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第12章 勇者とエクソダス編
第127話 風雲オーク城 休憩編
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「え! ヒロが⁈」
オーク砦の建設中に、突如バグったヒロ……アリアを始めとする奥様方とギリーマントを作成していたリーシアの元に、オーク達から火急の知らせが入った。
ヒロさんが突如狂ったと……そうアリアが地面に書いた文字を見たリーシアは、アリア達の静止を振り切って、オーク砦建設予定地へと走っていた!
普段から怪しい動きをするヒロが狂った……これ以上の面倒事は御免ですと、リーシアはヒロの元へとひた走る!
そしてオーク砦建設予定地でリーシアは見た! いや見てしまった!
「%#☆○! 〆^$☆! ÷〒%€! ☆*々:!」
何もない空間に手を掲げ、意味不明な言葉を……いや奇声を発し続ける、危ない男の姿を!
「ヒロ、一体何しているんですか!」
「÷〒%€! %#☆○! 〆^$☆! ☆*々:!」
ヒロの傍で声を掛けるリーシアの言葉は彼に届かない……一心不乱に何かの作業を繰り返し、奇声を上げ続けていた。
「こ、これは……仕方ありません。ヒロ許してください。決してあなたが憎いわけではありませんからね」
するとリーシアが軽くステップを踏み始めた。
かつて、母カトレアがリーシアに見せたステップを踏み、拳を打ち込むタイミングを測るリーシア……その目に煌めきの光が走った時! 体の捻りを最大限に活かした、カトレアが譲りの腰が入った肝臓打ちがヒロの右脇腹に炸裂していた!
「グボェェェ」
「あっ! やりすぎました! ヒロー!」
あり得ない声を上げながら崩れ落ちるヒロ……突如襲った無防備な脇腹への痛みで地獄の苦しみを味わう。
その場で崩れ落ち、想像を絶する苦痛でヒロが地面をのたうち回っていた。
つい力加減を間違え、本気パンチを打ち込んでしまったリーシアが、オロオロとヒロを心配する。
「な、何が、ぐあああぁぁぁぁぁぁ、脇腹がああぁぁぁぁ」
そして痛みで意識を取り戻すヒロは、引かない痛みにジタバタともがき苦しむ。
「ヒロ、元に戻りましたね? 良かった。ヒロの様子がおかしかったので心配しました」
「リーシア、な、何が……くうぅぅぅ」
まだ痛みが引かないヒロは、苦痛に顔を歪ませながらゆっくりと立ち上がる。
「だ、大丈夫ですかヒロ?」
「ええ、な、なんとか……しかし一体何が? たしか僕はオーク砦の石垣を作っていて……ダメだ途中から記憶がない。気がついたら、痛みで地面に倒れていた事しか思い出せない」
「へ、へ~、どうしたんでしょうね……私が来た時にヒロがここで苦しんでいるのが見えたので、私もよく分かりませんが……」
リーシアはヒロの記憶が飛んでいる事を良い事に、とぼける作戦に出た!
「いきなり脇腹に痛みが走って……どうなっているんだ?」
するとヒロが上着のシャツの裾を捲り、脇腹を確認すると、そこには拳大の痣が大きくできていた。
「ヒロ、オークヒーローとの戦いの傷が、まだ癒えていないのですね。い、痛いなら癒しましょうか?」
リーシアの目が泳ぎ始め、キョロキョロと挙動不審の姿にヒロが訝しむ。
「リーシア、どうしました?」
「な、なんでもありませんよ! さあ、膝枕してあげますから!」
リーシアがその場に座り込み、自分の太モモをペシペシ叩き、『バッチコーイ!』と、ヒロを誘うが……ヒロの目は、リーシアの手に注がれていた。
「ど、どうしましたか!」
ヒロの視線に気がついたリーシアは、両手を後ろ手に隠してしまう。
さすがにヒロも気付いていた……。
「リーシア……手を前にして、拳を作ってみましょうか」
「藪から棒に、突然どうしましたか?」
リーシアの目がバタフライ泳法みたいに、ダイナミックに泳ぎ出し、ヒロは確信した!
「リーシア……」
ヒロの低い声に、観念したリーシアは拳を作りヒロの前に差し出すと……脇腹に残る痣の跡と、拳がピッタリと合わさる。
動かぬ証拠を突きつけられたリーシアは、観念してヒロに謝る。
「ごめんなさい。ヒロの様子がおかしかったので、元に戻そうとして、力加減を間違えました……」
痛む脇腹をさすりながら、ションとするリーシアをヒロは見下ろしていた。
やり方は間違っていたが、おかしくなった自分を心配し元に戻そうとしてくれたリーシアを、ヒロは怒れなかった。
だが結果がどうあれ、リーシアは加減を間違え、ヒロ怪我をさせた事を悔いていた。
「リーシア……今回は、僕の様子がおかしかったのが原因ですから、怒ったりはしません。ですが、次からはもう少し穏便に事を成すようしてください」
「はい……」
「罰として、膝枕で癒してください」
するとヒロがリーシアの太モモに頭を乗せ、有無を言わさず癒しモードに入る。
リーシアもヒロの心使いを感じて、その言葉に甘えた。
「バッチリ癒します。ヒロ……ありがとう」
リーシアの手がヒロの顔に触れ、リーシアの肌の温もりがヒロの中にある痛みを取り去るが如く、痛みが引いていく。
「それにしてもヒロ……こんな大きい物、数時間でよく作れましたね?」
「はい。オークの皆さんとアイテム袋のおかげですね。これがなかったら、エクソダス計画は頓挫していました。女神セレス様に感謝です」
ヒロは腰に吊るしていたアイテム袋を手すると、リーシアに見せる。
「ん~? ヒロは女神教ではないですよね? なんで女神様に感謝するのですか?」
ギクリとするヒロの目が泳ぎ出し……ヒロの変化をリーシアは見逃さない。女の感が、コイツ何かを隠していると告げていた!
ヒロの顔に触れていた手が、両手でガッチリと固定される。それはまるで、万力を用いてキリキリと締め上げられるが如く、ヒロの頭を押さえつけていた!
「え~と、リーシアさん……なんか頭が痛いので力を緩めてくれませんか?」
「ヒロ。何を隠しているのですか?」
「隠すなんて、イタタタタ」
リーシアの万力が、徐々にヒロを締め上げていく……だがヒロは真実を話すわけにはいかない。
真実を話すとなると、マナの流れについて話す必要があり、女神との約束を破る事になるからだった。
しかも世界に崩壊の兆しがあり、その調査を女神セレス様、本人から依頼されたなんて……そんな荒唐無稽な話を信じろと言う方に無理がある。
普通に話せば、頭がおかしいのかと疑われるレベルなのだ。
だがリーシアの復讐と幸せと見つけるため、最後まで付き合うと約束したヒロは、マナの流れについてだけは伏せ、思い切って自分の事を話して見ようと思い立つ。
「リーシア……以前、僕は遠い国から旅する途中、この南の森に迷い込んだと話しましたよね?」
「はい。初めて会った時、知らない言葉を話す変態が襲いかかって来て、ビックリでした!」
リーシアがジト目でヒロを見下ろしていた。
「あの時の事は忘れてください! え~と、あの時、僕が話した遠い国とは、このガイヤの世界には存在しない国のことでした」
「え? まさか滅んだのです?」
「いいえ、滅んだりはしていません。今もなお存在しているはずです」
「ガイヤの世界にはないのに存在する? ヒロ……また私を、からかっていますか?」
ギリギリとリーシアの手に力が加えられ、顔が再び締め上げられる。
「アイタタタタッ! からかっていませんから! ここではない世界。つまりガイヤと異なる別世界……日本と言う国から、僕はガイヤにやって来ました」
「はい? ガイヤと異なる別世界? 日本? 何、馬鹿な話を……」
リーシアは、また自分をけむに巻くため、荒唐無稽な話でバグラらかそうとしているのだろうと、お仕置きの意味を込めて締め上げる力を強めようとするが……ヒロの真剣な面持ちに、ウソはついていないと悟る。
「日本にいた僕は一度死に、偶然この世界に迷い込んだ魂を、三人の女神たちに拾われ、生き返りました」
「え? ヒロ死んだのですか? そしてさらっと、とんでもない事を言いませんでした?」
ガイヤにおいて、女神が実在していることは公然の事実であり、当たり前の話である。
だがガイヤに住まう者が、女神に生きて会うことは決してない。
神託と言う名目で女神の声を聞ける神官はいても、女神に出会い、そのご尊顔を拝見した者は未だかつて誰もいないのだ。
神殿や教会で知られる女神の姿は、あくまで創作であり、こうであろうとする人々の思いの産物であった。
存在は認識しながらも、その姿は謎のベールに包まれた女神たち……身近にありながらも遠い存在。
もし本当に女神に出会えた者がいたとしたら……その人物はスーパースターである。
あらゆる国が大金を出して国に招き、その女神の姿とご尊顔を語っていただく公演会に引っ張りだこであろう。
「はい。死んだ時の事は覚えていませんがね。とにかく女神に生き返らせてもらった僕は、女神からある依頼されました」
「女神様に会えた事ですら凄いのに、頼まれ事をされたのですか?」
「そうです。ガイヤの世界に異変が起きているので、調べてほしいと……そして旅の助けにと、このアイテム袋を女神セレス様が渡してくれました」
手に持つアイテム袋を、再びリーシアに見せるヒロ。
「なるほど……そのアイテム袋は女神様の物だったのですね……あまりにも常識はずれな収納能力も、それならば納得です。それで異変の原因とやらは、分かったのですか?」
「それがサッパリですね。女神セレス様にアルムの町のすぐ近くに転移してもらってから今まで、生きるので精一杯でしたので……これから少しずつ調査していく予定です」
「分かりました。ヒロは女神セレス様に、アイテム袋を直接授けていただいたから、感謝していたのですね」
「はい、このアイテム袋のおかげで大助かりしてますので、いつも感謝しています」
「それは良い行いです。時にヒロ……女神様達はどんな姿だったのですか? 私も女神教のシスターなので興味があります」
「女神様ですか? 僕があったのはセレス様だけですね。他の女神には出会ってません。セレス様はそうですね……10代の可愛らしい女神様でした。腰まである青い綺麗な髪を一まとめにしてまして、柔和な笑顔が見る者全てを優しい気持ちにさせる感じでした。あと泣き虫で、出会った早々、泣かれてしまい参りました……」
「出会った早々、女神に泣かれた?」
聞きづてならない言葉にリーシアの顔が引きつっていた。
「その後、ガイヤの世界でやって欲しい事があるとお願いされたのでお断りしたら……もっと泣かれました」
「え? もっと?」
「その後、一生懸命説明して説得されましたが……ゲームが存在しない世界に未練はないので、キッパリお断りしたら……号泣されました」
「女神様が号泣って、ヒロあなた一体何してるんですか?」
もし今の話が本当だとしたら、下手したら女神教の信者に八つ裂きにされても文句は言えない。
崇拝する女神の願いを断り、泣かしたと知れ渡れば間違いなく、女神教の暗部に殺される。
女神教……それは無彩男性中心の創世教より分たれた教えであり、女性中心の教えを伝える宗派であった。
女神を最高神としてする女神教は、女神至上主義であり女神を悲しませるなど言語道断! 女神に弓引くものは悪とみなされ、『女神・即・断』の名の下に断罪され、過激な女神至上主義者がトラブルを呼び込むことで有名だった。
とくに女神教に所属する男性信者の中には、少しと言うか……完全にイッちゃってる人も少なくない! 女神のためなら命を惜しまない、危ない輩を多数抱えているのだ。
そんな人たちに、『女神様に出会い泣かしました』と言ったらどうなるかは……想像に難たくない。
「最終的に調査を受ける事になりまして、泣き止んでくれました。最後は可愛い笑顔で送り出してくれましたよ」
その言葉を聞いたリーシアの手が、再びヒロの頭をきりきりと締め上げ始めた。
女神様と言えど、膝枕をしている最中に、他の女性を褒める言葉を聞かされて、リーシアの心は荒れていた。
戦いの経験はあれど、恋愛の経験は乏しいリーシアの心には、好きな異性が他の女性を褒める姿を、笑って許せる余裕がまだ備わっていなかった。
リーシアは、心の中に湧き上がる行き場のないドス黒い感情を、無意識の内にヒロへとぶつける。
「な、なんでですかリーシア! 僕は何か気に触れる事を言いましたか? イタタタタ」
「いえ……これは女神教のシスターして、女神様を泣かした罰を与えているのです!」
ヒロの頭を締め上げる正当性を主張するリーシア。
その顔を笑顔だったが、行動が共わなず、側から見たら異様な光景が垣間見られた。
「何にしても、ヒロが異世界の人間であり、女神様の願いで異変を調査している事は分かりました」
「リーシア……信じてくれますか?」
「信じるも何も、ヒロの今までの常識はずれな変態行動を見れば、何となく納得です」
数々のヒロ奇行を思い出して、それならば仕方ないと変な納得をするリーシア。
ヒロは信じてもらえたが、確実に変な納得をされ、粛然としないまま仕方なく話を続ける。
「ガイヤの世界に起こっている異変を調べ上げ、女神様に報告する……それが僕の旅する最終的な目的ですね」
「分かりました。でもヒロ……」
「なんですかリーシア?」
「……え~と、そう! 女神様に会ったことや泣かした話は絶対に他人にはしてはなりませんよ。特に過激派の女神教信者には絶対にです!」
「か、過激派?」
「彼らは女神様を崇拝するあまり、女神教の教えから逸脱してしまい、あまりにも度が過ぎた行動が、時として騒ぎを起こします」
「つまり?」
「女神様を泣かしたと知られれば、間違いなく絶対正義の名の下に、問答無用の『女神・即・断』で断罪です!」
「絶対に喋りません!」
リーシアの忠告に耳を傾けて、二度と女神の話は語るまいと誓うヒロ。
「何にしても、まずはエクソダス計画を成功させて、オークを救うことからです」
「ですね。さて、もう痛みはないですか?」
リーシアがヒロの脇腹を触るが、痛みはほぼなくなっていた。
彼女が持つ、聖女の癒しスキルによるオートヒールが、うまく効いたようだ。
「もう大丈夫そうです。リーシアありがとうございます」
ヒロは名残惜しいが、リーシアの太ももから頭を上げると、立ち上がり礼を述べる。
「どういたしまして。まあ私の所為なので、礼はいりませんよ。本当にごめんなさい」
「分かってます。このありがとうは、信じてくれたことに対してのお礼です。さて、それじゃあ僕は砦作りに戻りますね」
「……はい。じゃあ私もアリアさん達の元に戻ります。ギリーマントを早く完成させないと。それじゃ」
リーシアを見送るヒロ……その姿が見えなくなった時、おもむろに声を上げる。
「さあ皆さん、休憩は終わりです。次の作業に移りますよ」
すると一部始終を隠れて見ていた土木チームのオーク達が、一斉に堀の中から這い上がりヒロの元に集まる。
「同志ヒロ……アソコは攻め時だぞ!」
「守ったらダメだべ! 男がだったら覚悟を決めて、攻めとくべ」
会話内容は分からないが、ヒロとリーシア……二人のいい雰囲気にオーク達が気を遣ってくれていた。
「皆さん、堀の下で隠れて見ているのは、あまり良い趣味ではありませんよ」
「二人がいい雰囲気だったのでな、皆で待機しておったのだが、気づいていたか?」
「気づかないわけないでしょう! あれだけいた皆さんが、視界から一斉に消えたら、分かりますよ!」
無論、姿が見えなくなっただけでなく、気配察知スキルで見えない堀の中に蠢く気配にヒロは気づいていた。
完全にデバガメと化すオーク達に、ヒロは怒る気はなかった。見られて困る事はするつもりは最初からなかった。だからこそらヒロはオーク達を放っておいたのである。
「さあ、急ぎますよ! 今日中にオーク砦を完成させなくてはなりませんからね! 気合を入れていきますよ! ジークポーク!」
「「「ジークポーク!」」」
〈ヒロとリーシアのムフフ度が上がった時、オーク砦建設が終盤を迎えようとしていた〉
オーク砦の建設中に、突如バグったヒロ……アリアを始めとする奥様方とギリーマントを作成していたリーシアの元に、オーク達から火急の知らせが入った。
ヒロさんが突如狂ったと……そうアリアが地面に書いた文字を見たリーシアは、アリア達の静止を振り切って、オーク砦建設予定地へと走っていた!
普段から怪しい動きをするヒロが狂った……これ以上の面倒事は御免ですと、リーシアはヒロの元へとひた走る!
そしてオーク砦建設予定地でリーシアは見た! いや見てしまった!
「%#☆○! 〆^$☆! ÷〒%€! ☆*々:!」
何もない空間に手を掲げ、意味不明な言葉を……いや奇声を発し続ける、危ない男の姿を!
「ヒロ、一体何しているんですか!」
「÷〒%€! %#☆○! 〆^$☆! ☆*々:!」
ヒロの傍で声を掛けるリーシアの言葉は彼に届かない……一心不乱に何かの作業を繰り返し、奇声を上げ続けていた。
「こ、これは……仕方ありません。ヒロ許してください。決してあなたが憎いわけではありませんからね」
するとリーシアが軽くステップを踏み始めた。
かつて、母カトレアがリーシアに見せたステップを踏み、拳を打ち込むタイミングを測るリーシア……その目に煌めきの光が走った時! 体の捻りを最大限に活かした、カトレアが譲りの腰が入った肝臓打ちがヒロの右脇腹に炸裂していた!
「グボェェェ」
「あっ! やりすぎました! ヒロー!」
あり得ない声を上げながら崩れ落ちるヒロ……突如襲った無防備な脇腹への痛みで地獄の苦しみを味わう。
その場で崩れ落ち、想像を絶する苦痛でヒロが地面をのたうち回っていた。
つい力加減を間違え、本気パンチを打ち込んでしまったリーシアが、オロオロとヒロを心配する。
「な、何が、ぐあああぁぁぁぁぁぁ、脇腹がああぁぁぁぁ」
そして痛みで意識を取り戻すヒロは、引かない痛みにジタバタともがき苦しむ。
「ヒロ、元に戻りましたね? 良かった。ヒロの様子がおかしかったので心配しました」
「リーシア、な、何が……くうぅぅぅ」
まだ痛みが引かないヒロは、苦痛に顔を歪ませながらゆっくりと立ち上がる。
「だ、大丈夫ですかヒロ?」
「ええ、な、なんとか……しかし一体何が? たしか僕はオーク砦の石垣を作っていて……ダメだ途中から記憶がない。気がついたら、痛みで地面に倒れていた事しか思い出せない」
「へ、へ~、どうしたんでしょうね……私が来た時にヒロがここで苦しんでいるのが見えたので、私もよく分かりませんが……」
リーシアはヒロの記憶が飛んでいる事を良い事に、とぼける作戦に出た!
「いきなり脇腹に痛みが走って……どうなっているんだ?」
するとヒロが上着のシャツの裾を捲り、脇腹を確認すると、そこには拳大の痣が大きくできていた。
「ヒロ、オークヒーローとの戦いの傷が、まだ癒えていないのですね。い、痛いなら癒しましょうか?」
リーシアの目が泳ぎ始め、キョロキョロと挙動不審の姿にヒロが訝しむ。
「リーシア、どうしました?」
「な、なんでもありませんよ! さあ、膝枕してあげますから!」
リーシアがその場に座り込み、自分の太モモをペシペシ叩き、『バッチコーイ!』と、ヒロを誘うが……ヒロの目は、リーシアの手に注がれていた。
「ど、どうしましたか!」
ヒロの視線に気がついたリーシアは、両手を後ろ手に隠してしまう。
さすがにヒロも気付いていた……。
「リーシア……手を前にして、拳を作ってみましょうか」
「藪から棒に、突然どうしましたか?」
リーシアの目がバタフライ泳法みたいに、ダイナミックに泳ぎ出し、ヒロは確信した!
「リーシア……」
ヒロの低い声に、観念したリーシアは拳を作りヒロの前に差し出すと……脇腹に残る痣の跡と、拳がピッタリと合わさる。
動かぬ証拠を突きつけられたリーシアは、観念してヒロに謝る。
「ごめんなさい。ヒロの様子がおかしかったので、元に戻そうとして、力加減を間違えました……」
痛む脇腹をさすりながら、ションとするリーシアをヒロは見下ろしていた。
やり方は間違っていたが、おかしくなった自分を心配し元に戻そうとしてくれたリーシアを、ヒロは怒れなかった。
だが結果がどうあれ、リーシアは加減を間違え、ヒロ怪我をさせた事を悔いていた。
「リーシア……今回は、僕の様子がおかしかったのが原因ですから、怒ったりはしません。ですが、次からはもう少し穏便に事を成すようしてください」
「はい……」
「罰として、膝枕で癒してください」
するとヒロがリーシアの太モモに頭を乗せ、有無を言わさず癒しモードに入る。
リーシアもヒロの心使いを感じて、その言葉に甘えた。
「バッチリ癒します。ヒロ……ありがとう」
リーシアの手がヒロの顔に触れ、リーシアの肌の温もりがヒロの中にある痛みを取り去るが如く、痛みが引いていく。
「それにしてもヒロ……こんな大きい物、数時間でよく作れましたね?」
「はい。オークの皆さんとアイテム袋のおかげですね。これがなかったら、エクソダス計画は頓挫していました。女神セレス様に感謝です」
ヒロは腰に吊るしていたアイテム袋を手すると、リーシアに見せる。
「ん~? ヒロは女神教ではないですよね? なんで女神様に感謝するのですか?」
ギクリとするヒロの目が泳ぎ出し……ヒロの変化をリーシアは見逃さない。女の感が、コイツ何かを隠していると告げていた!
ヒロの顔に触れていた手が、両手でガッチリと固定される。それはまるで、万力を用いてキリキリと締め上げられるが如く、ヒロの頭を押さえつけていた!
「え~と、リーシアさん……なんか頭が痛いので力を緩めてくれませんか?」
「ヒロ。何を隠しているのですか?」
「隠すなんて、イタタタタ」
リーシアの万力が、徐々にヒロを締め上げていく……だがヒロは真実を話すわけにはいかない。
真実を話すとなると、マナの流れについて話す必要があり、女神との約束を破る事になるからだった。
しかも世界に崩壊の兆しがあり、その調査を女神セレス様、本人から依頼されたなんて……そんな荒唐無稽な話を信じろと言う方に無理がある。
普通に話せば、頭がおかしいのかと疑われるレベルなのだ。
だがリーシアの復讐と幸せと見つけるため、最後まで付き合うと約束したヒロは、マナの流れについてだけは伏せ、思い切って自分の事を話して見ようと思い立つ。
「リーシア……以前、僕は遠い国から旅する途中、この南の森に迷い込んだと話しましたよね?」
「はい。初めて会った時、知らない言葉を話す変態が襲いかかって来て、ビックリでした!」
リーシアがジト目でヒロを見下ろしていた。
「あの時の事は忘れてください! え~と、あの時、僕が話した遠い国とは、このガイヤの世界には存在しない国のことでした」
「え? まさか滅んだのです?」
「いいえ、滅んだりはしていません。今もなお存在しているはずです」
「ガイヤの世界にはないのに存在する? ヒロ……また私を、からかっていますか?」
ギリギリとリーシアの手に力が加えられ、顔が再び締め上げられる。
「アイタタタタッ! からかっていませんから! ここではない世界。つまりガイヤと異なる別世界……日本と言う国から、僕はガイヤにやって来ました」
「はい? ガイヤと異なる別世界? 日本? 何、馬鹿な話を……」
リーシアは、また自分をけむに巻くため、荒唐無稽な話でバグラらかそうとしているのだろうと、お仕置きの意味を込めて締め上げる力を強めようとするが……ヒロの真剣な面持ちに、ウソはついていないと悟る。
「日本にいた僕は一度死に、偶然この世界に迷い込んだ魂を、三人の女神たちに拾われ、生き返りました」
「え? ヒロ死んだのですか? そしてさらっと、とんでもない事を言いませんでした?」
ガイヤにおいて、女神が実在していることは公然の事実であり、当たり前の話である。
だがガイヤに住まう者が、女神に生きて会うことは決してない。
神託と言う名目で女神の声を聞ける神官はいても、女神に出会い、そのご尊顔を拝見した者は未だかつて誰もいないのだ。
神殿や教会で知られる女神の姿は、あくまで創作であり、こうであろうとする人々の思いの産物であった。
存在は認識しながらも、その姿は謎のベールに包まれた女神たち……身近にありながらも遠い存在。
もし本当に女神に出会えた者がいたとしたら……その人物はスーパースターである。
あらゆる国が大金を出して国に招き、その女神の姿とご尊顔を語っていただく公演会に引っ張りだこであろう。
「はい。死んだ時の事は覚えていませんがね。とにかく女神に生き返らせてもらった僕は、女神からある依頼されました」
「女神様に会えた事ですら凄いのに、頼まれ事をされたのですか?」
「そうです。ガイヤの世界に異変が起きているので、調べてほしいと……そして旅の助けにと、このアイテム袋を女神セレス様が渡してくれました」
手に持つアイテム袋を、再びリーシアに見せるヒロ。
「なるほど……そのアイテム袋は女神様の物だったのですね……あまりにも常識はずれな収納能力も、それならば納得です。それで異変の原因とやらは、分かったのですか?」
「それがサッパリですね。女神セレス様にアルムの町のすぐ近くに転移してもらってから今まで、生きるので精一杯でしたので……これから少しずつ調査していく予定です」
「分かりました。ヒロは女神セレス様に、アイテム袋を直接授けていただいたから、感謝していたのですね」
「はい、このアイテム袋のおかげで大助かりしてますので、いつも感謝しています」
「それは良い行いです。時にヒロ……女神様達はどんな姿だったのですか? 私も女神教のシスターなので興味があります」
「女神様ですか? 僕があったのはセレス様だけですね。他の女神には出会ってません。セレス様はそうですね……10代の可愛らしい女神様でした。腰まである青い綺麗な髪を一まとめにしてまして、柔和な笑顔が見る者全てを優しい気持ちにさせる感じでした。あと泣き虫で、出会った早々、泣かれてしまい参りました……」
「出会った早々、女神に泣かれた?」
聞きづてならない言葉にリーシアの顔が引きつっていた。
「その後、ガイヤの世界でやって欲しい事があるとお願いされたのでお断りしたら……もっと泣かれました」
「え? もっと?」
「その後、一生懸命説明して説得されましたが……ゲームが存在しない世界に未練はないので、キッパリお断りしたら……号泣されました」
「女神様が号泣って、ヒロあなた一体何してるんですか?」
もし今の話が本当だとしたら、下手したら女神教の信者に八つ裂きにされても文句は言えない。
崇拝する女神の願いを断り、泣かしたと知れ渡れば間違いなく、女神教の暗部に殺される。
女神教……それは無彩男性中心の創世教より分たれた教えであり、女性中心の教えを伝える宗派であった。
女神を最高神としてする女神教は、女神至上主義であり女神を悲しませるなど言語道断! 女神に弓引くものは悪とみなされ、『女神・即・断』の名の下に断罪され、過激な女神至上主義者がトラブルを呼び込むことで有名だった。
とくに女神教に所属する男性信者の中には、少しと言うか……完全にイッちゃってる人も少なくない! 女神のためなら命を惜しまない、危ない輩を多数抱えているのだ。
そんな人たちに、『女神様に出会い泣かしました』と言ったらどうなるかは……想像に難たくない。
「最終的に調査を受ける事になりまして、泣き止んでくれました。最後は可愛い笑顔で送り出してくれましたよ」
その言葉を聞いたリーシアの手が、再びヒロの頭をきりきりと締め上げ始めた。
女神様と言えど、膝枕をしている最中に、他の女性を褒める言葉を聞かされて、リーシアの心は荒れていた。
戦いの経験はあれど、恋愛の経験は乏しいリーシアの心には、好きな異性が他の女性を褒める姿を、笑って許せる余裕がまだ備わっていなかった。
リーシアは、心の中に湧き上がる行き場のないドス黒い感情を、無意識の内にヒロへとぶつける。
「な、なんでですかリーシア! 僕は何か気に触れる事を言いましたか? イタタタタ」
「いえ……これは女神教のシスターして、女神様を泣かした罰を与えているのです!」
ヒロの頭を締め上げる正当性を主張するリーシア。
その顔を笑顔だったが、行動が共わなず、側から見たら異様な光景が垣間見られた。
「何にしても、ヒロが異世界の人間であり、女神様の願いで異変を調査している事は分かりました」
「リーシア……信じてくれますか?」
「信じるも何も、ヒロの今までの常識はずれな変態行動を見れば、何となく納得です」
数々のヒロ奇行を思い出して、それならば仕方ないと変な納得をするリーシア。
ヒロは信じてもらえたが、確実に変な納得をされ、粛然としないまま仕方なく話を続ける。
「ガイヤの世界に起こっている異変を調べ上げ、女神様に報告する……それが僕の旅する最終的な目的ですね」
「分かりました。でもヒロ……」
「なんですかリーシア?」
「……え~と、そう! 女神様に会ったことや泣かした話は絶対に他人にはしてはなりませんよ。特に過激派の女神教信者には絶対にです!」
「か、過激派?」
「彼らは女神様を崇拝するあまり、女神教の教えから逸脱してしまい、あまりにも度が過ぎた行動が、時として騒ぎを起こします」
「つまり?」
「女神様を泣かしたと知られれば、間違いなく絶対正義の名の下に、問答無用の『女神・即・断』で断罪です!」
「絶対に喋りません!」
リーシアの忠告に耳を傾けて、二度と女神の話は語るまいと誓うヒロ。
「何にしても、まずはエクソダス計画を成功させて、オークを救うことからです」
「ですね。さて、もう痛みはないですか?」
リーシアがヒロの脇腹を触るが、痛みはほぼなくなっていた。
彼女が持つ、聖女の癒しスキルによるオートヒールが、うまく効いたようだ。
「もう大丈夫そうです。リーシアありがとうございます」
ヒロは名残惜しいが、リーシアの太ももから頭を上げると、立ち上がり礼を述べる。
「どういたしまして。まあ私の所為なので、礼はいりませんよ。本当にごめんなさい」
「分かってます。このありがとうは、信じてくれたことに対してのお礼です。さて、それじゃあ僕は砦作りに戻りますね」
「……はい。じゃあ私もアリアさん達の元に戻ります。ギリーマントを早く完成させないと。それじゃ」
リーシアを見送るヒロ……その姿が見えなくなった時、おもむろに声を上げる。
「さあ皆さん、休憩は終わりです。次の作業に移りますよ」
すると一部始終を隠れて見ていた土木チームのオーク達が、一斉に堀の中から這い上がりヒロの元に集まる。
「同志ヒロ……アソコは攻め時だぞ!」
「守ったらダメだべ! 男がだったら覚悟を決めて、攻めとくべ」
会話内容は分からないが、ヒロとリーシア……二人のいい雰囲気にオーク達が気を遣ってくれていた。
「皆さん、堀の下で隠れて見ているのは、あまり良い趣味ではありませんよ」
「二人がいい雰囲気だったのでな、皆で待機しておったのだが、気づいていたか?」
「気づかないわけないでしょう! あれだけいた皆さんが、視界から一斉に消えたら、分かりますよ!」
無論、姿が見えなくなっただけでなく、気配察知スキルで見えない堀の中に蠢く気配にヒロは気づいていた。
完全にデバガメと化すオーク達に、ヒロは怒る気はなかった。見られて困る事はするつもりは最初からなかった。だからこそらヒロはオーク達を放っておいたのである。
「さあ、急ぎますよ! 今日中にオーク砦を完成させなくてはなりませんからね! 気合を入れていきますよ! ジークポーク!」
「「「ジークポーク!」」」
〈ヒロとリーシアのムフフ度が上がった時、オーク砦建設が終盤を迎えようとしていた〉
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