勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

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第12章 勇者とエクソダス編

第126話 風雲オーク城 中編

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「ジークポーク! 同志ヒロ、ちょうど良かったべ。言われた通り、溝を掘り終えたから、今から知らせに行くとこだったべ」

 河原から石切と採取を終え、オーク村に戻って来たヒロは、砦の土木監督を任せたオクタと、村の入り口で鉢合わせした。

「ジークポーク! 同志オクタさん、ありがとうございます。早いですね。助かります。僕らの方も河原での岩の切出しと、回収が終わりました」

 予想以上に早い、作業完了の報告を受けたヒロは喜び、二人で工事現場のある村の中心へと歩き出した。

「しかし、あんなデカい溝を掘ってどうするのだべ?」

「はい。これらかここに、砦を作ります」

「砦ってなんだべ?」

「戦うための建物ですかね?」

「建物で戦うべ?」
 
 建築技術に乏しいオークでは、せいぜい掘立て小屋を建てるのが関の山であり、それ以上の物は考えもつかない様子だった。

「皆さんが立て籠って戦う堅牢な建物ですね」

「ふ~ん、同志ヒロは、いろんな事を知っているべ」

「いえ、ゲームをやる上で得た知識ばかりですよ。それじゃあ、砦の基礎部分を作りましょう。溝を掘った後の土は?」

「言われた通り、脇に積んおいたべ」

 すると、ヒロの目に数メートルの高さに積み上げられた土の壁が見えてくる。

「お~、これだけの規模になると壮観ですね」

 ヒロの目の前には幅10m、深さ6mもある溝の姿が見えてきた。
 村の中心である広場に、三角の形で掘られた溝は1片が200mもある巨大なものだった。

「取り敢えず、やることがないから、土木班はみんな休憩にいれたべが、次はどうするべ?」

「基礎の土台作りの後、石垣作りで力をお借りします。それまではカイザーさんの水路作りに参加してください。ジークポーク!」

「分かったべ。ジークポーク!」

 オクタが挨拶すると自分も休憩に入るため、ソソクサとその場を後にする。

 一人残されてヒロは、早速土台作りを始める。

「さて、まずは積んだ土の回収からです」

 ヒロは腰に吊るしたアイテム袋の口を、積みげられた土に触れさせると……突如、ヒロの前から土壁が消え去ってしまう。だが全てが消え去った訳でなく、半径3mの土壁だけが消えていた。

「うん。やっぱり検証どおりだ!」

 ヒロは自分の検証結果の正しさに喜んでいた。

 ヒロは砦を建造する際に、一番の問題……大量に必要な土や岩、そして木材をどう調達するのかと頭を悩ませた。
 少ない労働力で最短の方法を思考した時、このアイテム袋の検証に至り、実証実験を繰り返した。
 結果……アイテム袋の新たなる特性が分かり、ヒロはさっそく砦建設に乗り出したのだ。

 実証実験において1番の収穫は、所有権のない自然物は回収できないが、一度でも自然な状態から形を変えた物は、所有権が他者になければ回収できる事だった。

 つまり、大地にアイテム袋の口をつけても収納はできないが、掘り起こすなどの何かしらの手が加われば、半径3m以内の物を回収できる事を発見したのだ。

「良し! 一気に回収だ! Bダッシュ!」

 ヒロはBダッシュで、次々と土を回収していき、ものの5分で総計600mもあった大量の土壁を、アイテム袋に回収し終わってしまった。

「さて、次は盛土ですね」

 ヒロが溝の内側の大地に立ち、今度は端から順にアイテム袋に回収した土を出していく。
 ヒロは、右手でアイテム袋のメニューを操作し、かざした左手から土を次々と放出していく。
 その勢いは凄まじく、放水車から水を撒くかの勢いで吹き出し、ものの30分で盛土をヒロは終えた。

「こんなものですかね? 一応、地固めは、やっておくかな」

 ヒロがアイテム袋を操作すると、ヒロの掲げた手の前に、巨大な岩が出現し、ドシンと大きな音を立てて地面に落ちた。

 あらかじめショートソードで下面を切り裂き、平にした巨大な岩が、自重の重さと落下による加速で地面を踏み固める。

「手のひらの向きと位置で、収納アイテムの出現場所がコントロールできると、使い方に幅が出て便利だな」

 再びアイテム袋に岩を収納し、出現させること数百回、40分掛けて盛土の地固めが終了した。

 そこには元の地面より、高さ6メートルも地表から盛り上がった大地が完成していた。

「ふ~、土台はこんなとこですかね。次に石垣作りですね。人手が要ります……土木組に戻ってもらいましょう。その間に、僕は木こり組の切り倒した木材を回収してきますかね」

 ヒロは近くにいた連絡役のオークに、水路組に合流せた土木組に、再びこの場所に集合して欲しいことを伝えると、Bダッシュを駆使して伐採組のいる場所へと急ぐ。

「ジークポーク! オク次郎さん、伐採はどうですか?」

「ヒロか~、ジ~クポ~クだべ~、予定通り伐採は終わったべ~」

 オク次郎が指差す方をヒロが見ると、伐採された丸太が所狭しと、切り倒された巨大な空間がそこにあった。

「言われたおりにしたべ~、伐採優先で切り倒した木は転がしたままだべ~」

「はい。それで問題ありません。では、次にココと村の間に罠を仕掛けてください。場所は……」

 ヒロが落ちていた木の枝を持つと、地面に地図を書き出していく。
 かなり綿密な地図を描くヒロは、その地図に罠の場所記していく。
 
 アイテム袋に続いて、オートマッピングスキルの検証もヒロは行っていた。

 その際、簡易MAPに表示された地形に、自由に文字や印が書き加えられる事に気がついた。
 これは踏破した地形であれば、どこに何があるかを、手動で追加コメントを入れられるのである。

「この印の付けた場所に、落とし穴をお願いします。その穴の中には、先を尖らした細い木の杭を二本程立てておいてください」

「あ~、分かったべ~」

「あと、罠の場所や地形を皆で覚えておいてください。ここにいる伐採組から、夜襲部隊を募ります。罠の場所や地形を把握している人から選抜しますから、皆に情報を共有してください」

 その言葉を聞いた周りのオークの戦士達が、ヒロの描いた地図を必死に頭に叩き込み始めた。

 オークの戦士にとって、この戦いは、一族の存亡を掛けた、文字通り命懸けの戦いであり、失敗は許されない。誰が選ばれるかは分からないが、選ばれるなら我が! 自分が! 俺が! っと、皆の気迫が見えるくらい、鬼気迫る様子でヒロの描いた地図を頭に叩き込んでいた。

「オク次郎さん、伐採組は罠組に変更しますので、罠作成をお願いします。僕は伐採した木材を回収して、村に戻ります。ジークポーク!」

「了解だべ~、ジ~クポ~クだべ~」

 オク次郎の返事にヒロが手を上げて答え、手にアイテム袋を持つと、地面に乱雑に転がる切り倒された木を次々とBダッシュを使って回収していく。

 数百あった木が、20分もしない内にアイテム袋に回収された時、その場には巨大な長方形の空間が出来上がっていた。

 森の中に急に視界の開けた空間が現れ、違和感がことさらに強調されていた。

 不自然に目立つ空間……怪しさ爆発である!

 だがそれこそが、ヒロの策だと言うことに気づいた時には……あとの祭りである。

 ヒロは回収が終わるなり踵を返し、オーク村への帰路へとつく。

「さて、村に戻る間に、アイテム整理をやっておかないと……」

 再び走りながら、発見したアイテム袋の便利機能を駆使し、アイテムソートを始めていた。

 膨大な同じ名前のアイテムをメニューに表示する際、検索窓が出現する事に、ヒロは気がついた。

 ヒロは検索窓に、尖った石と入力すると、大小様々な形状の尖った石が、アイテムメニュー内で自動的に分類されソートされていく。
 ソートが終わるとアイテムメニューの項目が、細かく分類され見やすくなっていた。

「武具なんかより、このアイテム袋の方が大助かりです。セレス様、ありがとうございます」

 所持アイテムの把握がしやすくなる、至れり尽くせりなアイテム袋の機能……ヒロは女神セレスへ感謝するのだった。

 ジャスト1時間、伝令役に言った通り、土木組が戻る時間までに、ヒロがオーク砦建設予定地に舞い戻ってきた。

「ジークポーク! 同志ヒロ。帰ったべか?」

「オクタさん、ジークポーク! 今、戻りました!」

「みんなちょうど揃ったとこたべ、次は何をすればいいべ?」

「チョット待ってください」

 するとヒロがアイテム袋の中から、ソートしておいた先が尖った小岩を、大量に足元へ取り出した。
 チョットした小石の山が、ヒロとオーク達の前に出来上がる。

「今から僕が、あの盛り上がった盛土の側面に、岩を積んで行きますから、皆さんは岩と岩の間の隙間に、この先が尖った石を詰めてください」

「隙間にだべな? 分かったべ」

 土木組のオーク達が、ヒロが取り出した尖った石を手に待機する。

「さあ……石垣作りも佳境ですね……あとは採取した岩を積んでいくだけですが……フッフッフッフッ、ついにお楽しみ「モノリス」の時間です! 久々にやり込みますよ!」

 モノリス……画面上方よりランダムに落ちてくる、様々な形のブロックピースを積み上げ、横一列に隙間なく揃えるとブロックが消え、得点が増えていくと言う、所謂いわゆる落ちものパズルゲーである。

 同時に消すラインが増えるほど得点が高くなり、最大4ラインをまとめて消す事を『モノリス』と言い、最大得点が与えられる。

 いかにして隙間なく、ブロックピースを的確に積み上げていくかが、高得点の鍵である。

 だが得点を重ねれば重ねる程、ブロックピースの落ちるスピードが上がり、最高スピードに達すると、もはや瞬間移動に近いスピードでブロックピースが落ちていく!

 そんな無理ゲー……と思いきや、意外にやれてしまうのが、このゲームのすごい所である。

 その秘密は、次に出現するブロックピースが、画面に表示される点である。
 瞬時にブロックピースの落とす場所と向きを判断し、無駄なくボタン操作することで、高速プレイが楽しめるのだ。

 これのおかげで、ライトユーザーからコアゲーマーまで、幅広い層が楽しめるゲームに仕上がっていた。
 
 元はある科学者が作成した教育用ソフトウエアーであったが、全世界で発売されると老若男女を問わず大ヒットを記録した。

 家庭用ゲーム機においては、携帯型ゲーム機『ゲームガール』のキラータイトルとして、424万本も売り上げ、ハードの普及に大貢献を果たした化け物である。
 
 シュールな背景と音楽、独特の重みのある効果音、最後に登場する謎のサルなど……強烈なイメージをゲーマーに与えた。

 単純ゆえに奥が深い、落ちものパズルゲーの元祖、それが『モノリス』だ!

 ヒロはアイテム袋のメニューを開きながら、巨大な三角形に掘り抜いた溝の底に降り立つと、メニュー画面に表示された分類済みの岩の項目を選択する。

 一番上にあった岩の形が表示されると、ヒロは手のひらの向きや形を調整して、岩を目の前に出現させて地面に落とす。
 
「さあ……やりますよ! 我が懐かしのモノリス! 久々に高得点を叩き出します!」

 するとヒロは、メニュー画面を高速に操作しながら、次々と岩を出しては積み上げて行く!
 その手から現れては落ちる姿は、さながら土魔法を使う魔法使いが如き光景に、土木組の皆は唖然としてしまった。

 ものの1分と掛からず、2mを越す岩の壁がヒロの立つ場所に完成したのである!

 完成した瞬間、「モノリス!」と声を上げるヒロ!
 4列同時消しに成功した際の掛け声を、つい癖で声に出してしまう。
 元の世界でも、モノリスプレイ中に、よく声を出していたものである。

 完成した岩壁に見向きもせず、すぐに横方向へBダッシュを使い、瞬時に移動すると再び岩を積み上げ始める。
 繰り返し続けられる作業で、次々と石壁が作られていった。

「モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス、モノリス」

 現場に響き渡るヒロの声に、土木組オーク達が狂気を感じ始めてしまった。

「モノリス! モノリス! モ#リス! #%#リス!  %#☆○! 〆^$☆!」

 最初の頃は問題なく、モノリスの声が少し聞こえる大きさの声だったが……今や奇声に近い大声で叫ぶヒロに、オーク達が引いていた。

「だ、大丈夫かアレ?」

「顔が破顔しまくって、笑顔を超えて不気味な顔しているな?」

「声をかけた方がいいんじゃ?」

「いや、止めておけ。もしかしたらアレが普通なのかもしれないし」

「だな。俺たちは言われた通り、岩と岩の間に小石を詰めていくぞ」

 自分たちのために働くヒロに、『大丈夫ですか?』などと、失礼な事が言えず、仕方なくソッと好きなようにさせるポーク達……。
 
 そして土木組のオーク達が、岩壁に空いた隙間を埋める作業を始めてから4時間……ついに石垣部分は完成した!

 高さ15m、1片の長さ200m……巨大な正三角形の石壁が、村の中心に完成していた。

「#%#リス!  %#☆○! 〆^$☆! ÷〒%€! ☆*々:!」

 だが、石垣が完成したにもかかわらず、ヒロの奇声は止まらない!

 久々の疑似ゲームの感覚に、抑圧されたゲーム脳が解放され、歯止めが効かなくなっていた。

 アイテム袋内にある採取した岩を全て使い終わっていたが、ヒロの動きと奇声が終わらないのだ!

 バグッた脳が、思考の無限ループを繰り返し、何もない空間に空想の岩を出現させ、幻の岩壁をヒロの脳内で完成させ続けていた!

 永遠に終わらないモノリスに、幸せを感じたヒロの脳が、モノリスのエンドレスモードに入ってしまった。

「これは参ったべ……明らかにおかしいべ?」

「狂っているな」

「危なくて近づけん」

「お~い、もう完成したべ? 聞こえてないべ?」

 何もない空間に手をかざし奇声を上げるヒロに、危険を感じたオクタが声を掛けるが反応せず……奇声が止まる気配がまるでない。
 
 狂気をすら感じるヒロに、ポーク達はドン引きしていた。

 仕方なくオクタは、バグッたヒロを直せるであろう人物の元へ、駆け出すのであった。

〈バグッた希望に、必殺の腹パンチが打ち込まれ、強制リセットが入った!〉
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