勇者ですか? いいえ……バグキャラです! 〜廃ゲーマーの異世界奮闘記! デバッグスキルで人生がバグッた仲間と世界をぶっ壊せ!〜

空クジラ

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第12章 勇者とエクソダス編

第120話 始動、エクソダス計画!

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 広場を埋め尽くす600人を超えたポークの民、大人も子供も関係なく皆が荷物を持ち、長が現れるのを待っていた。

 希望に満ち溢れる者、笑顔の者、悲しげな顔の者、泣く者、さまざまな感情が広場に渦巻き、混ざり合った思いが熱を帯びていた。

 そして待ちに待った族長カイザーが広場に現れるとら割れんばかりの歓声が上がる。
 皆より一段高い壇上へと上がったカイザーは、広場にいる600人の姿を見渡した。

「皆の者、時は来た! 我らポーク族は、今より明日へと歩み出す! 今さら皆に言うことは何もない。皆が選び選択した明日なのだから! だが、あえて皆に言わせて欲しい! 死に行く者よ、自分の勇気を誇れ! 生きし者よ、命を繋げ! 旅立つ者達よ、恐れるな! 明日の希望のために今を捨てる勇気を持て! 皆の者、さあ、行くぞ! ジークポーク!」

「生きてやるわ!」

「せいぜい華々しく散ってやろう!」

「やってやる! 一人でも多く助けるためにら一人でも多くな!」

「必ず新天地でパコパコしてやる!」

「だれかソイツを黙らせろ!」

「うお~!」

「ジークポーク!」「ジークポーク!」「ジークポーク!」

「ジークポーク!」「ジークポーク!」「ジークポーク!」

「ジークポーク!」「ジークポーク!」「ジークポーク!」

 三者三様の思いを込めて、オーク達の声が広場に響き渡る。

「ヒロ……マインドコントロールは、本当に解けているのですか?」

「そのはずです。少し影響が残っちゃいましたかね? まあ合言葉程度の使われ方なら問題ないでしょう」

 リーシアがオーク達の瞳に映る精彩を確認する。

「以前のように、目が暗く濁ってはいませんから、大丈夫そうですが……」

「リーシアは心配性ですね。イテテッ」

 横に立つリーシアが『ムッ』とした表情でヒロの頬を軽くツネッてきた。

「全部ヒロの所為せいですからね? 自覚してください」

「ごめんリーシア」

「分かればいいです」

 するとリーシアがツネっていた指を離し、軽く頬をなでていた。

「ヒロ~!」

 カイザーが各々に指示を与えている間、暇を持て余したシーザーがヒロの元に駆けて来る。

「シーザー君、もう出発の準備はいいのですか?」

「うん、もう持ってく物はまとめたよ。それより聞いてよ! 俺、父上から役目を与えられたんだ」

「おっ、どんな役目ですか?」

「皆を西の平原まで安全に案内する役目だよ!」

 オーク村から、西の獣王国に辿り着くには広い森を抜ける必要があり、森の地理に詳しくないと迷ってしまう。現にヒロもリーシアと出会うまで、三日も南の森を彷徨っていた。

「大事な役目ですね」

「へへっ! 前に父上と夕日を見た時に、安全な森の抜け道を覚えてたからさ、父上が俺にその役目を託してくれたんだ! 俺、頑張るよ!」

「そうですか……シーザー君、頑張ってください」

「うん。でもヒロも頑張ってね」

「はい。僕も頑張ってエクソダス計画を成功させますよ」

「違うよ!」

 するとシーザー君が隣でヒロとシーザーのやり取りを見守っていたリーシアをチラリと見る。

「リーシア姉ちゃんと早くパコパコできるといいね!」

「え? ちょっ、僕とリーシアはそういう関係では」

「ん? ヒロどうしました? そういう関係ってなんの話ですか?」

 言葉が分からないリーシアがヒロの言葉に疑問を抱き話に割り込んでくる。

「いや、なんでもありませんよ。リーシアさん!」

「怪しいですね……また良からぬ事を企みましたか?」

 リーシアが拳を握り、ヒロへにじり寄る。そんな二人のやり取りを見てシーザーは笑っていた。

「あははははっ、あっ! 出発するみたい。先頭に行かなきゃ、ヒロじゃあね~」

「さようならシーザー君、またどこかで会いましょう」

「さようならです。アリアさんを困らしちゃダメですよ」

 シーザーが笑いながら手を振りアリアの元に走って行く。
 遠くからヒロとリーシアに気づいたアリアが、手を振ってくれた。

 ヒロとリーシアも一生懸命に手を振り、二人の姿が見えなくなるまで振り続けた。

 400名のポーク族がシーザーの案内の元、広場から去って行く……二度と戻らない旅立ち。
 だが旅立つ400人の誰もが泣いていなかった。広場に残る200人の者達も……誰一人として泣く者はいなかった。
 
「さあ死に行く者よ、手はず通り動くとするぞ。人族をここに集め、我らの死を持ってオーク族は全滅する。明日のために、華々しく死んでやろう!」

「おうよ」

「一人でも多く倒して誉れとしよう」

「腕がなるわい」

「任せろだべ~」

 オークの戦士達がカイザーの言葉に声を上げる。

「森に牽制に出る者と、村を偽装する者に分かれるぞ」

「「おう!」」

「森の者はできるだけ深追いはするな。死に場所はこの村だからな」

「任せろ」

 森の戦闘に長けた戦士達50名が、武器を手に森へと歩き出す。
 その足取りは軽く、これから死地に赴くとは思えない程落ち着いていた。
 死を恐れない、死を覚悟した死兵が森へと歩き出す。

「村を偽装する者は、家を壊し森で狩っておいた獲物の血を地面にばら撒け! できれば我らが共食いして、数を減らしたように肉片や骨をばら撒くのを忘れるなよ? ヒロはアイテム袋から、各場所に獲物を出してくれ!」

「死体を槍で突いて、血をまき散らすだけの簡単な仕事だ」

「すぐに終わらせてやる」

「分かりました。あと人族にオーク達が狂って共食いを始めた情報を流します。これでオークの数を労せず減らせると、行軍を止めるはずです」

「これでアリア達が逃げる時間が稼げるな……よし、オーク族最後の時だ。オークのオークによるオークのためのオーク大量虐殺ジェノサイド作戦を開始するぞ!」

「おう!」

 ヒロとオーク達は、明日へ向かって走り出すのだった。


…………


「ナターシャさん、ヒロからメールです。オーク達が突如狂いだし、共食いを始めたと」

「なんですって⁈」

「理由は分からないそうです。突如オーク同士が争い殺し合いを始めたと……」
 
 ナターシャはヒロの不可解なメール内容に疑問を覚えた。

 森の恵み豊かな南の森で、オーク達の共食い……飢えによるものとは考えにくい。ナターシャは狂ったと言うヒロの言葉に疑問を抱いてしまった。

 あまりにも人にとって都合の良い展開に、作為的な何かをナターシャは感じていた。

 だが、ヒロがオークに味方する理由もない。逆に言えば、この状況はナターシャ達にすれば願ってもない状況であった。
 
「ヒロが何か企んでいる? ……まあいいでしょう。この勢いに乗らない手はないわ。乗っかっておきましょう。ドワルド指揮官に伝令を出しなさい」

 森を行軍する討伐隊1300人に朗報がもたらされた。
 ヒロからのメールは、討伐隊にとって貴重な情報をもたらしてくれた。

「なんだと! 本当か? だとすると、我らにとって願ってもないチャンスだ」
 
 討伐隊を指揮するドワルドは、もたらされた情報に両手をあげて喜んだ。

「これは上手くすれば半分位まで減ってくれるか? なら勝機は見えてくるぞ!」

「そうね、オーク500匹と250匹では難易度が違うわ」

「うむ、こちらは1300、5倍近い兵数ならなんとかなるやも知れん」

「森の中だけど、ここは行軍を休息に変えて、オークの数が減るのを待つのが得策かしらね?」

「うむ、オーク達も互いに戦い、疲弊するはずだ。そこを一気加勢に責め立てれば、数の問題は何とかなりそうだ!」

「でもそれだと、捕まっている者達が危ないわ。できれば少数精鋭で先に救出しないと」

「馬鹿な事を言うな! たった二人の命のために、貴重な人員を割けるか! 情報には感謝するが、救出するかどうかは別だ。我々は、オークヒーローと全てのオークを討伐しなければならないのだぞ。今は一人でも兵が必要なのだ」

「そうね……でも……」

 そこでナターシャは言葉を途切れさせてしまった。

 オークヒーローに勝てる可能性のある勇者ヒロが……捕まっていると、言う事ができなかった。
 ドワルドの言う通り、オークヒーローを倒しても、残ったオーク達も全て討伐しなければならない。

 そのために、貴重な人員を失うかもしれない危険な救出作戦を、無理に提案する事がナターシャにはできなかったのだ。
 それはヒロと名の知れぬ兵士、そのどちらも同じ重さの命だからだった。

「オーク村襲撃時に、救出に向かうのは許可してやる。今はダメだ! いいな?」

「……分かったわ。じゃあ今日は村の少し前まで行軍して、夜営で良いかしら? 攻撃は明日の朝と言う事で?」

「ああ、それでいい。明日はオーク共との決戦だ。全兵に英気を養わせろ」

 ドワルド指揮官との話を終えた冒険者陣営に戻ってきたナターシャに、ケイトが声を掛ける。

「ナターシャさん、どうでした?」

「今日はもう少し行軍して、野営に入るわ。オーク村を攻撃するのは明日の朝よ……」

「そんな……ヒロさんとリーシアさんが危険な状態なのに、せめて私たちだけでも救出に」

「ダメよ。先行して救出部隊を出すことは許されなかったわ。命令を無視すれば私たちは罰せられてしまう。今は信じて待ちましょう。ヒロとリーシアちゃんの無事を……」

 歯痒いが今のナターシャ達には、ヒロ達の無事を祈ることしか出できないのであった。

〈二人を信じて安否を心配するナターシャのすぐ近くで……希望がウロチョロと暗躍をはじめた〉
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