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第11章 勇者とオーク編
第112話 アリアとオークと童貞戦士!
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オーク村の朝は早い……村人は、日の出と共に目を覚まし活動を始める。
雄は狩りの準備と、夜間の見張りをしていた者との交代。雌は食事の支度に始まり、掃除、洗濯、子供の世話と、誰もが慌ただしい朝を迎える。
そんな中、朝の食事を終えたオークの雄たちは、狩りのために家を後にする。
村のオーク達は、狩りの分担をすべく、まず広場に集まり集会を開くのが日課となっていた。
朝食を終えたオーク達が、次々と広場へと足を運ぶ。
そして集まった皆が、広場で目撃する事になる。
戦士ヒロと族長カイザーが、一晩中土下座したまま寝ている姿を!
「まんず……一晩中、土下座してたべか?」
「あの格好でよく寝られるな……」
「あ~あ、空の器があんなに……まさが土下座したまま飲み食いしたのか? 器用だな」
「父ちゃん! 族長のあの格好なに~? 俺もやる!」
「私も!」
子供達は面白がって、ヒロとカイザーの格好を真似て笑い合う。
「こら! お前らやめないか! しかし困ったな……二人共そろそろ起きてくれんと……今日の指示が遅れてしまうぞ?」
オーク村では毎朝広場に集まり、村のスケジュールを族長が決め、それに沿って1日を過ごす。
族長が不在の場合は、族長補佐である最古参の長老が指示を出すのだが……広場で酔い潰れる族長がいる以上、長老に指示を仰ぐわけにはいかない。群れのボスは一人だけだからだった。
「起こせばいいべ?」
あとから来たオークが至極当たり前な事を言うと、先に来ていた者達が困った顔をした。
「それがな……声を掛けても起きんのだ。完全に酔い潰れとる」
「あちゃ~、オーク酒の原酒ツボしかないぞ。この二人、水で割らずに飲んだのか? 死ねぞ!」
「こりゃ~、叩いても起きそうにないな」
木の棒でヒロとカイザーはツツク子供達……だが、万歳土下座したまま二人は目覚める様子がない。
そうこうしている間に、朝の支度を終えたオーク達がぞくぞくと広場に集まり、ヒロとカイザーを中心に、人垣ならねオーク垣ができ始めていた。
「どうしましたか?」
すると、オーク垣をかき分けて輪の中心に、二人の女性と子供が一人、周りにいたオークに声を掛けてきた。
「おお、奥方様! 丁度良かった。族長と戦士ヒロが酔い潰れていて……起こしてもらえないか?」
「酔い潰れて? ちょっと失礼します」
輪の中心で万歳土下座のまま酔い潰れる二人に、妻アリアとパーティーメンバーのリーシアが近づいて見下ろす。
「な、情けない……族長ともあろう者が……まったく!」
「ヒロ……土下座しながら寝る人なんて、初めて見ました……よく寝られますね?」
憤慨するアリアに、呆れるリーシア。二人が互いのパートナーを起こしに掛かる。
取り敢えず、声を掛けても意味がないと悟った二人は、それぞれの肩を揺するが反応はない。
ならばと強引に体を揺すってみるが、起きる気配はなかった。
続々と広場に集まり出す村人達……さすがにこれ以上の醜態はマズイと思ったリーシアが、ヒロの耳元に口を近づけて甘く囁く……。
「ヒロ、お願いです♪ 起きてくれないと腹パンチですよ♪」
「はい! 起きました! バッチリです! リーシアさん! おはようございます!」
飛び起きからの、ジャンピングモーニング土下座をヒロが決める。土下座の歴史に、また新たなるページが刻まれた瞬間だった!
「最初から素直に起きてください。次は問答無用で起こしますからね?」
「リーシアさん! すんませんでした!」
「どうしたんですか? 『さん』は入りませんよ」
「はい! リーシア……以後、気を付けます!」
「はい。じゃあ馬鹿な事しないで、これで顔を拭いてください」
「ありがとうございます」
リーシアから水で濡らしたタオルを渡され、ヒロが顔を拭いていると、突如、横で殺気に似た何かが膨れ上がり、ヒロとリーシアが反応して身構える!
ヒロとリーシアの視線が殺気に似た何かを感じた方に顔を向けるとそこには……殺気に似た何かをまとったアリアと、震えながら土下座するカイザーの情けない姿が見えていた!
「す、すまん! 許してくれ! つい飲み過ぎて酔い潰れただけでだな……」
アリアの殺気に似た何かに当てられて目を覚ますカイザー……言いわけが、言いわけになっていない。まさにダメ親父の言い訳に最強の漢の風格はどこにもなかった。
「あなた……度が過ぎるようなら、家から出て行ってもらいますからね!」
「待ってくれ! それだけは! 家なき族長など、族長として皆に示しがつかなくなる! 許してくれ!」
情けない夫の姿に、怒りを露に仁王立ちするアリア……ペコペコ頭を下げるまくるカイザー。
周りのオーク垣にいた者達が、カイザーの哀れな姿に、同情する者まで現れ始めた。
「母ちゃん、族長って最強なんだよね?」
「シッ! 見ちゃいけません」
「いいか? 最強だが、族長にだけは憧れるなよ」
「分かったよ父ちゃん! 俺も、ああはなりたくないし!」
オークの子供達に、後ろ指を指される最強の漢の姿を見たヒロの脳裏に、未来の自分が一瞬よぎる。ああは成るまい……顔を拭きながら横目でリーシアの横顔をヒロが覗く。
「どうしましたか?」
「いえ、何でもありません」
視線に気付くリーシアに、ヒロがとぼける。
「今回だけは許しますが、あなた……次はありませんよ!」
「分かっている。以後、気をつける」
ようやくお許しが出たカイザーが、立ち上がり皆に声を上げる。
「さあ! 皆の者、待たせてすまん! 今日の役目を決めるぞ!」
威厳たっぷりに言い放つカイザー……だが誰もが微妙な顔をしていた。
子供達は、カイザーの言葉を真似ながらペコペコしている……ダメ親父ここに極まり! カイザーの株価ストップ安は、今日も止まらなかった!
「きょ、今日は戦士ヒロからエクソダス計画に必要な話を説明してもらい、その計画に沿って皆に動いてもらいたい!」
「む? 戦士としては受け入れるが、やはり人族だぞ? 本当に信じていいのか?」
「だな~、族長が負けた以上、話は聞いてやるが従うかはどうかは別だ~」
「人族なんて誰も信じないわ! 私の夫を殺した人族なんて!」
カイザーの言葉に、やはり一部のオーク達が声を上げて否定的な意見を上げる。
特に身内を人族に殺されたオーク達の反発が強かった。
「これは族長命令だ! 昨日の戦いでヒロは戦士として認められたはずだ!」
「戦士としては認めても、オーク族としては認められん! 村を歩くのは許そう! だが戦士ヒロの言葉を飲む事はできん!」
「そうだ! 人族が攻めて来るのに、人族であるヒロの話を聞くなど……」
「そうだ! 騙されるな! きっとコイツらは俺達を裏切る! なら今の内に殺してしまえ!」
「そうだな! いくら強いと言っても、それは1対1の場合なだけだ! 族長と全員で戦えば負けるはずない!」
ヒロの話に耳を貸す事はできないと、集まったオーク達から、少しずつ声が上がり始め、二人を殺せと声が上がり始める。
あまり良くない雰囲気にリーシアは気づくが、言葉が喋れない彼女は、ただ口を閉じ歯を噛み締める事しかできなかった。
負の感情が渦巻く中、ヒロの役に立てない自分を攻めるリーシア……そんな様子を見かねて、アリアが声を上げる。
「待ってください! 確かに戦士ヒロと、このリーシアさんは人族です。ですが私の息子、シーザーを助けてくれた恩人でもあります。本当に裏切るなら、息子を助けたりなどしないはずです!」
「人族は敵だ! 私の夫は人族に殺されたんだ! 殺された心の痛みがお前に分かるもんか!」
「分かりますよ。私の両親は人族に殺されましたから……そして私の泣き叫ぶ姿を見て笑いながら……両親を解体しました」
「アリア、止めよ!」
妻の悲痛な顔にカイザーが話を止めようとするが、アリアは首を振り拒絶する。
「構いません。アナタにも話していませんでしたが……アナタに助けられた時、人族は食事をしていたでしょう? あの肉は……私の両親でした。解体されて人に食べられていたのよ」
それを聞いていたオーク達が、ヒロとリーシアを憎しみの目で睨む。
「……な、なら分かるはずよ! 人が憎いこの気持ちが!」
「分かりますよ……私もつい最近まで人族なんて居なくなれと、思ってましたから……でも、息子を助けるため、私達オーク族を救うために、一生懸命な人族の二人と接して気づきました。人族の全てが私達を殺したいわけではないことに」
「な、何を……そいつらは私の夫を、お前の両親を殺したんだよ!」
「でも、この二人が殺したわけではないです」
「違う! コイツらは……人族は私達を食べるために殺すんだ! 殺さなければ、いつか私達が殺されてしまう!」
「殺さなければ殺されてしまう? なら私達も殺されなければなりませんよ? 私達も狩りで獲物を殺して食べますよね? 獲物からしたらオークはさぞ憎いでしょう」
「狩りの獲物と私達は違う!」
「同じです。獲物もオークも人も……みんな同じ命を持っています。私達は生きるために、他の命を犠牲にして生きなければなりません。命は永遠には生きられない。必ずいつか滅びます」
「なら……なら何で私達は生きなくてはならないの! 食べられるために生きろって言うの!」
「違います。生きた証を残すために生きるのです」
アリアが優しい目で息子シーザーを見る。
「アナタの息子さんはたしか……」
「ええ、成人して家を出て行ったわ」
「そう……アナタは立派に育て切ったのね。凄いわ。私はまだ子育ての途中だから偉そうな事は言えないけど、これだけは言えるの。子供が成人するまでは生きて……そして命をつなげなければって……」
「命をつなぐ?」
「子供を産んで初めて分かったわ。親の気持ちが……でもその気持ちは、私達だけじゃない。全ての種族に共通する感情なんだって……。姿や形、言葉は違ってもオークと人は同じなのだと、命と心を持った、同じこの大地に生きる者だと……。確かに人族は私達を殺して食べますが、それは生きるための戦いであり、生きた証を残す行ためであるだけです。生きるために殺す事は罪でないのよ」
「生きるため……」
「それだけじゃないわ。生きるために抗う事もね。だから私はヒロさん達の策に協力します。だってこのままでは、私達の村は滅んでしまうのでしょう?」
「たとえ死に絶えようが、最後一人まで戦うのが我らオーク族だ!」
「そうだ! 敵を前にして逃げるなど!」
若い一部の戦士達が騒ぎ始めた。血気盛んな年頃の戦士達は、戦いで死ね事こそ誉れとする。特に最近の子は滅びの美学に傾倒しており、どうせ死ぬなら潔く、カッコいい死に方を望んでいた。
だがそんな戦士達の言葉を、アリアがバッサリ両断する!
「童貞戦士が笑わせないで頂戴!」
「ど、童貞なんかじゃ……」
「あ、ああ、童貞じゃ……」
「童貞って……今は関係ないよ!」
アリアの童貞戦士の言葉に反応する若いオーク戦士達……。
「雄ですらない、お子様な坊や達。せめて子供を産んで育て切ってからその言葉を吐きなさい! まあ、成人した子供を持つ戦士は、そんな言葉使わないわね」
「がはっはっはっはっはっ! 童貞戦士か? 違いない!」
「ヒッヒッヒッヒッ! ど、童貞戦士! た、確かに!」
「フッハッハッハッ! 確かに童貞戦士でないと吐けない言葉だな!」
アリアの言葉に顔を赤くする若い戦士と、笑い出す古参のオーク達。
「アリア殿の言うとおりだ。我らが生きた証を殺させるわけにはいかんな! いいだろう。我ら老戦士、既に脱童貞だ! 最後の命、オーク族のために散らしてやろう! いいな皆の者!」
「おうよ!」
一斉に上がる古参戦士の賛同の声……若い戦士たちはアリアの言葉に何かを感じ、気のあるあの子に視線をチラチラする。それを見て何か青酸っぱい物を感じる大人のオークたち……。
「私たち雌は、精々生き抜いてやるわ! 子供が成人する迄は死ねないからね! 逃げる算段なら乗るわよ!」
「そうさね、雄じゃ、炊事洗濯もありゃしない。子供達に教えて命をつながなきゃ」
「私ら雌は最初から逃げる気マンマンだよ! さあ早く指示を出しな! グダグダ言う亭主がいたらケツを引っ叩いていうことを聞かせるからね!」
雌のオーク達が一斉に賛同する中、夫を殺されたオークが俯いてしまう。
「アリア……私は……」
雌オークの手を優しく握るアリア。
「お願い。子育ての先輩として私に教えてください。思春期の息子の叱り方を……うちの子がいくら言ってもイヤらしい悪戯が治らなくて困っているんです」
「母上! 僕は普通ですよ! 父上とは違います!」
「待てシーザー! どう言う意味だ!」
「アナタ達……はあ~」
「フッフッフッ、そう言う時はみんなの前で言っちゃうのよ。恥かしい悪戯の内容をみんなにね」
「やめてぇ母上! お願いです! それだけは!」
「なるほど……流石です。これからも色々教えてください」
「ああ、私に分かる事ならね」
広場にいるオーク達がアリアの言葉に感化され、ヒロ達を受け入れる雰囲気に変わっていく。
リーシアが広場の空気が変わった事に安堵し、顔を綻ばしながらアリアを見ると、笑顔で答えてくれた。
「戦士ヒロよ! もう我らはお前達を敵とは思わない! 仲間として、お前のエクソダス作戦の話を皆にしてくれ!」
カイザーの言葉に広場が沸く! 広場に集まるオーク達の熱狂がヒロに注がれていく。
「ヒロ!」
「リーシア……行ってきます」
明るい顔でカイザーの元に歩くヒロをリーシアは見送る。
アリアの言葉は分からずとも、場の雰囲気でリーシアは自分達がオーク達に受け入れるられた事を感じていた。
オークの協力とヒロの策……この二つが合わされば、きっと上手くいく。
リーシアは待つ、ヒロの言葉を……オーク達と共に進む、未来を夢見て!
カイザーの横に立つヒロ。オーク達が声を殺しヒロの言葉を待つ……咳払いをするヒロ、そして大きく息を吸い込むと、声を上げて話し始めた!
「聞け! 豚ども! お前たちは一匹残らず全滅しろ!」
「…………」
「ヒロのバカー!」
〈やらかす男が、本領を発揮した!〉
雄は狩りの準備と、夜間の見張りをしていた者との交代。雌は食事の支度に始まり、掃除、洗濯、子供の世話と、誰もが慌ただしい朝を迎える。
そんな中、朝の食事を終えたオークの雄たちは、狩りのために家を後にする。
村のオーク達は、狩りの分担をすべく、まず広場に集まり集会を開くのが日課となっていた。
朝食を終えたオーク達が、次々と広場へと足を運ぶ。
そして集まった皆が、広場で目撃する事になる。
戦士ヒロと族長カイザーが、一晩中土下座したまま寝ている姿を!
「まんず……一晩中、土下座してたべか?」
「あの格好でよく寝られるな……」
「あ~あ、空の器があんなに……まさが土下座したまま飲み食いしたのか? 器用だな」
「父ちゃん! 族長のあの格好なに~? 俺もやる!」
「私も!」
子供達は面白がって、ヒロとカイザーの格好を真似て笑い合う。
「こら! お前らやめないか! しかし困ったな……二人共そろそろ起きてくれんと……今日の指示が遅れてしまうぞ?」
オーク村では毎朝広場に集まり、村のスケジュールを族長が決め、それに沿って1日を過ごす。
族長が不在の場合は、族長補佐である最古参の長老が指示を出すのだが……広場で酔い潰れる族長がいる以上、長老に指示を仰ぐわけにはいかない。群れのボスは一人だけだからだった。
「起こせばいいべ?」
あとから来たオークが至極当たり前な事を言うと、先に来ていた者達が困った顔をした。
「それがな……声を掛けても起きんのだ。完全に酔い潰れとる」
「あちゃ~、オーク酒の原酒ツボしかないぞ。この二人、水で割らずに飲んだのか? 死ねぞ!」
「こりゃ~、叩いても起きそうにないな」
木の棒でヒロとカイザーはツツク子供達……だが、万歳土下座したまま二人は目覚める様子がない。
そうこうしている間に、朝の支度を終えたオーク達がぞくぞくと広場に集まり、ヒロとカイザーを中心に、人垣ならねオーク垣ができ始めていた。
「どうしましたか?」
すると、オーク垣をかき分けて輪の中心に、二人の女性と子供が一人、周りにいたオークに声を掛けてきた。
「おお、奥方様! 丁度良かった。族長と戦士ヒロが酔い潰れていて……起こしてもらえないか?」
「酔い潰れて? ちょっと失礼します」
輪の中心で万歳土下座のまま酔い潰れる二人に、妻アリアとパーティーメンバーのリーシアが近づいて見下ろす。
「な、情けない……族長ともあろう者が……まったく!」
「ヒロ……土下座しながら寝る人なんて、初めて見ました……よく寝られますね?」
憤慨するアリアに、呆れるリーシア。二人が互いのパートナーを起こしに掛かる。
取り敢えず、声を掛けても意味がないと悟った二人は、それぞれの肩を揺するが反応はない。
ならばと強引に体を揺すってみるが、起きる気配はなかった。
続々と広場に集まり出す村人達……さすがにこれ以上の醜態はマズイと思ったリーシアが、ヒロの耳元に口を近づけて甘く囁く……。
「ヒロ、お願いです♪ 起きてくれないと腹パンチですよ♪」
「はい! 起きました! バッチリです! リーシアさん! おはようございます!」
飛び起きからの、ジャンピングモーニング土下座をヒロが決める。土下座の歴史に、また新たなるページが刻まれた瞬間だった!
「最初から素直に起きてください。次は問答無用で起こしますからね?」
「リーシアさん! すんませんでした!」
「どうしたんですか? 『さん』は入りませんよ」
「はい! リーシア……以後、気を付けます!」
「はい。じゃあ馬鹿な事しないで、これで顔を拭いてください」
「ありがとうございます」
リーシアから水で濡らしたタオルを渡され、ヒロが顔を拭いていると、突如、横で殺気に似た何かが膨れ上がり、ヒロとリーシアが反応して身構える!
ヒロとリーシアの視線が殺気に似た何かを感じた方に顔を向けるとそこには……殺気に似た何かをまとったアリアと、震えながら土下座するカイザーの情けない姿が見えていた!
「す、すまん! 許してくれ! つい飲み過ぎて酔い潰れただけでだな……」
アリアの殺気に似た何かに当てられて目を覚ますカイザー……言いわけが、言いわけになっていない。まさにダメ親父の言い訳に最強の漢の風格はどこにもなかった。
「あなた……度が過ぎるようなら、家から出て行ってもらいますからね!」
「待ってくれ! それだけは! 家なき族長など、族長として皆に示しがつかなくなる! 許してくれ!」
情けない夫の姿に、怒りを露に仁王立ちするアリア……ペコペコ頭を下げるまくるカイザー。
周りのオーク垣にいた者達が、カイザーの哀れな姿に、同情する者まで現れ始めた。
「母ちゃん、族長って最強なんだよね?」
「シッ! 見ちゃいけません」
「いいか? 最強だが、族長にだけは憧れるなよ」
「分かったよ父ちゃん! 俺も、ああはなりたくないし!」
オークの子供達に、後ろ指を指される最強の漢の姿を見たヒロの脳裏に、未来の自分が一瞬よぎる。ああは成るまい……顔を拭きながら横目でリーシアの横顔をヒロが覗く。
「どうしましたか?」
「いえ、何でもありません」
視線に気付くリーシアに、ヒロがとぼける。
「今回だけは許しますが、あなた……次はありませんよ!」
「分かっている。以後、気をつける」
ようやくお許しが出たカイザーが、立ち上がり皆に声を上げる。
「さあ! 皆の者、待たせてすまん! 今日の役目を決めるぞ!」
威厳たっぷりに言い放つカイザー……だが誰もが微妙な顔をしていた。
子供達は、カイザーの言葉を真似ながらペコペコしている……ダメ親父ここに極まり! カイザーの株価ストップ安は、今日も止まらなかった!
「きょ、今日は戦士ヒロからエクソダス計画に必要な話を説明してもらい、その計画に沿って皆に動いてもらいたい!」
「む? 戦士としては受け入れるが、やはり人族だぞ? 本当に信じていいのか?」
「だな~、族長が負けた以上、話は聞いてやるが従うかはどうかは別だ~」
「人族なんて誰も信じないわ! 私の夫を殺した人族なんて!」
カイザーの言葉に、やはり一部のオーク達が声を上げて否定的な意見を上げる。
特に身内を人族に殺されたオーク達の反発が強かった。
「これは族長命令だ! 昨日の戦いでヒロは戦士として認められたはずだ!」
「戦士としては認めても、オーク族としては認められん! 村を歩くのは許そう! だが戦士ヒロの言葉を飲む事はできん!」
「そうだ! 人族が攻めて来るのに、人族であるヒロの話を聞くなど……」
「そうだ! 騙されるな! きっとコイツらは俺達を裏切る! なら今の内に殺してしまえ!」
「そうだな! いくら強いと言っても、それは1対1の場合なだけだ! 族長と全員で戦えば負けるはずない!」
ヒロの話に耳を貸す事はできないと、集まったオーク達から、少しずつ声が上がり始め、二人を殺せと声が上がり始める。
あまり良くない雰囲気にリーシアは気づくが、言葉が喋れない彼女は、ただ口を閉じ歯を噛み締める事しかできなかった。
負の感情が渦巻く中、ヒロの役に立てない自分を攻めるリーシア……そんな様子を見かねて、アリアが声を上げる。
「待ってください! 確かに戦士ヒロと、このリーシアさんは人族です。ですが私の息子、シーザーを助けてくれた恩人でもあります。本当に裏切るなら、息子を助けたりなどしないはずです!」
「人族は敵だ! 私の夫は人族に殺されたんだ! 殺された心の痛みがお前に分かるもんか!」
「分かりますよ。私の両親は人族に殺されましたから……そして私の泣き叫ぶ姿を見て笑いながら……両親を解体しました」
「アリア、止めよ!」
妻の悲痛な顔にカイザーが話を止めようとするが、アリアは首を振り拒絶する。
「構いません。アナタにも話していませんでしたが……アナタに助けられた時、人族は食事をしていたでしょう? あの肉は……私の両親でした。解体されて人に食べられていたのよ」
それを聞いていたオーク達が、ヒロとリーシアを憎しみの目で睨む。
「……な、なら分かるはずよ! 人が憎いこの気持ちが!」
「分かりますよ……私もつい最近まで人族なんて居なくなれと、思ってましたから……でも、息子を助けるため、私達オーク族を救うために、一生懸命な人族の二人と接して気づきました。人族の全てが私達を殺したいわけではないことに」
「な、何を……そいつらは私の夫を、お前の両親を殺したんだよ!」
「でも、この二人が殺したわけではないです」
「違う! コイツらは……人族は私達を食べるために殺すんだ! 殺さなければ、いつか私達が殺されてしまう!」
「殺さなければ殺されてしまう? なら私達も殺されなければなりませんよ? 私達も狩りで獲物を殺して食べますよね? 獲物からしたらオークはさぞ憎いでしょう」
「狩りの獲物と私達は違う!」
「同じです。獲物もオークも人も……みんな同じ命を持っています。私達は生きるために、他の命を犠牲にして生きなければなりません。命は永遠には生きられない。必ずいつか滅びます」
「なら……なら何で私達は生きなくてはならないの! 食べられるために生きろって言うの!」
「違います。生きた証を残すために生きるのです」
アリアが優しい目で息子シーザーを見る。
「アナタの息子さんはたしか……」
「ええ、成人して家を出て行ったわ」
「そう……アナタは立派に育て切ったのね。凄いわ。私はまだ子育ての途中だから偉そうな事は言えないけど、これだけは言えるの。子供が成人するまでは生きて……そして命をつなげなければって……」
「命をつなぐ?」
「子供を産んで初めて分かったわ。親の気持ちが……でもその気持ちは、私達だけじゃない。全ての種族に共通する感情なんだって……。姿や形、言葉は違ってもオークと人は同じなのだと、命と心を持った、同じこの大地に生きる者だと……。確かに人族は私達を殺して食べますが、それは生きるための戦いであり、生きた証を残す行ためであるだけです。生きるために殺す事は罪でないのよ」
「生きるため……」
「それだけじゃないわ。生きるために抗う事もね。だから私はヒロさん達の策に協力します。だってこのままでは、私達の村は滅んでしまうのでしょう?」
「たとえ死に絶えようが、最後一人まで戦うのが我らオーク族だ!」
「そうだ! 敵を前にして逃げるなど!」
若い一部の戦士達が騒ぎ始めた。血気盛んな年頃の戦士達は、戦いで死ね事こそ誉れとする。特に最近の子は滅びの美学に傾倒しており、どうせ死ぬなら潔く、カッコいい死に方を望んでいた。
だがそんな戦士達の言葉を、アリアがバッサリ両断する!
「童貞戦士が笑わせないで頂戴!」
「ど、童貞なんかじゃ……」
「あ、ああ、童貞じゃ……」
「童貞って……今は関係ないよ!」
アリアの童貞戦士の言葉に反応する若いオーク戦士達……。
「雄ですらない、お子様な坊や達。せめて子供を産んで育て切ってからその言葉を吐きなさい! まあ、成人した子供を持つ戦士は、そんな言葉使わないわね」
「がはっはっはっはっはっ! 童貞戦士か? 違いない!」
「ヒッヒッヒッヒッ! ど、童貞戦士! た、確かに!」
「フッハッハッハッ! 確かに童貞戦士でないと吐けない言葉だな!」
アリアの言葉に顔を赤くする若い戦士と、笑い出す古参のオーク達。
「アリア殿の言うとおりだ。我らが生きた証を殺させるわけにはいかんな! いいだろう。我ら老戦士、既に脱童貞だ! 最後の命、オーク族のために散らしてやろう! いいな皆の者!」
「おうよ!」
一斉に上がる古参戦士の賛同の声……若い戦士たちはアリアの言葉に何かを感じ、気のあるあの子に視線をチラチラする。それを見て何か青酸っぱい物を感じる大人のオークたち……。
「私たち雌は、精々生き抜いてやるわ! 子供が成人する迄は死ねないからね! 逃げる算段なら乗るわよ!」
「そうさね、雄じゃ、炊事洗濯もありゃしない。子供達に教えて命をつながなきゃ」
「私ら雌は最初から逃げる気マンマンだよ! さあ早く指示を出しな! グダグダ言う亭主がいたらケツを引っ叩いていうことを聞かせるからね!」
雌のオーク達が一斉に賛同する中、夫を殺されたオークが俯いてしまう。
「アリア……私は……」
雌オークの手を優しく握るアリア。
「お願い。子育ての先輩として私に教えてください。思春期の息子の叱り方を……うちの子がいくら言ってもイヤらしい悪戯が治らなくて困っているんです」
「母上! 僕は普通ですよ! 父上とは違います!」
「待てシーザー! どう言う意味だ!」
「アナタ達……はあ~」
「フッフッフッ、そう言う時はみんなの前で言っちゃうのよ。恥かしい悪戯の内容をみんなにね」
「やめてぇ母上! お願いです! それだけは!」
「なるほど……流石です。これからも色々教えてください」
「ああ、私に分かる事ならね」
広場にいるオーク達がアリアの言葉に感化され、ヒロ達を受け入れる雰囲気に変わっていく。
リーシアが広場の空気が変わった事に安堵し、顔を綻ばしながらアリアを見ると、笑顔で答えてくれた。
「戦士ヒロよ! もう我らはお前達を敵とは思わない! 仲間として、お前のエクソダス作戦の話を皆にしてくれ!」
カイザーの言葉に広場が沸く! 広場に集まるオーク達の熱狂がヒロに注がれていく。
「ヒロ!」
「リーシア……行ってきます」
明るい顔でカイザーの元に歩くヒロをリーシアは見送る。
アリアの言葉は分からずとも、場の雰囲気でリーシアは自分達がオーク達に受け入れるられた事を感じていた。
オークの協力とヒロの策……この二つが合わされば、きっと上手くいく。
リーシアは待つ、ヒロの言葉を……オーク達と共に進む、未来を夢見て!
カイザーの横に立つヒロ。オーク達が声を殺しヒロの言葉を待つ……咳払いをするヒロ、そして大きく息を吸い込むと、声を上げて話し始めた!
「聞け! 豚ども! お前たちは一匹残らず全滅しろ!」
「…………」
「ヒロのバカー!」
〈やらかす男が、本領を発揮した!〉
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2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
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色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
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異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
鬼神転生記~勇者として異世界転移したのに、呆気なく死にました。~
月見酒
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高校に入ってから距離を置いていた幼馴染4人と3年ぶりに下校することになった主人公、朝霧和也たち5人は、突然異世界へと転移してしまった。
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一巻発売中です。
月が導く異世界道中
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月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
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実家から追放されたが、狐耳の嫁がいるのでどうでも良い
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主人公は職業料理人が原因でアナリア侯爵家を追い出されてしまった。
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