」

 ナターシャは霞が掛かった頭を振りながら、自分の顔をのぞく二人の女性の顔を視界に入れる。

 どこかで見た顔だと思い、思い出そうと意識を集中する。

「あなた達は……ケイトとシンシア、確かヒロを救出しに……そうだわ! 私はオークヒーローと戦っていて、奴は⁉︎ クッ!」

 ナターシャは無理やり体を起こそうと体に力を入れると、体に走る痛みで動けなくなってしまった。

「ダメです。ヒールで癒やしきれません。今は休んでください」

 痛みで意識がハッキリとしてきたナターシャは、オークヒーローとの戦いを再開しようと声を上げるが、ケイトとシンシアがそれを止める。

「大丈夫です。オークヒーローは、今ヒロさんとリーシアさんの二人が戦ってくれています」

「ヒロとリーシアちゃんが……でもいくら何でも二人だけでオークヒーローと戦うのは無謀だわ。私が加勢しないと」

 体にムチ打ってナターシャが立ち上がろうとするが、護衛に立っていたポテト三兄弟とギルド職員ライムの上げた声に耳を傾ける。

「す、すげえ! あの二人……伝説のオークヒーローと互角だぞ?」

「マッシュ兄さん、あれは互角じゃない。むしろ……」

「マッシュの兄貴、あれはアイツらの方が押してやがる」

「ああ、すごい。あのオークヒーローの筋肉……信じられない筋肉量ですよ。ああ……解体してみたい」

 その声を聞き、驚いて目を見開いてナターシャが、痛む体を押して上半身を起こす。

 そしてナターシャの瞳に、二人の姿が飛び込んで来た。

 青い軽装鎧を着けたヒロが、オークヒーローのハルバードを真正面から受け、その隙に紅い革鎧で身を包んだリーシアが接近し近距離から重い一撃を打ち込む。
 
 絶対防御スキルにより弾かれる攻撃を無視して、リーシアが連続攻撃で蹴りを繰り出すと同時に、ヒロが背後から忍び寄り剣での攻撃を加える。
 
 オークヒーローはヒロとリーシアの攻撃を笑いながら捌いているが、その体に浅いながらも傷がついており、血を流していた。
 
 今もまた、ヒロの剣が絶対防御スキルの弱点である呼吸のタイミングを狙って斬り掛かり、新たなる傷を作りだしていた。

 相手の動きを先読みし、相手が動いた時にはすでに結果が決まっている……そんな詰将棋のようなヒロの戦い方に、皆が驚きながら見ていた。
 
 オークヒーローの触れれば即死するような攻撃を、ギリギリの間合いで避けながら反撃するヒロとリーシア。

 まるで互いが次に行動する事が分かっているような連携と、ボンヤリと光る二人の鎧の色が、戦場に蒼紅のイルミネーションを描き出し、兵士たちは戦いに魅了されていた。

 幻想的な光景を見たナターシャ達は、それが死闘を演じている戦いとは思えず、まるで芸術的な演舞を見せられているようだった。

「あの子たち……私の目に狂いはなかったってことね」

「どう言うことですか?」

 ナターシャの言葉に、ケイトが疑問を口にする。

「フフ、何でもないわ。さあ、見ましょうか。新たなる勇者が……新たなる伝説が生まれる瞬間を!」

 ナターシャはただ静かに、勇者と聖女の戦いを見守るのだった。
  
…………

『やはり呼吸が乱せない。リーシア、回復魔法を使いましょう。カイザーの絶対防御スキルをかい潜っても、かすり傷しか付けられせん。作戦変更です!』

 ヒロは会話から、カイザーに策が見破られないようパーティー機能のチャットを用いてリーシアと話す。

『了解です。私のMPだと二発が限界なのと、まだ回復魔法を動きながら打てません。回復力を犠牲にして、詠唱なしで打つことはできますが、オークヒーロー相手に打ち込むタイミングを合わせられるかどうか……』

 ガイヤにおいて魔法は体の中にあるMPを変換して世界に干渉する事象である。通常は詠唱することで魔法のイメージを構築し、最後に力ある言葉を口にして初めて魔法が世界に発現する。

 魔法の威力は低くなるが、最後の力あるキーワードだけでも魔法は発動するのだ。
 
 ヒロが頭のスイッチを入れると、再び深い思考の海へとその身を沈め答えを探す。

 集中しろ!
 オークヒーローに攻撃を当てるにはどうすればいいのか?

 集中しろ!
 本当に厄介なのは、絶対防御スキルじゃない。研鑽の果てに辿り着いたあの防御技術だ。あの防御を突破する方法を考えろ!

 集中しろ!
 人もスキルもアイテムも、あらゆるものを使いこなせ!

 集中しろ!
 無駄な事なんてありはしない! 何十、何百、何千回でもシミュレートして答えを探し出せ!

 集中しろ!
 絶望している暇があるなら足掻け! どんなに見苦しい姿を晒そうとも、足掻き続けろ!
 
 集中しろ!
 あきらめるな! 何度でもやり直せ! お前にできるのはこれだけなのだから! 思考の果ての希望を掴み取れ!

 そしてヒロは絶望の果てで、答えを掴み取った!

『リーシアは僕の左後ろに移動して待機してください。カイザーを足止めします。策は……』
 
 ヒロが策を手早く伝えると、リーシアはすぐさまヒロの左後ろに距離を取ると、攻撃のタイミングを計り始める。

 ヒロは剣を地面に突き刺し手を離すと、西部劇に出てくるガンマンのように、後ろの腰に差したダガー二本に両手の指を掛けて構える。

「何かやるつもりか? 悪いが素直に攻撃を受けてやるわけにはいかんぞ!」

「少し小細工させてもらいます」

 言うや否や、ヒロは腰に刺したダガーを引き抜くと同時にカイザーに投擲しようとした瞬間、カイザーが目の前に立つヒロを無視して、ハルバードを構えたまま距離をとって離れたリーシアへと走りだす。

「お前たちの連携は厄介だ。防御の低い娘の方から始末させてもらう」

 リーシアを仕留めるため、一直線に走り出したカイザーに向かって、ヒロがあらかじめ溜めが終了していた二本のダガーを同時に打ち出した!
   
 二つの銀光が流星のように、カイザーを背後から刺し貫こうと迫る。

 だがカイザーは、背後から迫るダガーの気配を察知すると、横に避ける事なく当たる直前に身をかがめ、流星をやり過ごす。

 まるで背中に目がついているかのように、絶妙なタイミングで流星を避けたカイザーは、頭上を通り越したダガーを見て、ワイヤーがつながれていない事を確認する。

 大爆発はない! 瞬時に安全と判断したカイザーは、必殺の一撃をリーシアに決めるべく、跳び上がろうとするが……。

「なに⁈」

 だが、飛びあがろうとした瞬間、突如足に何かが絡みつき、カイザーの足がもつれた。
 前のめりに倒れようとするカイザーは、バランスを崩していた。

 何とか足を前に出し、踏みとどまろうとするオークヒーローの顔が前を向いた時、リーシアがヒロの放った二筋の流星を両手で受け止めている光景が見えた。

「最大加重です!」

 リーシアは、アダマンタイト製の籠手でヒロの銀光を難なく掴み取ると、ダガーを持ったまま限界まで強く握り込んだ両拳を地面に打ちつける。

 その瞬間、地面が地響きを鳴らしながら揺れた。
 
 巨大な籠手ギガンティック・ガントレットにより、リーシアの拳の先に重量魔法が展開され、その拳は実に一トン近い重さにまで重量を増やす。そしてカイザーは見てしまった。先程は付いていなかったダガーから伸びる太い鎖が、自分の足に絡みついていたのを!

「逃しませんよ!」

 ヒロが声を上げてリーシアが持つダガーと一直線につながった魔力の鎖を力いっぱい引き、カイザーの足を封じる。

 カイザーはバランスを崩し、前のめりに頭から地面に倒れ込む。

「ぬおぉぉっ!」

 思わず声を出してしまい、慌てて息を止めて絶対防御スキルを体に張り巡らしながら、急ぎ立ち上がろうとする。だが、すでに目の前にはリーシアが立ち、カイザーに向かって掌底を打ち放っていた。

 とっさに空いた腕で、カイザーは攻撃を防御する!

 打ち込まれた掌底が皮膚に触れた時、いつも通りに攻撃を弾く感触が伝わってくる。絶対防御スキル、それはいかなる攻撃も弾く鉄壁の力……そう、攻撃だけは弾くのだ。

「リーシア、今です!」

「ヒール!」

――リーシアは掌底が弾かれる感触を感じた時、禁断の回復魔法を解き放った。

〈聖女の回復魔法が、絶望の絶対防御スキルをすり抜けた!〉









リーシア 憤怒戦 最終装備イメージ

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